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このお屋敷の主人の妻だからってそんなに警戒しなくてもいいのに。私だって礼儀知らずなところがあるからちょっとのことで怒ったりしないわ。
「奥様がこんなところで一体何をされているのですか。刃物とかあって危ないですよ」
「うーん、料理の練習?今日はハーブのど飴を作ってみたの。おじさ……イリオス様が興味があったみたいだから作り方が分かったし作ったのよ」
私が笑顔で答えると、少年はますます怪しむような顔で私を見つめた。
「旦那様に……?まさか……」
顔を強張らせてぎくしゃくと更に後ろに下がって行く。
「なによ、味見はまだだけど砂糖とハーブのスノーハッカだけだから不味くはないはずよ。お菓子みたいに美味しいとは言わないけど」
飴の板をバッドから取り出してパキンと割り、自分の口の中に放り込んだ。
「ほら、食べてみて」
私がかけらを差し出すと、少年は少し躊躇ってから恐る恐る口に含んだ。
「……おいしい……初めてこんなの食べた……」
彼の目がまん丸になった。
「そう?砂糖とスノーハッカの味だけど、この世界って飴はあるけどのど飴ってないから初めての味といえばそうかもね。歌を歌う人達はきっと喜んでくれると思うの。それでね、これを使って他の飴を作るつもりなのよ」
「他の飴ってなんですか?」
「それは秘密」
「えー!そこまで言われたら気になるじゃないですか」
「ふっふーん。イリオス様にも内緒でのど飴を作ってるんだけど味見してくれたし特別に教えてあげるわ。これからは他の喉に良いハーブをブレンドしたりハチミツを使って飴を作るつもりよ。蜂蜜飴って美味しいわよね。蜂蜜の風味が加わればもっとさっぱりした甘さになって喉にも優しいと思うの。それにね、他にもいろいろ試したいことがあるのよ。例えば……」
私はつい饒舌になって、熱弁してしまった。
「えーっと、つまり、たくさんの種類の飴を作れるということでしょうか」
「そういうこと。そしてのど飴と一緒に私の歌も売り込んでいくの!歌姫が愛用してるのど飴!って効果抜群そうでしょ?」
「そ、そうですね……」
飴をたべた時と違ってなんか勢いがないわね。
「なにその反応。学校でやらかしまくった女だから、私にはなんの才能もないと思ってる?残念でした~、私はイリオス様が聞きに来るほどの歌姫なんですぅ~」
今までの鬱憤もあって気がつくと無関係なのにひどい態度をとってしまった。スッキリしたけど別のもやもやが胸に覆いかぶさってきて、でも今更修正もできなかった。
「いえ、そうじゃなくて、なんと言うか、ただ……」
「な、なによ」
「とても行動力のある御方だったんですね。冬の間、ずっと地下でお過ごしでしたので噂と違って物静かな方なんだとばかり思っていました」
「それはまあ、うん。自分だってびっくりだわ。だって罰だと思った地下生活は快適にしてくれるし、自分からなにか作ろうなんてしたのも多分初めてよ。でも、今の私があるのはイリオス様のおかげよ。感謝してるから役に立ちたいの」
素直にイリオスへの感謝を伝えると、彼は自分が褒められたかのように頬を掻いて笑った。
「おれ……わたくしも旦那様に拾っていただいてから本当に毎日楽しく過ごせています。こんな仕事をしてるおれにもねぎらいの言葉をかけてくださる人だから……」
「分かるわ。気取らないしいい人よね。公平に見てくれるっていうか、差別しないし。それに逞しくて格好いいわよね」
「はい。それにお優しくて強くて、何より素敵な声をお持ちです!あの声で歌ってくださると過酷な討伐の日々にお供している時でも心が奮い立って明日の希望になるんです」
「おじさんが歌うの?!嘘?!私も聞いてみたい!」
二人でテンション爆上げし、手を取り合ってキャッキャとはしゃぐ。
「旦那様は歌はお得意ではないとおっしゃいますが、その、時々、練習なさっていて。その時にお聞かせいただけることがあるんですよ。それがもう、すっごくお上手で!」
「おじさん、歌うまいんだ。意外……!」
「はい。あ、そうだ、飴ありがとうございます。おれ、そろそろ仕事しないと怒られるんで」
「そう。ありがとう。楽しかったわ。仕事、頑張ってね。これ、あげるから舐めて頑張りなさいよ」
彼がペコリと頭を下げたから私は飴の残りを少し分けてあげてそこでお別れをした。
「あーあ、またやっちゃった」
一人になると急に冷静になって自己嫌悪に陥る。
「あんな偉そうなこと言うつもりなかったのに」
しかも自分で自分を歌姫って……そりゃおじさんに歌を褒められたけども。でもおじさんも歌うなんてホントに意外だったわ。
彼の名前、聞きそびれちゃったけどまあいいわ。名前を聞いて『おれ、ロックオンされた?!」とか誤解されたら楽しく話ができなくなりそうだし。
「奥様がこんなところで一体何をされているのですか。刃物とかあって危ないですよ」
「うーん、料理の練習?今日はハーブのど飴を作ってみたの。おじさ……イリオス様が興味があったみたいだから作り方が分かったし作ったのよ」
私が笑顔で答えると、少年はますます怪しむような顔で私を見つめた。
「旦那様に……?まさか……」
顔を強張らせてぎくしゃくと更に後ろに下がって行く。
「なによ、味見はまだだけど砂糖とハーブのスノーハッカだけだから不味くはないはずよ。お菓子みたいに美味しいとは言わないけど」
飴の板をバッドから取り出してパキンと割り、自分の口の中に放り込んだ。
「ほら、食べてみて」
私がかけらを差し出すと、少年は少し躊躇ってから恐る恐る口に含んだ。
「……おいしい……初めてこんなの食べた……」
彼の目がまん丸になった。
「そう?砂糖とスノーハッカの味だけど、この世界って飴はあるけどのど飴ってないから初めての味といえばそうかもね。歌を歌う人達はきっと喜んでくれると思うの。それでね、これを使って他の飴を作るつもりなのよ」
「他の飴ってなんですか?」
「それは秘密」
「えー!そこまで言われたら気になるじゃないですか」
「ふっふーん。イリオス様にも内緒でのど飴を作ってるんだけど味見してくれたし特別に教えてあげるわ。これからは他の喉に良いハーブをブレンドしたりハチミツを使って飴を作るつもりよ。蜂蜜飴って美味しいわよね。蜂蜜の風味が加わればもっとさっぱりした甘さになって喉にも優しいと思うの。それにね、他にもいろいろ試したいことがあるのよ。例えば……」
私はつい饒舌になって、熱弁してしまった。
「えーっと、つまり、たくさんの種類の飴を作れるということでしょうか」
「そういうこと。そしてのど飴と一緒に私の歌も売り込んでいくの!歌姫が愛用してるのど飴!って効果抜群そうでしょ?」
「そ、そうですね……」
飴をたべた時と違ってなんか勢いがないわね。
「なにその反応。学校でやらかしまくった女だから、私にはなんの才能もないと思ってる?残念でした~、私はイリオス様が聞きに来るほどの歌姫なんですぅ~」
今までの鬱憤もあって気がつくと無関係なのにひどい態度をとってしまった。スッキリしたけど別のもやもやが胸に覆いかぶさってきて、でも今更修正もできなかった。
「いえ、そうじゃなくて、なんと言うか、ただ……」
「な、なによ」
「とても行動力のある御方だったんですね。冬の間、ずっと地下でお過ごしでしたので噂と違って物静かな方なんだとばかり思っていました」
「それはまあ、うん。自分だってびっくりだわ。だって罰だと思った地下生活は快適にしてくれるし、自分からなにか作ろうなんてしたのも多分初めてよ。でも、今の私があるのはイリオス様のおかげよ。感謝してるから役に立ちたいの」
素直にイリオスへの感謝を伝えると、彼は自分が褒められたかのように頬を掻いて笑った。
「おれ……わたくしも旦那様に拾っていただいてから本当に毎日楽しく過ごせています。こんな仕事をしてるおれにもねぎらいの言葉をかけてくださる人だから……」
「分かるわ。気取らないしいい人よね。公平に見てくれるっていうか、差別しないし。それに逞しくて格好いいわよね」
「はい。それにお優しくて強くて、何より素敵な声をお持ちです!あの声で歌ってくださると過酷な討伐の日々にお供している時でも心が奮い立って明日の希望になるんです」
「おじさんが歌うの?!嘘?!私も聞いてみたい!」
二人でテンション爆上げし、手を取り合ってキャッキャとはしゃぐ。
「旦那様は歌はお得意ではないとおっしゃいますが、その、時々、練習なさっていて。その時にお聞かせいただけることがあるんですよ。それがもう、すっごくお上手で!」
「おじさん、歌うまいんだ。意外……!」
「はい。あ、そうだ、飴ありがとうございます。おれ、そろそろ仕事しないと怒られるんで」
「そう。ありがとう。楽しかったわ。仕事、頑張ってね。これ、あげるから舐めて頑張りなさいよ」
彼がペコリと頭を下げたから私は飴の残りを少し分けてあげてそこでお別れをした。
「あーあ、またやっちゃった」
一人になると急に冷静になって自己嫌悪に陥る。
「あんな偉そうなこと言うつもりなかったのに」
しかも自分で自分を歌姫って……そりゃおじさんに歌を褒められたけども。でもおじさんも歌うなんてホントに意外だったわ。
彼の名前、聞きそびれちゃったけどまあいいわ。名前を聞いて『おれ、ロックオンされた?!」とか誤解されたら楽しく話ができなくなりそうだし。
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