3 / 105
2人で二次会
しおりを挟む
店を出ると長山先生が立っていた。
「あ、先生。お疲れさまです」
社会人として反射的に出る挨拶。先生が先に店を出たからすでに雑踏の中に紛れ込んでもういないのだと思ってたけど、タクシー待ちかな?
「ども。吉永さん」
先生に軽く会釈をされた。
「タクシーが来るの待たれてるんですか?」
「いえ、吉永さんが出るのを待ってました」
「私、ですか」
普通はお店をでたら現地解散でいいのでは?あ、もしかして今日の面談の時に先生は何も言っていなかったけど本当はミサキのことで言いたいことがあったのかな。
「すいません。店を出るまでの間に考えたら余計なことをしたかもしれないと思ったので」
「余計なことって、ああ、もう帰ったほうが良いって言ってくれたことですか」
長山先生が小さく頷く。
「あの場にいるのが辛そうに見えて助けたつもりになってましたが、男達は僕以外は全員良いところの企業勤めなんで」
「チャンスを奪った、と思われてます?そんなの気にしなくていいですよ。私、こう見えても会社の事務一筋で10年以上の大ベテラン。会社のお局様ですよ。数年働いたひよっこ男子の肩書なんて私の前じゃ顔負けですよ」
でも会社の事務仕事をしているのは私とさっきの新人後輩さん、専務である社長の奥さんだけというのは伏せておこう。
「……良かったら一杯飲む間だけ話しませんか。一杯だけ飲んだら帰りのタクシー呼びますし、知り合いの店がすぐ近くなんで」
「あら、良いんですか?先生の時間が困るんじゃ」
「俺は大丈夫……です。吉永さんみたいに待ってくれる人もいないんで」
前世の記憶でも20歳くらいまでしかないし、仕事ばかりだった私はこれも人生経験と長山先生に誘われるままに初めてのバーに足を踏み入れた。
「いらっしゃい。ってあんっ?なっ、なんで女の人が一緒?!」
「こんばんは~、お邪魔します」
「ゆっくりしてね~。美人には一杯サービスするからさ。ってなんであんたが女の人連れてるんだよ!」
私には笑顔を、先生には驚きの顔を向ける店員のお兄さん。
「副担してる生徒のお姉さん。合コンで会った」
「ええええ~?あんたが!?合コン?いや、それより生徒のお姉さんに手を出すなって。いや、生徒じゃないならいいのか?」
「少しだけゆっくり話したいだけでお前が思うようなことはない」
驚いたり、怒ったり、悩んだりとコロコロと表情が変わるお兄さん。
先生がカウンター席に座るので私もその隣に座った。
「いつもの。吉永さんが好きな飲み物は」
「あ、こういうお酒の場所って初めてでオススメのものをお願いします」
「初めてか~。じゃあ飲みやすいカクテルの定番カシスオレンジにしようか」
「それでお願いします」
常連客である長山先生がいつも飲むカクテルは『ブラック・レイン』という黒色のカクテルなのだそう。
「はい、どうぞ。うちの店は初めてだからまずは自己紹介からいこうか。俺の名前は藤川裕太。この店でバイトしながら大学行ってるよ。よろしくね」
そう言って私の前に綺麗な色のカシスオレンジが出された。
「吉永トモヨです。よろしくお願いします。藤川さんは大学生なんですか?あれ、失礼ですけど年齢って私達と同年代ですよね」
「俺、大学中退してね。フラフラしてたんだけどまた大学で学び直そうって思ってさ。この年で大学一年生からやり直し中なんだ」
「もう一度、学校に行こうってすごいですね。私なんて中卒で」
「えっ、中卒。あ、ごめん。大学中退してニートだった俺が驚いたら失礼だよね。バーテンダーは何があってもクールにって言われてるのに、俺もまだまだだなー」
「いえいえ、気にしてないんで全然大丈夫ですよ」
「そっか。ありがとう。で、ところで長山先生さん、どうして合コンに出たのさ。俺が呼んでも一度も参加しなかったくせに」
「今日の合コンにどうしても来れない事情ができたっていう奴の代打として呼ばれただけだ」
「へぇ、それで生徒のお姉さまをお持ちかえり?意外とやるじゃん」
「うるさい。そうじゃないと言っただろ」
「はいはい。そうだと分かってるよ。あんたにこんな美人が釣れるなんてこれっっぽっちも思ってないし~」
「ふん。そんなこと言ってると今度からお前の接客態度悪いとかクレーム入れるからな」
「それは勘弁。いや、でもあんたが女性を連れてくるなんてな~。明日は雨だな~」
「ふふふ、仲がいいんですね」
「腐れ縁だ。高校が同じだったんだ」
「うわ、それ言うなよ。せっかく忘れてたのに!」
友達の前だからか砕けた口調になる長山先生。初対面なのにすごく話しやすい藤川さん。初めてのバーで飲んだカシスオレンジは甘酸っぱくて私の気持ちを明るいものにかえてくれた。一杯だけの約束だったけどついつい二杯目を注文し、もう少し、もう少しと杯を重ねていく。
「美味しいね~。他のオススメもたのむ~。へへへ~」
「ん?まだ頼むのか?そろそろ帰った方が」
「だいぶん酔ってるな。そろそろお姉さんのためにタクシー呼ぼうか。最後の一杯はサービスするからこれでおしまいな」
「いいんですか?にへへ~、じゃあお言葉に甘えまあす」
「あ、先生。お疲れさまです」
社会人として反射的に出る挨拶。先生が先に店を出たからすでに雑踏の中に紛れ込んでもういないのだと思ってたけど、タクシー待ちかな?
「ども。吉永さん」
先生に軽く会釈をされた。
「タクシーが来るの待たれてるんですか?」
「いえ、吉永さんが出るのを待ってました」
「私、ですか」
普通はお店をでたら現地解散でいいのでは?あ、もしかして今日の面談の時に先生は何も言っていなかったけど本当はミサキのことで言いたいことがあったのかな。
「すいません。店を出るまでの間に考えたら余計なことをしたかもしれないと思ったので」
「余計なことって、ああ、もう帰ったほうが良いって言ってくれたことですか」
長山先生が小さく頷く。
「あの場にいるのが辛そうに見えて助けたつもりになってましたが、男達は僕以外は全員良いところの企業勤めなんで」
「チャンスを奪った、と思われてます?そんなの気にしなくていいですよ。私、こう見えても会社の事務一筋で10年以上の大ベテラン。会社のお局様ですよ。数年働いたひよっこ男子の肩書なんて私の前じゃ顔負けですよ」
でも会社の事務仕事をしているのは私とさっきの新人後輩さん、専務である社長の奥さんだけというのは伏せておこう。
「……良かったら一杯飲む間だけ話しませんか。一杯だけ飲んだら帰りのタクシー呼びますし、知り合いの店がすぐ近くなんで」
「あら、良いんですか?先生の時間が困るんじゃ」
「俺は大丈夫……です。吉永さんみたいに待ってくれる人もいないんで」
前世の記憶でも20歳くらいまでしかないし、仕事ばかりだった私はこれも人生経験と長山先生に誘われるままに初めてのバーに足を踏み入れた。
「いらっしゃい。ってあんっ?なっ、なんで女の人が一緒?!」
「こんばんは~、お邪魔します」
「ゆっくりしてね~。美人には一杯サービスするからさ。ってなんであんたが女の人連れてるんだよ!」
私には笑顔を、先生には驚きの顔を向ける店員のお兄さん。
「副担してる生徒のお姉さん。合コンで会った」
「ええええ~?あんたが!?合コン?いや、それより生徒のお姉さんに手を出すなって。いや、生徒じゃないならいいのか?」
「少しだけゆっくり話したいだけでお前が思うようなことはない」
驚いたり、怒ったり、悩んだりとコロコロと表情が変わるお兄さん。
先生がカウンター席に座るので私もその隣に座った。
「いつもの。吉永さんが好きな飲み物は」
「あ、こういうお酒の場所って初めてでオススメのものをお願いします」
「初めてか~。じゃあ飲みやすいカクテルの定番カシスオレンジにしようか」
「それでお願いします」
常連客である長山先生がいつも飲むカクテルは『ブラック・レイン』という黒色のカクテルなのだそう。
「はい、どうぞ。うちの店は初めてだからまずは自己紹介からいこうか。俺の名前は藤川裕太。この店でバイトしながら大学行ってるよ。よろしくね」
そう言って私の前に綺麗な色のカシスオレンジが出された。
「吉永トモヨです。よろしくお願いします。藤川さんは大学生なんですか?あれ、失礼ですけど年齢って私達と同年代ですよね」
「俺、大学中退してね。フラフラしてたんだけどまた大学で学び直そうって思ってさ。この年で大学一年生からやり直し中なんだ」
「もう一度、学校に行こうってすごいですね。私なんて中卒で」
「えっ、中卒。あ、ごめん。大学中退してニートだった俺が驚いたら失礼だよね。バーテンダーは何があってもクールにって言われてるのに、俺もまだまだだなー」
「いえいえ、気にしてないんで全然大丈夫ですよ」
「そっか。ありがとう。で、ところで長山先生さん、どうして合コンに出たのさ。俺が呼んでも一度も参加しなかったくせに」
「今日の合コンにどうしても来れない事情ができたっていう奴の代打として呼ばれただけだ」
「へぇ、それで生徒のお姉さまをお持ちかえり?意外とやるじゃん」
「うるさい。そうじゃないと言っただろ」
「はいはい。そうだと分かってるよ。あんたにこんな美人が釣れるなんてこれっっぽっちも思ってないし~」
「ふん。そんなこと言ってると今度からお前の接客態度悪いとかクレーム入れるからな」
「それは勘弁。いや、でもあんたが女性を連れてくるなんてな~。明日は雨だな~」
「ふふふ、仲がいいんですね」
「腐れ縁だ。高校が同じだったんだ」
「うわ、それ言うなよ。せっかく忘れてたのに!」
友達の前だからか砕けた口調になる長山先生。初対面なのにすごく話しやすい藤川さん。初めてのバーで飲んだカシスオレンジは甘酸っぱくて私の気持ちを明るいものにかえてくれた。一杯だけの約束だったけどついつい二杯目を注文し、もう少し、もう少しと杯を重ねていく。
「美味しいね~。他のオススメもたのむ~。へへへ~」
「ん?まだ頼むのか?そろそろ帰った方が」
「だいぶん酔ってるな。そろそろお姉さんのためにタクシー呼ぼうか。最後の一杯はサービスするからこれでおしまいな」
「いいんですか?にへへ~、じゃあお言葉に甘えまあす」
0
お気に入りに追加
85
あなたにおすすめの小説
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます
下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。
公爵令嬢の立場を捨てたお姫様
羽衣 狐火
恋愛
公爵令嬢は暇なんてないわ
舞踏会
お茶会
正妃になるための勉強
…何もかもうんざりですわ!もう公爵令嬢の立場なんか捨ててやる!
王子なんか知りませんわ!
田舎でのんびり暮らします!
気がついたら自分は悪役令嬢だったのにヒロインざまぁしちゃいました
みゅー
恋愛
『転生したら推しに捨てられる婚約者でした、それでも推しの幸せを祈ります』のスピンオフです。
前世から好きだった乙女ゲームに転生したガーネットは、最推しの脇役キャラに猛アタックしていた。が、実はその最推しが隠しキャラだとヒロインから言われ、しかも自分が最推しに嫌われていて、いつの間にか悪役令嬢の立場にあることに気づく……そんなお話です。
同シリーズで『悪役令嬢はざまぁされるその役を放棄したい』もあります。
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました
しゃーりん
恋愛
階段から突き落とされて、目が覚めるといろんな記憶を失っていたアンジェリーナ。
自分のことも誰のことも覚えていない。
王太子殿下の婚約者であったことも忘れ、結婚式は来年なのに殿下には恋人がいるという。
聞くところによると、婚約は白紙撤回が前提だった。
なぜアンジェリーナが危害を加えられたのかはわからないが、それにより予定よりも早く婚約を白紙撤回することになったというお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる