現代乙女ゲー世界に転生したら主人公のモブな社会人な姉でしたがゲームに出ない陰気な先生に溺愛されました。

からどり

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車内で

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*車内*

運転席に座った龍一さんがため息をつきながらハンドルの上に頭を乗せた。

「ごめん。トモヨさん。親父があんなこと言って」
「龍一さんのお父さんはすごい人ですね。余命1年って言われても冗談を言えて、初めて会う私のことを気にしてくれて」
「そうかもな。俺達には分からない覚悟があってのことだとは思うけど、でも俺は……俺は、生きて欲しい」

その気持は痛いほど分かる。今でも私の親やおばあちゃんが生きていたらって思うから。
言葉の代わりに龍一さんの丸まった背中を撫でる。彼の体は小さく震えていて、私は少しでも温もりを分けたくて自分の体も寄せた。

「……親父の前では強がれたんだ……やっぱり辛い。親父が……もうすぐ死ぬなんて……」

龍一さんが弱音を吐く。きっとそれは今まで我慢していたもの。私は何も言わずにただ彼を抱きしめる。
言葉にならない悲しみは、どれだけ言葉を重ねても晴れることはない。しばらく二人で無言のまま寄り添っていたけれど、龍一さんが顔を上げた。

「……トモヨさん、ありがとう。もう大丈夫」
「うん、もう少し休んでも大丈夫ですよ」
「いや、もういい。トモヨさんのおかげで元気になったよ」

そう言って彼が背筋を伸ばしたので、私も離れることにした。タイミングよく電話の音が鳴った。お互いにスマホを確認すると龍一さんのスマホが鳴っていた。

「龍ちゃーん!パパと会った~?明日は日曜だし、休みでしょ。今日は家に泊まりなさい。お兄ちゃんたちにも召集かけたからトモヨさん紹介しなさいよ~!焼肉♪焼肉♪食べ放題♪じゃないけど家で焼肉するから」

スマホから漏れ聞こえる声は紛れもなく龍一さんのお母様。悲しくしんみりしていた空気がガラリと変わってしまった。

「……」

龍一さんがスマホを耳から離して画面を押した。多分、電話を切ったんだと思う。
少しすると私のスマホがなって着信の通知は知らない番号だった。

「この番号、もしかして」

龍一さんに見せると「母さん。俺が出る」と呟かれたので龍一さんに自分のスマホを渡した。多分、今まで私に連絡されなかっただけで興信所から電話番号を教えてもらっていたのだと思う。

「もしもし」
「あら、トモヨさんは?」
「なんで電話番号を知っているんだ。興信所か」
「まぁ、こっちはママ友ネットワークよ。ほら、ママってお医者様の嫁だし?ご近所さん以外にもウチに頼って隣県から訪ねてくる人達もいるし?それでね、龍一。いきなり電話を切るなんて、あなた、まさかトモヨさんと別れた八つ当たりで電話を切ったんじゃないでしょうね」
「別れてない。なんでそうなる」
「良かったわね。じゃあ龍ちゃんの部屋にお泊りで用意するお布団は一式だけでいいでしょ?ニンニクパワーで10ヶ月後には孫の顔見せてくれるのよね」
「気が早い」

また龍一さんが電話を切った。お父様と会った後とはまた違うため息を龍一さんがついた。

「母さんは相変わらずだな」
「あの、龍一さん。せっかく家族が集まるんだし、私は帰るよ」
「ダメ。今帰したら、母さんがもっとうるさい」

たしかにあのお母様はうるさそうだわ。私のスマホに電話もガンガンかかってきそう。

「それに、俺の部屋に呼ぶって言った約束もある」
「そ、それは龍一さんのマンションの部屋の話で」
「俺の両方の家に来てくれた方が嬉しい」

そんな風に言われたら断れない。私は大人しく龍一さんの家に行くことにした。
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