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あの後、所長さんに犯人探しを僕もすることを話そうとしたんだ。所長さんを含めた人達は片付けや研究所が保管してる呪物のチェックで忙しそうにしていた。
だけど所長さんは忙しい手を止めてくれた。

「もう大丈夫?こっち二人が休んでる間には事情聴取とか終わったよ。二人には後で話を聞きに行くって」

「僕、犯人探しします!捕まえるのも任せてください!」

服が張るほど胸を張ったら所長さんの右腕のシャツの袖先が頭のありそうな位置に動いた。

「それは心配しないで大丈夫だよ。そういうことは警備団の仕事だよ。ヴァン君、今日はもうアレックス君を連れて帰ってあげなよ。明日は今日の遅れを取り戻すのに忙しくなるよ」

「はい、今回ばかりはそうさせてもらいます」

「えっ?!待ってロードリック様」

所長さんには警備団に任せておけば大丈夫だよと言われるばかり。ロードリック様を見上げると彼は困った顔をして僕を見ていた。

「アレックス、俺は君を失いたくないから所長の言う通りにして欲しい。頼む」

「ロードリック様、でも」

「アレックスくんの気持ちは分かるけど、下手に首を突っ込まないほうがいいよ。聖女様がいる研究所を狙われたから警備団が犯人探しにすごく本気になってるんだから。人間と魔族が手を取り合ったとはいえ、まだまだお互いの溝は深いし、警備団はプライドが高いから他所の手は借りたがらないんだよ。」

「うっ、うう……」

そう言われると僕はもう何も言えなくなってしまう。だって魔界には人間が好きでも聖女を嫌いな魔族はいっぱいいる。
聖女や勇者って光の存在を擁護するとバッシングされちゃうし、僕の家族や友達にも迷惑がかかっちゃう。そう思うと急に気持ちがしぼんでしまう。でも、でも、ロードリック様に格好いい僕を見てもらいた気持ちもまだあるのに~~!

「ほら、そんな顔しないで。ヴァン君はもうおじさんだし、君の心配をしすぎた彼がハゲちゃうよ。今日は帰ろうね」

所長さんがそう言うから思わずロードリック様の髪を見てしまった。彼の髪はふさふさだ。だけど僕の視線にロードリック様は髪の生え際を気にして触っていた。

「所長、余計なことを言わないでください」

「ごめんごめん。ほら、僕が怒られちゃうから帰って、帰って」

「はい……」

結局僕はロードリック様の運転する車に乗って帰ることになった。
僕って情けない……でもロードリック様が心配するし、魔界の皆に迷惑はかけたくない。今日のことは人間に任せるしかないのかな……?

「アレックス、ケーキでも買おうか」

運転席からそう言われて僕はびっくりした。

「でもお祝いの日じゃないですよ?それどころか……」

「俺にとってはアレックスが頑張って活躍してくれた日だ。甘い物を食べたらアレックスは元気になるからな。君の元気な顔がみたいんだ」

運転しながらサラリと言われたけどこれって愛だよね?!ロードリック様は僕を心配してくれるだけじゃなくて、僕が元気になるからケーキが食べようって言ってくれるんだ!

「ロードリック様」

「どうしたアレックス」

「大好き!」

嬉しくて思わずデレデレと笑っちゃう。えへへ、今日はいっぱい甘えちゃおう。
僕がほっぺをゆるゆるにして笑ったら『魔王様の愛人とは気品のある笑顔を浮かべるのです!』と先生達に怒られたんだけど彼は怒らなかった。むしろ頭を優しく撫でてくれたのだ。ああ、やっぱりロードリック様が大好き!!

そうこうしてる間に帰り道の近くに美味しいケーキ屋さんがあるからと車で寄って、二人で一緒にお店でケーキを選ぶことになった。
お祝いの日にしかケーキを食べたことがない僕はショーケースに並んだ綺麗なケーキをみて辛かったことも吹き飛んじゃった。

「あ、この葡萄のタルトが良いです!」

「じゃあそれにしよう。他にも何か欲しいものがあったら言ってくれ」

「はい!」

人間界のケーキ屋さんは魔界のと全然違う。甘くて良い匂いがして、目移りしちゃう。
本当は全部食べたいけど、ロードリック様と晩ごはんも食べるから一つ選ぶのが精いっぱいだ。
だけどケースの端っこにある生チョコというものが目に入ったら思わず声を出してしまった。

「あ、生チョコも美味しそう!」

「生チョコか。寝る前に酒と一緒につまむのもいいな。明日のアレックスのおやつの分もいれて多めに買っておくか」

「良いんですか?!」

「ああ。俺達を守るために頑張ってくれたからな。礼は菓子くらいじゃ足りないくらいだ」

「えへへ、ありがとうございます!」

僕は葡萄のタルトと生チョコを買ってもらい、その後の帰りの車の中ではもうすっかり元気になってしまった。
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