愛人候補で終わったポチャ淫魔君、人間の花嫁になる。

からどり

文字の大きさ
上 下
34 / 37

34

しおりを挟む
アモンと別れ、買い物をしてから家に帰って一人になると……やっぱり、あいつに食べられる前に捕まえるべきだった。と思ったり、悪魔が関わっていると知られないよう、波風を立てないためにはあれで良かったんだ。と思ったりする。

でもロードリック様はどう思うだろう。僕は学校で人間を騙すための心理学をかじったけど赤点を取らなかっただけで苦手だった。

「ただいま。アレックス」
「おかえり!」

ロードリック様の声に僕はリビングから飛び出した。

「無事だったんだね!良かった!」

僕は彼の手を摑んで安心した顔をすると驚いた顔をされた。

「どうしたんだ?なにか怖い事があったのか?」

「あ、ううん。なんにもないよ」

落ち着いて考えれば何もないのが当たり前だ。僕はアモンと一緒に、誰にも言わずに行動したんだから。

「それなら良いんだが、なにかあれば相談してくれ」
「うん。それより今日は買ってきたおかずでいいかな?」
「ああ。毎日作るのは大変だろ。手作りにこだわらなくていい。食費が足りないならもっと増やそうか」
「ううん。大丈夫。僕のおやつを買っても足りるよ」

「お金のことも遠慮せず相談してくれ。アレックスにばかり家事の負担をさせてすまないな」

ロードリック様のためならなんでもしたいけど……今日みたいにもやもやして動きたくない日がある。
買ったおかずで良いって言われて僕はホッとした。

それからは新婚らしく蜜月を過ごしていた。
聖女を襲った研究所破壊の犯人は、当然見つからず、騎士団は懸賞金をかけている。でも、壊れた部分以外、研究所の方は通常通りだ。ロードリック様は今も働いている。

夕食の時、ロードリック様に「ちょっと気になることがあって……」と前置きして話した。

「この前、家に泥棒が入ったり、研究所が襲われた事件ってどうなりました?」

犯人は知ってるんだけど、正直なことは隠すと決めたから言えない。

「それがまだ進展していないらしい。

んー、研究所と家の往復ばかりのロードリック様は、ニュースになったことくらいしか知らなかった。

「そうですよね、うん」

「アレックス、俺も聞きたいんだが、これから先、人間の友人を作ろうと思うか?」

「人間の友達?」

ご近所とは挨拶くらいだ。たまに散歩している犬に吠えられて、飼い主さんに謝られたりするけど……それくらいだ。

「あ、ああ、誤解しないで欲しい。君の友人関係を見張るつもりはないんだ。だが、この家には研究所に置ききれない危険な物を預かっている。不法侵入をされた日から結界は強化しているが、家の外の結界は物理や魔法の攻撃からの防御だ。それに『アレックスや俺がここに住んでいる』という情報があやふやになる、軽い認識阻害の魔法だ」

「うん。郵便物やお客様が来た時に困らないように、軽くしてるんだよね」

「ああ。いろいろとあったから考える事が増えて、ふと、アレックスに人間の友達ができたかもしれないと思ったんだ。もし、招き入れるほどの仲になったら、この認識阻害魔法は人によっては強く反応する場合もある。だから、外しておくべきかと……そう思ったんだ」

「今は大丈夫だよ。僕の友達はちゃんと来れるし」

今のところ、僕を訪ねてくれるのはアモンだけだ。
アモンは子供の頃から、自分で稼ぐお金にしか興味がない。だから他の悪魔と違って派閥にこだわらない。
一応、派閥に入ってるらしいけど、誰にも、僕にも教えてくれない。彼は「金がもらえるんやったら派閥関係なく仕事うけたるで~」ってスタンスだからね。
だから、僕はそんなアモンとは親しくなれた。
アモンがこの家に来れるなら結界はこのままで良いと思った。

「アレックス」

名前を呼ばれ、真剣に見つめられるのは好きだけど今は後ろめたい。

「な、なに?」

「不安だろうが心配しなくていい。この家には窓やドアを壊された時に音がなって、警備会社に通報する魔法も家にかけてあるんだ」

ああ、安心させたいのは僕の方だよ。犯人はもう食べられていないってことを言ってあげたい。でもごめんね。ロードリック様。僕は魔族なんだ。隠してることは全部死んでも言わないよ。その代わり、全部僕をあげるよ。

「色々とあったが、もうすぐ結婚して一年になるな。結婚記念日に合わせて旅行に行こうか」

「旅行、ですか」

「人間のイベントで、新婚旅行という特別なイベントがあるんだ。でも、俺達はしなかったから、一緒に行かないか。二人の仲を深めるために、綺麗な景色をみたり、旅行先の美味しい物を食べるんだ」

「美味しいモノ……」

「お土産も買おう。美味しい食べ物のお土産もあるんだ」

「行く!行きたい!」

僕はぶんぶんと頭を縦に振った。

「アレックスは食べるのが好きだな」

「えへへ。ロードリック様と一緒に御飯を食べると美味しくなるから、旅でのご飯がもっと美味しくなるよ」

「料理が美味い旅行先を探しておこう。一緒に美味しい物をたくさん食べよう」

「うん!」

旅行、楽しみだなあ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

【完結】「+20キロ!?」〜優しい見た目ヤンキーとぽっちゃり男子のお話

天白
BL
田舎の高校に転校してきたのは都会からやってきた吉良真守(♂)。 ボサボサ頭に蚊の鳴くような小さい声、狸のようなでっぷりお腹に性格は根暗ときたもんだ。 第一印象は最悪。でもそれにはある秘密があって…… ※拙作『+20kg!?』(オリジナル作品)を元に、コンテスト用に一から書き直しました♪ 他投稿サイト「Blove」第2回BL短編小説コンテスト「嘘から始まる恋」応募作品です。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

黄色い水仙を君に贈る

えんがわ
BL
────────── 「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」 「ああ、そうだな」 「っ……ばいばい……」 俺は……ただっ…… 「うわああああああああ!」 君に愛して欲しかっただけなのに……

処理中です...