現代乙女ゲー世界に転生したら主人公のモブな社会人な姉でしたがゲームに出ない陰気な先生に溺愛されました。

からどり

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黒原さんの変化

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翌日、また黒原さんが現れるのではないかと私は気を引き締めて出勤したのだけど退勤時間になり家に帰っても何事もなかった。
いつも通りに過ぎていく日々。黒原さんが唐突に現れてデートを邪魔されるわけでもなく、穏やかにデートも終えることができた。

そんな日々を過ごしているうちに2月になり、節分も過ぎるとバレンタインを意識するようになってきた。
初めて龍一さんにバレンタインチョコを贈るので楽しみだけど、同時に黒原さんのことを考えすぎているのか私は怖い夢をみた。
朝になると夢の内容は覚えていないのだけど恐怖で汗をびっしょりかいていた。
その日は一日、不安な気持ちのまま過ごしたので仕事中ミスをしそうになった。
それでも今日は帰りにコンビニによって練習用にチョコレートを買って帰ろうと思いながら仕事を終えた。
会社を出てすぐに私は誰かに腕を引っ張られたので立ち止まった。そして見上げると黒原さんが私を見下ろしていた。私は驚いて声が出なかった。

「吉永さん。話があるの」
「黒原さん?」

突然の出現に驚いたけど彼女は見るからに痩せてしまっている。

「ここでは目立つから場所を変えましょう。近くのファミレスでいいですよね」

私がそう提案すると黒原さんは小さく頷いた。

「わかりました」

そう言って黒原さんは私を先導するように歩き出したので大人しく付いていく。

****
***
私達は会社近くのファミリーレストランに来ていた。奥の禁煙席に座ってドリンクバーだけを注文して店員が去ったのを確認してから私は聞いた。

「体調が悪いんですか?だいぶ痩せたみたいですけど」

「あんなことを言ってごめんなさい。私の勘違いでした」

私の問いかけを無視して頭を下げてきた。あの時とは全然雰囲気が違う。それにしてもこの変わりようはどうしたというのだろう。

「どうしたんですか?急に、勘違いって…龍一さんのお兄さんのことですか」
「はい」

小さく震える黒原さんの声。一体何があったのだろう?まさか龍一さんに会いに行って直接交渉して彼を怒らせたとか?それとも他に好きな人ができてその人と結ばれたとか。どちらにしても反省しているはずなのに私の心がざわつくのを感じた。

「ごめんなさい。もう二度と吉永さんと吉永さんの彼の仲を裂くようなことはしません」

「反省してくださったのなら、私はもう気にしませんよ」

だけどどうして彼女は反省しているのか分からず腑に落ちない。

「はい。あれから私も気がついて、彼が駄目なら愛しいと思っていたあの人に直接会いに行けばいいと思ったんです。でも……」

でも、の先は震える唇が語る様子はなかったけどなんとなく予想がつく。秀一さんの持つあおいさんへの愛情は自分に向くことはないって二人の姿を見て思ったのね。
きっと私も彼女と同じ状況に置かれたら同じように失恋のショックでやせ細るに違いない。

「……黒原さん、大丈夫ですか?何か飲み物を頼みますか?」

私がメニューを渡そうとしたけど首を振った。彼女の目が赤くなって涙を浮かべている。
なんと声をかけてあげればいいのか分からず、ただ冷えたコーヒーを飲むしかない私。
黒原さんは少し落ち着いたのかスンスンと鼻を鳴らして口を開いた。

「……愛おしいと思っていた彼は小説と違ってサイコパスだったんです……あんな、あんな人だったなんて……」

あー、龍一さんもお兄さんを怖がっていたわね。私には親切というか、本音を見せるほどの仲ではなかったから普通の人だったけど。
黒原さん、彼の何を見たのかしら……。私は龍一さんの兄・秀一と黒原さんの間に何があったのか気になった。だけどここでそれを聞くのも躊躇われたし、仕事でミスしそうになったくらい精神的にも疲れていた。だから黒原さんの話しを聞いても「もう終わったのね」という脱力感のほうが強かった。

「あの、黒原さん、今日はもう帰りませんか?私や龍一さんのことを陥れたりしないのなら私は何も文句はありませんから」

私はそう言って伝票を手に取ろうとしたのだけど彼女の方が早かった。

「迷惑をおかけしましたから」

彼女はそう言うとバッグを持って席を立った。会計を終えて店を出ると私は放っておけずに「駅まで送ります」と言ったら、黒原さんは戸惑ったけど否定はしなかった。

クリスマスイブの時に八津野目と階段から落ちそうになった歩道橋を通って駅に向かう。
階段をのぼっていると黒原さんの身体がグラリと揺れて後ろに倒れてくる。彼女の後ろから階段をのぼっていた私が身体を支えようとしたのだけど私も疲れから足を踏み外してしまう。まるでスローモーションのような状態で「あ、これ、今朝の悪夢だわ」と私は思った。
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