4 / 105
気がつけばお泊り
しおりを挟む
******
最後の一杯を出されたトモヨは「いただきまーす」と言って一気に飲み干した。「ごちそうさまでしたー」とニコニコと笑顔で言った途端に意識を手放してカウンターに突っ伏す。
「おいっ、まさか強い酒をっ」
「んな訳ねーわっ!普通のりんごジュースだよ!アルコールなんて一滴も入ってないし。中卒で働いて成人してからは酒の席につくこともあるだろうと思っていたのにまさか自分が飲める酒の量を知らないとはなぁ。あんたにほいほい着いて来るし、中卒ならいろいろ面倒もあるだろうに珍しいくらい擦れてない娘だな」
「……どうすればいい。彼女をタクシーで連れて帰れば俺の生徒と会うのだが」
「あー、まずいよな。『合コンで会って酒を飲んでたら酔って潰れたからタクシーで連れて帰りました』なんて教師として非常識だよな。俺は店を空けられないし」
「ならば……」
「仕方ない。今日はホテルに泊まらせよう」
「……なぜだ?」
「あんたがこのまま帰るならこの子も一緒にタクシーに乗せて家に送らないといけないだろ。雇われの俺は店を離れて送っていけないし」
「なるほど」
「だから、お前はこの子をホテルの部屋のベッドに寝かせる。手は出さない。『酔っていて自宅の住所も分からないのでホテルに泊まってもらいました。ゆっくり休んでください』とかメモかなんか残しておけよ。で、部屋を出て紳士的にホテルの支払いして帰れ。あと、生徒には絶対に言うんじゃねえぞ。『酔ったお姉さんをホテルに連れ込みました』とか誤解すること言ったらセクハラだし、こんだけ説明してるのにそんなことするなら俺があんたを生徒指導室に連れて行って説教するぞ」
「……分かった」
******
「……うぅ~ん」
私が目を覚ますとまったく知らない天井だった。頭が痛い。ふかふかのベッドで横になっていることに気付いて体を起こした。周囲を見回すと机に向かって何かを書いている男性がいた。
あれ?あの背中は長山先生のはず。そう思った途端に記憶がバーっと頭を駆け巡る。私と先生は先生の行きつけのバーで飲んでいて、楽しく話した記憶。だけどなぜベッドで横になっているのかという記憶がまったくない。
自分の腕時計を見ると夜中の二時過ぎを回っていた。私は慌てて飛び起きて財布の中のお金を確認すると居酒屋で支払いした後と変わらず千円札が何枚かあるだけだった。
その時、ベッドの横から声をかけられた。振り向くと長山先生が立っていた。
「起きましたか。良かった。じゃあ、俺はこれで。あ、これ読んでおいてください」
「え、あ、はい?」
フラフラとした足取りで部屋を出ていった先生。聞きたいことはあるけど頭がはっきり動かずうまく言葉がでない。
仕方がないので手渡されたものを見るとノートを一枚破いた紙だった。
内容はこう書かれていた。
『吉永さんへ。おはようございます。昨晩は吉永さんが酔って眠ってしまいました。タクシーで送ろうと思いましたが御自宅の住所が分からず、また住所を調べるためとはいえ女性のカバンの中を見るわけにもいかず、あなたにはホテルに泊まってもらいました。僕はすぐに自宅に帰らせてもらいますがゆっくり休めていれば幸いです。吉永さんは本日もお仕事でしょうか。お忙しいとは思いますがお体をご自愛ください』
「あ……」
思わず声が出た。その文章を見て思い出した。確かに昨日の自分はお酒が美味しいといっぱい飲んでしまった。そして意識を失ったのだ。ゴミ箱いっぱいに捨てられたノートをちぎっては書き直した紙と今の状況を考えれば長山先生の言葉を信じるべきだろう。
「……とりあえず、シャワー浴びようかな」
汗を流した後、着替えがないので下着姿でベッドに入って朝までもう一眠りすることにした。
最後の一杯を出されたトモヨは「いただきまーす」と言って一気に飲み干した。「ごちそうさまでしたー」とニコニコと笑顔で言った途端に意識を手放してカウンターに突っ伏す。
「おいっ、まさか強い酒をっ」
「んな訳ねーわっ!普通のりんごジュースだよ!アルコールなんて一滴も入ってないし。中卒で働いて成人してからは酒の席につくこともあるだろうと思っていたのにまさか自分が飲める酒の量を知らないとはなぁ。あんたにほいほい着いて来るし、中卒ならいろいろ面倒もあるだろうに珍しいくらい擦れてない娘だな」
「……どうすればいい。彼女をタクシーで連れて帰れば俺の生徒と会うのだが」
「あー、まずいよな。『合コンで会って酒を飲んでたら酔って潰れたからタクシーで連れて帰りました』なんて教師として非常識だよな。俺は店を空けられないし」
「ならば……」
「仕方ない。今日はホテルに泊まらせよう」
「……なぜだ?」
「あんたがこのまま帰るならこの子も一緒にタクシーに乗せて家に送らないといけないだろ。雇われの俺は店を離れて送っていけないし」
「なるほど」
「だから、お前はこの子をホテルの部屋のベッドに寝かせる。手は出さない。『酔っていて自宅の住所も分からないのでホテルに泊まってもらいました。ゆっくり休んでください』とかメモかなんか残しておけよ。で、部屋を出て紳士的にホテルの支払いして帰れ。あと、生徒には絶対に言うんじゃねえぞ。『酔ったお姉さんをホテルに連れ込みました』とか誤解すること言ったらセクハラだし、こんだけ説明してるのにそんなことするなら俺があんたを生徒指導室に連れて行って説教するぞ」
「……分かった」
******
「……うぅ~ん」
私が目を覚ますとまったく知らない天井だった。頭が痛い。ふかふかのベッドで横になっていることに気付いて体を起こした。周囲を見回すと机に向かって何かを書いている男性がいた。
あれ?あの背中は長山先生のはず。そう思った途端に記憶がバーっと頭を駆け巡る。私と先生は先生の行きつけのバーで飲んでいて、楽しく話した記憶。だけどなぜベッドで横になっているのかという記憶がまったくない。
自分の腕時計を見ると夜中の二時過ぎを回っていた。私は慌てて飛び起きて財布の中のお金を確認すると居酒屋で支払いした後と変わらず千円札が何枚かあるだけだった。
その時、ベッドの横から声をかけられた。振り向くと長山先生が立っていた。
「起きましたか。良かった。じゃあ、俺はこれで。あ、これ読んでおいてください」
「え、あ、はい?」
フラフラとした足取りで部屋を出ていった先生。聞きたいことはあるけど頭がはっきり動かずうまく言葉がでない。
仕方がないので手渡されたものを見るとノートを一枚破いた紙だった。
内容はこう書かれていた。
『吉永さんへ。おはようございます。昨晩は吉永さんが酔って眠ってしまいました。タクシーで送ろうと思いましたが御自宅の住所が分からず、また住所を調べるためとはいえ女性のカバンの中を見るわけにもいかず、あなたにはホテルに泊まってもらいました。僕はすぐに自宅に帰らせてもらいますがゆっくり休めていれば幸いです。吉永さんは本日もお仕事でしょうか。お忙しいとは思いますがお体をご自愛ください』
「あ……」
思わず声が出た。その文章を見て思い出した。確かに昨日の自分はお酒が美味しいといっぱい飲んでしまった。そして意識を失ったのだ。ゴミ箱いっぱいに捨てられたノートをちぎっては書き直した紙と今の状況を考えれば長山先生の言葉を信じるべきだろう。
「……とりあえず、シャワー浴びようかな」
汗を流した後、着替えがないので下着姿でベッドに入って朝までもう一眠りすることにした。
0
お気に入りに追加
85
あなたにおすすめの小説
猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました
あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。
どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。
囚われの姉弟
折原さゆみ
恋愛
中道楓子(なかみちふうこ)には親友がいた。大学の卒業旅行で、親友から思わぬ告白を受ける。
「私は楓子(ふうこ)が好き」
「いや、私、女だよ」
楓子は今まで親友を恋愛対象として見たことがなかった。今後もきっとそうだろう。親友もまた、楓子の気持ちを理解していて、楓子が告白を受け入れなくても仕方ないとあきらめていた。
そのまま、気まずい雰囲気のまま卒業式を迎えたが、事態は一変する。
「姉ちゃん、俺ついに彼女出来た!」
弟の紅葉(もみじ)に彼女が出来た。相手は楓子の親友だった。
楓子たち姉弟は親友の乗附美耶(のつけみや)に翻弄されていく。
★【完結】棘のない薔薇(作品230327)
菊池昭仁
恋愛
聡と辛い別れをした遥はその傷が癒えぬまま、学生時代のサークル仲間、光一郎と寂しさから結婚してしまい、娘の紅葉が生まれてしあわせな日々を過ごしていた。そんな時、遙の会社の取引先の商社マン、冴島と出会い、遙は恋に落ちてしまう。花を売るイタリアンレストラン『ナポリの黄昏』のスタッフたちはそんな遥をやさしく見守る。都会を漂う男と女。傷つけ傷つけられて愛が加速してゆく。遙の愛の行方はどこに進んで行くのだろうか?
【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!
美杉。節約令嬢、書籍化進行中
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』
そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。
目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。
なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。
元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。
ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。
いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。
なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。
このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。
悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。
ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――
聖女の婚約者は、転生者の王子だった ~悪役令嬢との再会に心を揺らす~
六角
恋愛
ラは、聖女として神に選ばれた少女である。彼女は、王国の平和と繁栄のために、王子と婚約することになった。しかし、王子は、前世の記憶を持つ転生者であり、ミラとは別の乙女ゲームの世界で悪役令嬢と恋に落ちたことがあった。その悪役令嬢は、この世界でも存在し、ミラの友人だった。王子は、ミラとの婚約を破棄しようとするが、ミラの純真な心に触れて次第に惹かれていく。一方、悪役令嬢も、王子との再会に心を揺らすが、ミラを裏切ることはできないと思っていた。三人の恋の行方はどうなるのか?
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
【完結】推しの悪役にしか見えない妖精になって推しと世界を救う話
近藤アリス
恋愛
「え、ここって四つ龍の世界よね…?なんか体ちっさいし誰からも見えてないけど、推しから認識されてればオッケー!待っててベルるん!私が全身全霊で愛して幸せにしてあげるから!!」
乙女ゲーム「4つの国の龍玉」に突如妖精として転生してしまった会社員が、推しの悪役である侯爵ベルンハルト(通称ベルるん)を愛でて救うついでに世界も救う話。
本編完結!番外編も完結しました!
●幼少期編:悲惨な幼少期のせいで悪役になってしまうベルるんの未来を改変するため頑張る!微ざまあもあるよ!
●学園編:ベルるんが悪役のままだとラスボス倒せない?!効率の良いレベル上げ、ヒロインと攻略キャラの強化などゲームの知識と妖精チート総動員で頑張ります!
※推しは幼少期から青年、そして主人公溺愛へ進化します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる