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2人で二次会

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店を出ると長山先生が立っていた。

「あ、先生。お疲れさまです」

社会人として反射的に出る挨拶。先生が先に店を出たからすでに雑踏の中に紛れ込んでもういないのだと思ってたけど、タクシー待ちかな?

「ども。吉永さん」

先生に軽く会釈をされた。

「タクシーが来るの待たれてるんですか?」
「いえ、吉永さんが出るのを待ってました」
「私、ですか」

普通はお店をでたら現地解散でいいのでは?あ、もしかして今日の面談の時に先生は何も言っていなかったけど本当はミサキのことで言いたいことがあったのかな。

「すいません。店を出るまでの間に考えたら余計なことをしたかもしれないと思ったので」

「余計なことって、ああ、もう帰ったほうが良いって言ってくれたことですか」

長山先生が小さく頷く。

「あの場にいるのが辛そうに見えて助けたつもりになってましたが、男達は僕以外は全員良いところの企業勤めなんで」

「チャンスを奪った、と思われてます?そんなの気にしなくていいですよ。私、こう見えても会社の事務一筋で10年以上の大ベテラン。会社のお局様ですよ。数年働いたひよっこ男子の肩書なんて私の前じゃ顔負けですよ」

でも会社の事務仕事をしているのは私とさっきの新人後輩さん、専務である社長の奥さんだけというのは伏せておこう。

「……良かったら一杯飲む間だけ話しませんか。一杯だけ飲んだら帰りのタクシー呼びますし、知り合いの店がすぐ近くなんで」
「あら、良いんですか?先生の時間が困るんじゃ」
「俺は大丈夫……です。吉永さんみたいに待ってくれる人もいないんで」

前世の記憶でも20歳くらいまでしかないし、仕事ばかりだった私はこれも人生経験と長山先生に誘われるままに初めてのバーに足を踏み入れた。

「いらっしゃい。ってあんっ?なっ、なんで女の人が一緒?!」

「こんばんは~、お邪魔します」

「ゆっくりしてね~。美人には一杯サービスするからさ。ってなんであんたが女の人連れてるんだよ!」

私には笑顔を、先生には驚きの顔を向ける店員のお兄さん。

「副担してる生徒のお姉さん。合コンで会った」

「ええええ~?あんたが!?合コン?いや、それより生徒のお姉さんに手を出すなって。いや、生徒じゃないならいいのか?」

「少しだけゆっくり話したいだけでお前が思うようなことはない」

驚いたり、怒ったり、悩んだりとコロコロと表情が変わるお兄さん。
先生がカウンター席に座るので私もその隣に座った。

「いつもの。吉永さんが好きな飲み物は」

「あ、こういうお酒の場所って初めてでオススメのものをお願いします」

「初めてか~。じゃあ飲みやすいカクテルの定番カシスオレンジにしようか」

「それでお願いします」

常連客である長山先生がいつも飲むカクテルは『ブラック・レイン』という黒色のカクテルなのだそう。

「はい、どうぞ。うちの店は初めてだからまずは自己紹介からいこうか。俺の名前は藤川裕太。この店でバイトしながら大学行ってるよ。よろしくね」

そう言って私の前に綺麗な色のカシスオレンジが出された。

「吉永トモヨです。よろしくお願いします。藤川さんは大学生なんですか?あれ、失礼ですけど年齢って私達と同年代ですよね」

「俺、大学中退してね。フラフラしてたんだけどまた大学で学び直そうって思ってさ。この年で大学一年生からやり直し中なんだ」

「もう一度、学校に行こうってすごいですね。私なんて中卒で」

「えっ、中卒。あ、ごめん。大学中退してニートだった俺が驚いたら失礼だよね。バーテンダーは何があってもクールにって言われてるのに、俺もまだまだだなー」

「いえいえ、気にしてないんで全然大丈夫ですよ」
「そっか。ありがとう。で、ところで長山先生さん、どうして合コンに出たのさ。俺が呼んでも一度も参加しなかったくせに」
「今日の合コンにどうしても来れない事情ができたっていう奴の代打として呼ばれただけだ」
「へぇ、それで生徒のお姉さまをお持ちかえり?意外とやるじゃん」
「うるさい。そうじゃないと言っただろ」
「はいはい。そうだと分かってるよ。あんたにこんな美人が釣れるなんてこれっっぽっちも思ってないし~」
「ふん。そんなこと言ってると今度からお前の接客態度悪いとかクレーム入れるからな」
「それは勘弁。いや、でもあんたが女性を連れてくるなんてな~。明日は雨だな~」
「ふふふ、仲がいいんですね」
「腐れ縁だ。高校が同じだったんだ」
「うわ、それ言うなよ。せっかく忘れてたのに!」

友達の前だからか砕けた口調になる長山先生。初対面なのにすごく話しやすい藤川さん。初めてのバーで飲んだカシスオレンジは甘酸っぱくて私の気持ちを明るいものにかえてくれた。一杯だけの約束だったけどついつい二杯目を注文し、もう少し、もう少しと杯を重ねていく。

「美味しいね~。他のオススメもたのむ~。へへへ~」
「ん?まだ頼むのか?そろそろ帰った方が」
「だいぶん酔ってるな。そろそろお姉さんのためにタクシー呼ぼうか。最後の一杯はサービスするからこれでおしまいな」
「いいんですか?にへへ~、じゃあお言葉に甘えまあす」
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