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7(ロードリック視点)

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☆★☆☆★☆ 

出勤するといつも通りに透明人間の所長が呪われた宝石箱を開けるのに悪戦苦闘し、デスクにはバールやナイフ、千枚通しなど魔法とは無縁そうなものばかりが並んでいた。

所長は200年ほど前に魔法を極めた結果、肉体と記憶をなくしたという。ちょうどその後にこの魔法研究所を開いた創設者に拾われてからずっとココで生活している。
その特殊さから「ゴースト」と呼ばれ、この200年間、天国にも地獄にも行けず、輪廻転生などに組み込まれることもできずにココに存在している。

「おはようございます」

「ああ、おはよう。この宝石箱、魔法が駄目だから物理で開けようとしたんだけど無理だったよ」

肉体をなくしたというのになぜ服を着れるのか。物を持てるのか不思議だが、そういうものとしか説明がつかないので深くは考えないようにしている。

「呪いのせいですか?」

「うん」


「でも所長の魔力なら余裕で壊せると思いますが」

「やってみたけどダメ。この宝石箱は『魔法結合』で短所を補い合って『相殺』が効かなくなってる」

「高度技術の魔法結合……」

「そ。200年前、僕が考え出した魔法の術式さ。メモは残っていたから記憶を無くした後に断片的な情報は回収できたけどどうやって編み出したか思い出せなくてさ。これを誰かが使っているということは記憶をなくす前の僕が誰かに伝承したのは確かなんだけど……」

「それで物理攻撃で開きそうなんですか」

「分からない。この宝石箱の蓋と本体の間に物を差し込んでテコの原理で開けようとしても隙間に挟まらないんだよ。もちろん床に叩きつけたりノコギリを使ったり、いろいろ試したんだけどね」

所長は肩をすくめ、諦めたのか『解術方法不明』の箱に宝石箱を放り込んだ。

「ところでさ、そっちはどう?どストライクの旦那さんとは仲良くやってる?」

「えっ!?あ、はい……一応」

急に話を振られて言葉が詰まる。

「そっかぁ。良いねぇ。僕も早く結婚したいなぁ」

「……」

俺の反応を見て、透明だから顔なんて分からないがニヤニヤしているだろう所長。

世界の平和のために魔族と結婚できる人間を国の命令で探していた所長は肩の荷が降りてさぞ満足だろう。

数ヶ月前に居酒屋で「人間の女性と結婚できないなら魔族の女性と結婚してみたらどう?」と話を振ってきた。
酔っ払っていた俺は「俺は学生時代、女にひどい目にあったので懲り懲りなんですよ」と答えた。

「じゃあ男性ならどう?」

「男?ははっ、胸があってむっちりした体型で女に間違われるような外見で、可愛くて優しい性格。清楚で浮気なんてしない一途な男じゃないと嫌ですね」

「うわぁ、贅沢だなぁ。現実にいたら高嶺の花だよ」

「そりゃそうですよ。俺の理想は二次元合法ショタなんですから。現実にいるわけがないですよ」

「あー……君って……ショタって……少年や少女に手をだしてないんだよね?」

「俺、未成年は無理ですし、女は懲り懲りだって言ったでしょ。成人してる、いわゆる合法ショタがいいんです。でもそんなのリアルでは絶対にいませんから」

「理想の子がいるとしたら結婚できる?魔族でもあり?」

「っていうかそもそもこの世のどこかに俺の理想が存在してたりすると思うのですか?二次元っていうのは夢物語みたいなもので……」

「もしいたら?」

「いたら……結婚します!」

「ふぅん、うん。伝えておくよ」

「な、なんですか?伝えておくよって」

「まあまあ。理想がすごく高いってこと伝えるだけだから」

「なにか企んでるんですか」

「大丈夫だよ。夢物語なんて叶わないんだから」

あの時の会話を思い出しながら「所長もまさか俺の理想を魔界が用意できるとは思わなかったんだろうな」と考える。

……酒を控えよう。あの時もだが昨日も失敗してしまった。パンツは履いていたとはいえほぼ全裸で「寒い」と言いながら一緒に寝てしまった。年下にあんな醜態を晒したのだ。きっと呆れられているに違いない……。

それに運よく何もなかったが、俺からのスキンシップは酔いがまわるほど激しくなってしまっている。このままでは絶対にいつか押し倒してしまう。
そうなったら絶対に俺は止まらなくなる。

政略結婚から両思いになる本のような「俺の全てを君に捧げる」「私の全てはあなたのもの」などという展開には絶対にならない自信がある。あれは年が近い二人が困難を乗り越えたからこそ絆が生まれるんだ。

薄い本の気持ちの悪いおじさんみたいになって嫌がるアレックスを押さえつけて
「ああっ、可愛いよ!君は最高だ!!おじさんと良いことしようね」
とか言いながら襲ってしまうだろう。
それだけは阻止しなければならない。阻止しなければならないのに妄想が止まらない。

「……はぁ」

ため息をついて頭を振っても美味しそうにステーキを食べていたアレックスの顔が頭から離れない。
好みにピッタリの男と結婚なんてできないだろうと思っていた。しかし目の前に現れ結婚までできたのに……もやもやとした気持ちを抱えてデスクに向かった。
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