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合コンを開いて終わったのに
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*マンション前*
車に乗るまでは手をつないでいたのだけど、運転中は離していた手。邪魔にならないように端に止めた車の中で今は恋人つなぎにしてお互いに指を絡ませてる。
「トモヨ、今日は俺のために本当にありがとう」
いつもはトモヨさんなのに呼び捨てにされるといつも以上に胸が跳ねる。龍一さんは気づいてないようだけど。
龍一さんの手を握る力を強めながら私も答える。
「いえ、私こそ……トモヨって言って貰えて凄く嬉しかったです」
「…………」
あれ?私変なこと言ったかな?返事がない……。顔をのぞきこむと照れたように目をそらされた。あ、もしかして呼び方の件で龍一さんも照れてる?ますます好きになってしまうのだけどどうしよう。もうこれ以上夢中になれないくらい好きになっていると思ったのに無限に気持ちが溢れてくる。
そんな甘い時間を過ごしていたけど私のスマホが震えたのを機に名残惜しそうに手を解いた。
「モモさんから電話が、ごめんなさい。出ますね」
画面を見るとモモさんの名前が表示されている。私は車を降りて通話ボタンを押した。
「もしもし?」
『ああ良かったぁ。ちゃんと連絡取れたぁ』
安心したような声を出したモモさん。
「どうしたの?何かあった?」
とっさのことで素で喋ってしまった。
『先輩達、合コンが終わった後も人目くらい気にしてくださいよー。こっちは二人のラブラブっぷりに恋人がいない人達が大荒れでしたよぉ。それに黒原さんに私がめっちゃ睨まれたんですよ』
モモさんが明るい声でそう言うけど後ろの方では騒がしい雑音が入っている。お店の中かしら?
「えっ、なんでモモさんが睨まれてるのよ」
『いやぁ、なんか分からないですけど心当たりと言えば合コンに誘ってないからじゃないですか?でも、私に怒っても困るんですよね。私は支社の友だちに予定が空いてる人を呼んでもらっただけなんで~』
それをモモさんから聞いた瞬間、私の顔が強ばるのが分かった。
「ごめんなさい。私もこんなに大きな規模になると思わなくてモモさんにフォローに回ってもらった私のせいだわ」
うまくいったと思ったのだけど私は溜め息混じりの口調になる。すると、モモさんが明るく笑ってくれた。
『大丈夫ですよ~、何度かキューピッド役してて、ああいう人には慣れてますから」
そう言われてもやっぱり申し訳ないし、今度のお礼のランチにはお持ち帰りでお菓子も用意しておこう。
「って、そうじゃなかった。先輩は谷さんって知ってます?先輩の恋人のお友達らしいんですけど」
「谷さん?ちょっと彼も一緒だから聞いてみるわね」
運転席に回ってドアを開けて「谷さんって知ってますか?」と尋ねると龍一さんの眉が真ん中に寄った。
「学校の同僚教師」
不機嫌な顔のまま返される。これはもしかしなくてもヤキモチ? 私は龍一さんの手を両手で握りしめて満面の笑みを向ける。その笑顔に負けたのか渋々口を開いた。
「……男子の体育を教えていて、前にトモヨの卵焼きを狙っていた先生」
龍一さんの説明があまりに可愛すぎて吹き出してしまったのは仕方がないことだと思う。私の反応を見た彼がまた拗ねるから笑いながら謝るしかない。それでもまだ龍一さんは不機嫌そうにしている。そんなに谷さんの話題が出ることが嫌だったんだ。
「彼の同僚の人ね。谷さんがどうしたの」
「その人、二次会にきたんですけどそこでお酒に酔って店から飛び出すと電柱に登って張り付いてるんですよ。なんとかしてもらえないですか」
前世の記憶で一度見たことがあるギャグ。でも今どきのギャグ漫画にそんな描写ないわよ。現実にそんな事する人がいるなんて……。
「う、うん。すぐ行く。モモちゃんありがとう」
通話を切って龍一さんに伝えるとますます不機嫌な顔をされた。
「合コンを頼まれるんじゃなかった」
「まあまあ、次の休みは一緒にゆっくりしましょう」
そっぽを向いて拗ねた声で言う龍一さんだけど私は気にせず助手席に乗り込んで、シートベルトをつける。そして龍一さんの耳元で呟いたのは「愛してる」の言葉。
龍一さんが目を見開いてこちらを見るのを確認してから微笑む。私の言葉で機嫌が治った龍一さんの運転で車は発進した。
車はすぐにモモさん達のいる居酒屋に到着して車から二人で降りる。人集りができている電柱には合コンでビールを注いでくれた男の人がしがみついていた。
「うおおおーん」
まるで狼男のような叫びに呼ばれてスマホを構えている人々。ここに乗り込んで止める仕事を私と龍一さんがしなくてはいけない。気持ちは分かるけど龍一さんが車に戻ろうとする。それを引き止めて彼の腕を引っ張って行く。
「谷さん、危ないですから降りてきましょう。拡散されて生徒に見られたらどうするんですか」
電柱に近づいて龍一さんが声をかけると谷さんは電柱からズルズルと降りてきた。地面に膝をつけて頭を下げる。そして叫んだ。
「お願いしゃっす。どうか俺にも彼女を作ってください!」
私達は困惑した。「いや、そのために合コンを開いたんですから気になった女の子と連絡先くらいは頑張って交換してくださいよ」と言いたかったけど龍一さんの同僚だし気を使って言えなかった。困っている空気を感じてか彼は顔を上げて叫ぶ。
「あの子は駄目なんだー。俺のこと全然見てくれないっすよーー。それに他の女の子に話しかけても『ごめんなさい』って言って会話してくれないし、もう何度アタックしても玉砕ばっかりなんだよおおおぉ」
口調はしっかりしてるけどかなり酔ってるわ。どうしたものかと思っているうちにウオンオン叫ぶし。
「とりあえず谷さんの家に行きませんか。お店で大声を出したら迷惑ですし」
困り果てていたらモモさんが提案してくれた。渋々だけど龍一さんが谷さんを車に乗せて、モモさんも一緒に乗ってくれて彼の家に向かうのだった。
車に乗るまでは手をつないでいたのだけど、運転中は離していた手。邪魔にならないように端に止めた車の中で今は恋人つなぎにしてお互いに指を絡ませてる。
「トモヨ、今日は俺のために本当にありがとう」
いつもはトモヨさんなのに呼び捨てにされるといつも以上に胸が跳ねる。龍一さんは気づいてないようだけど。
龍一さんの手を握る力を強めながら私も答える。
「いえ、私こそ……トモヨって言って貰えて凄く嬉しかったです」
「…………」
あれ?私変なこと言ったかな?返事がない……。顔をのぞきこむと照れたように目をそらされた。あ、もしかして呼び方の件で龍一さんも照れてる?ますます好きになってしまうのだけどどうしよう。もうこれ以上夢中になれないくらい好きになっていると思ったのに無限に気持ちが溢れてくる。
そんな甘い時間を過ごしていたけど私のスマホが震えたのを機に名残惜しそうに手を解いた。
「モモさんから電話が、ごめんなさい。出ますね」
画面を見るとモモさんの名前が表示されている。私は車を降りて通話ボタンを押した。
「もしもし?」
『ああ良かったぁ。ちゃんと連絡取れたぁ』
安心したような声を出したモモさん。
「どうしたの?何かあった?」
とっさのことで素で喋ってしまった。
『先輩達、合コンが終わった後も人目くらい気にしてくださいよー。こっちは二人のラブラブっぷりに恋人がいない人達が大荒れでしたよぉ。それに黒原さんに私がめっちゃ睨まれたんですよ』
モモさんが明るい声でそう言うけど後ろの方では騒がしい雑音が入っている。お店の中かしら?
「えっ、なんでモモさんが睨まれてるのよ」
『いやぁ、なんか分からないですけど心当たりと言えば合コンに誘ってないからじゃないですか?でも、私に怒っても困るんですよね。私は支社の友だちに予定が空いてる人を呼んでもらっただけなんで~』
それをモモさんから聞いた瞬間、私の顔が強ばるのが分かった。
「ごめんなさい。私もこんなに大きな規模になると思わなくてモモさんにフォローに回ってもらった私のせいだわ」
うまくいったと思ったのだけど私は溜め息混じりの口調になる。すると、モモさんが明るく笑ってくれた。
『大丈夫ですよ~、何度かキューピッド役してて、ああいう人には慣れてますから」
そう言われてもやっぱり申し訳ないし、今度のお礼のランチにはお持ち帰りでお菓子も用意しておこう。
「って、そうじゃなかった。先輩は谷さんって知ってます?先輩の恋人のお友達らしいんですけど」
「谷さん?ちょっと彼も一緒だから聞いてみるわね」
運転席に回ってドアを開けて「谷さんって知ってますか?」と尋ねると龍一さんの眉が真ん中に寄った。
「学校の同僚教師」
不機嫌な顔のまま返される。これはもしかしなくてもヤキモチ? 私は龍一さんの手を両手で握りしめて満面の笑みを向ける。その笑顔に負けたのか渋々口を開いた。
「……男子の体育を教えていて、前にトモヨの卵焼きを狙っていた先生」
龍一さんの説明があまりに可愛すぎて吹き出してしまったのは仕方がないことだと思う。私の反応を見た彼がまた拗ねるから笑いながら謝るしかない。それでもまだ龍一さんは不機嫌そうにしている。そんなに谷さんの話題が出ることが嫌だったんだ。
「彼の同僚の人ね。谷さんがどうしたの」
「その人、二次会にきたんですけどそこでお酒に酔って店から飛び出すと電柱に登って張り付いてるんですよ。なんとかしてもらえないですか」
前世の記憶で一度見たことがあるギャグ。でも今どきのギャグ漫画にそんな描写ないわよ。現実にそんな事する人がいるなんて……。
「う、うん。すぐ行く。モモちゃんありがとう」
通話を切って龍一さんに伝えるとますます不機嫌な顔をされた。
「合コンを頼まれるんじゃなかった」
「まあまあ、次の休みは一緒にゆっくりしましょう」
そっぽを向いて拗ねた声で言う龍一さんだけど私は気にせず助手席に乗り込んで、シートベルトをつける。そして龍一さんの耳元で呟いたのは「愛してる」の言葉。
龍一さんが目を見開いてこちらを見るのを確認してから微笑む。私の言葉で機嫌が治った龍一さんの運転で車は発進した。
車はすぐにモモさん達のいる居酒屋に到着して車から二人で降りる。人集りができている電柱には合コンでビールを注いでくれた男の人がしがみついていた。
「うおおおーん」
まるで狼男のような叫びに呼ばれてスマホを構えている人々。ここに乗り込んで止める仕事を私と龍一さんがしなくてはいけない。気持ちは分かるけど龍一さんが車に戻ろうとする。それを引き止めて彼の腕を引っ張って行く。
「谷さん、危ないですから降りてきましょう。拡散されて生徒に見られたらどうするんですか」
電柱に近づいて龍一さんが声をかけると谷さんは電柱からズルズルと降りてきた。地面に膝をつけて頭を下げる。そして叫んだ。
「お願いしゃっす。どうか俺にも彼女を作ってください!」
私達は困惑した。「いや、そのために合コンを開いたんですから気になった女の子と連絡先くらいは頑張って交換してくださいよ」と言いたかったけど龍一さんの同僚だし気を使って言えなかった。困っている空気を感じてか彼は顔を上げて叫ぶ。
「あの子は駄目なんだー。俺のこと全然見てくれないっすよーー。それに他の女の子に話しかけても『ごめんなさい』って言って会話してくれないし、もう何度アタックしても玉砕ばっかりなんだよおおおぉ」
口調はしっかりしてるけどかなり酔ってるわ。どうしたものかと思っているうちにウオンオン叫ぶし。
「とりあえず谷さんの家に行きませんか。お店で大声を出したら迷惑ですし」
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