上 下
38 / 105

映画デート

しおりを挟む
映画を見に行く約束の土曜日。
私達はいつもの駅前で待ち合わせて龍一さんが運転する車で映画館に向かった。
今日は私と龍一さんが好きな作家の恋愛小説が原作の映画を観に来たのだ。
映画館に着くと私達はチケット売り場で前売り券を出して入場ゲートを通る。
席は運良く一番後ろの中央だった。
前の方もいいけど一番後ろだと映画館に来たって実感が湧く広さやスクリーンの大きさを感じられるので私は好きだった。
座席に座るとすぐに本編が始まった。
ストーリーはありがちな設定だけど、原作を読んでいた私はワクワクしながら見ていた。
主人公の女の子は高校を卒業したばかりで実家を離れて一人暮らしを始めたばかり。バイトをしながら大学に通い始めた彼女はある日、駅のホームで男性と出会う。
男性は優しくてイケメンで彼女好みの男性で、彼女の一目惚れから始まる恋物語だ。
そして二人はやがて付き合うようになるのだけど実は彼はある秘密を抱えていて、それが原因で彼女と別れてしまう。すれ違いは解決するけど・・・・・・という内容。
そんな原作を知っているけど映画オリジナルのストーリーとエンディングということで、新鮮な気持ちで映画を見ていると隣に座っている龍一さんの手が私に触れてきた。
二人の間に誤解が起きるシーンで不安なのか彼が指を絡めてきた。
映画以上にドキドキしてしまって彼の方に顔を向けると目が合った。愛おしいって表情を向けられた私は彼の肩に頭を預けた。映画のストーリーよりも、彼とこうして一緒にいることが何よりの幸せな時間だと思う。


映画が終わった。私は彼に感想を聞いてみた。

「映画、どうでしたか?」
「面白かったですよ。特にラストシーンが良かったですね。ヒロインの女の子はきっとまた彼を好きになると思います。なんていうか原作の二人が結ばれなかったから、映画はどちらにも取れるので結ばれて欲しいと思う俺の希望ですけど……」
「私もそう想います。だって好きって気持ち、あれで諦められるものじゃないと思うんですよ」

私は笑顔を浮かべながら返事をした。私も龍一さんに離れようって言われても諦められないもの。
そんなことを思いながら私達は劇場を出た。

「次はどこに行きましょうか。俺、昼の外出に慣れてなくて」
「じゃあ、お昼ご飯食べに行きませんか?そろそろいい時間になってきたし」

お腹がすいてきたなあって思ってスマホを見たら正午になりそうな時間帯になっていたからご飯に誘う。

「そう言われると腹が空いてきました」

そう言って笑いかけてくれる龍一さんに私も笑顔をかえした。
私達が向かったのはショッピングモール内にあるイタリアンレストランで、店内に入るとお客さんは少ないものの、それなりに賑わっていた。

「いらっしゃいま……せ……」
「えっ!?」

驚きで声を出した私。

「嘘でしょ」

店員の女の子が龍一さんを見て固まってしまった。龍一さんは驚いた顔で声も出せていない。

「なんでいるのよ!先生!」
「丸尾さんこそなんで……夏休みのバイト届けは出したのか」

厳しめの口調で問う龍一さんの横顔は学校の先生モードになっていた。店員の女の子はお茶会の時にいた丸尾仙次郎さんの妹みらいさん。そういえば彼女もミサキと同じ学校の子だったわ。
お茶会のときと化粧が違うせいか私には気がついていない様子。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

【完結】母になります。

たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。 この子、わたしの子供なの? 旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら? ふふっ、でも、可愛いわよね? わたしとお友達にならない? 事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。 ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ! だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

処理中です...