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龍一家 3

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秀一さんが頭をポンポンするだけであおいさんは最後には魔法にかかったように寝てしまっている。

「ご迷惑をおかけしました。わたしの妻がご迷惑をおかけしました」
「あ、いえ、お酒に弱いのを知らずにお酌してお酒を勧めた私が悪いですから。こちらこそすみません」
頭を下げると彼は目を丸くして驚いていた。え、なに?なんかダメだった!?

「いや、初対面なのに、こんな気が強い妻に付き合ってくださってありがとうございます。妻も私も医療の仕事をしてるせいか、周囲に頼られる事が多くて……。その、相手と壁を作る必要があることも多く、毅然としているせいか人付き合いが苦手なもので」
「ああ、龍一さんから医師や看護師の家系だと聞いております。会社勤めの私には分からない苦労があるんですね」
「いや、そんな大層なものではないんですよ。ただ、妻は人に弱みを見せることを嫌がりまして……。だからあなたのような気遣いができる方にお会いできて嬉しいですよ」

そう言って龍一さんとよく似た笑顔を浮かべた。あら、素敵。魔王と笑顔のギャップがすごいわ。秀一さんはあおいさんをお姫様抱っこすると「休ませてきます」と言って部屋を出ていった。あの二人、とても素敵だわ。ギャップ魔王様と意地っ張りクール美女のカップルって小説みたい。


「あーあ、兄ちゃんも大変だ」
「トモヨさん、あおいさんに気に入られて良かったわね~。ママにもデレてくれないかしら~?」
「ええ~、あおいさん、アレが友達になりたい人への態度なんですかあ?リリア、怖かったですう」
「トモヨさん、肉が焼けた」

それぞれ好き勝手に言う長山一家。いつの間にか私の隣に移動してきた龍一さんが菜箸で私のお皿にお肉を乗せてくれる。

「ありがとう。ねえ、龍一さん。皆でご飯すると楽しいね。今度、ミサキも一緒に来れるといいな」
「ああ。また、機会があれば」

******

こうして夜は更けていき、片付けはそこそこにお風呂に入らせてもらい、龍一さんの昔着ていたパジャマまで貸してもらった。彼と一緒に彼の部屋に上がった。
電気をつけてもらって目に飛び込んだのは一組の布団。あれ、二組じゃないの?

「あー、いつもは俺一人だから、百合子さんがいつもの癖で、だと思う」

あー、そっか。龍一さんは普段は一人で寝てるんだよね。お手伝いの百合子さんがうっかりしていたなら一組だわ。

「じゃあ、今日は私が下のダイニングにあったソファで寝ますね。龍一さんは明日も運転がありますしゆっくり休んでもらわないと」
「兄貴達もいるから、下は駄目だ」


腕を引っ張られて龍一さんの腕の中に引き込まれた。
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