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打ち明け話 前編
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二人を見送ってホッと一安心したのだけど、龍一さんは複雑な顔をして立っていた。実家に行ったときもだけどお兄さんが怖いと言っていたし、彼とお兄さんの間に何があったのかとても気になってしまう。
でも無理に聞くつもりもなかったのだけど、龍一さんが私達の方を向くと「ちょっとだけ話しをさせてもらえませんか」と言った。
「じゃあ、家に上がってください。まだ私達、夕飯もまだですし簡単なものしか出せないですけど良かったら一緒に」
「いえ、あの……。外で。近くのファミレスとか喫茶店でもいいですか」
そう言いながら龍一さんの顔がどんどん強張ってくる。緊張するからなのか彼の身体が小刻みに震えてるように見えた。
私は心配になってミサキと二人で「先生、大丈夫?」「具合悪いんですか?」と慌てて、とにかく彼の手を引いて部屋に上げてソファに横たわらせる。
「ミサキ、ごめん。私のかけ布団もってきて」
「うん。待ってて」
ミサキに頼んで布団を持ってきてもらうとそれを龍一さんの体にかけてあげる。
「トモヨさん」
龍一さんが目を閉じたまま、苦しそうな声で私を呼ぶ。しゃがんで顔を見ながら冷や汗をかいた彼のひたいを撫でる。
「どうしました?私、体温計持ってきましょうか」
「違うんです。トモヨさん、僕の情けない話しを聞いてくれますか。ミサキさんも一緒に」
龍一さんの様子が変なので私達は「はい」と答える。初めて会ったころのように自分を僕と言う龍一さんが小さな子のように見えた。
「子どもの頃から僕達は医師になるようにと言われながら育ち、実際に今は秀一兄さんは親父と同じ外科医になったし、光一兄さんは皮膚科の個人病院に雇われて医者をしています」
「だから高級車乗ってたんだ」
ミサキがポツリをつぶやく。今、車は別になんでもいいのよ。問題はその後の話よ。
「僕も小さい頃は疑いもせず医者になるんだと思っていましたし、その頃は兄弟の中は良かった方だとおもいます。ただ秀一兄さんは、冷静に物事をみると言えば聞こえがいいんですが、冷めた目線を持っているというか。人間の体を治すことよりも病気や治療での変化を観察することに興味を持っていました」
頭によぎった「サイコパス」という言葉。秀一さんもそんな人間なのだろうか。でも私達に親切で、あおいさんに向ける笑顔は愛情が込もっていると思う。龍一さんによく似た笑顔。なのに私はお兄さんの第一印象を思い出して急に怖くなる。
龍一さんは話しを続けた。
「それを目の当たりのしたのが俺が高校時代のときです。当時、気になっていた女性がいたました。彼女を含めた友達と一緒にいた時に偶然、秀一兄さんに会った彼女が一目ぼれしてしまって。でも、兄さんには当時、付き合っていた恋人がいて彼女のアプローチは丁寧に断っていました」
龍一さんの過去のこととはいえ気になる女性がいると聞かされてしまうと気持ちがモヤモヤしてしまう。お兄さんについての話だからその女性について聞きたい気持ちをグッと我慢する。
「それからしばらく経ったある日のことです。彼女は兄さんに振り向いてもらおうと必死で……兄さんと付き合っている女性を脅すような行動をし始めて。それに怒った兄さんは彼女を呼び出したらしくて……俺には二人の間になにがあったのか分からないんですが彼女はそれっきり俺や兄さんを見ると怯えて近づかなくなりました」
龍一さんはそう言ってから「すいません。変な話をしてしまい」と言って話を打ち切った。
でも私はもっと深い理由がある気がしていた。その話だけで龍一さんが医者にならなかった理由もお兄さんを怖がる意味も納得するには弱いと思ってしまったから、打ち切られた話の先に答えがある気がした。
「龍一さん、私は龍一さんの味方ですよ」
「トモヨさん」
「もう怖がらなくて大丈夫です。私、自分より強い相手と戦うのも逃げるのも経験ありますから」
でもそれを無理に聞こうとは思わない。
龍一さんが私やミサキのことを優先して考えてくれるのだから私も龍一さんの気持ちを優先して考えていきたいと考えていたからだ。
でも無理に聞くつもりもなかったのだけど、龍一さんが私達の方を向くと「ちょっとだけ話しをさせてもらえませんか」と言った。
「じゃあ、家に上がってください。まだ私達、夕飯もまだですし簡単なものしか出せないですけど良かったら一緒に」
「いえ、あの……。外で。近くのファミレスとか喫茶店でもいいですか」
そう言いながら龍一さんの顔がどんどん強張ってくる。緊張するからなのか彼の身体が小刻みに震えてるように見えた。
私は心配になってミサキと二人で「先生、大丈夫?」「具合悪いんですか?」と慌てて、とにかく彼の手を引いて部屋に上げてソファに横たわらせる。
「ミサキ、ごめん。私のかけ布団もってきて」
「うん。待ってて」
ミサキに頼んで布団を持ってきてもらうとそれを龍一さんの体にかけてあげる。
「トモヨさん」
龍一さんが目を閉じたまま、苦しそうな声で私を呼ぶ。しゃがんで顔を見ながら冷や汗をかいた彼のひたいを撫でる。
「どうしました?私、体温計持ってきましょうか」
「違うんです。トモヨさん、僕の情けない話しを聞いてくれますか。ミサキさんも一緒に」
龍一さんの様子が変なので私達は「はい」と答える。初めて会ったころのように自分を僕と言う龍一さんが小さな子のように見えた。
「子どもの頃から僕達は医師になるようにと言われながら育ち、実際に今は秀一兄さんは親父と同じ外科医になったし、光一兄さんは皮膚科の個人病院に雇われて医者をしています」
「だから高級車乗ってたんだ」
ミサキがポツリをつぶやく。今、車は別になんでもいいのよ。問題はその後の話よ。
「僕も小さい頃は疑いもせず医者になるんだと思っていましたし、その頃は兄弟の中は良かった方だとおもいます。ただ秀一兄さんは、冷静に物事をみると言えば聞こえがいいんですが、冷めた目線を持っているというか。人間の体を治すことよりも病気や治療での変化を観察することに興味を持っていました」
頭によぎった「サイコパス」という言葉。秀一さんもそんな人間なのだろうか。でも私達に親切で、あおいさんに向ける笑顔は愛情が込もっていると思う。龍一さんによく似た笑顔。なのに私はお兄さんの第一印象を思い出して急に怖くなる。
龍一さんは話しを続けた。
「それを目の当たりのしたのが俺が高校時代のときです。当時、気になっていた女性がいたました。彼女を含めた友達と一緒にいた時に偶然、秀一兄さんに会った彼女が一目ぼれしてしまって。でも、兄さんには当時、付き合っていた恋人がいて彼女のアプローチは丁寧に断っていました」
龍一さんの過去のこととはいえ気になる女性がいると聞かされてしまうと気持ちがモヤモヤしてしまう。お兄さんについての話だからその女性について聞きたい気持ちをグッと我慢する。
「それからしばらく経ったある日のことです。彼女は兄さんに振り向いてもらおうと必死で……兄さんと付き合っている女性を脅すような行動をし始めて。それに怒った兄さんは彼女を呼び出したらしくて……俺には二人の間になにがあったのか分からないんですが彼女はそれっきり俺や兄さんを見ると怯えて近づかなくなりました」
龍一さんはそう言ってから「すいません。変な話をしてしまい」と言って話を打ち切った。
でも私はもっと深い理由がある気がしていた。その話だけで龍一さんが医者にならなかった理由もお兄さんを怖がる意味も納得するには弱いと思ってしまったから、打ち切られた話の先に答えがある気がした。
「龍一さん、私は龍一さんの味方ですよ」
「トモヨさん」
「もう怖がらなくて大丈夫です。私、自分より強い相手と戦うのも逃げるのも経験ありますから」
でもそれを無理に聞こうとは思わない。
龍一さんが私やミサキのことを優先して考えてくれるのだから私も龍一さんの気持ちを優先して考えていきたいと考えていたからだ。
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