愛人候補で終わったポチャ淫魔君、人間の花嫁になる。

からどり

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僕は一人で鼻息を荒くしながら外に飛び出した。
あの日、僕たちを襲った犯人の魔力を糸のように伸ばす。高度な魔法だけど成功すれば僕の中にある犯人の魔力は元の場所に戻ろうする。それを追えば犯人が見つかるって寸法だ。

いつの間にかアモンが僕の隣にいて彼は大きなため息を吐いてこう言ったんだ。

「焚き付けたけど、ホンマに探すつもりなんか。面倒なことは人間に任せとったらええのに」

「アモンが先に焚き付けたんじゃないか。面倒なら来なくていいよ。僕一人でも行くから」

アモンが口を思いっきり曲げて嫌そうな顔をした。

「アホ言わんといてくれ。着いて行くに決まっとるやろ」

「な、なんで?」

お金が大好きなアモンが、無料で手伝ってくれるとは思えない。手伝ってくれた後にすっごい値段の請求書が送られるんじゃ……。

「なんでって、そりゃ、あれや。聖女を襲った犯人なら懸賞金かかってるかもしれんやろ」

「あ、そうか。聖女って人間にとってすっごく大事だもんね」

「せやで。わいらにはめっちゃ鬱陶しい存在やけどな」


そんな話をしながら僕達は魔力を頼りに歩き出したんだ。

暫くすると路地裏へと入り込んでいた。そこはゴミが散乱していて臭いも酷かったから、早くその場を離れたかったんだけど糸は建物の中から伸びていた。僕たちは一度立ち止まって目を合わせた。

「あっちゃん、ここか」

「う、うん。間違いないよ」

アモンが僕の腕を掴んで顔を近づけた。

「こんなばっちいとこにおるんか?なんかの間違いちゃう?」

「嫌なら帰っていいよ。……僕一人でも行くからね」

僕も臭い匂いがする場所に長くいたくない。
ちょっと迷ったんだけど、僕が行かなきゃロードリック様はきっと心配したままだ。犯人のことを解決しなくちゃ安心して眠れない! 僕は意を決して魔法弾を放った。

「うおっ、いきなりぶち込んだな。めっちゃびっくりしたわ」

壊れた壁を眺めながらアモンがそう言った。

「だって。この中にロードリック様を襲った魔物を召喚した犯人がいるって考えたら、つい力んじゃって」

「まあええわ。わいの情報網によると向こうも壁壊して入ったらしいやん。ほな勝手にお邪魔しますー」

アモンはわざわざ挨拶をしながら壊れた壁を踏み越えて中に入った。僕はお腹が出てるからちょっとバランスが悪くて体を揺すりながら中に入る。
室内は散らかっていたし、ゴミも落ちていたけど犯人の姿はない。魔力の糸はまだ伸びている。

「この部屋にはおらんで」

「うん、まだ先に伸びてるよ。こっちみたい」

アモンを連れて進みながら階段を降りる。

「地下におるんか。悪役みたいやな」

「悪役じゃなくて悪だよ」

「悪魔にワル扱いされる奴がおるとか、ウケるわ」

なぜか笑うアモン。
もう、僕はまだ会ったことない犯人に怒ってるのに……。

地下の実験室みたいな場所に出た。暗い部屋でロウソクの火が灯っている。
そして一つの人影と白い羽を生やした美しい人間の姿をした悪魔がいた。そして魔力の糸は真っ直ぐと人と繋がっていた。

「誰だ!?」

「誰だちゃうわ。名前聞く時は、まず自分からやろが」

「名前なんてどうでもいいよ。君が聖女やロードリック様達を襲ったんだね。僕の体に君の魔力を取り込んで、それを辿ってきたんだ。言い逃れはさせないよ」

僕は犯人に攻撃された時に備えてシールドを展開した。
すると犯人は声を震わせながら喋り始めたんだ。

「え、エセ悪魔め!平和の使者ぶってるくせに、なんで人間を滅ぼさないんだ!お前達みたいな軟弱者を排除するためボクが動いたんだ!」

犯人が喋ったことにびっくりしてアモンを見上げた。彼もこっちを見下ろし、「なんや、こいつ」と呟いた。

「人間はクズだ!害悪の塊だ!優越感を得るために人を蹴落としたり、金を集めて偉そうにしてる!そんな人間に手を貸し、結婚した悪魔はクズだ!」

「自分、人間の癖に反人間主義かー」

「半人間主義?」

アモンの言葉に首を傾げる。

「せや。反人間主義は人間の癖に人間を嫌ってる奴や」

「同族嫌悪ってこと?」

そこで半人間、悪魔と人間の血を持つ者の主義者じゃないと分かった。

「簡単に言うたら、せやな」

「人間が嫌いなら人間のいない場所で暮せばいいのに。無人島とかあるよ」

僕のお父様達はバカンスを楽しむために魔界の無人島を持ってる。

「黙れ!ボクらのような実力を隠している者を排斥する人間界を許していいのか!これは浄化だ!選ばれた人間だけの世界を作り、一から世界をやり直すんだ!」

「浄化やて。アホくさ。こいつ、反人間主義ですらないで。こいつは単なる選民思想の暴走者や」

アモンは馬鹿にしたような笑い方をした。
僕も同じ気持ちだった。実力を隠してる?たしかにあの事件を一人で起こしたのはすごいけど、その知恵を与えたり、準備させたのは隣りにいる悪魔のはずだ。

「悪魔は腑抜けになってる!だから人間と悪魔の間に戦争を早く起こさせ、相打ちにさせなきゃ浄化にならないんだ!」

そう言って犯人は僕達に向かって手を向けた。

「天使召喚!!」

犯人の手から光る魔方陣が浮かび上がり、そこから翼の生えた小さな人間が現れた。
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