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気がつけばお泊り

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最後の一杯を出されたトモヨは「いただきまーす」と言って一気に飲み干した。「ごちそうさまでしたー」とニコニコと笑顔で言った途端に意識を手放してカウンターに突っ伏す。

「おいっ、まさか強い酒をっ」
「んな訳ねーわっ!普通のりんごジュースだよ!アルコールなんて一滴も入ってないし。中卒で働いて成人してからは酒の席につくこともあるだろうと思っていたのにまさか自分が飲める酒の量を知らないとはなぁ。あんたにほいほい着いて来るし、中卒ならいろいろ面倒もあるだろうに珍しいくらい擦れてないだな」
「……どうすればいい。彼女をタクシーで連れて帰れば俺の生徒と会うのだが」
「あー、まずいよな。『合コンで会って酒を飲んでたら酔って潰れたからタクシーで連れて帰りました』なんて教師として非常識だよな。俺は店を空けられないし」
「ならば……」
「仕方ない。今日はホテルに泊まらせよう」
「……なぜだ?」
「あんたがこのまま帰るならこの子も一緒にタクシーに乗せて家に送らないといけないだろ。雇われの俺は店を離れて送っていけないし」
「なるほど」
「だから、お前はこの子をホテルの部屋のベッドに寝かせる。手は出さない。『酔っていて自宅の住所も分からないのでホテルに泊まってもらいました。ゆっくり休んでください』とかメモかなんか残しておけよ。で、部屋を出て紳士的にホテルの支払いして帰れ。あと、生徒には絶対に言うんじゃねえぞ。『酔ったお姉さんをホテルに連れ込みました』とか誤解すること言ったらセクハラだし、こんだけ説明してるのにそんなことするなら俺があんたを生徒指導室に連れて行って説教するぞ」
「……分かった」

******

「……うぅ~ん」

私が目を覚ますとまったく知らない天井だった。頭が痛い。ふかふかのベッドで横になっていることに気付いて体を起こした。周囲を見回すと机に向かって何かを書いている男性がいた。
あれ?あの背中は長山先生のはず。そう思った途端に記憶がバーっと頭を駆け巡る。私と先生は先生の行きつけのバーで飲んでいて、楽しく話した記憶。だけどなぜベッドで横になっているのかという記憶がまったくない。
自分の腕時計を見ると夜中の二時過ぎを回っていた。私は慌てて飛び起きて財布の中のお金を確認すると居酒屋で支払いした後と変わらず千円札が何枚かあるだけだった。
その時、ベッドの横から声をかけられた。振り向くと長山先生が立っていた。

「起きましたか。良かった。じゃあ、俺はこれで。あ、これ読んでおいてください」
「え、あ、はい?」

フラフラとした足取りで部屋を出ていった先生。聞きたいことはあるけど頭がはっきり動かずうまく言葉がでない。
仕方がないので手渡されたものを見るとノートを一枚破いた紙だった。
内容はこう書かれていた。
『吉永さんへ。おはようございます。昨晩は吉永さんが酔って眠ってしまいました。タクシーで送ろうと思いましたが御自宅の住所が分からず、また住所を調べるためとはいえ女性のカバンの中を見るわけにもいかず、あなたにはホテルに泊まってもらいました。僕はすぐに自宅に帰らせてもらいますがゆっくり休めていれば幸いです。吉永さんは本日もお仕事でしょうか。お忙しいとは思いますがお体をご自愛ください』

「あ……」

思わず声が出た。その文章を見て思い出した。確かに昨日の自分はお酒が美味しいといっぱい飲んでしまった。そして意識を失ったのだ。ゴミ箱いっぱいに捨てられたノートをちぎっては書き直した紙と今の状況を考えれば長山先生の言葉を信じるべきだろう。

「……とりあえず、シャワー浴びようかな」

汗を流した後、着替えがないので下着姿でベッドに入って朝までもう一眠りすることにした。
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