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幸せの花を供えに

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お昼は早めの時間に行って美味しいとんかつ屋さんでランチを楽しむ。

「トモヨさん。話は変わるんですけどご両親が眠るお墓は県内なんですか」

龍一さんが箸を置いて意を決した顔で聞いてきた。


「両親と祖父母の眠るお墓は市内の墓所なんです。生前のおばあちゃ、祖母が先に亡くなった祖父のためにこの町で一番景色が良い墓所にお墓を建てたんです。両親に先立たれたときも『おじいちゃんが向こうで迎えてくれるからお父さんもお母さんもみんな一緒で寂しくないよ』って祖母がお墓を大きくしてくれて、今は四人で……」

最後のお別れを思い出すとまだ悲しくて息が苦しくなる。それでも前に進んでこれたから大丈夫と心の中で自分を励まして笑顔を作る。

「近いのにお盆とお彼岸くらいしかお墓参りに行けないんですよ。もー、駄目な娘ですよね」

「トモヨさんは駄目な人じゃない。しっかり物事を見てくれる優しい人だ。女性に見向きもされなかった俺のことも見てくれてずっと愛してくれる」

そこで言葉を区切って龍一さんが頭を掻いた。

「やっと指輪も渡せたから、実家に行く時よりもずっと緊張するけどもトモヨさんのご両親達に挨拶に行きたいんだ。飯を食べたら会いにいきませんか」

「はい、喜んで!」

その後のご飯は美味しいのにちょっとしょっぱい味がした。

お店をでると近くの花屋さんでお墓に備える花を買って、墓地のそばにあるスーパーに寄ってお線香を用意した。そしてまた車を走らせてもらった。
車は駐車場に停めて墓地に訪れるとしんとした静かな空気が漂う。誰かが供えてくれたお花は枯れる寸前で、私はその花の片付けをしたり、龍一さんが貸しバケツに水を汲んでくれて持ってきてくれた杓を使って一緒にお墓に水をかけた。お線香の香りに包まれて二人で静かに手をあわせる。

「お父さん、お母さん、おばあちゃんにおじいちゃん。なかなか来れなくてごめんね。私ね、ずっと独身でいると思ってたんだけど婚約したんだよ」

私はそう言うと話しを続けた。

「彼が今、お付き合いしてる長山龍一さん。今日は彼とね、結婚指輪が完成して取りに行ってたの」

私が報告をしている間も龍一さんは真剣な眼差しのまま両手を合わせていて、心の中で両親に話しかけてくれているようだった。そして最後にこう告げる。
「龍一です。はじめまして。トモヨさんとお付き合いさせていただいています。このたびは、ご縁があって彼女と結婚させていただきますことをご報告いたします。まだまだ未熟な私達ではありますが一生懸命努力して参りますのでどうか見守ってください」

龍一さんの声を聞きながら私は泣いてしまった。もしも私が前世の記憶を小さな頃に取り戻していれば両親もおばあちゃんも……そう思うことは何度もあった。もう一度、この世界でミサキのお姉ちゃんになれるのなら、誰も死なない世界にしようと頑張っただろうな。でも記憶を取り戻してもいない、普通の子であった私を産んでくれて愛してくれたことに感謝するばかりだ。龍一さんが泣き崩れてしまいそうな私の体を抱き支えてくれるのに甘えて本当に素敵な人達と巡り会わせてくれたことに心の底から感謝していた。
   
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