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はっきりと「邪魔よ!」って言ってやりたいんだけど家庭教師をしてくれた先生達に「淑女らしく!」と口を酸っぱくして言われた私は身を硬くして彼等を睨むしかなかった。
「そんなに警戒しないでくれ。僕は君の味方だよ」
「女同士で踊って男の気をひいていただろ。相手にしてやってもいいぞ」
その言葉を聞いて思わずカッと頭に血がのぼった。
「はぁ?女同士で踊っちゃいけないなんてルールあるの?女性ばかり、男性ばかりのダンスグループとかどうすんのよ?」
こっちの世界にもバレエ団とかあるし、バックダンサーは女性ばかりの演目だってあるのに。視野が狭いわねぇ。
「だって君、まだ殿下達のことが忘れられないんだろう?」
「え……?」
「あんなにアチコチに粉をまいておきながら、結婚先は若くない男だろ。寂しかっただろ」
「俺らにも相手させてくれよ」
「は……?」
な、何を言ってるの、この人達!?
「い、意味がわかりません。それに、もう殿下達のことは学校卒業とともに終わったことです。あなた方には関係のないことよ。失礼するわ!」
私は強引に彼らを押し退けようとしたんだけど力で敵うわけがない。しかも周りは見てみぬふり。
悪意に晒されて身を縮めてしまうと私が無抵抗だと思ったのか肩を抱いてくる。おじさんだってエスコートの時に肩なんて触れなかったのに!
なんなのよ、これ!堂々と既婚者に手を出そうとするんじゃないわよ!!悔しくて涙が滲んできたその時――。
「おい、君たち。うちの妻に何か用か」
よく通る低い声が響いた。
味方も居ない女ひとりと舐めてた男達の後ろに立つのは、殺気立ったおじさん。おじさんが立っているだけで鉄の壁みたいに見えた。
「―――」
卑怯者達の絞り出すような言葉は私の耳では聞き取れなかったけど彼らの顔が青ざめると私から離れ、おじさんに向かって頭を下げた。
おじさんに見られてしまった。それだけであんなに頑張ってきたものが全部崩れて消えていく音がする。過去に自分がしたことが悪いのは分かっている。
私は攻略対象だけにしかデートの誘いなんてしたことないのに、ソレ以外の男とデートしたとかソレ以上のことをしたなんて噂が飛んでいたのは知ってた。
だからこれも私から誘ったとか誤解されるんだろうなって思うと悲しいものは悲しかった。
「私の妻よ、大丈夫か?」
「ええ……私……」
あなたにだけは誤解されたくないって言葉すら自業自得で言えない。
「君は何も悪くない。さあ、行こう」
おじさんに手を差し出され、私はその手を取った。怖くないって堂々としたいのに体が震えてて、おじさんに寄り添って歩くのが精一杯だった。
「……」
「どうした、クラティラス? 気分でも悪いのか?」
「いいえ、違うの。ただ、こんな風に守られるのはいつぶりだろうって思ったの。ずっと、一人で戦ってきたから……その戦いも、私が間違ってたから起きたんだけど……」
攻略対象の男性達を見た途端にスイッチが入ったかのように「好きになってもらわなきゃっ!!」って衝動的に動いてた。
そんなことしたら婚約者の女の子はもちろんのこと、規則が厳しい学校で目をツケられて当たり前。それに積極的な女がいるって噂を聞いて寄ってくるのは軽い女と遊びたい男ばかり。
おかげで私は分別のある男かそうじゃないかを測定できる駄目男発見器って言われて、それを言った子は私とダンスを踊ったあのシアだったのを今更思い出したわ……。
「……何もかも自分で背負おうとすることはない。離れていて悪かった。君の知り合いが知らせてくれるまで気が付かずにすまなかったな」
「おじさ……いえ、イリオス様、私のこと、なんで怒らないの」
私を怒らなければもっと調子に乗るからと怒られてた。それに反発してもう恋とか好きって気持ちよりも自分を認めさせてやるって必死になって、それでどんどん悪い方向へ転がっていってしまった。だから今日は何を言われても我慢しなきゃ。
「君は俺と約束しただろ。夢のために頑張ることと素敵な淑女になることを」
おじさんは私の頭を撫でると、微笑んでくれた。
「だが、あの連中のような者達が出てきては困るな。君の汚名を返上するまで一人にしないほうがいいと分かった。不本意だろうが俺の隣にいてくれ。俺の力が届く限り必ず守るからな」
「……ありがとう、おじさん」
私は、気づかないうちに涙でぐちゃぐちゃの顔で笑い返した。
会場を出たところで迎えの馬車に乗ってお屋敷に帰る。その途中でふと私は気になることができた。
「ねぇ。私、助けてくれる知り合いなんていないんだけど誰に私がピンチだって聞いたの?」
「名前は名乗らなかったが、君と同じ年頃の女性だったよ」
「……そっか」
おじさん以外に唯一、あの場で私を助けてくれそうなのってシア様くらいよね?でも名前を言わなかったってことは私と関わりたくないってことよね。でもなにか理由をつけてお礼とお詫びのお菓子を贈ったほうがこっちの気持ちが伝わるかしら。
「クラティラス、どうかしたのか?」
「ううん、なんでもない。ちょっと考え事してただけ」
私は首を横に振ると窓の外を見つめた。
馬車は走り続ける。
闇夜を照らす月のように煌々と輝く街明かりの中を、いつまでも。
「そんなに警戒しないでくれ。僕は君の味方だよ」
「女同士で踊って男の気をひいていただろ。相手にしてやってもいいぞ」
その言葉を聞いて思わずカッと頭に血がのぼった。
「はぁ?女同士で踊っちゃいけないなんてルールあるの?女性ばかり、男性ばかりのダンスグループとかどうすんのよ?」
こっちの世界にもバレエ団とかあるし、バックダンサーは女性ばかりの演目だってあるのに。視野が狭いわねぇ。
「だって君、まだ殿下達のことが忘れられないんだろう?」
「え……?」
「あんなにアチコチに粉をまいておきながら、結婚先は若くない男だろ。寂しかっただろ」
「俺らにも相手させてくれよ」
「は……?」
な、何を言ってるの、この人達!?
「い、意味がわかりません。それに、もう殿下達のことは学校卒業とともに終わったことです。あなた方には関係のないことよ。失礼するわ!」
私は強引に彼らを押し退けようとしたんだけど力で敵うわけがない。しかも周りは見てみぬふり。
悪意に晒されて身を縮めてしまうと私が無抵抗だと思ったのか肩を抱いてくる。おじさんだってエスコートの時に肩なんて触れなかったのに!
なんなのよ、これ!堂々と既婚者に手を出そうとするんじゃないわよ!!悔しくて涙が滲んできたその時――。
「おい、君たち。うちの妻に何か用か」
よく通る低い声が響いた。
味方も居ない女ひとりと舐めてた男達の後ろに立つのは、殺気立ったおじさん。おじさんが立っているだけで鉄の壁みたいに見えた。
「―――」
卑怯者達の絞り出すような言葉は私の耳では聞き取れなかったけど彼らの顔が青ざめると私から離れ、おじさんに向かって頭を下げた。
おじさんに見られてしまった。それだけであんなに頑張ってきたものが全部崩れて消えていく音がする。過去に自分がしたことが悪いのは分かっている。
私は攻略対象だけにしかデートの誘いなんてしたことないのに、ソレ以外の男とデートしたとかソレ以上のことをしたなんて噂が飛んでいたのは知ってた。
だからこれも私から誘ったとか誤解されるんだろうなって思うと悲しいものは悲しかった。
「私の妻よ、大丈夫か?」
「ええ……私……」
あなたにだけは誤解されたくないって言葉すら自業自得で言えない。
「君は何も悪くない。さあ、行こう」
おじさんに手を差し出され、私はその手を取った。怖くないって堂々としたいのに体が震えてて、おじさんに寄り添って歩くのが精一杯だった。
「……」
「どうした、クラティラス? 気分でも悪いのか?」
「いいえ、違うの。ただ、こんな風に守られるのはいつぶりだろうって思ったの。ずっと、一人で戦ってきたから……その戦いも、私が間違ってたから起きたんだけど……」
攻略対象の男性達を見た途端にスイッチが入ったかのように「好きになってもらわなきゃっ!!」って衝動的に動いてた。
そんなことしたら婚約者の女の子はもちろんのこと、規則が厳しい学校で目をツケられて当たり前。それに積極的な女がいるって噂を聞いて寄ってくるのは軽い女と遊びたい男ばかり。
おかげで私は分別のある男かそうじゃないかを測定できる駄目男発見器って言われて、それを言った子は私とダンスを踊ったあのシアだったのを今更思い出したわ……。
「……何もかも自分で背負おうとすることはない。離れていて悪かった。君の知り合いが知らせてくれるまで気が付かずにすまなかったな」
「おじさ……いえ、イリオス様、私のこと、なんで怒らないの」
私を怒らなければもっと調子に乗るからと怒られてた。それに反発してもう恋とか好きって気持ちよりも自分を認めさせてやるって必死になって、それでどんどん悪い方向へ転がっていってしまった。だから今日は何を言われても我慢しなきゃ。
「君は俺と約束しただろ。夢のために頑張ることと素敵な淑女になることを」
おじさんは私の頭を撫でると、微笑んでくれた。
「だが、あの連中のような者達が出てきては困るな。君の汚名を返上するまで一人にしないほうがいいと分かった。不本意だろうが俺の隣にいてくれ。俺の力が届く限り必ず守るからな」
「……ありがとう、おじさん」
私は、気づかないうちに涙でぐちゃぐちゃの顔で笑い返した。
会場を出たところで迎えの馬車に乗ってお屋敷に帰る。その途中でふと私は気になることができた。
「ねぇ。私、助けてくれる知り合いなんていないんだけど誰に私がピンチだって聞いたの?」
「名前は名乗らなかったが、君と同じ年頃の女性だったよ」
「……そっか」
おじさん以外に唯一、あの場で私を助けてくれそうなのってシア様くらいよね?でも名前を言わなかったってことは私と関わりたくないってことよね。でもなにか理由をつけてお礼とお詫びのお菓子を贈ったほうがこっちの気持ちが伝わるかしら。
「クラティラス、どうかしたのか?」
「ううん、なんでもない。ちょっと考え事してただけ」
私は首を横に振ると窓の外を見つめた。
馬車は走り続ける。
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