愛人候補で終わったポチャ淫魔君、人間の花嫁になる。

からどり

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その部屋には人が横になれるサイズのソファと小さなテーブル、冷蔵庫があった。

「ここは安全だ。寝心地が悪いと思うがアレックスはソファで横になって休んでくれ」

「ロードリック様は?」

まるで僕を置いてどこかに行ってしまうようじゃないか。

「俺は見回りがある。呪われた物が勝手に動くから手順通りに治める必要があるんだ」

「それが終わったら一緒に寝てくれますか」

不安と寂しさで太い僕でも押し潰されてしまいそうだよ。

「っっ……~~~」

ロードリック様は顔を押さえて俯いてしまった。
うわあぁっ!僕がわがままを言ったから困らせちゃった!僕だけでソファがいっぱいになっちゃうのにあんなこと言っちゃうからっ!

「アレックス、待っててくれ。最短で用を済ませて必ず戻る」

赤い顔をしたロードリック様はふらりとした足取りで部屋を出てしまい、僕はぽつんと一人で残された。

ロードリック様と一緒に寝たい!その目標のために僕はまずプルプルの体に力を入れて引き締めてみた。
自らをおデブリー(おデブとラブリーをかけてるんだって)と言うお姉様の秘技には全身の力を入れて引き締めて短時間だけ痩せた体になる方法がある。
それを真似してみたけども僕のわがままなお肉は全く引き締まらなかった。
強力な魔法のせいでオークみたいにぽっちゃり体型になり、食べすぎても食べなくてもそれ以上太らないし痩せたりしない。でも成人した今ならば体が変わったかもしれないと筋トレをしてみたけど汗をかくだけで体重が減ったようには感じない。

でも諦めたくなくてソファに横になってできるだけ体が一番小さくなる方法を探した。

仰向けやうつ伏せは横幅をとるし、横向きならばと思ったら僕のお腹のお肉が液体になったかのように流れてソファの座面に寄り添ってしまう。
ギュっとお腹に力を入れて引っ込めて腕でお腹を押さえたらマシにはなった。

僕の体はどっちを向いてもまるで太くて長いクッションみたいだ。
諦めてソファにうつ伏せになって唸っているとドアから何かが入ってきた気配がした。
ロードリック様が帰ってきたのかな?僕は体を起こして入ってきた何かを確認した。
それはロードリック様でも透明人間の所長さんでもなかった。

「おおーん、おおーん」

「イヌ?」

この前、テレビでみた粘土アニメみたいなヌルっとした動きをするイヌ……違う、イヌの置物がこっちに近づいてくる。僕はベッドから降りてイヌの置物に近づいてみた。

「おおーん、おお、おーん」

僕の前で立ち止まると光を反射するだけで動かない置物の目が僕を見た気がする。

「悲しいの?僕も悲しいんだ。好きな人を怒らせちゃったみたいだからね」

置物を撫でてあげると、置物はまるで僕の言葉が分かっているかのようにおすわりをして前足を鳴らした。なんだか愛おしくって僕は抱きしめてあげてあげた。呪い?なのか瘴気を溜め込んでいるみたいだけど僕は淫魔だから大丈夫。

「僕の好きな人は僕の夫なんだよ。背が高くてスマートでカッコイイ男の人なんだ。チョコレートを食べさせてくれるし、ステーキを焼くのも上手なんだよ。スキンシップが好きみたいで僕のほっぺやお腹を触って嬉しそうにしてくれると僕も嬉しくなるんだ」

「おおーん」

話している間、鳴きながらがったごっとと左右に揺れるイヌの置物君。粘土のように足を曲げ伸ばしして歩くのに抱きしめた体は硬くて石を抱いているみたいだ。でも僕のぬくもりが移ってじんわりと温かくなってきた。

「それにね、ロードリック様は初対面で女性物のドレスを来ていた僕のことをちゃんと男として見てくれてるみたいなんだ。僕はそれがすごく嬉しかったよ」
「おーん」
まるで僕の言葉を肯定してるみたいにイヌの置物は返事をする。落ち着いてきたみたいで揺れることがなくなり、鳴き声も減った。
それからもロードリック様について僕がどれだけ好きなのかを話していると部屋の扉が音を立てて開かれた。

部屋に戻ってきたのはロードリック様と所長さん。ロードリック様の顔色が青くなっていて、すごく驚いた顔をしていた。

「アレックス!無事なのか?!」

家に泥棒が入ったときよりも顔色が悪い。まさか本当に陽動で研究所が襲われたの?!

「ロードリック様っ、僕は大丈夫ですっ」

僕は姿勢をなおして、その場でくるりと周ってみせた。
僕が元気なのが分かってロードリック様も安心したように胸を撫で下ろしている。

「ねえ、犬の置物がこなかった?犬ってわかるかな?犬を模した大きな置物」

「このコのことですか?」

僕は抱きしめていたイヌ君を手で示したのだけどロードリック様が首をかしげた。傍にいる所長さんは首が見えないけど困った顔をしているように感じた。

「所長」

今まで見たことがない、ロードリック様のすがるような視線を受ける所長さんに僕は胸がモヤモヤした。

「アレは色的にこんな感じだったよね。形が変わっているけども特徴は良く似てる。うーーん」

モヤモヤするけど、二人はなにが気になるのだろうとイヌ君を見てみた。するとイヌ君はイヌじゃなくなっていた。
光を反射するだけだった目が飛び出して変な方向を向いているし、口が開いて尖すぎる牙がみえていた。舌がでていて、ヨダレがつららみたいに固まっている。、なにかから逃げるようにお座りの状態で手足を突っ張っていた。あれだけヌルっと動いていたのに、今は苦痛を受けた表情で死んだように動かない。

「……もしかして、いや、でも」

「イヌ君!どうしたの?ずっと一緒にいたのに!……はっ!まさか昨日の泥棒になにかされたの!?」

「それはないよ。遠隔で魔法を受けたなら警報機が鳴るし、侵入者もいなかったからね」

所長さんの声が響く。それはつまり?

「予定ではあと十年くらい瘴気を払うのに時間がかかったんだけどもまったく感じなくなってる」

「……僕が抱きしめていたから満足したのかな」

「え?」

「え?」

二人の驚く声が響いた。

「宿直室に入ってきた時に寂しそうだったから抱きしめてお話をしたんです。僕も寂しいけど一人じゃないよって。それにロードリック様のことをお話ししていたから僕の気持ちが伝わったのかもしれないです」

「アレックス……君は……」

ロードリック様は涙を堪えるように上を向いてしまった。どうしたのかな?あ!そうか!またやっちゃったんだね?!

「ごめんなさいっ!勝手にロードリック様のことを話してしまって!動かなくなるなんて思わなくて!」

どうしよう、ロードリック様だけじゃなくて所長さんにも迷惑をかけて嫌われちゃったら……っ!

「あー、大丈夫、大丈夫。アレックス君。人間界の置物は動くものじゃないからね。動かないようにするために瘴気を祓って呪いを解くのがここの目的だから」

「大丈夫、なんですか?」

「うん。呪いが解けて置物が動かなくなったからね。大丈夫。僕がちゃんと持ち主に返しておくよ」

「よかったぁ」

僕は安心して胸を撫で下ろした。ロードリック様も安堵したようで僕を見て笑っている。所長さんもきっと笑ってくれてるよね?
イヌ君が動かなくなっても寂しい時間に傍にいてくれた嬉しさから僕は何度もありがとうと頭を撫でた。
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