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お礼とお詫びと測りきれない愛情と
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約束の日が来た。玄関のドアを開けてもらうと緊張した表情の龍一さんが立っていた。
一方の私は両手に家から炊いてきたご飯をタッパーに詰めたものやスーパーで買った野菜とお肉などを袋に入れて両手に持っていた。
「ども、こんにちは。トモヨさん」
「こんにちは。龍一さん、お邪魔します」
まだ部屋デートに慣れていなくてお互いにぎこちなく挨拶を交わす。何も言わずに龍一さんが荷物を持つのを変わってくれた。
ガーゼが外れたけどまだ少しカサブタが残っている傷にそっと手を伸ばす。
「痛くないですか」
「ええ、大丈夫です。順調に治ってます…けど…」
龍一さんが言葉を濁す。寂しそうな表情に私は罪悪感に押しつぶされそうだった。
「傷跡、やっぱり残ってしまいますか?」
彼の顔を見つめる私の視線から逃れるように顔をそらされた。
「不謹慎ですけど綺麗に治ったらトモヨさんに心配されなくなるのが、ちょっと辛いですね。こんなに心配してもらえるならこの怪我も悪くないと思えるぐらいです」
彼は照れくさそうに笑ってくれた。
「もう、龍一さんたら」
嫌われてなくて良かったと私もつられて笑う。するとふいに彼から抱き寄せられた。龍一さんの匂いと部屋に漂う薔薇の香りに包まれて鼓動が速くなっていく。
「すみません、つい抱きしめたくなって」
そう言われてはっと我に返って離れようとするけど背中と腰をしっかり抱かれてしまい動けなくなった。
「龍一さん?」
名前を呼んでみても龍一さんは何も答えずに黙ったまま動かない。
どうしよう。心臓が爆発しそうだ。きっとこの心音は彼にも伝わっているに違いない。
このままじゃ恥ずかしすぎて思考が低年齢化してしまうと身をよじってみるとますます強く抱きしめられてしまった。
「食事の前にトモヨさんを充電させてもらってもいいですか」
「龍一さん!?あの、ちょっ!」
「嫌だったら言ってください」と言われてもこの状況で断るなんてもったいない選択は私にはできない。
結局そのまま5分近く抱きしめられていただろうか。ようやく龍一さんは体を離してくれた。でも、残念な気持ちになってしまう。抱きしめられている間に私の頭の中で流れた恥ずかしい妄想を振り払う。
その後は私が台所を借りて昼食を作って龍一さんが出来上がった料理をテーブルに並べてくれた。
二人で向かい合って座ったテーブルの上には私が作ったオムライスとサラダ、それと野菜たっぷりコンソメスープ。
前に外食ばかりだと言っていたから私なりに龍一さんの健康を考えて野菜が沢山摂れるメニューにした。
「いただきます」の挨拶のあと、龍一さんの好みにあうかしらと彼が食べているのをついジッと見てしまう。
「おいしいですね」
「ありがとうございます」
龍一さんが微笑むと私も笑顔になる。龍一さんに美味しいって言ってもらえて嬉しくなる。
「それにしても、トモヨさんの手料理を食べられるなんて夢みたいです」
「大げさですよ」
そんなことを言われて思わず笑みがこぼれてしまう。龍一さんに喜んでもらえてるなら作った甲斐があるというもの。
「いえ、本当です。自炊しないんで店で食べてばかりなんですけど、どの店と比べてもトモヨさんが一番です」
「もうっ、褒めすぎです。でも龍一さんに美味しいって言ってもらえて嬉しい」
彼の言葉に顔が赤くなっているのが自分でもよくわかる。でも、それを隠すために俯いて食べるのに集中しようとしてもなかなかうまくいかない。そんな私を見て嬉しそうな龍一さんが男性なのに可愛く見えたりして、ドキドキする時間をなんとか乗り切った。
「今日は何時に帰りますか?帰りは俺が送っていきますよ」
「……もう少しだけ一緒にいたいって言ったら困りますか」
あんなことがあって。それほど日が経っていないのに私の気持ちは龍一さんを求めてしまう。私が何も言わずにいると龍一さんの顔つきが変わった。真剣なものに変わると、おもむろに立ち上がった龍一さんが私の目の前に立つ。
「トモヨさん、俺はあなたのことが好きだ」
龍一さんはいつも私のことを好きだと言ってくれるのに、なぜかその瞬間、時間が止まったように思えた。私は驚きのあまり息もできなくなる。
「あなたを失いたくないと思うほど好きなんだ。こんなふうになった自分が怖い」
私を抱き寄せる彼の腕が微かに震えていた。
「俺は、この顔の傷が残ってトモヨさんを縛りつけて離さないようにできるなら残したいと思ってるくらいだ。素直で疑いもなく俺の腕に包まれるトモヨさんを大切にしたいと思っているのに自分の欲望を抑えられるかどうかわからない」
「龍一さん……」
私は彼を安心させるようにそっと抱きしめ返す。
「いいんですよ」
彼の胸に耳を押し当てると心臓の音が大きく聞こえる。それはまるで壊れそうになっている彼の感情をそのまま表しているかのように思えて切なくなった。だから私はもっとぎゅっと龍一さんを抱きしめる。すると彼の心臓もさらに激しく鳴り始めた。それが心地よくていつまでもこうしていたいとさえ思う。
だけど龍一さんはそれを許してくれない。優しく顎に手を添えられて上向きにされると彼と目が合ってそのまま唇を重ねてきた。
「トモヨさんの全部が欲しい。初めての時よりももっとずっとトモヨさんが欲しくてたまらない。激しく求めてしまうから嫌ならはっきり断ってくれて構わない。でももしそうじゃないならこのまま受け入れて欲しい」
キスの後、そう言いながら彼は私の頭を撫でた。それからもう一度確かめるように抱きしめてくると私の答えを待つようにじっと見つめてきた。
「龍一さん。嫌なわけありません。だって、私も……」
私の目から溢れた涙が頬を伝うと、それを舐めとった龍一さんの熱い舌が今度は私を求めて動き出す。
私は私の全部を彼にあげるため背中に両腕を回してギュッと抱きついた。
一方の私は両手に家から炊いてきたご飯をタッパーに詰めたものやスーパーで買った野菜とお肉などを袋に入れて両手に持っていた。
「ども、こんにちは。トモヨさん」
「こんにちは。龍一さん、お邪魔します」
まだ部屋デートに慣れていなくてお互いにぎこちなく挨拶を交わす。何も言わずに龍一さんが荷物を持つのを変わってくれた。
ガーゼが外れたけどまだ少しカサブタが残っている傷にそっと手を伸ばす。
「痛くないですか」
「ええ、大丈夫です。順調に治ってます…けど…」
龍一さんが言葉を濁す。寂しそうな表情に私は罪悪感に押しつぶされそうだった。
「傷跡、やっぱり残ってしまいますか?」
彼の顔を見つめる私の視線から逃れるように顔をそらされた。
「不謹慎ですけど綺麗に治ったらトモヨさんに心配されなくなるのが、ちょっと辛いですね。こんなに心配してもらえるならこの怪我も悪くないと思えるぐらいです」
彼は照れくさそうに笑ってくれた。
「もう、龍一さんたら」
嫌われてなくて良かったと私もつられて笑う。するとふいに彼から抱き寄せられた。龍一さんの匂いと部屋に漂う薔薇の香りに包まれて鼓動が速くなっていく。
「すみません、つい抱きしめたくなって」
そう言われてはっと我に返って離れようとするけど背中と腰をしっかり抱かれてしまい動けなくなった。
「龍一さん?」
名前を呼んでみても龍一さんは何も答えずに黙ったまま動かない。
どうしよう。心臓が爆発しそうだ。きっとこの心音は彼にも伝わっているに違いない。
このままじゃ恥ずかしすぎて思考が低年齢化してしまうと身をよじってみるとますます強く抱きしめられてしまった。
「食事の前にトモヨさんを充電させてもらってもいいですか」
「龍一さん!?あの、ちょっ!」
「嫌だったら言ってください」と言われてもこの状況で断るなんてもったいない選択は私にはできない。
結局そのまま5分近く抱きしめられていただろうか。ようやく龍一さんは体を離してくれた。でも、残念な気持ちになってしまう。抱きしめられている間に私の頭の中で流れた恥ずかしい妄想を振り払う。
その後は私が台所を借りて昼食を作って龍一さんが出来上がった料理をテーブルに並べてくれた。
二人で向かい合って座ったテーブルの上には私が作ったオムライスとサラダ、それと野菜たっぷりコンソメスープ。
前に外食ばかりだと言っていたから私なりに龍一さんの健康を考えて野菜が沢山摂れるメニューにした。
「いただきます」の挨拶のあと、龍一さんの好みにあうかしらと彼が食べているのをついジッと見てしまう。
「おいしいですね」
「ありがとうございます」
龍一さんが微笑むと私も笑顔になる。龍一さんに美味しいって言ってもらえて嬉しくなる。
「それにしても、トモヨさんの手料理を食べられるなんて夢みたいです」
「大げさですよ」
そんなことを言われて思わず笑みがこぼれてしまう。龍一さんに喜んでもらえてるなら作った甲斐があるというもの。
「いえ、本当です。自炊しないんで店で食べてばかりなんですけど、どの店と比べてもトモヨさんが一番です」
「もうっ、褒めすぎです。でも龍一さんに美味しいって言ってもらえて嬉しい」
彼の言葉に顔が赤くなっているのが自分でもよくわかる。でも、それを隠すために俯いて食べるのに集中しようとしてもなかなかうまくいかない。そんな私を見て嬉しそうな龍一さんが男性なのに可愛く見えたりして、ドキドキする時間をなんとか乗り切った。
「今日は何時に帰りますか?帰りは俺が送っていきますよ」
「……もう少しだけ一緒にいたいって言ったら困りますか」
あんなことがあって。それほど日が経っていないのに私の気持ちは龍一さんを求めてしまう。私が何も言わずにいると龍一さんの顔つきが変わった。真剣なものに変わると、おもむろに立ち上がった龍一さんが私の目の前に立つ。
「トモヨさん、俺はあなたのことが好きだ」
龍一さんはいつも私のことを好きだと言ってくれるのに、なぜかその瞬間、時間が止まったように思えた。私は驚きのあまり息もできなくなる。
「あなたを失いたくないと思うほど好きなんだ。こんなふうになった自分が怖い」
私を抱き寄せる彼の腕が微かに震えていた。
「俺は、この顔の傷が残ってトモヨさんを縛りつけて離さないようにできるなら残したいと思ってるくらいだ。素直で疑いもなく俺の腕に包まれるトモヨさんを大切にしたいと思っているのに自分の欲望を抑えられるかどうかわからない」
「龍一さん……」
私は彼を安心させるようにそっと抱きしめ返す。
「いいんですよ」
彼の胸に耳を押し当てると心臓の音が大きく聞こえる。それはまるで壊れそうになっている彼の感情をそのまま表しているかのように思えて切なくなった。だから私はもっとぎゅっと龍一さんを抱きしめる。すると彼の心臓もさらに激しく鳴り始めた。それが心地よくていつまでもこうしていたいとさえ思う。
だけど龍一さんはそれを許してくれない。優しく顎に手を添えられて上向きにされると彼と目が合ってそのまま唇を重ねてきた。
「トモヨさんの全部が欲しい。初めての時よりももっとずっとトモヨさんが欲しくてたまらない。激しく求めてしまうから嫌ならはっきり断ってくれて構わない。でももしそうじゃないならこのまま受け入れて欲しい」
キスの後、そう言いながら彼は私の頭を撫でた。それからもう一度確かめるように抱きしめてくると私の答えを待つようにじっと見つめてきた。
「龍一さん。嫌なわけありません。だって、私も……」
私の目から溢れた涙が頬を伝うと、それを舐めとった龍一さんの熱い舌が今度は私を求めて動き出す。
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