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プレゼントの話
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平日の夜に龍一さんと電話で話しをしていた時、クリスマスの話になった。
『クリスマスのプレゼントは何がいいですか。俺、できるだけトモヨさんの願いが叶えられるよう頑張るんで』
そう言われるとすぐに思い浮かばず、クリスマスでもらったプレゼントを頭の中で思い浮かべる。ミサキが小学生の頃は絵のプレゼントだったり、中学になるとごちそうを作ってくれて一緒に過ごすのが定番だった。社長達からは「働きに出たら子どもの物のままじゃ駄目だ。持ち物も大人のものに変えなさい」と言われ、二十歳になるまで良いものを長く使える力を身に着けなさいとカバンや靴などプレゼントしてもらっていた。その後は奥さんのセレクトで香水やスカーフとか小物をプレゼントされているので、なにか欲しいものと聞かれると悩んでしまう。
「……私、龍一さんがそばに居てくれたらそれで満足なので特にこれといって無いです」
電話だから顔は見えないけど龍一さんは困った顔をしてそう。だけど本当に彼が側にいてくれればそれで良いわ。
「ブランド物とか、いろいろありますけど欲しいものないですか」
欲しいものは自分で買うというのが身についているから、おねだりして買ってもらうというのが別世界みたいな話なのよね。
「うーん、ブランドもあまり……あ、12月に出る恋愛小説の新刊が欲しいです」
『新刊、俺も気になってはいましたけど・・・・・・まあ、そういうところも好きになった理由の一つです。俺、あんまりセンスが良くないので何を贈ったらいいか分からないんですが、トモヨさんに喜んでもらえるものを何か考えます」
「あ、ところで龍一さんはクリスマスプレゼント、何がいいですか」
私は逆に質問をする。龍一さんも欲がなさそうな人だから私と同じような答えをするのかと思っていたら龍一さんはすぐに答えなかった。しばらく間があった後にこう言ってきた。
『じゃあ……トモヨさんの手編みのセーター』
手編みの セーター
私の黒歴史から蘇る手編みのマフラー。お世話になった社長達やミサキに手編みのマフラーを送ろうと思ってふわふわの綺麗な毛糸と初心者向けの編み物の本と編み針もバッチリ揃えた。
だけど完成したのはフェルトみたいにギッチリ固くて細長い絨毯だった。まっすぐ綺麗ならコースターとか言ってごまかせたかもしれないけど編み目の大きさがバラバラで歪み、幅も不揃いな失敗作。たとえ毛糸がナイロンだったとしても洗い物には使えないような出来上がりで、
結局、プレゼントはお店で買ったマフラーを贈ったのだった。そんな私に手編みのセーターなんて編めるわけがない。
「あの、龍一さん。手編みのセーターは難しいので他のを……」
『じゃあ手編みのマフラーがいいです』
ああ……そうきてしまったのね。セーターよりマフラーの方がまっすぐで編む量は少ないですものね。セーターは難しいと遠回しな断り方をせず私がはっきりと編み物はできませんって言うべきだったのよね。でも、はっきりと言えずに龍一さんが先に言い出しちゃったものだからもう何も言えない。
『俺のために時間を使ってくれてると思うだけで嬉しいし幸せだし、どんなものでも大切にしますから』
龍一さんが気を使って「どんなものでも」と言ってくれるけど「無理に曲げてもまっすぐ戻る煎餅マフラー」はそこに入っているのでしょうか。
「くっ……分かりました。龍一さんのために頑張ります!」
思わず拳を握って力を込めて宣言してしまった私。
『えっ……あっ、俺のためにそんなに力強く……そこまで気持ちを込めてくれるなんて嬉しいです。ありがとうございます。じゃあ期待して待っています。トモヨさんもプレゼントを楽しみにしててください』
電話を切った後、さてどうしたものかと考える。クリスマスまでに間に合わせるため何本も編んで一番できの良いものを贈るしかない。私は押入れの奥底に眠る編み物の本と編み針を引っ張りだした。明日は仕事終わりにお店に毛糸を買いに出かけようと胸に誓ったのだった。
『クリスマスのプレゼントは何がいいですか。俺、できるだけトモヨさんの願いが叶えられるよう頑張るんで』
そう言われるとすぐに思い浮かばず、クリスマスでもらったプレゼントを頭の中で思い浮かべる。ミサキが小学生の頃は絵のプレゼントだったり、中学になるとごちそうを作ってくれて一緒に過ごすのが定番だった。社長達からは「働きに出たら子どもの物のままじゃ駄目だ。持ち物も大人のものに変えなさい」と言われ、二十歳になるまで良いものを長く使える力を身に着けなさいとカバンや靴などプレゼントしてもらっていた。その後は奥さんのセレクトで香水やスカーフとか小物をプレゼントされているので、なにか欲しいものと聞かれると悩んでしまう。
「……私、龍一さんがそばに居てくれたらそれで満足なので特にこれといって無いです」
電話だから顔は見えないけど龍一さんは困った顔をしてそう。だけど本当に彼が側にいてくれればそれで良いわ。
「ブランド物とか、いろいろありますけど欲しいものないですか」
欲しいものは自分で買うというのが身についているから、おねだりして買ってもらうというのが別世界みたいな話なのよね。
「うーん、ブランドもあまり……あ、12月に出る恋愛小説の新刊が欲しいです」
『新刊、俺も気になってはいましたけど・・・・・・まあ、そういうところも好きになった理由の一つです。俺、あんまりセンスが良くないので何を贈ったらいいか分からないんですが、トモヨさんに喜んでもらえるものを何か考えます」
「あ、ところで龍一さんはクリスマスプレゼント、何がいいですか」
私は逆に質問をする。龍一さんも欲がなさそうな人だから私と同じような答えをするのかと思っていたら龍一さんはすぐに答えなかった。しばらく間があった後にこう言ってきた。
『じゃあ……トモヨさんの手編みのセーター』
手編みの セーター
私の黒歴史から蘇る手編みのマフラー。お世話になった社長達やミサキに手編みのマフラーを送ろうと思ってふわふわの綺麗な毛糸と初心者向けの編み物の本と編み針もバッチリ揃えた。
だけど完成したのはフェルトみたいにギッチリ固くて細長い絨毯だった。まっすぐ綺麗ならコースターとか言ってごまかせたかもしれないけど編み目の大きさがバラバラで歪み、幅も不揃いな失敗作。たとえ毛糸がナイロンだったとしても洗い物には使えないような出来上がりで、
結局、プレゼントはお店で買ったマフラーを贈ったのだった。そんな私に手編みのセーターなんて編めるわけがない。
「あの、龍一さん。手編みのセーターは難しいので他のを……」
『じゃあ手編みのマフラーがいいです』
ああ……そうきてしまったのね。セーターよりマフラーの方がまっすぐで編む量は少ないですものね。セーターは難しいと遠回しな断り方をせず私がはっきりと編み物はできませんって言うべきだったのよね。でも、はっきりと言えずに龍一さんが先に言い出しちゃったものだからもう何も言えない。
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龍一さんが気を使って「どんなものでも」と言ってくれるけど「無理に曲げてもまっすぐ戻る煎餅マフラー」はそこに入っているのでしょうか。
「くっ……分かりました。龍一さんのために頑張ります!」
思わず拳を握って力を込めて宣言してしまった私。
『えっ……あっ、俺のためにそんなに力強く……そこまで気持ちを込めてくれるなんて嬉しいです。ありがとうございます。じゃあ期待して待っています。トモヨさんもプレゼントを楽しみにしててください』
電話を切った後、さてどうしたものかと考える。クリスマスまでに間に合わせるため何本も編んで一番できの良いものを贈るしかない。私は押入れの奥底に眠る編み物の本と編み針を引っ張りだした。明日は仕事終わりにお店に毛糸を買いに出かけようと胸に誓ったのだった。
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