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車で行こう

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そして日曜日のデート当日、私は張り切って服を選びにかかった。
いつもは動きやすさ重視と色味で選ぶけれど今回は長山さんとお付き合いして初めてのデートだ。
まずはスカートをチェックしてみた。黒、白、淡いピンク、赤、水色、緑、ベージュ、黄色。
悩んだ末に選んだのは白いワンピース。レースがついた可愛めのデザインで女の子らしさをアピールできる。
靴はヒールが低めのパンプスで、バッグは肩掛けで小ぶりなものにした。
メイクは普段より少し大人可愛く見えるよう丁寧にして、誕生日プレゼントで社長と奥さんにもらった香水をかけた。
まだ寝ているミサキに書き置きをしてから準備万端で家を出て約束の駅へ向かった。

「おはようございます、長山さん」

待ち合わせ場所にはすでに長山さんが来ていて、私は慌てて駆け寄った。

「吉永さん、俺も今来たところですから」

照れくさそうに頭をかいて笑う彼に私も微笑みをかえした。

「あの図書館、アプリのマップで調べたら遠かったんで……良かったら俺の車で行きませんか」

「えっ?車ですか」

近くかと思ったら遠いのね。長山さんみたいに私も調べておけばよかった。

「……いきなりは怖いですよね。やっぱり電車で」

気をつかってくれる長山さんに私は慌てて手を横に振る。

「そんなことないです。私、免許は持ってますけど維持費がかかるから車は持ってなくて、ちょっと歩きたくなかったので嬉しいです」
「あっ……じゃあ、こっちに停めてるんで」

駐車場に停められたごく普通の黒い車が長山さんの車で、促されて助手席に乗り込むと車内に良い匂いがした。

「長山さん、何かつけてますか?」
「ああっ、これですか?これは芳香剤を昨日買ってつけたんですけど・・・臭くないですか?」
「いえ、全然そんなことありませんよ。むしろ長山さんの香りみたいで落ち着くといいますか・・・」
「っ・・・そ、そう言ってもらえると・・・俺も落ち着きます」

何故か顔を赤くしている長山さんを不思議に思いながら私はシートベルトをつけた。車が走りだし、いつもの景色が新鮮に感じた。

「今日は楽しみでなかなか寝付けなかったんですよ。ずっと気になってた図書館に行けるので」
「俺も楽しみすぎて早く目が覚めちゃいましたよ。それにしても吉永さんって・・・」

信号待ちをしている時、不意に手を握られた。

「あっ…」
「・・・俺の手、緊張で汗ばんできてしまってすみません」
「いいえ、気にしないでください」

そう言いながらもドキドキする心臓が痛くて仕方がない。

「吉永さんって・・・可愛いですね」
「か、かわっ!?」

信号が青になって手が離れた。車が走りだす。
長山さんの言葉が頭の中で反すうして顔が熱くなる。

「吉永さん?大丈夫ですか?」
「だ、だいじょうぶです」
「・・・もしかして俺の言い方が悪いんですかね?その、なんというか・・・綺麗な人だと思いまして」
「き、きれいなんて言われたの初めてです」
「そうなんですか?俺は思ったことが口にでるからよく怒られて……嫌なことを言ったら教えてください」
「いいえいいえ!すごく嬉しかったです。長山さんは言葉遣いとか丁寧だし、優しいし、私みたいなのは対象外だと思ってました」
「俺の方が吉永さんの対象外だと思ってました。俺は吉永さんは美人で可愛らしいと思いますよ」
「そ、そんな褒めすぎですよ……褒めても何も出ませんし」
「本心なんで」

長山さんって実は女ったらし?で、でも、前に会ったときと同じようなTシャツとジーンズ姿でそんな風には見えない。
私はチラッと横目で長山さんを見ると、彼は運転に集中しているのか前をまっすぐ見つめていた。
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