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淫魔は吸収が得意とはいえ、魔法のせいで痩せもせず、今以上に太くもならないお腹が初めて膨らんできた。
「も……無理、かも」
体型のせいで大食いに間違われることを思い出しちゃった。あの時もご飯をいっぱい用意してくれて、頑張って食べたら苦しくって気絶しちゃったけ……。
「アレックス!!」
ロードリック様の声が聞こえる。ああ、怒られちゃうな。とどこか他人事のように思うけど杖を握る手を緩められない。手を離したら杖の支えを無くして倒れてしまいそうだ。
すると肩に誰から触れる感触がした。ロードリック様が肩を掴んでくれたんだ。
「もう大丈夫だ。あとは任せろ」
ロードリック様が来てくれた。あんまり怒ってなくて良かった。
それに研究所の人達も何人か来ていて魔法陣の中に入って杖を掴んでいた。
「俺達が無効化しますから任せてください」
そう聞いて僕はやっと安心して杖から手を離した。お腹が重くてバランスを崩しそうになったけど支えてくれる人がいた。
「ロードリック様……」
「アレックス、どうして一人で行ったんだ。無茶をするな」
「ごめんなさい……でも……っ」
意識が朦朧として支えられたまま目を閉じた。お腹がいっぱいで苦しいのに凄く眠たいよ。ちょっとだけ休むね……
僕の記憶はここで途絶えた。
次に気がついた時には見たことがある、研究所の仮眠室だった。お腹にはまだ違和感があるけど起き上がるとロードリック様は僕の寝ていたソファにもたれて床に座って眠っていた。
ああ、僕はあのあとに倒れちゃったんだ。怒られちゃうよねと改めて思う。
「ロードリック様……」
「起きたか」
僕が声をかけるとロードリック様が顔を上げた。その顔はすごく疲れているように見える。
「あの、ごめんなさい。僕のせいで迷惑を……」
「……アレックス」
僕の謝罪を遮るように名前を呼ばれたので素直に口を閉じた。でも謝りたいし、どうしたらいいのかわからなくて座ってすぐに口をパクパクさせて戸惑ってしまう。
「研究所の壁に穴はあいたし、怪我人も出たが死んだ者はいなかった。聖女様達も無事だ」
前を向いてしまったロードリック様。僕が一人で行っちゃったからやっぱり怒らせてしまっている。
「あの魔法陣は、もう魔物を呼べなくできましたか?」
「ああ。君が無茶したお陰でな」
ため息混じりに言われてしまった。ロードリック様を守って、それで褒めてほしかっただけなんだよ。
僕はソファから降りて床に座ってる彼の隣に座ってギュッと抱きしめた。そして胸に頬をすり寄せると驚いたのかピクリと体が動いた。
「アレックス」
名前を呼んでくれる声が柔らかくなった。怒ってるはずなのに優しくしてくれるなんて、ロードリック様って優しすぎるよ。
「ごめんなさい。でも僕、ロードリック様に怪我をしてほしくなかったから……」
「ああ、分かっている。だが一人で行かないでくれ」
「ロードリック様?」
顔を上げるとロードリック様は悲しそうな、困ったような顔で僕を見ていた。
「あの時、君が先に行った時にもう一度空間を繋げて貰ってアレックスを避難させるべきだったと思った。魔法陣の中に君を見つけた時、俺が悪人になっても良いから治療を投げ捨てて君を追いかけるべきだと思ったんだ。だが俺は怪我をした仲間の治療を優先してしまった」
ロードリック様は顔を手で覆ってしまった。どうして悲しんでいるの?僕は魔族だけど人間のことをよく知ってるんだ。人間同士が助け合うことを僕は知ってるよ。魔族なら切り捨てちゃうけど、ロードリック様は人間だもの。人間を先に助けてしまうのは仕方ないよ。
だけど寂しくて胸がチクチクと痛いのはなんでだろう。僕は思わずその体にギュッとしがみついた。
「アレックス、俺を置いて行かないでくれ。君の笑顔もぬくもりも失いたくないんだ」
ロードリック様はそのまま僕を抱き締めたまま、弱々しい声でそう言った。
「ロードリック様が望むならどこまでもずっと一緒にいるよ」
今度はそばで戦おう!そうしたら安心してくれるよね!それにカッコイイ僕を見てもっと大好きになってくれるよね。
「ああ、ありがとう。俺も一生君の隣にいると誓う。だから……アレックス」
「ロードリック様……」
ロードリック様からキスをしてくれた。何度も啄むようにキスをして、段々と深いものになっていく。僕がそれを口を開けて迎え入れると彼は僕の舌を吸ってくれた。
「ん……ふ」
その気持ちよさに声が漏れる。頭がぼーっとしてきたので舌の絡みをやめて口を閉じるとロードリック様は僕の口から溢れた唾液を掬うように舐めとった。
「もっと君を味わいたい」
僕はそのねだる声に頷くことしかできなかった。
ロードリック様が満足するまでたっぷりキスをした後、僕達はやっとソファに座った。
「あの後、どうなったんですか?魔族を召喚した誰かは捕まったんですか?」
「あの後、皆で魔導具を使って魔法陣を壊したんだ。残った杖や魔法陣は犯人を捕まえるための証拠で回収されていった。あれだけ高度な召喚術を使うから犯人はいずれ絞り出せるはずだ」
「時間がかかるんですか?それなら僕が吸収した魔力で犯人を辿るのが早いかも……」
「どうやって」
「えっと、召喚された魔族と魔法陣を結ぶ魔力を辿ったときのように、魔族を呼ぶために杖を使って召喚魔法を使った人間と僕が吸収した杖の魔力をたどるんです。近くにいるほど感知できるから、その魔力を持った犯人を見つけられる可能性が高くなります」
「アレックス……俺達は犯人を見つけるだけにしよう。捕まえるのは警備団に任せよう」
でもロードリック様に止められた。
「僕も戦えますよ?捕縄術も魔王様の愛人に必要って家庭教師の先生に教えてもらって花丸をもらったんですよ」
魔王様の愛人って言葉の時にロードリック様の顔がもっと渋い顔になったのを見ちゃった。
「君を守りきれなかった俺が言う資格はないかもしれないが……君が危ない目に遭うのは嫌なんだ。場所を地図で示すことはできるか?せめて犯人のいる場所近くまで行ってここにいると伝えるだけにしてくれ。もう目を覚まさないかもしれないと思うのは」
ぎゅっと唇を噛み締めてしまったロードリック様。
「ロードリック様……」
ああ、ロードリック様は僕が心配なんだ。僕を守りたいんだ。僕がいなくなることをこんなに心配してくれるなんて幸せすぎるよ。だからこそ僕は僕達を襲った犯人が許せなくて絶対に捕まえるって決めたんだ。
「も……無理、かも」
体型のせいで大食いに間違われることを思い出しちゃった。あの時もご飯をいっぱい用意してくれて、頑張って食べたら苦しくって気絶しちゃったけ……。
「アレックス!!」
ロードリック様の声が聞こえる。ああ、怒られちゃうな。とどこか他人事のように思うけど杖を握る手を緩められない。手を離したら杖の支えを無くして倒れてしまいそうだ。
すると肩に誰から触れる感触がした。ロードリック様が肩を掴んでくれたんだ。
「もう大丈夫だ。あとは任せろ」
ロードリック様が来てくれた。あんまり怒ってなくて良かった。
それに研究所の人達も何人か来ていて魔法陣の中に入って杖を掴んでいた。
「俺達が無効化しますから任せてください」
そう聞いて僕はやっと安心して杖から手を離した。お腹が重くてバランスを崩しそうになったけど支えてくれる人がいた。
「ロードリック様……」
「アレックス、どうして一人で行ったんだ。無茶をするな」
「ごめんなさい……でも……っ」
意識が朦朧として支えられたまま目を閉じた。お腹がいっぱいで苦しいのに凄く眠たいよ。ちょっとだけ休むね……
僕の記憶はここで途絶えた。
次に気がついた時には見たことがある、研究所の仮眠室だった。お腹にはまだ違和感があるけど起き上がるとロードリック様は僕の寝ていたソファにもたれて床に座って眠っていた。
ああ、僕はあのあとに倒れちゃったんだ。怒られちゃうよねと改めて思う。
「ロードリック様……」
「起きたか」
僕が声をかけるとロードリック様が顔を上げた。その顔はすごく疲れているように見える。
「あの、ごめんなさい。僕のせいで迷惑を……」
「……アレックス」
僕の謝罪を遮るように名前を呼ばれたので素直に口を閉じた。でも謝りたいし、どうしたらいいのかわからなくて座ってすぐに口をパクパクさせて戸惑ってしまう。
「研究所の壁に穴はあいたし、怪我人も出たが死んだ者はいなかった。聖女様達も無事だ」
前を向いてしまったロードリック様。僕が一人で行っちゃったからやっぱり怒らせてしまっている。
「あの魔法陣は、もう魔物を呼べなくできましたか?」
「ああ。君が無茶したお陰でな」
ため息混じりに言われてしまった。ロードリック様を守って、それで褒めてほしかっただけなんだよ。
僕はソファから降りて床に座ってる彼の隣に座ってギュッと抱きしめた。そして胸に頬をすり寄せると驚いたのかピクリと体が動いた。
「アレックス」
名前を呼んでくれる声が柔らかくなった。怒ってるはずなのに優しくしてくれるなんて、ロードリック様って優しすぎるよ。
「ごめんなさい。でも僕、ロードリック様に怪我をしてほしくなかったから……」
「ああ、分かっている。だが一人で行かないでくれ」
「ロードリック様?」
顔を上げるとロードリック様は悲しそうな、困ったような顔で僕を見ていた。
「あの時、君が先に行った時にもう一度空間を繋げて貰ってアレックスを避難させるべきだったと思った。魔法陣の中に君を見つけた時、俺が悪人になっても良いから治療を投げ捨てて君を追いかけるべきだと思ったんだ。だが俺は怪我をした仲間の治療を優先してしまった」
ロードリック様は顔を手で覆ってしまった。どうして悲しんでいるの?僕は魔族だけど人間のことをよく知ってるんだ。人間同士が助け合うことを僕は知ってるよ。魔族なら切り捨てちゃうけど、ロードリック様は人間だもの。人間を先に助けてしまうのは仕方ないよ。
だけど寂しくて胸がチクチクと痛いのはなんでだろう。僕は思わずその体にギュッとしがみついた。
「アレックス、俺を置いて行かないでくれ。君の笑顔もぬくもりも失いたくないんだ」
ロードリック様はそのまま僕を抱き締めたまま、弱々しい声でそう言った。
「ロードリック様が望むならどこまでもずっと一緒にいるよ」
今度はそばで戦おう!そうしたら安心してくれるよね!それにカッコイイ僕を見てもっと大好きになってくれるよね。
「ああ、ありがとう。俺も一生君の隣にいると誓う。だから……アレックス」
「ロードリック様……」
ロードリック様からキスをしてくれた。何度も啄むようにキスをして、段々と深いものになっていく。僕がそれを口を開けて迎え入れると彼は僕の舌を吸ってくれた。
「ん……ふ」
その気持ちよさに声が漏れる。頭がぼーっとしてきたので舌の絡みをやめて口を閉じるとロードリック様は僕の口から溢れた唾液を掬うように舐めとった。
「もっと君を味わいたい」
僕はそのねだる声に頷くことしかできなかった。
ロードリック様が満足するまでたっぷりキスをした後、僕達はやっとソファに座った。
「あの後、どうなったんですか?魔族を召喚した誰かは捕まったんですか?」
「あの後、皆で魔導具を使って魔法陣を壊したんだ。残った杖や魔法陣は犯人を捕まえるための証拠で回収されていった。あれだけ高度な召喚術を使うから犯人はいずれ絞り出せるはずだ」
「時間がかかるんですか?それなら僕が吸収した魔力で犯人を辿るのが早いかも……」
「どうやって」
「えっと、召喚された魔族と魔法陣を結ぶ魔力を辿ったときのように、魔族を呼ぶために杖を使って召喚魔法を使った人間と僕が吸収した杖の魔力をたどるんです。近くにいるほど感知できるから、その魔力を持った犯人を見つけられる可能性が高くなります」
「アレックス……俺達は犯人を見つけるだけにしよう。捕まえるのは警備団に任せよう」
でもロードリック様に止められた。
「僕も戦えますよ?捕縄術も魔王様の愛人に必要って家庭教師の先生に教えてもらって花丸をもらったんですよ」
魔王様の愛人って言葉の時にロードリック様の顔がもっと渋い顔になったのを見ちゃった。
「君を守りきれなかった俺が言う資格はないかもしれないが……君が危ない目に遭うのは嫌なんだ。場所を地図で示すことはできるか?せめて犯人のいる場所近くまで行ってここにいると伝えるだけにしてくれ。もう目を覚まさないかもしれないと思うのは」
ぎゅっと唇を噛み締めてしまったロードリック様。
「ロードリック様……」
ああ、ロードリック様は僕が心配なんだ。僕を守りたいんだ。僕がいなくなることをこんなに心配してくれるなんて幸せすぎるよ。だからこそ僕は僕達を襲った犯人が許せなくて絶対に捕まえるって決めたんだ。
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