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しおりを挟む『もしもし。こちら魔法研究所。呪術対策課の受付です。本日の受付時間は終了しております。ご用事の方は朝の―――』
しばらくして知らない人の声が聞こえた!どうしよう!?
「あ、あ、待って」
所長につなげてって言えばいいのかな?でもどうやって?
『もしもし?イタズラ?』
あ……切れちゃう!ええと、えっと!!
「僕、アレックスと申します!所長さんはいますか?!ロードリック様、えっとヴァンヴァイド様がお屋敷の中で侵入者に襲われているんです!助けてください!」
『なんだって!?ヴァン君が……キミはどこにいるんだい?安全な場所かな?』
よしっ!通じた!!
「いま、ロードリック様のお部屋にいるんです。でもロードリック様は侵入者を始末しに行くって、僕、電話するように言われて、お願いです!早くロードリック様を助けてっ」
「落ち着いて。すぐに行くよ。君は安全な場所に隠れて。できればドアに鍵をかけて」
「はい!早く……早く来てくださいね!お願いします!!」
「ああ、すぐに行くから。心配しないで。それじゃ電話きるよ」
僕は電話を切って安心したのと怖かったのでその場に座り込んだ。
侵入者って誰?ロードリック様が勝てる相手なのかな??所長って人なら助けてくれるよね?大丈夫だよね?
★☆★
永遠の闇のような不安な時間はロードリック様の声で吹き飛んだ。
「俺だ。アレックス。怖ければそのまま鍵をしたままでいい。怪我をしていないか?」
怖くなんてなかった。早くロードリック様が無事か知りたくて急いでドアをあけた。
「ロードリック様、大丈夫ですか?!怪我は?」
僕はロードリック様の体を見たけど傷ひとつない。良かった!……だけど顔色が悪い。
「ああ、問題ない。アレックス、大丈夫だったか」
「ロードリック様!」
僕一人だけが安全な場所に置いてもらえたことに色んな気持ちが湧き上がり、ロードリック様に抱きついて安心したときだった。ロードリック様の後ろから知らない男の人の声がした。
「屋敷の中をぐるっと一周したけど泥棒は逃げたみたいだ。もう大丈夫だよ。」
だけどロードリック様の背後には廊下しかみえない。でも不思議なことに魔力の塊を感じる。
「所長、もしかしたら賊が戻ってくる可能性もあるのでアレックスを研究所で保護してもらえますか」
「いいけどもヴァン君、顔色が悪いよ。アレックス君と研究所に行きなよ。君は休んだほうがいい。この家に預けたものは研究所に一旦戻そう。僕が見ておくから」
どういう方法かは分からないけども見えない魔力の塊が声を出しているみたいだ。
「しかし、賊が戻ってこないとは言い切れません。俺が解呪の担当をしていることですし、途中で投げ出すようなことはできません」
「ヴァン君、僕はね。休んだほうが良いって言ったんだよ。投げ出して逃げろなんて言ってないよね。それにね、僕は所長。君は一研究員兼部下。呪いから開放されるために皆で補い合うのが僕たちのやり方じゃないのかな」
「しかし……」
「心配しないで。研究所には警備会社の警報装置付きだし、僕が結界を張ってある。君に預けた物の取り扱い方も把握してるから大丈夫。それに二人になにかあれば魔界と人間界の関係に亀裂が入るよ。泥棒がたとえ金目当てだったとしても周囲はありもしない陰謀を信じてしまうものだからね」
「……分かりました。アレックス、すまないがすぐに出るぞ」
見えない所長の言葉に促されて僕たちは研究所に行くことにしたけどロードリック様は心配でしょうがないようだ。でも安全だとしてもさっきのようにロードリック様と離れるのは嫌だよ。
魔車に乗りに行く途中、家の廊下に服が落ちていた。ロードリック様でも僕でもない服だったから泥棒が置いて言ったのかと思ったのだけど、ロードリック様は服を見ても触らずに横を通り過ぎた。
なのに服が浮かびあがり、まるで誰かが服を着ているかのように動いた
「ロードリック様、服が……」
「それは所長の服だ。気にしなくて良い」
「そうそう。気にしないで。僕が服を着ても服は透明にならないから、見つからないようにするためには脱ぐ必要があるんだよ」
「所長さんって、魔力の塊のことですよね」
「魔力の塊かは俺には分からないが、彼は透明人間だ。事故で透明な姿になったらしい」
「あはは、透明になったせいか記憶も透明になっちゃったみたいでね。どんな事故でこんな体になったかどころか名前も覚えてないんだよ。だから君も所長って呼んでよ」
「はぁ」
透明人間って……本当にいるんだね。魔界では一時的に透明になれる魔法を使える悪魔がいるけどもまだ会ったことはない。結婚式にも参加されていなかったし、ロードリック様のこと、まだ分からない事がいっぱいだよ。
魔車にのって研究所に付き、ロードリック様について中に入った。研究所に入ってすぐのところで所長さんは「ゆっくり休んでね」と廊下の奥へと進んで行った。
僕達は大きなドアの前で立ち止まり、ロードリック様は僕のほうに振り返った。
「アレックス、俺から離れないと約束してくれ」
さっき所長さんから言われた魔界と人間界の関係に亀裂が入るって言葉を気にしているのかな?僕は安心させるために力強く頷いた。そして二人で一緒に部屋に入ったのだけど、魔界にいた頃を思い出すくらい瘴気が強かった。
見た目は普通の宝石箱や木のお面、櫛や日常に使う物が棚に並べられている。だけどそこからドロリと瘴気があふれていた。
「アレックス、この瘴気はキミにはきつすぎるだろう。すまないが休憩室に着くまで少しだけ我慢してくれないか」
「大丈夫です!むしろ魔界みたいで落ち着きます」
「ま、魔界……」
「ロードリック様、この瘴気、いっぱい吸ってもいいですか?無くなったら皆の分が足りなくて困っちゃいますか?」
「瘴気を吸う?君は……そうか。人間とは違うんだな。だが本当に体を壊さないか?」
「大丈夫ですよ。僕、淫魔と悪魔の血を引いてますけど、遡るといろんな種族の血が混じってるんです。だから瘴気を沢山とった方がいいそうなんです」
「悪魔の家庭については詳しくないんだが、普通は種族同士で結婚するものではないのか?」
「うーん、淫魔って結婚にこだわらないですし、種族に関係なく子供を作れるから純血の淫魔の方が珍しいです」
「そうなのか」
ロードリック様から許可をもらえたし、すーはーすーはーと瘴気を胸いっぱいに吸う。魔界と似ているけど違う、僕はこの瘴気を吸うのが楽しかった。
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