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天使召喚という掛け声とともに現れた羽の生えた小人達には特になんとも思わなかった。
ただ、天使をうまく演出するなーって感じだ。

「天使て、下級悪魔が小っこくなって天使のふりしとるだけやんけ」

アモンは犯人を鼻で笑って見下している。僕も同じように思っているけど態度には出さない。


天使のふりをした小さな悪魔が放つ光る玉。それは僕のシールドに当たった瞬間、光は弾けて消えた。

「な、なんで効かない!?ボクが呼び出したのは本物の天使だ!お前たちなんて一瞬で消せるんだ!」

「せやからその程度の下級魔法じゃワイらに届かんちゅうねん」

アモンがパッと手を振ったらニセ天使達が燃え上がった。

「うわああああ!!メバセル!やっつけろ!」

犯人は叫び声をあげると横にいる悪魔に命令していた。
でも、悪魔は刺し所にこっちを見て、次に犯人を見て、にたあって笑った。
あ、化けの皮を剥がすんだ、って思った。

「報酬は?」

「アイツラの魂だ!やっつけろ!」

僕とアモンは顔を見合わせた。悪魔に対し別の悪魔の魂を報酬にする場合、魂を魔法をかけた器に入れて差し出す。他にも作法が色々と……

「違うよ。この前の報酬は?」

「え?あの事件で殺したやつらの魂を食べて良いって」

犯人の顔を覗き込む悪魔。

「あの騒ぎで人なんて死んでないよね?」

犯人は息を飲む。

「あ~、あ~……」

このあと、何が起きるか予測できてしまった僕は哀れみと失敗を嘆いた声が漏れた。
報酬として犯人が食べられてしまうなら、もっと早く捕まえておくべきだったって気持ちと、無知で可愛そうって気持ちが混ざったんだ。

「あちゃー。天使が魂を食べたいとか言わんで。完璧悪魔に騙されとりますわ~」

「うん、うん。学校で習ったよ。人間を騙す時は天使のフリをしましょう、って。神だと存在が遠すぎるから天使とかがちょうど良いんだって」

僕達の声は犯人に届いているのか、届いていないのか分からない。

「お、おまえが言う通りにやったんだぞ!失敗したのも誰も死ななかったのもお前が悪い!だからおまっ」

話の途中で人間のふりした悪魔の顎ががくんと床まで落ちた。いや、正確には広がった。

犯人は突然大きく開いた口に驚いて尻もちをついた。悪魔の大きな口から太くて長い舌が伸びる。まるで丸太のようだ。

「アホやなー。報酬条件は一個だけかいな。きっちり細かく決めとかないかんで」

犯人は手足をばたつかせてなんとか逃げようとするけど、腰が抜けて動けないみたい。
ぬらぬらとぬめる悪魔の舌が犯人の足に絡みついた。

「そうだね。自分が発動した魔法だし、悪魔が作戦を与えただけなら、失敗は犯人自身の責任になる」

敵悪魔の擁護はしたくないけど、報酬のことで悪い方はどちらか聞かれたら、自分を「悪魔より強い立場の主人だ」と勘違いしてしまった犯人だ。

悪魔は報酬と叶える願いが釣り合うか、もしくは願いの価値より報酬が多ければ願いを叶えてあげる。
多分、あの事件は犯人が人間と悪魔が対立する方法を求め、悪魔が授けた作戦と知恵だろう。確実に交渉するなら報酬は作戦と知恵を受け取った時点で渡しておくべきだった。

「や、やめろおおぉお!!話が違う!死んだやつがいないならあいつらを殺せよ!研究所には人がいっぱいいただろ!」

「実行直前に聞いただろお?『手伝おうか』と。溢れる魔力持ちの自分は、悪魔の力など借りずとも成功できる。と、言っていたじゃーないか。だからお前が人を殺してくれるのを待っていたのに、あんまりだろおお?おなかが空いてたまらないよおおお~~」

「やめて!死にたくない!!誰か助けて!!」

体を捻ってうつ伏せ、こっちに這い寄ろうとしている。でもずるずると口の方へ引きずり寄せられていた。
逃げずに得意の魔法で戦えば勝てる魔力があるのに、恐怖で冷静さを失った彼には考えつかないようだ。

「あっちゃん、シールドはもうええやろ」

「うん」

僕等は数歩、前を向いたまま後ろに下がる。

「助けろよ!!偽善者!!人間と悪魔の友好の証で結婚したんだろ!!人間を見捨てるな!!」

「あー……ごめんね。悪魔の契約を邪魔するのは無理だよ」

できないこともないけど……助ける理由がない。
それに、獲物を横取りなんてしたら悪魔同士の戦いに発展してしまう。家や派閥まで出てきたら戦争になる。

「僕、ロードリック様に黙って来ているし、こうなったならロードリック様が安全ならそれでいいや。うん」

「軽っ。めっちゃ軽っ。まあ、旦那が殺されてたかもしれんし、聖女になにかあったら旦那達が責任取らされるやろいう事件起こした奴に同情はできんわな~。さいなら~ってことで」

アモンが手を振るとジュルンッと犯人の身体が一瞬で引っ張られて悪魔の口の中に入って行った。地面についた顎が何事もなかったかのように閉じられた。

「……」

首を傾げてこっちを向く悪魔。殺意はないけど緊張している。

「心配しないで。そっちは仕事しただけだし」

油断を誘うためかもしれないけど殺意を放ってこなかった。戦いはできるだけ避けたいし、話し合いで済むならそうしよう。

「どーでもええけど、なんで今日まで食わんとおったんや。失敗した時点で食っておけばよかったのに」

「研究所に、そしてここにパープル姫がいたからさああ~。彼の派閥を敵に回したくない。だから様子を見ててさあ~~。ここまであいつが追っかけられて、姿を見られてしまったから、始末して許してもらおうと思って」

パープル姫……僕のあだ名だ。やっぱりお父様達の威光を持つお母様の派閥はすごいなあ。

「は~、どないする?」

「いいよ。あの研究所を壊して襲った犯人が、もういなくなったなら、それで」

「ほな、あいつ突き出すか?人間の法律でいう共謀罪でしょっ引けるはずやで」

「いいよ。そこまでしなくて。派閥を出すってことは向こうにも派閥があるんだろうし。僕のお父様達に知られたら『やっぱり人間界は危ない!!』って連れ帰られそうだし」

「あー、その光景は目に浮かぶわ。ぶふっ、横チン神輿の再来やな」

「ちょっ!言わないで!忘れてよ!そんな昔の話!」

「あれを忘れろ言うても忘れられんわ!今、思い出してもめっちゃ笑える」

げらげら笑うアモンの背中をぐいぐい押しながら僕達は来た道を戻った。
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