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窓は入り口ではない

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玄関からノックをされたと思った私は立ち上がった。

(龍一さんよね)

玄関に行っていつもの癖で玄関の覗き窓で外を見てみるけど誰もいない。そういえば、私が部屋と一階のドアを開ける鍵を持っているから龍一さんは入れないことに気がつく。
じゃあ、誰がノックをしたんだろう?
私の思考を塞ぐように窓の方からガチャンッとガラスが割れる音が聞こえた。

(えっ!?)

驚いて振り返るとそこには窓の割れた穴から手を入れて鍵を開けようとする全身黒ずくめの男がいて、その手にはナイフが握られていた。

「きゃぁー!!」

悲鳴をあげると同時に窓の鍵が降りた。男は素早く中に入り込んでくると後ろ手で窓ガラスを閉めた。

「静かにしろ」

ドスの効いた声に恐怖を覚えながらも私は玄関ドアを背にして後手でドアノブを探る。まだ距離があるから逃げれるはず。

「やっ、やめなさい!警察を呼ぶわよ!」

男から目が離せないし、緊張と恐怖で上手く手がドアノブを掴めない。すると男は舌打ちをして言った。

「騒がれたら困るんだよ。大人しくしてろ。さもないと殺すぞ」

帽子とマスクで顔も表情も分からないけど男が苛立っているのだけはわかる。こちらにジリジリと近づいて来るのだけどなぜか虫を払うかのように腕を振り回している。まさか……変なクスリでもしてるの!?
あまり刺激したくはないけど、人が来ると分かれば窓から出ていくかも。

「私の恋人がもうすぐ来るわ。早く出ていきなさい」
「恋人?口からでまかせを!」

私の言葉に反応する男。だけど、次の瞬間、男がナイフを振り上げて私に襲いかかってきた。

「キャァー!!!」

振り下ろされるナイフ。思わず目をつむった時、男の叫びが響いた。

「トモヨさん!大丈夫ですか!?」
「え?」

目を開くと龍一さんが男の背中にしがみついて二人で床でもみ合っている。

「龍一さんっ!」

私はいまだにナイフを持っている男の手を蹴り上げるとナイフが宙を舞って床に転がった。

「チィッ!」
「トモヨさんっ、離れてっ」

男はなんとか逃れようともがき、龍一さんが必死に捕まえている。私は何か犯人を縛るために紐がないかと辺りを探し回る。

「小僧、早くしてくれっ!」

部屋にいる三人以外の誰かを龍一さんが呼ぶ。私の顔のそばで小さな風が吹いた。それは「任せろ」と言っているようだった。
不思議なことにあれだけ暴れていた男が急に力をなくしたかのように龍一さんに羽交い締めにされたまま動かなくなった。

「龍一さん、どうしよう。紐がないんです」

なぜか冷静な部分の自分が龍一さんに話かけた。

「えっと、じゃあ、俺のネクタイで」
「でも・・・」
「いいですから、それで縛りましょう」

龍一さんのタンスからネクタイを数本取り出して持って行くと男は気を失っているみたいで龍一さんがそおっと手を話しても動かない。

「危ないのでトモヨさんは外にでて警察に通報してください」

男の体の下から抜け出して立ち上がり、ネクタイを受け取る龍一さん。
「でも、龍一さんが一人に」
「俺は大丈夫です。ほら、早く警察に」

龍一さんは私の肩に手を置くと有無を言わさず玄関のほうに押しやった。私は心配になりながらも玄関を出た。
警察に通報し、あれこれと聞かれることに「お願いだから早く来て!」と叫びたいけどひたすら質問に答える。玄関のドアをあけて中を覗くと男はネクタイで手足を縛りつけられて床に転がっている。
そのそばで龍一さんが座って男を見張っていた。やがてサイレンの音が聞こえてきて警察官たちが駆けつけてきた。
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