愛人候補で終わったポチャ淫魔君、人間の花嫁になる。

からどり

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☆★☆☆★☆
二次会が終わったあとはそのまま新居に一直線。
後ろから「三次会どうすんだよ~」という声を聞きながら、ヴァンヴァイド様から押し込められるように魔車という魔法で動く乗り物に乗った。

僕とヴァンヴァイド様は後ろの席で隣同士で座るのだけど会話なんてない。
気まずさもあって僕は魔界から持って来た自分の荷物を膝に乗せて胸に抱えたまま魔車の窓から流れる外の景色をみることにした。
魔界では空を飛ぶ魔物が吹き飛ばすから縦に長い建物はない。
だから初めてみる長くて四角い建物や高い塔が珍しくて見ていて飽きなかった。
たくさんの人が歩いていたり、魔車もいろいろな形や色があってとても賑やかだった。
だけど魔車が進むに連れて景色が変わっていき、のどかな緑の風景になっていく。

魔車が止まったのは小さな家の前。森がすぐそばにあって民家はココ以外にない。

「ここは?」

どう見ても家というかちょっとしたお屋敷に僕達は住むんだって予想はできたけど一応聞いておくことにした。

「俺達の家だ。今日から俺と二人で住んでもらう。食事も洗濯も掃除も全部自分達でやるんだ」

魔王様の部下による人間界についての事前情報だとこの人間界は身分制が残っているし王族もいる。だけど政治は議会制で魔界ほど貴族の地位は厳重ではないらしい。だからヴァンヴァイド様も伯爵の身分はあるけど伯爵で食べてはいけないし仕事を持っているんだって。

ヴァンヴァイド様が運転手にドアを開けて貰って車から降りた。降り方を知らない僕はその様子を観察する。そして運転手の人が僕の方のドアを開けてくれたから降りようとしたらヴァンヴァイド様が僕に向かって手を差し出してきた。

「手を取れ」

「え?あ、はい……」

そっと差し出された手に自分の手を乗せると優しく握られ、そのまま引っ張られるように地面に足がついた。

「荷物はこれだけか」

「は、はいっ!」

突然声をかけられて荷物を取り上げられたからびっくりしながら返事をする。まるで誘拐するかのような早足で歩く彼にエスコートされて家の中に入った。

「お前の部屋はこっちだ。ついてこい」

僕よりも大きな背中を見つめながらついていく。
案内された部屋は殺風景でベッドと机と椅子があるくらいでクローゼットもない。

「このドアで俺の寝室と繋がっている。ついて来てくれ。衣装部屋に案内する」

「え?へ?」

今、衣装部屋って言った?僕の荷物を抱えてヴァンヴァイド様が先に部屋を出るから僕もついて行くしかない。

「淫魔にはそれくらい服を置く場所が必要だろ?」

「は、はぁ」

ヴァンヴァイド様の執務室の隣に僕の衣装部屋というのが用意されていた。でもここはもっと殺風景で服をかけるハンガーラックが二個並んでるだけ。あと僕の身長と同じくらいの鏡が壁に立て掛けられていた。

「これは?」

知らない人が多いかもしれないけど魔族は人間界の鏡に映らない。

「その鏡は魔族でも映る鏡だ」

「え!?高かったでしょ!?いいんですか?」

魔界からお取り寄せしてくれたのかな。

「ああ、だがあまり使いすぎるな。人間でも魔族でも姿を写った者の魔力を吸収して真の姿を写す仕組みだ。」

「……」

うーん、鏡をみるだけで魔力が減るのかー。ファッションショーごっこであそべないなあ。黙り込む僕を見て彼は眉間にシワを寄せた。

「なんだ?不満なのか?」

「いえ、そういうわけじゃなくて」

「なら問題ないだろう」

そう言ってまた僕の荷物を持ってくれた。そろそろ荷物の片付けをさせて……人質みたいになってる僕の荷物。
そう言えなくて結局家の中を全て案内してもらうまで荷物は彼の腕の中だった。

☆★☆☆★☆

それからは僕の寝室で一人。やっと一人で過ごせる時間ができた。
ベッドの上でゴロゴロしながら今日、どうするか考える。とりあえず晩ごはん作るでしょ。あ、その前にかまどと薪の用意もしなきゃ。お掃除は明日でいいかな。体を拭くためのお湯は二人分用意して……ベッドのシーツは毎日変えるのかな。
そんなことを考えているとコンコンとノックの音。

「はい」

扉を開けるとそこにはエプロン姿のヴァンヴァイド様がいた。腕には白い袋が抱えられている。

「お疲れさまです」

お辞儀をして顔を上げるとヴァンヴァイド様は僕に白い袋を押し付けてきた。袋はすべすべしてカサ、シャカ、と変わった音がした。中には初めてみるものばかりで液体の入った透明の筒もある。

「菓子と飲み物だ。くつろいでいればいい」

そう言うとまた出て行ってしまった。これがお菓子?飲み物?
白い袋だけでも魔界には無いものだからドキドキする。

「いただきます」

まずは透明な筒。入っているのは赤い果実水みたいな液体。……開け方、わかんないや。上?が細くて小さい……蓋?がついてる。……コルクじゃないんだ。蓋?を引っ張ってみたり、歯でとろうとしても固くて開かない。仕方がないから筒の上の細い部分を魔法で切り取って飲んでみる。

「ふああああ!なにこれ!パチパチジョワジョワする!」

不思議な体験をした僕はお菓子で口直しをすることにした。人間のお菓子はどんなものだろう。こっちは箱で、僕でも開け方が分かった。
箱のふたを開けると色とりどりの丸いものがたくさん入っていた。
ひとつつまんで口に入れる。口の中で解けていく。これはチョコレートだ!お母様やお姉様達が年に一回、お客様に配るんだ。僕も余ったチョコレートを貰ったけど甘くて幸せな味がするんだ。こんなところで食べられるなんて思わなかったよ。
甘いものは大好きだからあっという間に食べてしまった。

「はぁ……」

もう無くなっちゃった。チョコレートって特別な日のお菓子ってお母様達は言っていたから、次は結婚記念日の今日、つまり一年後になっちゃうな。箱の中に鼻を近づけるとほんのりとチョコレートの香りがする気がする。箱、もらっていいかな。

そうだ、忘れないうちにお礼のカードを書かなかきゃ。僕はカバンからお姉様にもらったメッセージカードセットとペンを取り出した。

『お菓子ありがとうございます。とても美味しかったです』

あと、結婚式ではビックリしましたね。指輪のサイズはいつ知ったんですか?んー、これは駄目かな。
うーん、結婚頑張りましょう、違うかな。不束者ですが……うん、相手は年上だし手堅くいこう。

☆★☆☆★☆ 

「おい、風呂に入れ」

「ひゃあ!」

急に声をかけられてびっくりした。いつの間に部屋に来て後ろに立っていたんだろ。

「早くしろ。湯が冷めるぞ」

「えっと、僕が先ですか?」

「ああ、お前が先だ」

「あ、はい、分かりました」

カバンから着替えのパジャマと下着を持ち、なぜかヴァンヴァイドさんとお風呂場に行く。

「シャンプーはこれだ。使うか分からないがリンスはシャンプーとセットのを買ってある。タオルはこっちの棚にあるものを好きに使え。石鹸はこの固形のものとこの液体のもの、どちらを使うかは自分で選べ」

早口に説明されて、はい、としか言えなかった。

「何かあれば呼べ」

そう言って彼は出て行った。

うーん、もしかしなくても魔族で、しかも淫魔だから警戒されてるよね。

「……よし、お風呂に入ろ」

脱衣所で服を脱いで浴室に入る。娼館みたいにキレイなお風呂だ。

「あ、あれ?」

なんだろう?この銀色の変な形の金属と白い棒。白い棒は触ってみると固いけど長い部分はある程度曲がったりする。

「お湯……」

緑色のすべすべの桶で人間を熱湯攻めできそうな大きな桶からお湯を汲んで使う。透明なお湯からはいい匂いがしてる。お湯はちょうどいい温度だしなによりも綺麗だ。魔界のお水とは違う匂いがするし触るとザラザラしないし柔らかい感じがする。
髪を洗って、体も洗う。

「……はぁ」

「……この後、ヴァンヴァイド様とするんだ」

思わず呟いちゃった。
だって初夜だよ!初夜!どうしよう。僕、どっちになるのかな?魔車から降りるときみたいにやっぱりリードしてくれるのかな。

綺麗になった体で持ってきているパジャマを着る。どうしよう。寝室で待機?どっちの寝室で?!
まず自分の寝室に行くけど誰もいない。隣の寝室に行ってみたけど誰もいない。
リビングに行って見るとヴァンヴァイド様はソファに座って本を読んでいた。

「ヴァンヴァイド様、先にお風呂を使わせていただきありがとうございます」

「ああ」

本から顔をあげた彼は僕をみてすぐに目をそむけてしまった。でもすぐに横目でこっちを見てきた。

「髪を乾かさないのか」

「……?」

風魔法が使えないからタオルでしっかり水気は吸い取ったんだけどどうしよう。

「ドライヤーは洗面所に置いてあっただろ。キミの家でもあるんだ。好きに使ってくれ」

「どらいやあ?」

話的に髪を乾かすなにか、だよね。風魔法を使えるお姉様は自分で髪を乾かしたり、皆の髪を乾かしてくれる。ドライヤアさんという人がいる様子もないし首を傾げるとため息が聞こえてきた。

「ここで座って待っていろ」

僕がソファに座るのと入れ違いで彼は立ち上がってどこかへ行った。戻ってくると洗面所にあった道具を持っていて、しゃがんで壁に紐みたいなものをつけていた。
そして僕の隣に座って道具の先をこっちへむけてきた。すると音を立てて風が吹き、温かい空気が頭を覆う。

「わぁ!なにこれ!すごい!」

「ドライヤーだ。覚えておけ」

「はいっ!」

髪を手ですく感触や温かい空気が気持ちよくて僕はついウトウトしてしまった。気がつくとヴァンヴァイド様にもたれて眠っていた。

「うわああ!ごめんなさいっ」

「目が覚めたか。部屋に戻りなさい」

慌てて起き上がると頭を撫でられた。そのまま僕の手を握って立ち上がったから僕も立つと彼はこっちの手を引いて歩き出す。

「あ……」

「寝室はこっちだ」

手を引かれるまま彼の後についていく。

「……緊張しているのか?」

「そりゃ、まぁ……」

この流れは初夜突入でしょ。うん。

「そうか」

短い距離だけど長く感じる時間を無言のまま歩いて僕の寝室の前にきた。

「今日は疲れているからゆっくり休むといい」

「えっと、その……ヴァンヴァイド様」

「なんだ」

「あの、ありがとうございます」

「……早く寝ろ」

「はい、お休みなさい」

「ああ、おやすみ」

僕は彼に背を向け、扉を開け、中に入った。
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