47 / 105
車内で
しおりを挟む
*車内*
運転席に座った龍一さんがため息をつきながらハンドルの上に頭を乗せた。
「ごめん。トモヨさん。親父があんなこと言って」
「龍一さんのお父さんはすごい人ですね。余命1年って言われても冗談を言えて、初めて会う私のことを気にしてくれて」
「そうかもな。俺達には分からない覚悟があってのことだとは思うけど、でも俺は……俺は、生きて欲しい」
その気持は痛いほど分かる。今でも私の親やおばあちゃんが生きていたらって思うから。
言葉の代わりに龍一さんの丸まった背中を撫でる。彼の体は小さく震えていて、私は少しでも温もりを分けたくて自分の体も寄せた。
「……親父の前では強がれたんだ……やっぱり辛い。親父が……もうすぐ死ぬなんて……」
龍一さんが弱音を吐く。きっとそれは今まで我慢していたもの。私は何も言わずにただ彼を抱きしめる。
言葉にならない悲しみは、どれだけ言葉を重ねても晴れることはない。しばらく二人で無言のまま寄り添っていたけれど、龍一さんが顔を上げた。
「……トモヨさん、ありがとう。もう大丈夫」
「うん、もう少し休んでも大丈夫ですよ」
「いや、もういい。トモヨさんのおかげで元気になったよ」
そう言って彼が背筋を伸ばしたので、私も離れることにした。タイミングよく電話の音が鳴った。お互いにスマホを確認すると龍一さんのスマホが鳴っていた。
「龍ちゃーん!パパと会った~?明日は日曜だし、休みでしょ。今日は家に泊まりなさい。お兄ちゃんたちにも召集かけたからトモヨさん紹介しなさいよ~!焼肉♪焼肉♪食べ放題♪じゃないけど家で焼肉するから」
スマホから漏れ聞こえる声は紛れもなく龍一さんのお母様。悲しくしんみりしていた空気がガラリと変わってしまった。
「……」
龍一さんがスマホを耳から離して画面を押した。多分、電話を切ったんだと思う。
少しすると私のスマホがなって着信の通知は知らない番号だった。
「この番号、もしかして」
龍一さんに見せると「母さん。俺が出る」と呟かれたので龍一さんに自分のスマホを渡した。多分、今まで私に連絡されなかっただけで興信所から電話番号を教えてもらっていたのだと思う。
「もしもし」
「あら、トモヨさんは?」
「なんで電話番号を知っているんだ。興信所か」
「まぁ、こっちはママ友ネットワークよ。ほら、ママってお医者様の嫁だし?ご近所さん以外にもウチに頼って隣県から訪ねてくる人達もいるし?それでね、龍一。いきなり電話を切るなんて、あなた、まさかトモヨさんと別れた八つ当たりで電話を切ったんじゃないでしょうね」
「別れてない。なんでそうなる」
「良かったわね。じゃあ龍ちゃんの部屋にお泊りで用意するお布団は一式だけでいいでしょ?ニンニクパワーで10ヶ月後には孫の顔見せてくれるのよね」
「気が早い」
また龍一さんが電話を切った。お父様と会った後とはまた違うため息を龍一さんがついた。
「母さんは相変わらずだな」
「あの、龍一さん。せっかく家族が集まるんだし、私は帰るよ」
「ダメ。今帰したら、母さんがもっとうるさい」
たしかにあのお母様はうるさそうだわ。私のスマホに電話もガンガンかかってきそう。
「それに、俺の部屋に呼ぶって言った約束もある」
「そ、それは龍一さんのマンションの部屋の話で」
「俺の両方の家に来てくれた方が嬉しい」
そんな風に言われたら断れない。私は大人しく龍一さんの家に行くことにした。
運転席に座った龍一さんがため息をつきながらハンドルの上に頭を乗せた。
「ごめん。トモヨさん。親父があんなこと言って」
「龍一さんのお父さんはすごい人ですね。余命1年って言われても冗談を言えて、初めて会う私のことを気にしてくれて」
「そうかもな。俺達には分からない覚悟があってのことだとは思うけど、でも俺は……俺は、生きて欲しい」
その気持は痛いほど分かる。今でも私の親やおばあちゃんが生きていたらって思うから。
言葉の代わりに龍一さんの丸まった背中を撫でる。彼の体は小さく震えていて、私は少しでも温もりを分けたくて自分の体も寄せた。
「……親父の前では強がれたんだ……やっぱり辛い。親父が……もうすぐ死ぬなんて……」
龍一さんが弱音を吐く。きっとそれは今まで我慢していたもの。私は何も言わずにただ彼を抱きしめる。
言葉にならない悲しみは、どれだけ言葉を重ねても晴れることはない。しばらく二人で無言のまま寄り添っていたけれど、龍一さんが顔を上げた。
「……トモヨさん、ありがとう。もう大丈夫」
「うん、もう少し休んでも大丈夫ですよ」
「いや、もういい。トモヨさんのおかげで元気になったよ」
そう言って彼が背筋を伸ばしたので、私も離れることにした。タイミングよく電話の音が鳴った。お互いにスマホを確認すると龍一さんのスマホが鳴っていた。
「龍ちゃーん!パパと会った~?明日は日曜だし、休みでしょ。今日は家に泊まりなさい。お兄ちゃんたちにも召集かけたからトモヨさん紹介しなさいよ~!焼肉♪焼肉♪食べ放題♪じゃないけど家で焼肉するから」
スマホから漏れ聞こえる声は紛れもなく龍一さんのお母様。悲しくしんみりしていた空気がガラリと変わってしまった。
「……」
龍一さんがスマホを耳から離して画面を押した。多分、電話を切ったんだと思う。
少しすると私のスマホがなって着信の通知は知らない番号だった。
「この番号、もしかして」
龍一さんに見せると「母さん。俺が出る」と呟かれたので龍一さんに自分のスマホを渡した。多分、今まで私に連絡されなかっただけで興信所から電話番号を教えてもらっていたのだと思う。
「もしもし」
「あら、トモヨさんは?」
「なんで電話番号を知っているんだ。興信所か」
「まぁ、こっちはママ友ネットワークよ。ほら、ママってお医者様の嫁だし?ご近所さん以外にもウチに頼って隣県から訪ねてくる人達もいるし?それでね、龍一。いきなり電話を切るなんて、あなた、まさかトモヨさんと別れた八つ当たりで電話を切ったんじゃないでしょうね」
「別れてない。なんでそうなる」
「良かったわね。じゃあ龍ちゃんの部屋にお泊りで用意するお布団は一式だけでいいでしょ?ニンニクパワーで10ヶ月後には孫の顔見せてくれるのよね」
「気が早い」
また龍一さんが電話を切った。お父様と会った後とはまた違うため息を龍一さんがついた。
「母さんは相変わらずだな」
「あの、龍一さん。せっかく家族が集まるんだし、私は帰るよ」
「ダメ。今帰したら、母さんがもっとうるさい」
たしかにあのお母様はうるさそうだわ。私のスマホに電話もガンガンかかってきそう。
「それに、俺の部屋に呼ぶって言った約束もある」
「そ、それは龍一さんのマンションの部屋の話で」
「俺の両方の家に来てくれた方が嬉しい」
そんな風に言われたら断れない。私は大人しく龍一さんの家に行くことにした。
0
お気に入りに追加
85
あなたにおすすめの小説
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……
猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました
あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。
どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。
鍋
恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。
キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。
けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。
セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。
キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。
『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』
キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。
そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。
※ゆるふわ設定
※ご都合主義
※一話の長さがバラバラになりがち。
※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。
※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる