上 下
82 / 105

突然の訪問 その2 の後 :長山龍一視点: 

しおりを挟む
トモヨさんを送り届け、家に帰ると俺はため息をついた。

「母さん、どうして急に来たんだよ」

俺の発泡酒を飲み、自分で買ったらしいスルメイカをライターで炙っている母さん。

「どうしてっってお父さんのことを話に来たのよ。あと玄関にお土産のおまんじゅう買ってきてあるから」
「父さんに何がっ」

最後に記憶しているのは夏、病院のベッドで横になった姿。1年ももたない命と言われていたんだ。急変してもおかしくはないが普通は電話で俺を呼び出すものだろう。何を考えているのか自分の親ながら分からない。

「お父さんね。龍ちゃんとの関係が修復されたからか元気になってね。肺に転移していたガンがなくなっちゃったのよ」

昔、遊園地に家族で行って無理やり付き合わされた下から一気に上昇する絶叫マシンに乗ったときのような浮遊感が足元から頭に向かって駆け上った。

「お父さん自身も診て、秀ちゃんも光ちゃんも診て、名医って呼ばれる先生にもレントゲンやCTで診てもらって『肺に転移しています』って言われてたのにね。この前、経過をみるための検査をしたらきれーさッぱっりないのよ。びっくりしたわ。手術だって絶望的って言われてたのにちょっとだけ小さくなって、これならギリギリ手術で取れるかもって話になったのよ。それで急だけどオペの予約があいた来週の頭に手術することになって……良かったわよね」

「…………あ、ああ。良かった」

母さんは半信半疑で受け入れきれない俺の顔をジロリと見ると何故かニヤリと笑った。

「あんた、あの指輪の効果があったわよ。お友達によろしく言っておいてね」

それだけ言うと母さんは炙ったスルメイカを食べながら発泡酒を飲むのに夢中になっていた。

(どういうことだ?妖精小僧が押し付けてきた指輪の効果なのか。何人も同じ診断を下したのは別として、医者も人間だから診断間違えはある。ガンが自然になくなるという話も聞いたことがあるが)

教師の俺からするとどれも説明がつかず非現実的だ。それにそんな奇跡が起きているのに息子の暮らすマンションでイカを炙って発泡酒を飲む母親なんて普通はいない。いないと思うが俺の母親は普通とずれているのを思い出す。
明日、光一兄さんの働く病院の休み時間に電話をして母さんが言ったことは本当か確認しようと俺は思った。

夕食は近くの店に連れて行ってやり、母さんは翌日になると仕事へ行く俺と一緒に家をでて「ウォーキングしながら帰るわねー」と言って歩いて駅に行ってしまった。
母さんは父さんが治療を受けられることが嬉しかったのだろうと今になって思う。今度は俺の方から連絡なしで実家に帰ってやろうと思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました

あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。 どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。

運命の恋人は銀の騎士〜甘やかな独占愛の千一夜〜

藤谷藍
恋愛
今年こそは、王城での舞踏会に参加できますように……。素敵な出会いに憧れる侯爵令嬢リリアは、適齢期をとっくに超えた二十歳だというのに社交界デビューができていない。侍女と二人暮らし、ポーション作りで生計を立てつつ、舞踏会へ出る費用を工面していたある日。リリアは騎士団を指揮する青銀の髪の青年、ジェイドに森で出会った。気になる彼からその場は逃げ出したものの。王都での事件に巻き込まれ、それがきっかけで異国へと転移してしまいーー。その上、偶然にも転移をしたのはリリアだけではなくて……⁉︎ 思いがけず、人生の方向展開をすることに決めたリリアの、恋と冒険のドキドキファンタジーです。

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉。節約令嬢、書籍化進行中
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

クラヴィスの華〜BADエンドが確定している乙女ゲー世界のモブに転生した私が攻略対象から溺愛されているワケ〜

アルト
恋愛
たった一つのトゥルーエンドを除き、どの攻略ルートであってもBADエンドが確定している乙女ゲーム「クラヴィスの華」。 そのゲームの本編にて、攻略対象である王子殿下の婚約者であった公爵令嬢に主人公は転生をしてしまう。 とは言っても、王子殿下の婚約者とはいえ、「クラヴィスの華」では冒頭付近に婚約を破棄され、グラフィックは勿論、声すら割り当てられておらず、名前だけ登場するというモブの中のモブとも言えるご令嬢。 主人公は、己の不幸フラグを叩き折りつつ、BADエンドしかない未来を変えるべく頑張っていたのだが、何故か次第に雲行きが怪しくなって行き────? 「────婚約破棄? 何故俺がお前との婚約を破棄しなきゃいけないんだ? ああ、そうだ。この肩書きも煩わしいな。いっそもう式をあげてしまおうか。ああ、心配はいらない。必要な事は俺が全て────」 「…………(わ、私はどこで間違っちゃったんだろうか)」 これは、どうにかして己の悲惨な末路を変えたい主人公による生存戦略転生記である。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラや攻略不可キャラからも、モテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します

みゅー
恋愛
乙女ゲームに、転生してしまった瑛子は自分の前世を思い出し、前世で培った処世術をフル活用しながら過ごしているうちに何故か、全く興味のない攻略対象に好かれてしまい、全力で逃げようとするが…… 余談ですが、小説家になろうの方で題名が既に国語力無さすぎて読むきにもなれない、教師相手だと淫行と言う意見あり。 皆さんも、作者の国語力のなさや教師と生徒カップル無理な人はプラウザバック宜しくです。 作者に国語力ないのは周知の事実ですので、指摘なくても大丈夫です✨ あと『追われてしまった』と言う言葉がおかしいとの指摘も既にいただいております。 やらかしちゃったと言うニュアンスで使用していますので、ご了承下さいませ。 この説明書いていて、海外の商品は訴えられるから、説明書が長くなるって話を思いだしました。

【悪役令嬢は婚約破棄されても溺愛される】~私は王子様よりも執事様が好きなんです!~

六角
恋愛
エリザベス・ローズウッドは、貴族の令嬢でありながら、自分が前世で読んだ乙女ゲームの悪役令嬢だと気づく。しかも、ゲームでは王子様と婚約しているはずなのに、現実では王子様に婚約破棄されてしまうという最悪の展開になっていた。エリザベスは、王子様に捨てられたことで自分の人生が終わったと思うが、そこに現れたのは、彼女がずっと憧れていた執事様だった。執事様は、エリザベスに対して深い愛情を抱いており、彼女を守るために何でもすると言う。エリザベスは、執事様に惹かれていくが、彼にはある秘密があった……。

処理中です...