ヒドインはバッドエンドで終わらない

からどり

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転生して乙女ゲームの主人公になったはずの私。
ゲーム設定通り父は最低、義母は……夫が浮気して出来た子に冷たいのは仕方ない。義姉も気持ちを考えたらイジメてくるのは理解できる。
だからって私が不幸になっていい理由じゃないけどさ。それに心の支えがあるからイジメなんかにへこたれたりしなかった。

だからこそ不幸の人生でも天真爛漫な私は大逆転の逆ハーレムルートで何不自由ない幸せで愛される生活を送れるはずだったのに……。

悪役令嬢が聖女だったとかで関わる暇がないから、私がいじめられるイベントはまったくなし。
私の魅力を全力でアピールしても男の子達は悪役令嬢やモブの女の子とひっつきだすから、自作自演でイジメをでっち上げたら嘘を見破られて先生達に叱られたりもしたのよ。

私はヒロインだから攻略対象の男どもはみーんな私のモノになるはずじゃなかったのかしら?!

「…………あ」

そうだ。そうよ。

「私にはチート能力があるじゃない!」

そう、私にはチート能力の『魅了(大人のご奉仕能力)』があるんだもの! この世界でたった一つの私だけの特別な力!
私自身、未経験だけどね!でも攻略対象の男達は私の色仕掛けでメロメロ!にするはずが、王太子様を騙して二人っきりになり初めてをあげちゃうって時にうちの両親達が突入してきて「このバカ娘が!これ以上醜聞を重ねる前にお前は辺境伯の後添いになれ!」と会ったことすらない辺境伯のおじさんのところへ強制結婚させたのよ!

どうしてこうなったの!? 神様ぁああ!! なんでこんなに攻略対象者の男が王太子様含めてみんな私に靡かないのぉおおお!?

「くそっ!こうなったら絶対におじさんを毒殺とかして遺産を相続して私だけの逆ハーレムを作るんだから!」

もう攻略対象の男達はブスにくれてやるわよ!よく考えてみたら顔も性格も悪い奴ばっかりなんだし! でも他のイケメンは全部私の物になって当然よね! だって私はヒロインだもん!そして私だけが幸せになるのよ!

そんなことを考えて学校を卒業したその日に結婚先に旅立ったのよ。
なのにっ!なのに!頭の硬い継母が辺境伯のおじさんに変なことを吹き込んだせいで辺境伯が私のための寝室を地下に用意したのよ!
窓はないけど照明は灯っているし、魔法の力で暖かくて家具も揃って快適ではあるけど!
壁が全部岩とか気分が滅入るわ!

渋い俳優っぽい、いい男な辺境伯のおじさんに会って(あら、けっこう悪くないじゃない)って思ったのに!
私の継母のせいで最悪よおおぉ!夫が酔って手を出した女のがアバズレとかいうならあんたの夫はどうなのよ!義母~!!子供は女だけじゃつくれないってーの!!
おかげで地下牢に閉じ込められたような気分だしこんなの酷すぎるわ!

しかもあのオヤジったら初対面なのに真面目な顔して「過去に何があろうと今日から君は俺の妻だ。君が心を寄せてくれるなら俺は盾となり剣となる。家のために子供は早くできる方がいいのだろうが、できれば一年は静かに暮らしたい」なんて言ってきてキモイしふざけんじゃないわよおおお!! 処女よこせってこと? ふざけんなあああ!!
私が泣いたら向こうがひいて何もしてこなかったことは評価してあげるけどさあ!

3日連続、朝から夜まで働いているって理由で夜中に地下まで顔を見に来るしウザイのよ!
この地下はいい具合に声が響くし、歌いまくってストレス発散するために起きてたから良かったけど寝てたら犯罪よ!?

早く逃げ出したいところだけど辺境伯の領地は冬は寒いだけじゃなくてモンスターだらけだから一人では逃げ出せないし!早く誰か助けに来てぇええ! このままだと私の人生計画が台無しよぉおおお!

「……」

……ふぅ。
落ち着かなきゃ。逃げても知り合いがいないし、女の子の働き先は限られてて私には向いてない仕事ばっかり。
歌や踊りが好きでもプロとして働く場所はすっごく成功してる人以外は酒場とか歌劇とか、それ一本じゃ食べていけないような世界。
パトロンを見つけなきゃ実力があっても芽すら出ないっていう超ハードモード。
クソ家族と暮らしてきた以上に血の滲む努力をしなきゃ生きていけないことに比べれば、やばいおじさんが夜中に顔を見に来る程度だからこの生活は手放せないのよね。

やばいおじさん>>>>>>クソ家族>>>>>>>>>>>女一人、くらいに生活環境の良さに差があるわ。

あ、靴音だ。3日連続で聞いてるからあの変態オヤジが上から降りてきてる足音が分かるようになっていた。

「ただいま。まだ起きていたのか」

ほら来た! いつもと同じ挨拶をしてるけど、こっちはもう慣れっこよ! 最初の頃こそナニかされるんじゃないかってビクビクしてたけど今は平気!

「おかえり。忙しいんでしょ?別に来なくていいのに」

ツンツンしてると諦めたのか、ため息をついて椅子に座ってこっちを見つめる。

「今日は歌っていなかったな」

「喉を休める日くらいいるわよ。こっちにはのど飴とかハチミツなんてないし」

「のどあめ……?」

「知らないの?のどのケアに良い食べ物よ。甘くて美味しいわよ」

「甘いものか……」

「あ、おじさんは苦手?甘くないのど飴もあるけど砂糖を煮て固めて作る飴しかしらないのよね。のど飴はハーブも使うのよ。喉にいいハーブのお茶を飲む人もいるけど私はのど飴のほうが手軽で好きだけどね」

「ハーブか。のど飴は簡単に作れるのか?」

「さあ?作ったことないし、王都でも見たことないから難しいかも」

あ、でも前世で小学校の時に砂糖と水でベッコウ飴を作る授業をしたわね。ベッコウ飴にハーブのエキスを入れたらのど飴じゃないの。

「そうか……。だが作れたら欲しいものだな。君の歌声は素晴らしいから」

「ありがと」

褒められた。お世辞でも照れるわね!
地下から出れるようになったらのど飴を作って売れば儲かるんじゃないかしら?

それにしても本当にこのおじさんはイケオジだけど目的が分からなくてヤバいわ。
私を見ても欲情しないし、だけど毎日見に来るし。あ、私の歌を褒めてくれたから歌を聞きに来てる?

「ねえ、歌ってあげよっか?うるさいなら歌わないけど」

「ああ。頼む。俺は君の声が好きだ。とても綺麗で心地いい」

「っ!」

ストレートに褒めらて歌ってと言われるとは思わなかった! ちょっと嬉しいじゃない。
じゃあせっかくだし遠慮なく歌うぞー!
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