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お別れの後に:長山龍一視点:
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俺はトモヨさんがマンションの中に入るのを見送って車に乗った。
今日も彼女を抱きしめて連れて帰りたかったが我慢できて良かった。いつもより長いキスは忘れられない。睫毛の下から覗く薄く開いた目がたまらないっ。お別れのため唇を離すと切なげに俺を見ていた。俺だけが間近で見れるあの表情が心を掻き乱す。
「よお。副担の長山。せっかく良いムードだったのに俺様が用意した指輪を渡さなかったのかよ」
いつの間にか助手席に小さい体を乗せて座るミールがいた。
「人間にとって指輪は特別なんだ。簡単に貰い物を渡せない。ちゃんと俺が買ったものをプレゼントする」
「俺様の指輪の方がすごいぜ?あれは祝福の指輪って言って愛する者同士がつけると防御力が上がるありがたい装備なのに」
「ここは現代社会だ。指輪に必要なのは愛情だ。ゲームの世界の話がしたいならファンタジー世界に帰れ」
せっかくトモヨさんの柔らかい唇に沢山キスをして、可愛いまぶたの隙間から俺を愛おしく見る目。あの寂しげで胸が締め付けられる表情に浸りながら帰ろうとしたら、こいつが現れて台無しになった。
「ちぇー。せっかくのポイント獲得チャンスだったのにな」
残念そうな顔をしてるがなんのポイントをつけるつもりだ。こいつは絶対に楽しんでいる。
「お前は何しに来たんだ」
「あぁ?決まってんじゃねぇか。俺様が持ってきた酒を飲めって誘いに来てやったんだ」
脈絡もないし酒だと!?猫型ロボットのポケットのようにこいつは小さな袋に手をツッコムとビールの缶を取り出した。
その小さな袋に絶対入らないサイズの缶がどうやって入っていたのかはもう突っ込まない。
「飲酒運転になるから飲めるわけ無いだろ」
「大丈夫だって。これはアルコール0%のノンアルビールだから。ほれ、飲んでみ?」
そう言って渡された缶を見てみた。見たことがない銘柄。なんだこの「ラブジェリーナの愛のノンアルビール」って。
缶を回してじっくり見るとこのノンアルビールの説明が書かれていた。
「『あなたへの想いを込めた甘い恋の味』……『愛の伝道師、ラブジェリーナが作る媚薬いりノンアルビールならアルコールが苦手なあの人にも勧められます。飲めば必ず愛に酔って、奥手な相手すらその気になります。自分に自信がない方は妹のラブジェリーの下着をつけて魅力を上げて挑んでね、はーと』なんて飲めるか!」
「おい、人の親切を無碍にすんな」
「親切じゃない!悪意しか感じない。こんなもの持ってこられても困る」
「しょうがねえな。じゃあ、これやるから」
そう言うと袋を開けて中から小さな瓶を取り出した。
「何だ、これは」
受け取ってラベルを見ると【素直になれる魔法のお水】と書かれている。
「ただの水に見えるだろう。だが、実はこの水を飲めば相手は自分の本当の気持ちを言ってしまうのだ」
「そんな都合の良いものがある訳ないだろう」
「あるさ。ほら、次にトモヨと会ったら自分で飲んでみろ。結婚したら毎日合体したいとプロポーズしてしまえ」
「いらん!絶対飲まん!そんなプロポーズの言葉、セクハラだ。言いたくもない」
「でもお前の本音ってこうだろ?いいから貰っとけって」
「うるさい、持って帰れ。今すぐ帰れ」
「ちっ!わがままだな。じゃあこれだ」
今度は袋から取り出した大きな紙袋を押し付けてきた。中には緑色の濁った水の入ったペットボトル。
「毒だろこれ」
「失礼だな。俺が作った栄養ドリンクだぞ」
「また、怪しいもんを……」
「大丈夫、副作用はない。安心しろ」
「だから、そういう意味じゃない」
副作用がなくとも飲みたくはない色をしているのに安全とは一体何かを問い詰めたい。
「いいから、受け取れって。俺からのプレゼントだよ」
「いらない。捨てろ」
「えぇー。勿体無いから飲むくらいしてくれよ」
「嫌だ。それにどうせこれも媚薬か何か入ってるんだろう」
「うぐぅ……。なんで分かった」
やっぱりか。こいつのことだからろくでもないものが入ってるに違いないと思った。
「いい加減にしないと怒るぞ」
「わーったよ。帰るよ。じゃあな」
やっと帰ってくれた。まったく、騒々しい奴だ。
…………おい、妖精小僧。なんで要らないと言ったものを全て置いていく?
いらないと断った媚薬入りのドリンクや自白剤の水がご丁寧なことだが助手席に残されていた。
車の外を見ればミールが俺を指さして笑いながら飛んでいった。
「くそぉ。あいつ覚えてろよ」
家に帰ってから、俺は貰ったドリンクは全部処分した。
それからはいつも通りの生活に戻ったが、また来週あたりにミールが来るような気がする。
「まぁ、その時は適当にあしらうか」
俺はそう思ってその日の夜は過ぎていった。
今日も彼女を抱きしめて連れて帰りたかったが我慢できて良かった。いつもより長いキスは忘れられない。睫毛の下から覗く薄く開いた目がたまらないっ。お別れのため唇を離すと切なげに俺を見ていた。俺だけが間近で見れるあの表情が心を掻き乱す。
「よお。副担の長山。せっかく良いムードだったのに俺様が用意した指輪を渡さなかったのかよ」
いつの間にか助手席に小さい体を乗せて座るミールがいた。
「人間にとって指輪は特別なんだ。簡単に貰い物を渡せない。ちゃんと俺が買ったものをプレゼントする」
「俺様の指輪の方がすごいぜ?あれは祝福の指輪って言って愛する者同士がつけると防御力が上がるありがたい装備なのに」
「ここは現代社会だ。指輪に必要なのは愛情だ。ゲームの世界の話がしたいならファンタジー世界に帰れ」
せっかくトモヨさんの柔らかい唇に沢山キスをして、可愛いまぶたの隙間から俺を愛おしく見る目。あの寂しげで胸が締め付けられる表情に浸りながら帰ろうとしたら、こいつが現れて台無しになった。
「ちぇー。せっかくのポイント獲得チャンスだったのにな」
残念そうな顔をしてるがなんのポイントをつけるつもりだ。こいつは絶対に楽しんでいる。
「お前は何しに来たんだ」
「あぁ?決まってんじゃねぇか。俺様が持ってきた酒を飲めって誘いに来てやったんだ」
脈絡もないし酒だと!?猫型ロボットのポケットのようにこいつは小さな袋に手をツッコムとビールの缶を取り出した。
その小さな袋に絶対入らないサイズの缶がどうやって入っていたのかはもう突っ込まない。
「飲酒運転になるから飲めるわけ無いだろ」
「大丈夫だって。これはアルコール0%のノンアルビールだから。ほれ、飲んでみ?」
そう言って渡された缶を見てみた。見たことがない銘柄。なんだこの「ラブジェリーナの愛のノンアルビール」って。
缶を回してじっくり見るとこのノンアルビールの説明が書かれていた。
「『あなたへの想いを込めた甘い恋の味』……『愛の伝道師、ラブジェリーナが作る媚薬いりノンアルビールならアルコールが苦手なあの人にも勧められます。飲めば必ず愛に酔って、奥手な相手すらその気になります。自分に自信がない方は妹のラブジェリーの下着をつけて魅力を上げて挑んでね、はーと』なんて飲めるか!」
「おい、人の親切を無碍にすんな」
「親切じゃない!悪意しか感じない。こんなもの持ってこられても困る」
「しょうがねえな。じゃあ、これやるから」
そう言うと袋を開けて中から小さな瓶を取り出した。
「何だ、これは」
受け取ってラベルを見ると【素直になれる魔法のお水】と書かれている。
「ただの水に見えるだろう。だが、実はこの水を飲めば相手は自分の本当の気持ちを言ってしまうのだ」
「そんな都合の良いものがある訳ないだろう」
「あるさ。ほら、次にトモヨと会ったら自分で飲んでみろ。結婚したら毎日合体したいとプロポーズしてしまえ」
「いらん!絶対飲まん!そんなプロポーズの言葉、セクハラだ。言いたくもない」
「でもお前の本音ってこうだろ?いいから貰っとけって」
「うるさい、持って帰れ。今すぐ帰れ」
「ちっ!わがままだな。じゃあこれだ」
今度は袋から取り出した大きな紙袋を押し付けてきた。中には緑色の濁った水の入ったペットボトル。
「毒だろこれ」
「失礼だな。俺が作った栄養ドリンクだぞ」
「また、怪しいもんを……」
「大丈夫、副作用はない。安心しろ」
「だから、そういう意味じゃない」
副作用がなくとも飲みたくはない色をしているのに安全とは一体何かを問い詰めたい。
「いいから、受け取れって。俺からのプレゼントだよ」
「いらない。捨てろ」
「えぇー。勿体無いから飲むくらいしてくれよ」
「嫌だ。それにどうせこれも媚薬か何か入ってるんだろう」
「うぐぅ……。なんで分かった」
やっぱりか。こいつのことだからろくでもないものが入ってるに違いないと思った。
「いい加減にしないと怒るぞ」
「わーったよ。帰るよ。じゃあな」
やっと帰ってくれた。まったく、騒々しい奴だ。
…………おい、妖精小僧。なんで要らないと言ったものを全て置いていく?
いらないと断った媚薬入りのドリンクや自白剤の水がご丁寧なことだが助手席に残されていた。
車の外を見ればミールが俺を指さして笑いながら飛んでいった。
「くそぉ。あいつ覚えてろよ」
家に帰ってから、俺は貰ったドリンクは全部処分した。
それからはいつも通りの生活に戻ったが、また来週あたりにミールが来るような気がする。
「まぁ、その時は適当にあしらうか」
俺はそう思ってその日の夜は過ぎていった。
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