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それを正直に言えるはずなのに言えなかった。
「他?他は……ないわ」
未練が袖を引っ張るけどいいのよ。前世の音楽を脳内再生すればいいから。
「本当か?君がどんな場所に行きたいと望むのか知りたかったのだが」
「私、この世界の娯楽には疎いし興味もないの。歌を歌っていれば満足よ」
王都の流行りを調べまくって攻略者達をデートに誘い回ったけど私にはどれもいまいちなのよね。公園とか図書館とか馬乗りに美術館とか博物館とか。
もっと面白いところあるはずなのに物静かな場所のデートばかり。たまに行くと新鮮だけど一ヶ月は同じ展示物だから他の人と行って3回も同じものを繰り返し見てもねぇ……。
劇なら何度でも見れるんだけど……動かないものを繰り返し見るのって飽きちゃうのよね。
「そうか。ならば今度、町で一番大きな劇場へ行こう。そこで一番人気のある歌姫の歌を聞くといい。きっと気に入る」
「ちょっ、なに言ってるのよ。そんなところに私と行ったらおじさんまで笑われるわよ」
自業自得なのは分かってるわよ。この世界じゃ女の子はおしとやかで男性を支えて静かに生きるのが素晴らしいのに私はその真逆だったもの。
「戦場では笑われる者も笑う者も消えていくんだ。今は平和だが俺もいつ死ぬか分からない。笑われようと好きなことをするべきだと俺は思っている」
「でも、私は……育ての親にまであばずれとか言われる女よ?」
結婚してから一人になる時間が多くて、歌ったり踊ったり、踊りのための筋トレをしても時間が余るのよね。だからどうしてもどうしてこうなっちゃんだろって過去を思い出してた。でも答えは分からなかった。
「知ってるでしょうけど私のお母さんは浮気相手で、お母さんが死ぬまでクソ親父は知らんぷりだったのよ。継母も義姉も私のこと嫌いになるのは仕方ないけども私に意地悪だったし。だけど学園に行けば素敵なキャ……男性がいて、身分なんて乗り越えて愛し合えるんだって信じてわ。学園の皆、魅力的で格好良くて優しくて、他の男の子達と違って私の夢を笑わずちゃんと聞いてくれたの」
おじさんが何も言わないから、つい喋ってしまった。
「夢?」
「……ダンス歌手になりたかったの。ダンスや歌が好きって話をしたら披露して欲しいって言われた時に見せてあげたら『すごいね』って褒めてくれて、応援するよって言ってくれたのに彼等には婚約者とか仲の良い女の子達がいて、私は……」
ああ、そっか。私はここで間違っちゃったんだ。初めて応援してくれる人達が出来たのに彼等が離れていくのが怖かったんだ。もう二度とこんなに素敵な人達は現れないって思って恋と独占欲を間違えちゃったんだ。
「あの時、素直に言えば良かった……。これからも絶対頑張ってプロになるから応援して欲しいって……」
婚約者や恋人ができたら中身が本物の主人公じゃない私なんて相手にされないって思って体を使って繋ぎ止めようなんて馬鹿なことしちゃったな。プロなら実力で彼等の婚約者達も自分のファンにしてみせるのに。
「クラティラス……」
「あーあ。なんで私、こんなにバカなんだろ。せっかく王子様を筆頭にイケメン達が声をかけてくれたのに、舞い上がって暴走しちゃってお姫様なんて目指してないのに歌って踊れるお姫様っていうのに目が眩んじゃったわ。普通にしてたら王子様達が贔屓にするほどのダンス歌手になれたかもしれないのに馬鹿よねぇ」
ほんと、私ってバカ。あのチート能力で夢を叶えようとするなんて枕営業じゃないの。私が一番嫌いなことしようとしてたわ。攻略対象キャラ達が誠実な人達で良かったわ。
「クラティラス!」
おじさんが急に大きな声で私の名前を呼んだ。
「え、何?」
びっくりして顔を上げるとおじさんは何故か怒った顔をしていた。
「君はまだ若い。まだやり直しができる」
「そうかなぁ?もう遅いと思うけど」
罰で結婚させられたし、私の悪い話は王国中に広まってるんじゃないかしら。
「遅くなんかない!君は綺麗だし、歌だって上手いじゃないか。それに君の魅力が分かる男じゃないと駄目だ!」
おじさんは言葉に詰まり、それから急に体を揺すって慌て出した。
「おじさん?」
「あ、あ、ええと、だから、つまり、そうだ、君が望めば俺だって協力できるということだ」
「へ?」
「あ、いや、なんでもない。忘れてくれ」
おじさんは残りの料理を掻き込んで食べてしまった。
「え、協力できるって言ったことなかったことにしないでよ。私のファンになって応援してくれる、ってことよね?」
「あ、あ、まあ、そう、だ」
「嬉しい。私、自分のせいでファンになってくれた人達を失っちゃったから。それに自分の何が駄目だったか、話をしてたら気づけたわ」
「……」
「ありがとう、イリオスさん。私、あなたのおかげで救われたわ」
やっと本当の笑顔を浮かべられた気がした。
ゲームの主人公に生まれた私は特別ってずっと思ってたけどゲームだと主人公は平日は学校の授業や自主トレや自主練を欠かさずにしててステータス爆上げしてたわ。でも現実の私は主人公ってのぼせて何もしてなかったわ。
もう学校を卒業して学生生活は終わってしまったけどこれからは私のやり方で頑張るしかないんだ。
「ねえ、今の私じゃ堂々と劇場には行けないわ。私って辺境伯の奥様にふさわしくないし、なにより私は劇場の舞台に立って歌って踊りたいもの。いつかいい女になるからその時は劇所に連れてってよ。そして必ず夢を叶えるから、その時はおじさんも見に来てくれる?」
「もちろんだ。特等席を用意してくれ」
おじさんと私は笑い合って、この日、私とおじさんは友人になった。
「他?他は……ないわ」
未練が袖を引っ張るけどいいのよ。前世の音楽を脳内再生すればいいから。
「本当か?君がどんな場所に行きたいと望むのか知りたかったのだが」
「私、この世界の娯楽には疎いし興味もないの。歌を歌っていれば満足よ」
王都の流行りを調べまくって攻略者達をデートに誘い回ったけど私にはどれもいまいちなのよね。公園とか図書館とか馬乗りに美術館とか博物館とか。
もっと面白いところあるはずなのに物静かな場所のデートばかり。たまに行くと新鮮だけど一ヶ月は同じ展示物だから他の人と行って3回も同じものを繰り返し見てもねぇ……。
劇なら何度でも見れるんだけど……動かないものを繰り返し見るのって飽きちゃうのよね。
「そうか。ならば今度、町で一番大きな劇場へ行こう。そこで一番人気のある歌姫の歌を聞くといい。きっと気に入る」
「ちょっ、なに言ってるのよ。そんなところに私と行ったらおじさんまで笑われるわよ」
自業自得なのは分かってるわよ。この世界じゃ女の子はおしとやかで男性を支えて静かに生きるのが素晴らしいのに私はその真逆だったもの。
「戦場では笑われる者も笑う者も消えていくんだ。今は平和だが俺もいつ死ぬか分からない。笑われようと好きなことをするべきだと俺は思っている」
「でも、私は……育ての親にまであばずれとか言われる女よ?」
結婚してから一人になる時間が多くて、歌ったり踊ったり、踊りのための筋トレをしても時間が余るのよね。だからどうしてもどうしてこうなっちゃんだろって過去を思い出してた。でも答えは分からなかった。
「知ってるでしょうけど私のお母さんは浮気相手で、お母さんが死ぬまでクソ親父は知らんぷりだったのよ。継母も義姉も私のこと嫌いになるのは仕方ないけども私に意地悪だったし。だけど学園に行けば素敵なキャ……男性がいて、身分なんて乗り越えて愛し合えるんだって信じてわ。学園の皆、魅力的で格好良くて優しくて、他の男の子達と違って私の夢を笑わずちゃんと聞いてくれたの」
おじさんが何も言わないから、つい喋ってしまった。
「夢?」
「……ダンス歌手になりたかったの。ダンスや歌が好きって話をしたら披露して欲しいって言われた時に見せてあげたら『すごいね』って褒めてくれて、応援するよって言ってくれたのに彼等には婚約者とか仲の良い女の子達がいて、私は……」
ああ、そっか。私はここで間違っちゃったんだ。初めて応援してくれる人達が出来たのに彼等が離れていくのが怖かったんだ。もう二度とこんなに素敵な人達は現れないって思って恋と独占欲を間違えちゃったんだ。
「あの時、素直に言えば良かった……。これからも絶対頑張ってプロになるから応援して欲しいって……」
婚約者や恋人ができたら中身が本物の主人公じゃない私なんて相手にされないって思って体を使って繋ぎ止めようなんて馬鹿なことしちゃったな。プロなら実力で彼等の婚約者達も自分のファンにしてみせるのに。
「クラティラス……」
「あーあ。なんで私、こんなにバカなんだろ。せっかく王子様を筆頭にイケメン達が声をかけてくれたのに、舞い上がって暴走しちゃってお姫様なんて目指してないのに歌って踊れるお姫様っていうのに目が眩んじゃったわ。普通にしてたら王子様達が贔屓にするほどのダンス歌手になれたかもしれないのに馬鹿よねぇ」
ほんと、私ってバカ。あのチート能力で夢を叶えようとするなんて枕営業じゃないの。私が一番嫌いなことしようとしてたわ。攻略対象キャラ達が誠実な人達で良かったわ。
「クラティラス!」
おじさんが急に大きな声で私の名前を呼んだ。
「え、何?」
びっくりして顔を上げるとおじさんは何故か怒った顔をしていた。
「君はまだ若い。まだやり直しができる」
「そうかなぁ?もう遅いと思うけど」
罰で結婚させられたし、私の悪い話は王国中に広まってるんじゃないかしら。
「遅くなんかない!君は綺麗だし、歌だって上手いじゃないか。それに君の魅力が分かる男じゃないと駄目だ!」
おじさんは言葉に詰まり、それから急に体を揺すって慌て出した。
「おじさん?」
「あ、あ、ええと、だから、つまり、そうだ、君が望めば俺だって協力できるということだ」
「へ?」
「あ、いや、なんでもない。忘れてくれ」
おじさんは残りの料理を掻き込んで食べてしまった。
「え、協力できるって言ったことなかったことにしないでよ。私のファンになって応援してくれる、ってことよね?」
「あ、あ、まあ、そう、だ」
「嬉しい。私、自分のせいでファンになってくれた人達を失っちゃったから。それに自分の何が駄目だったか、話をしてたら気づけたわ」
「……」
「ありがとう、イリオスさん。私、あなたのおかげで救われたわ」
やっと本当の笑顔を浮かべられた気がした。
ゲームの主人公に生まれた私は特別ってずっと思ってたけどゲームだと主人公は平日は学校の授業や自主トレや自主練を欠かさずにしててステータス爆上げしてたわ。でも現実の私は主人公ってのぼせて何もしてなかったわ。
もう学校を卒業して学生生活は終わってしまったけどこれからは私のやり方で頑張るしかないんだ。
「ねえ、今の私じゃ堂々と劇場には行けないわ。私って辺境伯の奥様にふさわしくないし、なにより私は劇場の舞台に立って歌って踊りたいもの。いつかいい女になるからその時は劇所に連れてってよ。そして必ず夢を叶えるから、その時はおじさんも見に来てくれる?」
「もちろんだ。特等席を用意してくれ」
おじさんと私は笑い合って、この日、私とおじさんは友人になった。
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