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聞き覚えのあるリズムの足音が耳に聞こえる。

「クラティラス?どうしてここにいるんだ?」

元気でハリのある低い声が後ろから聞こえてきた。

「へ?」

涙と鼻水が流れ落ちる顔で振り返ると驚いているイリオスが立っていた。足はちゃんとあるし、怪我はしているみたいだけど顔色はすごくいい。



あれ?


どういうこと?

私が手を握りしめている人はイリオスじゃないの?

「うう、イリオス様……ご無事ですか……」

私が手を握っている人が小さく苦しそうに呟いた。イリオス様が驚いた顔のまま私の隣に座り、私と包帯の人の手ごと両手で包み込むように握りしめた。

「俺はお前のおかげで無事だ。だから安心しろ、治療に専念してゆっくりと休むんだ。」

イリオス様が隣にいる。じゃあ、私の勘違い……って、まさかぁ!!!?

「こ、こ、この人は……?」

「彼は俺の勇敢なる命の恩人だ。勇敢に戦い、モンスターに背後から狙われた俺にいち早く気がついて庇ってくれたんだ。そのせいで大きな怪我を負ったんだが聖女様のおかげで話せるほどに回復して安心したよ。彼は俺の命の恩人だからできる限りのことをお願いしたんだ」

そ、そうなの!? こんなに顔が隠れてるし体型が似てたからつい思い込んじゃったのね。てっきりイリオスは死にかけてるとばかり……。

「良かった!生きてた!良かったよおお!!」

気がつくと私はイリオスに思いっきり抱きついてワンワンと泣いていた。

「……次の治療がありますの。お二人は邪魔ですから出て行っていただきます」

聖女様がそう言ってブワリッと風が拭いたかと思うと私とイリオスの体が浮いてテントの外に飛ばされてしまった。着地はふんわりと優しいもので怪我はしなかったけどテントの周囲にいた兵士達が私達の姿を見て固まってた。

中には屋敷の使用人もいたから「え?奥さん!?」「イリオス様!?!?」って叫び出す者までいた。
恥ずかしかったけど今はそれよりも嬉しさが勝る。

「ところでクラティラス、なぜここにいるんだ?屋敷で変わりなく過ごしていると聞いていたんだが」

「だって!大怪我をして死にそうだって聞いて……」

周囲を見回すと雑用係の少年がプルプル震えていた。その姿を見て(彼も私と同じ勘違いをしたのね)って納得したわ。でも一番に私へ伝えようとしてくれた気持ちが嬉しいから彼が怒られないように誰に聞いたかは内緒にした。だって彼は私が名前を聞いたら迷惑をかけるから聞けないけども友達だもの。

泣きながら『連絡が来なくなったから嫌な予感がしていてもたってもいられなくて~」なんて説明したところ、イリオスは呆れ果てて大きな溜息を吐いた。それから立ち上がると私を引き寄せ、優しく抱きあげてくれた。

「すまない、不安にさせてしまったようだな。心配をかけないようにと思って手紙は出さなかったのだが……」

イリオスの顔を見るとまた泣けてくるから胸元に顔を埋め、首を横に振った。本当はもっと言いたいことがあったのに、言葉が出て来てくれない。
ただ彼の太い首に腕を回して、離れまいとしがみつくだけだった。
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