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ずっと一緒に手を繋いでいきましょう
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二週間後、私も龍一さんも傷や後遺症など残らず無事に回復して退院した。仕事にも復帰したけれど私が入院している間に黒原さんは退職し、後を追うように八津野目も退職したとモモさんから聞いた。
「黒原さん、何があったのか知りませんけど退職前に私達女子社員に謝ってきたんですよ。びっくりしましたよ!あと先輩にも『もうお会いできませんが、ご迷惑をおかけしてすみませんでした』って伝えて欲しいって言われました。だから先輩に私からちゃんと伝えましたよ」
本当なら黒原さんがいなくなってホッとするはずなのにモヤモヤとした物が残ってしまった。でも、それも生きていく上で仕方ないと思って記憶の端に追いやるため思い出さないようにすることにした。
もう一つ、モヤモヤするものがあった。ミサキによるとミールが突然いなくなってしまったのだという。最初はいつもみたいにひょっこりと帰ってくると思っていたのに今日まで一度も現れていないらしい。
龍一さんのところにも行っていないみたいで、ミールからの連絡を待つしかなかった。
休日は二人で龍一さんの部屋で過ごすのだけど、ソファに座って彼の胸に頭を預けても会話がなかなか弾まない。
「トモヨさん、ずっと考えていたんですが籍をいれる日を早めませんか」
龍一さんの言葉に私は息を飲んだ。
「でも、ミサキと龍一さんの学校が同じで」
「ただ、ミサキさんが卒業するまでは今まで通りの生活を続けましょう。トモヨさんと結婚して義兄になるとはいえ、血の繋がらない男と同居なんてミサキさんも嫌だろうから」
「それは、そう思ってくれてずっと待ってもらっているから龍一さんへすごく感謝しているんです」
確かに、ミサキにとってはこの上なく複雑な関係だと思う。私だって龍一さんがプロポーズしてくれた時にミサキのことを考えてくれていたからプロポーズを受けた部分もあるし。
「俺はトモヨさん達が階段から落ちた日、トモヨさんを失うことだけが怖かった。俺にとって一番大切な人が消えてしまうかもしれないと思ったら、何も考えられなくなって命と引き換えにしてもトモヨさんを助けたかった」
私の手をそっと握る龍一さんの手の上に私は自分の手を重ねた。もう片方の温かくて大きくて優しい手が私の手の上に重なった。
「入院して、あの夜、悪魔と会うトモヨさんをみて思ったんです。すぐにでも結婚して誰にも奪われないようにしたいと。俺は家族との縁が薄かった分、トモヨさんとは一緒に暖かい家族を作りたいです。だから俺のその夢が誰かに壊される方がよっぽど怖い。そう思って、トモヨさんが確実に俺の妻だと証明できる入籍をして欲しいんです。ミサキさんには申し訳ないが、俺のエゴを押し通させてください」
私を見つめる瞳は、色んな感情が混ざりあって、不安に揺れながらも強い意志を感じる。離れたくない気持ちも誰かに奪われたくない気持ちも一緒だから私はゆっくりとうなずいた。
「龍一さん、籍をいれるの今すぐでも」ピンポーン
……すごく大事な所で玄関のチャイムがなった。
「今すぐにでも一緒に役所へ」ピンポーン、ピンポーン
ぴんぴんぴんぴんぴぴぴぴピンポぴぴぴピンポーン、ピンポーン
……文句の一つでも言おうと思って同時に立ち上がって玄関へ向かう私と龍一さん。
「どなたですか」
怒りをにじませた声でドアをあける龍一さん。ドアの前には人に変身したミールが立っていた。
「よお、副担長山。姉貴。久し振り。俺様さ、副担を助けるためとはいえ下級低俗悪魔にポイントをあげちまっただろ。それが妖精界の偉い奴にバレて『お前なんぞ妖精と認めん!」って追放されたんだ。そーいう訳で副担長山。間接的どころか結構直接的に姉貴も関係あんな。つーことで二人共責任取って俺様の面倒みろ。まあ、よろしく頼む」
「おい、お前どこをどうみたって人間だぞ!妖精だっただろうが。妖精でなくなったのになんで人間に化けれる」
「さっきも言ったけどよ。俺様、妖精界追放されて妖精じゃなくなったんだ。だから俺が試験期間に貯めたポイントを全部使って、姉貴達の世界に来るための身体を手に入れたんだよ。こっちならミサキやコウスケ達もいて俺様に優しくしてくれるし。もう妖精として暮らすのも飽きてきたしよ。いいじゃんか、姉貴達の世界をもっと楽しませてくれよ」
「え?え?」
「ほら、今日からよろしく頼むぜ。あと、俺様、無国籍児ってことになってるからそこの手続きもよろしく~」
突然の展開についていけない私達にミールはあっけらかんとした顔で「ミサキの所に行ってくる」と言って去って行った。
「「ミール……」」
龍一さんと二人でしばらく呆然とした後、どちらともなく顔を見合わせて笑い出してしまった。
「入籍届を出すのと一緒にミールのことも役所に相談しましょうか」
ミサキには事後報告になってしまうけど私がそう言うと嬉しいような悲しいような顔をする龍一さん。
「やっぱりトモヨさんと結婚できて良かった」
「私も龍一さんと結婚できて幸せ」
お互いに抱きしめあうとこれからどんなことがあっても乗り越えて行けるって確信することができた。
******
「……というわけで、この度、俺達は夫婦になりました」
「これからも変わらず仲良く一緒によろしくお願いします」
「もおっ!早く言ってくれたらお祝いの準備したのに!二人共幸せにならなきゃ許さないからね!」
「まあ、せいぜい頑張れよな。妖精の力なしでも幸せにやってる夫婦はたくさんいるからな。副担長山、いや、副担吉永か。離婚されねーようにな」
他の人たちとは違う家族の形だけど絶対に大丈夫。どんな険しい道も龍一さんを信じて共に歩んでいくから。私はずっとずっとあなたを愛しています。ずっとずっと大好きです。
「現代乙女ゲー世界に転生したら主人公のモブな社会人な姉でしたがゲームに出ない陰気な先生に溺愛されました」
???エンド「おしまい。だけどいつかどこかで会いましょう」
「黒原さん、何があったのか知りませんけど退職前に私達女子社員に謝ってきたんですよ。びっくりしましたよ!あと先輩にも『もうお会いできませんが、ご迷惑をおかけしてすみませんでした』って伝えて欲しいって言われました。だから先輩に私からちゃんと伝えましたよ」
本当なら黒原さんがいなくなってホッとするはずなのにモヤモヤとした物が残ってしまった。でも、それも生きていく上で仕方ないと思って記憶の端に追いやるため思い出さないようにすることにした。
もう一つ、モヤモヤするものがあった。ミサキによるとミールが突然いなくなってしまったのだという。最初はいつもみたいにひょっこりと帰ってくると思っていたのに今日まで一度も現れていないらしい。
龍一さんのところにも行っていないみたいで、ミールからの連絡を待つしかなかった。
休日は二人で龍一さんの部屋で過ごすのだけど、ソファに座って彼の胸に頭を預けても会話がなかなか弾まない。
「トモヨさん、ずっと考えていたんですが籍をいれる日を早めませんか」
龍一さんの言葉に私は息を飲んだ。
「でも、ミサキと龍一さんの学校が同じで」
「ただ、ミサキさんが卒業するまでは今まで通りの生活を続けましょう。トモヨさんと結婚して義兄になるとはいえ、血の繋がらない男と同居なんてミサキさんも嫌だろうから」
「それは、そう思ってくれてずっと待ってもらっているから龍一さんへすごく感謝しているんです」
確かに、ミサキにとってはこの上なく複雑な関係だと思う。私だって龍一さんがプロポーズしてくれた時にミサキのことを考えてくれていたからプロポーズを受けた部分もあるし。
「俺はトモヨさん達が階段から落ちた日、トモヨさんを失うことだけが怖かった。俺にとって一番大切な人が消えてしまうかもしれないと思ったら、何も考えられなくなって命と引き換えにしてもトモヨさんを助けたかった」
私の手をそっと握る龍一さんの手の上に私は自分の手を重ねた。もう片方の温かくて大きくて優しい手が私の手の上に重なった。
「入院して、あの夜、悪魔と会うトモヨさんをみて思ったんです。すぐにでも結婚して誰にも奪われないようにしたいと。俺は家族との縁が薄かった分、トモヨさんとは一緒に暖かい家族を作りたいです。だから俺のその夢が誰かに壊される方がよっぽど怖い。そう思って、トモヨさんが確実に俺の妻だと証明できる入籍をして欲しいんです。ミサキさんには申し訳ないが、俺のエゴを押し通させてください」
私を見つめる瞳は、色んな感情が混ざりあって、不安に揺れながらも強い意志を感じる。離れたくない気持ちも誰かに奪われたくない気持ちも一緒だから私はゆっくりとうなずいた。
「龍一さん、籍をいれるの今すぐでも」ピンポーン
……すごく大事な所で玄関のチャイムがなった。
「今すぐにでも一緒に役所へ」ピンポーン、ピンポーン
ぴんぴんぴんぴんぴぴぴぴピンポぴぴぴピンポーン、ピンポーン
……文句の一つでも言おうと思って同時に立ち上がって玄関へ向かう私と龍一さん。
「どなたですか」
怒りをにじませた声でドアをあける龍一さん。ドアの前には人に変身したミールが立っていた。
「よお、副担長山。姉貴。久し振り。俺様さ、副担を助けるためとはいえ下級低俗悪魔にポイントをあげちまっただろ。それが妖精界の偉い奴にバレて『お前なんぞ妖精と認めん!」って追放されたんだ。そーいう訳で副担長山。間接的どころか結構直接的に姉貴も関係あんな。つーことで二人共責任取って俺様の面倒みろ。まあ、よろしく頼む」
「おい、お前どこをどうみたって人間だぞ!妖精だっただろうが。妖精でなくなったのになんで人間に化けれる」
「さっきも言ったけどよ。俺様、妖精界追放されて妖精じゃなくなったんだ。だから俺が試験期間に貯めたポイントを全部使って、姉貴達の世界に来るための身体を手に入れたんだよ。こっちならミサキやコウスケ達もいて俺様に優しくしてくれるし。もう妖精として暮らすのも飽きてきたしよ。いいじゃんか、姉貴達の世界をもっと楽しませてくれよ」
「え?え?」
「ほら、今日からよろしく頼むぜ。あと、俺様、無国籍児ってことになってるからそこの手続きもよろしく~」
突然の展開についていけない私達にミールはあっけらかんとした顔で「ミサキの所に行ってくる」と言って去って行った。
「「ミール……」」
龍一さんと二人でしばらく呆然とした後、どちらともなく顔を見合わせて笑い出してしまった。
「入籍届を出すのと一緒にミールのことも役所に相談しましょうか」
ミサキには事後報告になってしまうけど私がそう言うと嬉しいような悲しいような顔をする龍一さん。
「やっぱりトモヨさんと結婚できて良かった」
「私も龍一さんと結婚できて幸せ」
お互いに抱きしめあうとこれからどんなことがあっても乗り越えて行けるって確信することができた。
******
「……というわけで、この度、俺達は夫婦になりました」
「これからも変わらず仲良く一緒によろしくお願いします」
「もおっ!早く言ってくれたらお祝いの準備したのに!二人共幸せにならなきゃ許さないからね!」
「まあ、せいぜい頑張れよな。妖精の力なしでも幸せにやってる夫婦はたくさんいるからな。副担長山、いや、副担吉永か。離婚されねーようにな」
他の人たちとは違う家族の形だけど絶対に大丈夫。どんな険しい道も龍一さんを信じて共に歩んでいくから。私はずっとずっとあなたを愛しています。ずっとずっと大好きです。
「現代乙女ゲー世界に転生したら主人公のモブな社会人な姉でしたがゲームに出ない陰気な先生に溺愛されました」
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