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突然の訪問 前編
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今日も私は仕事を片付けて、退社時間となった。マナーモードにしていたスマホをチェックすると龍一さんから電話が入っていたので嬉しくて、会社を出るとすぐに近くのコンビニの駐車場で邪魔にならないところに寄って電話をかけてみる。
何度かのコールで龍一さんが電話にでてくれた。
「あっ……トモヨです。龍一さん」
「ああ、ども。トモヨさん。すいません。急な頼みなんですが、そっちにあおいさんと一緒に行かせてもらっていいですか」
あおいさん?あおい、あおいさんって誰だったか記憶を巡っていくと思い出せいた。
「あっ。たしかお兄さんの奥さんの」
「ええ、帰ったらあおいさんが俺のマンションの前にいて、話しを聞いても何も言わないもので。女性同士なら俺とよりも話がしやすいと思うんで頼みたいんですが」
「ええ、それは私はいいですけども。こっちにはミサキがいますけど大丈夫ですか」
「俺の所にいる方が俺の身が危険なので」
あおいさんがいると龍一さんが危険ってどういうことかしら?よくわからないけれど、とにかく事情はわかったので承諾をした。
車でくるというので、ミサキには義理のお姉さんになる予定のあおいさんを連れて龍一さんが来ることを伝えた。
******
龍一さんとあおいさんが来て私は二人を部屋に招き入れる。お土産ではなさそうな紙袋をしっかり持っているあおいさんは初対面の時よりも弱々しく表情も悲しげだった。ミサキは初めてあう義理のお姉さんの様子に緊張気味だが「よろしくお願いします」と挨拶する。あおいさんが元気はないけど「よろしくお願いします」と返す。
「あおいさん、どうして俺の家に来たんですか?秀一兄さんと何かあったんですか」
あおいさんにはソファーに座ってもらい、床に座った龍一さんが切り出す。私は二人分の紅茶を出して少し離れてミサキと並んで床に座って様子を見守る。
「はい。あの……実は、うう~ん」
あおいさんは言いづらそうに、悩ましげに身をくねらせて大事に抱えていた紙袋から取り出したものをテーブルに置いた。
「これ、何?アフリカのお土産??」
ミサキが反射的に言った。たしかにアフリカっぽい木彫人形だけども。
「いえ、これは、ネットで見つけたの」
「「「…………」」」
私とミサキは無言で見合わせる。龍一さんも木彫りの人形に目が釘付けになっている。私達の間に沈黙が流れ、ミサキは首を傾げていた。
それからしばらく、私は言葉が出てこなかった。だって、あおいさんが龍一さんのところに来た理由がまったく分からないのだから。
「あの、あおいさん。このお人形がどうなさったんでしょうか」
ようやく私の口から出た質問に、今度は彼女が無言になる番だった。しばらく迷ったように唇を噛み、やがて口が開かれた。
「そ、その、これを秀一さんへのサプライズプレゼントで贈ったら笑われてしまったの」
「「えぇ……」」
私とミサキは困惑した。たぶん、それは笑ったんじゃなくて引いてるんだと思うけど。
「男の人ってこういうの好きでしょ?だから、喜んで受け取ってもらえるかなぁと思ったから。でも、笑われてしまって」
ちらりと龍一さんの方を見ると眉間に深く何本もシワが寄っていた。義理のお姉さんだから龍一さんの立場ではコメントできない様子。
「……いや、それは、アリかナシかならナシなんじゃないかな」とはあおいさんが真剣に悩んでいるので言えない。それに彼女がわざわざ隣の県にいる龍一さんを頼って来ているのだから、あまり否定もできない。
私は苦笑いしながら答えた。
「あの、でも、ほら。きっと喜んでくれると思いますよ。お義兄さんなら。ねっ!」
そう言って私は龍一さんの方を見る。
「兄はあおいさんからのプレゼントが嬉しすぎて笑ったんだと思います」
「そう思う?」
眼鏡の奥の瞳がうるうると潤んでいて、木彫人形のことがなければ女優も顔負けの美人なのに。
そんなことを考えながら「はい」と答えたものの本当にお兄さんは喜んでいたのだろうか?疑問に思ってしまう。
何度かのコールで龍一さんが電話にでてくれた。
「あっ……トモヨです。龍一さん」
「ああ、ども。トモヨさん。すいません。急な頼みなんですが、そっちにあおいさんと一緒に行かせてもらっていいですか」
あおいさん?あおい、あおいさんって誰だったか記憶を巡っていくと思い出せいた。
「あっ。たしかお兄さんの奥さんの」
「ええ、帰ったらあおいさんが俺のマンションの前にいて、話しを聞いても何も言わないもので。女性同士なら俺とよりも話がしやすいと思うんで頼みたいんですが」
「ええ、それは私はいいですけども。こっちにはミサキがいますけど大丈夫ですか」
「俺の所にいる方が俺の身が危険なので」
あおいさんがいると龍一さんが危険ってどういうことかしら?よくわからないけれど、とにかく事情はわかったので承諾をした。
車でくるというので、ミサキには義理のお姉さんになる予定のあおいさんを連れて龍一さんが来ることを伝えた。
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龍一さんとあおいさんが来て私は二人を部屋に招き入れる。お土産ではなさそうな紙袋をしっかり持っているあおいさんは初対面の時よりも弱々しく表情も悲しげだった。ミサキは初めてあう義理のお姉さんの様子に緊張気味だが「よろしくお願いします」と挨拶する。あおいさんが元気はないけど「よろしくお願いします」と返す。
「あおいさん、どうして俺の家に来たんですか?秀一兄さんと何かあったんですか」
あおいさんにはソファーに座ってもらい、床に座った龍一さんが切り出す。私は二人分の紅茶を出して少し離れてミサキと並んで床に座って様子を見守る。
「はい。あの……実は、うう~ん」
あおいさんは言いづらそうに、悩ましげに身をくねらせて大事に抱えていた紙袋から取り出したものをテーブルに置いた。
「これ、何?アフリカのお土産??」
ミサキが反射的に言った。たしかにアフリカっぽい木彫人形だけども。
「いえ、これは、ネットで見つけたの」
「「「…………」」」
私とミサキは無言で見合わせる。龍一さんも木彫りの人形に目が釘付けになっている。私達の間に沈黙が流れ、ミサキは首を傾げていた。
それからしばらく、私は言葉が出てこなかった。だって、あおいさんが龍一さんのところに来た理由がまったく分からないのだから。
「あの、あおいさん。このお人形がどうなさったんでしょうか」
ようやく私の口から出た質問に、今度は彼女が無言になる番だった。しばらく迷ったように唇を噛み、やがて口が開かれた。
「そ、その、これを秀一さんへのサプライズプレゼントで贈ったら笑われてしまったの」
「「えぇ……」」
私とミサキは困惑した。たぶん、それは笑ったんじゃなくて引いてるんだと思うけど。
「男の人ってこういうの好きでしょ?だから、喜んで受け取ってもらえるかなぁと思ったから。でも、笑われてしまって」
ちらりと龍一さんの方を見ると眉間に深く何本もシワが寄っていた。義理のお姉さんだから龍一さんの立場ではコメントできない様子。
「……いや、それは、アリかナシかならナシなんじゃないかな」とはあおいさんが真剣に悩んでいるので言えない。それに彼女がわざわざ隣の県にいる龍一さんを頼って来ているのだから、あまり否定もできない。
私は苦笑いしながら答えた。
「あの、でも、ほら。きっと喜んでくれると思いますよ。お義兄さんなら。ねっ!」
そう言って私は龍一さんの方を見る。
「兄はあおいさんからのプレゼントが嬉しすぎて笑ったんだと思います」
「そう思う?」
眼鏡の奥の瞳がうるうると潤んでいて、木彫人形のことがなければ女優も顔負けの美人なのに。
そんなことを考えながら「はい」と答えたものの本当にお兄さんは喜んでいたのだろうか?疑問に思ってしまう。
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