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淫魔として生まれて12年目。魔界を僕が歩くだけで道行く人が振り返る。
「アレックス君ってほんと可愛いよね~」
「あ~、魔王様の愛人候補じゃなきゃ俺が……」
「女の子みたいよね。男の子ってホントかしら」
「丈の短いショートパンツから見える太ももを舐め回したい」
僕のお母様は魔界で指折りの淫魔。お父様ズは悪魔の貴族。僕は物心ついた頃にはまるでお人形のようと言われ、男の娘好きな悪魔に誘拐されかけたこともある。
そんな美ショタ淫魔なのに経験は一度もない。その理由は僕が生まれた年に遡る。
12年前、魔王様が「俺様のために成人まで純潔を守った美しき淫魔を抱きたい」と淫魔族に言った。だけど未経験の淫魔を探すなんて砂漠に落とした砂をさがすようなもの。
それでその年に生まれた淫魔の赤ん坊達から特に容姿が良かった子達が魔王様のために選ばれた。その赤ん坊達の家族には「淫魔として性行為させず、性的知識も極力教えず、なおかつ優秀で魔王様を支えられる悪魔になるよう育てよ」と命じられた。
その淫魔の赤ん坊の一人が僕だ。
僕達はすくすくと成長し、淫魔の学校ではなくエリート悪魔達が通う学校に入学した。この入学試験は魔王様の愛人候補たちを振り落とす試験も兼ねており、教育係達が目を血眼にして僕に勉強を教えてくれたおかげで入学できた。
成績はまあまあだけどラベンダーアッシュのサラサラロングヘアと同じ色の大きな目が学校内でも注目のまとだった。僕は成績が普通だけど、外見だけなら魔王様の愛人候補第一位と評されていた。
ある日、いつものように学校で過ごしていたんだけど同級生二人が喧嘩していた。原因は二人の好きな恋愛小説らしい。二人はお互いの好みについて言い争っていたけど、結局最後は成績とかいろいろ競っていることまで話が広がり取っ組み合いの大げんかになった。
二人はクラスの中でも成績上位者でバチバチと魔法が飛び交い、二人共素早く攻撃を避けていくから、バシン、べシンと周りの野次馬達が吹き飛ばされていく。
「このワタシがあんたになんて負けないっ!絶対にワタシみたいに小さくてかわいいのがステキなんだから!あんたなんかオークみたいになっちゃえ!!」
「あなたなんてただのちびノミじゃない!そんなにチビのままが良いなら体の時間を止めてあげるわ!!変態の餌食になりなさい!!」
「うおおお!お前ら!喧嘩をやめろーーーー!!」
脳筋先生……じゃなかった。護身術の先生が地響きを立てながら喧嘩の仲裁のために走ってきている。あれ、このまま真っ直ぐいくと僕達に当たるんじゃ……?
―――ドッゴォオオオン!!
「ぐぁあああっ!」
先生は僕達を避けようとしたせいで地面にめり込んでしまった。
「きゃああ!!?」「今の何!!?」
先生を心配して背中を向けた僕だけど同時に熱い衝撃を受けて頭が真っ白になった。
気がつくと保健室のベッドで寝ていた。なんだか体が重い。たしか、同級生の喧嘩を見ていたら護身術の先生がきて、先生を見ていたら背中に魔法をぶつけられて……?魔法、そう。魔法だ。
なんで魔法を受けたのか思い出せない。
すると、保険医さんが入ってきた。
「あらアレックス君起きたのね。大丈夫?」
「はい……。あの、一体どうなったんですか?それにどうして僕はここにいるんでしょう?」
「うーん、説明が難しいんだけどね。喧嘩を止めに来た先生が転んだのよ。喧嘩をしていた二人が変身魔法と時を止める魔法を発動中で、先生が転んだ音にびっくりしてその方向を向いたの」
え、まさか
「その二人の魔法、発動の途中放たれてしまって……その発動した方向にいたのがちょうどあなただったのよ」
あの時に受けた衝撃はやっぱり魔法だった。あの魔法ってたしか……
「ええっと……落ち着いて聞いてね。あなたの体だけど……」
僕は自分の体を見下ろした。
なんだか服が窮屈だと思ったらぴっちりピチピチで、胸がふっくら出ている。そして同じくらいお腹も出ているし足も腕も太くなってる。
これはつまり……?
「女のこ……?」
「いえ、男の子のままよ」
あ、良かった。なんか股間にあるものが通常時なのに太ももに感じるくらい大きくなっていて、女の子だとしたらすごく違和感を感じるもの。
「私もなんとかしようとしたのだけれど、中途半端に発動した二つの魔法が混ざり合ってまったく新しい魔法になっているの。これは呪いと言い変えてもいいわ」
「呪い……」
「そう。魔法『造形変化』は一定時間の間、外見を変える魔法だけど。そこに『時間停止』が加わったせいで何度、造形変化をかけようと外見が変わらなくなったの」
「直接、たとえばダイエットとか反対にいっぱい食べれば体型に変化が……」
「ないのよ。普通、魔法の解除っていうのは反対作用の魔法をぶつけて相殺するの。例えば火魔法と水魔法の関係。1-1は0でしょ?」
火と水の相殺関係は有名だ。魔力が同等だとぶつかり合うと両方とも消えてしまうんだ。
「でもあなたにかかったさっきも言ったけど中途半端に発動した魔法が融合しているから『造形変化』や「時間停止』の相殺関係にあたる魔法をかけても解けない状態なの」
「そっか……僕、太ったまんまなんだ」
別にいいけどね。魔界では美人の基準が広いからスケルトンからオーク、触手まで様々な種族の美人がいる。僕は女顔だし中性的な容姿だから男の娘好きな悪魔に狙われてきたし、むしろぽっちゃりした方が狙われなくて安全かも。
「それと魔法の効果が続く間は背も伸びないかもしれないわ」
「え?今の僕の身長ってどれくらいですか?」
「測ってみる?」
「はい」
先生に測ってもらうと150cmジャスト。ええ?変わってない!横も増えたんだから縦も増えてよ。僕、お父様達みたいに背が高くなりたいのに。
体重は、うん……増えてた。これで体重が前と変わってなかったら絶対に詐欺って言われるくらいだ。
はぁ……でも運がいい方なのかな。あの子がかけようとしてたのは「オークの見た目になれ」って魔法だったし、完全に本物のオークみたいな外見になると僕の自慢の髪も目もお気に入りの鼻も口も無くなってるところだった。
「あっちゃーん?おるか~?」
ガラリと保健室のドアを開けて入ってきたのはアモンだ。赤い髪と爽やかな顔で人気だけどお金や宝石が大好きで、お金を払うとデートする仕事をしてて将来有望と言われてる悪魔の子だ。
「あ、アモン。来てくれたんだ。わざわざ見に来てくれてありがとう」
「ええんやで。あっちゃん。アイツラから慰謝料とるときはワイを頼ってや。ガッポリ慰謝料とったるから仲介料頼むで」
「あはは、僕は困ってないし、そこはお母様達に聞いてみないと分からないや」
「ちぇっ。あっちゃんなら金になると思ったのに」
「そんなことより、この姿どう思う?」
「……?なにがどう思うって?なんでそんなにぷくっ……て……ぶひゃっ!ブフッ!グヒッ!横ちんしとるやんけっ!!ヒィーッ!」
「うーん。やっぱり……え?横ちん?」
学校の制服は丈の短い半ズボンだ。ズボンの内側の裾からボクのサキッポが「こんにちは」していた。
「うわわっ!」
なぜかオッキしてないのに大きくなってるの忘れてた!
「なんのアピールやねん。おもしろすぎるわ。ぢゅふわーっ!あかんっ、笑いが抑えきれへん!」
「ちょ、ちょっと!アモン笑いすぎだよ!!」
「ごめん、ごめん。いや、でもそれは無理やって。心配してきた友達に横ちん見せるってブヒャア!我慢できひんて」
なぜか笑いのツボに入って大ウケしてるアモン。僕は恥ずかしくて泣きそうになりながら横からこんにちは状態のボクをなんとかパンツに入れようと格闘する。
そんな時に保健室のドアがまた開いた。
「おい。アレックス大丈夫か?」
「連絡が来たけどアレックス君大丈夫?」
「魔法をかけられたって、アレックスさん大丈夫ですの?」
「怪我はない?アレックス君大丈夫?」
「アレックスさん大丈夫?お迎えに来たよ」
「アレックス、大丈夫か?今日はパパと帰ろうな」
「アレックス君大丈夫?お父さんの方がいいよね?」
あっちゃ~、お母様より先にお父様達がきちゃった。僕の七人のお父様達は全員同じ家系。本家が三人兄弟、分家Aが二人兄弟と残りの分家Bと分家Cはそれぞれ一人っ子。七人ともお母様が大好きで、同じ時期にお母様と愛し合ったから僕のお父様は七人のうちの誰か。本当ならお父様は誰か調べるべきなんだろうけど淫魔は産んだ親が誰かこそが一番重要だ。それに、どのお父様も僕のことを息子だと想っているから問題なし!とお父様が決めたので僕も誰がお父様かは調べていない。
「あ、お父様達」
「あああ~、ほんとにぽっちゃりなアレックス君になってる!ますますママそっくりになったね!」
うん、ママは熟女系淫魔だからぽっちゃりワガママダイナマイトボディだ。
「可愛いよ。アレックス、すごくかわいいよ。本当に小悪魔だね!」
お父様達はアモンや先生のことなんてすっかり意識になくて、僕をワッショイワッショイと持ち上げてしまった。
「ひいいひっひっひ!胴上げされとる!横ちんしたまま胴上げ!」
アモンの笑い声ととうとう笑いのツボに入ったのか呼吸困難気味の先生を残して僕はお父様達の車に乗って帰宅した。
☆☆☆☆☆
「あ~、疲れた」
お父様達が僕を独占して一緒にいたいからって喧嘩が始まったからこっそり帰ってきた。
淫魔は基本的に結婚しないし、淫魔の子は基本的に産んだ親の家で育てる。お母様は種違いの子をたくさん産んでいるけど皆平等に育ててくれる。妻子がいるお父様もいるけど心の特別は『僕のお母様」だから、最愛の人との子供であるだろう僕と一緒にいる時間を作りたくて兄弟喧嘩になるんだ。
「うーん、悪いことしちゃったかな。でもお父様達の家にちゃんとお泊りに行っているし、子供は僕の他にそれぞれの奥さんの間にもいるんだからいいよね」
お母様は体型が変わった僕を見ても、先に保険の先生から連絡してもらったこともあってか驚きもせずいつも通りに迎えてくれた。
お風呂場で裸になり鏡に映る自分の姿をまじまじと見る。ぷよぷよのお腹にぷにっと突き出た胸。二の腕も足も丸々している。そして股間だけなぜか縦も太さも立派に成長してる。
……オークみたいな体型と言われたらそうかもしれない。
股間のサイズはオークの股間を見たことがないから分からないけども。
「はぁ……」
思わずため息が出る。だって僕は男の娘から脱出したいのにぽっちゃり男の娘になっちゃったよ。女の子みたいな格好も女の子みたいにおしゃれするのも好きだけどやっぱりお父様みたいな悪魔貴族になるのが憧れなんだよね。
「……あー、そういえば魔王様ってぽっちゃりが好きじゃなかったはず。たしかスレンダーな美人が好きだって」
この前は抱きしめたら折れそうなマミー族の美人を愛人にしたって噂になっていた。僕達、愛人候補もスレンダーな方が有利だって言われている。だから今のうちからスポーツをしたり、細くなるため運動をしている候補者が多い。
だけど僕は魔王様のために綺麗になろうって思えなかった。欲望むき出しの厳しい淫魔社会を背負うお母様の背中やお姉様たちの戦いを見て育ってきたから王家の愛人グループがどんなところか想像がついてしまう。
「もしかしてこのままの体型を維持していたら成人になった時に魔王様の愛人にならなくて済むってことでいいよね?」
僕はやっぱり運がいいみたいだ。
☆★数年後★☆
僕を含めて魔王様の愛人候補者達が成人を迎えた。そして今日は愛人になるかが決定する日だ。12歳で太った姿にかわり、魔法を解除する方法がないまま今日になった。
直接、体型を理由だとは言われなかったけども愛人候補から落選できた。
だけどナゼかその日のうちに一人だけ別室に呼び出された。そして目の前の魔王様の部下の人から難しい言葉で愛人候補になれなかったから今までにかかった教育費を返してねって言われた。
「……あのー、教育費を返すようにってどういうことでしょうか」
今までそんな話をされたことない。てっきり魔王様が命令しただけで教育のお金は自分達の親が払っているのだとおもっていた。
「おや、説明した通りですよ。もっと分かりやすく説明しますと今までにかかったあなた達の教育費は魔王様のご負担でした。愛人教育を受け、愛人になった者は魔王様に骨の髄まで捧げて尽くすことで支払いを免除されます。しかしソレ以外の方は魔王様からの奨学金ということで働いて返済を行わなければなりません。あなたの場合は母君の紹介で娼館で働くのが良いのではないですか?」
「えっとですね、僕、魔王様の愛人候補として育てられたから淫魔としてのアレコレをなんにも知らないんですけど……」
お母様は高級娼館のオーナーであり、自らもお店に出て魔界の政治家や別の魔界から来る高貴な方々のお相手をしている。
家族にとっては優しく懐の広いお母様も娼館オーナーの時は実力主義者だ。いくら血の繋がりがあっても能力がない子は絶対に働かせては貰えない。
僕が今から性技を勉強しても娼館のお姉様達に追いつけないだろうし、後から後から淫魔の英才教育を受けた子がいっぱいくるんだ。勝ち目はないし、都落ちどころか最下層に落とされるのが目に見えている。
だったら学んできたことを生かしてどこかの貴族様の従者になったほうがいい。
「そうですか。では借金奴隷として働いていただきましょうか。大丈夫です。すでに体を壊しても問題ない仕事を用意しております」
この悪魔、笑顔でさらっと言ってるけどこれってものすごく怖いことだよね? だって働いている先で死んでもオッケーって言ってるようなものでしょ?
しかもすでに用意されてるって……働く先があると返事をしていても借金奴隷だから強制的に連行されてしまうってことじゃないか。逃げ道なしだしここで断れば借金を返す意思なしで僕どころか家族皆の首が物理的に飛んでしまう。
「……わかりました。それでお願いします」
こうして僕は借金奴隷となり働くことになったんだけど、まさかあんなことになるなんてこの時は思いもしなかった。
「アレックス君ってほんと可愛いよね~」
「あ~、魔王様の愛人候補じゃなきゃ俺が……」
「女の子みたいよね。男の子ってホントかしら」
「丈の短いショートパンツから見える太ももを舐め回したい」
僕のお母様は魔界で指折りの淫魔。お父様ズは悪魔の貴族。僕は物心ついた頃にはまるでお人形のようと言われ、男の娘好きな悪魔に誘拐されかけたこともある。
そんな美ショタ淫魔なのに経験は一度もない。その理由は僕が生まれた年に遡る。
12年前、魔王様が「俺様のために成人まで純潔を守った美しき淫魔を抱きたい」と淫魔族に言った。だけど未経験の淫魔を探すなんて砂漠に落とした砂をさがすようなもの。
それでその年に生まれた淫魔の赤ん坊達から特に容姿が良かった子達が魔王様のために選ばれた。その赤ん坊達の家族には「淫魔として性行為させず、性的知識も極力教えず、なおかつ優秀で魔王様を支えられる悪魔になるよう育てよ」と命じられた。
その淫魔の赤ん坊の一人が僕だ。
僕達はすくすくと成長し、淫魔の学校ではなくエリート悪魔達が通う学校に入学した。この入学試験は魔王様の愛人候補たちを振り落とす試験も兼ねており、教育係達が目を血眼にして僕に勉強を教えてくれたおかげで入学できた。
成績はまあまあだけどラベンダーアッシュのサラサラロングヘアと同じ色の大きな目が学校内でも注目のまとだった。僕は成績が普通だけど、外見だけなら魔王様の愛人候補第一位と評されていた。
ある日、いつものように学校で過ごしていたんだけど同級生二人が喧嘩していた。原因は二人の好きな恋愛小説らしい。二人はお互いの好みについて言い争っていたけど、結局最後は成績とかいろいろ競っていることまで話が広がり取っ組み合いの大げんかになった。
二人はクラスの中でも成績上位者でバチバチと魔法が飛び交い、二人共素早く攻撃を避けていくから、バシン、べシンと周りの野次馬達が吹き飛ばされていく。
「このワタシがあんたになんて負けないっ!絶対にワタシみたいに小さくてかわいいのがステキなんだから!あんたなんかオークみたいになっちゃえ!!」
「あなたなんてただのちびノミじゃない!そんなにチビのままが良いなら体の時間を止めてあげるわ!!変態の餌食になりなさい!!」
「うおおお!お前ら!喧嘩をやめろーーーー!!」
脳筋先生……じゃなかった。護身術の先生が地響きを立てながら喧嘩の仲裁のために走ってきている。あれ、このまま真っ直ぐいくと僕達に当たるんじゃ……?
―――ドッゴォオオオン!!
「ぐぁあああっ!」
先生は僕達を避けようとしたせいで地面にめり込んでしまった。
「きゃああ!!?」「今の何!!?」
先生を心配して背中を向けた僕だけど同時に熱い衝撃を受けて頭が真っ白になった。
気がつくと保健室のベッドで寝ていた。なんだか体が重い。たしか、同級生の喧嘩を見ていたら護身術の先生がきて、先生を見ていたら背中に魔法をぶつけられて……?魔法、そう。魔法だ。
なんで魔法を受けたのか思い出せない。
すると、保険医さんが入ってきた。
「あらアレックス君起きたのね。大丈夫?」
「はい……。あの、一体どうなったんですか?それにどうして僕はここにいるんでしょう?」
「うーん、説明が難しいんだけどね。喧嘩を止めに来た先生が転んだのよ。喧嘩をしていた二人が変身魔法と時を止める魔法を発動中で、先生が転んだ音にびっくりしてその方向を向いたの」
え、まさか
「その二人の魔法、発動の途中放たれてしまって……その発動した方向にいたのがちょうどあなただったのよ」
あの時に受けた衝撃はやっぱり魔法だった。あの魔法ってたしか……
「ええっと……落ち着いて聞いてね。あなたの体だけど……」
僕は自分の体を見下ろした。
なんだか服が窮屈だと思ったらぴっちりピチピチで、胸がふっくら出ている。そして同じくらいお腹も出ているし足も腕も太くなってる。
これはつまり……?
「女のこ……?」
「いえ、男の子のままよ」
あ、良かった。なんか股間にあるものが通常時なのに太ももに感じるくらい大きくなっていて、女の子だとしたらすごく違和感を感じるもの。
「私もなんとかしようとしたのだけれど、中途半端に発動した二つの魔法が混ざり合ってまったく新しい魔法になっているの。これは呪いと言い変えてもいいわ」
「呪い……」
「そう。魔法『造形変化』は一定時間の間、外見を変える魔法だけど。そこに『時間停止』が加わったせいで何度、造形変化をかけようと外見が変わらなくなったの」
「直接、たとえばダイエットとか反対にいっぱい食べれば体型に変化が……」
「ないのよ。普通、魔法の解除っていうのは反対作用の魔法をぶつけて相殺するの。例えば火魔法と水魔法の関係。1-1は0でしょ?」
火と水の相殺関係は有名だ。魔力が同等だとぶつかり合うと両方とも消えてしまうんだ。
「でもあなたにかかったさっきも言ったけど中途半端に発動した魔法が融合しているから『造形変化』や「時間停止』の相殺関係にあたる魔法をかけても解けない状態なの」
「そっか……僕、太ったまんまなんだ」
別にいいけどね。魔界では美人の基準が広いからスケルトンからオーク、触手まで様々な種族の美人がいる。僕は女顔だし中性的な容姿だから男の娘好きな悪魔に狙われてきたし、むしろぽっちゃりした方が狙われなくて安全かも。
「それと魔法の効果が続く間は背も伸びないかもしれないわ」
「え?今の僕の身長ってどれくらいですか?」
「測ってみる?」
「はい」
先生に測ってもらうと150cmジャスト。ええ?変わってない!横も増えたんだから縦も増えてよ。僕、お父様達みたいに背が高くなりたいのに。
体重は、うん……増えてた。これで体重が前と変わってなかったら絶対に詐欺って言われるくらいだ。
はぁ……でも運がいい方なのかな。あの子がかけようとしてたのは「オークの見た目になれ」って魔法だったし、完全に本物のオークみたいな外見になると僕の自慢の髪も目もお気に入りの鼻も口も無くなってるところだった。
「あっちゃーん?おるか~?」
ガラリと保健室のドアを開けて入ってきたのはアモンだ。赤い髪と爽やかな顔で人気だけどお金や宝石が大好きで、お金を払うとデートする仕事をしてて将来有望と言われてる悪魔の子だ。
「あ、アモン。来てくれたんだ。わざわざ見に来てくれてありがとう」
「ええんやで。あっちゃん。アイツラから慰謝料とるときはワイを頼ってや。ガッポリ慰謝料とったるから仲介料頼むで」
「あはは、僕は困ってないし、そこはお母様達に聞いてみないと分からないや」
「ちぇっ。あっちゃんなら金になると思ったのに」
「そんなことより、この姿どう思う?」
「……?なにがどう思うって?なんでそんなにぷくっ……て……ぶひゃっ!ブフッ!グヒッ!横ちんしとるやんけっ!!ヒィーッ!」
「うーん。やっぱり……え?横ちん?」
学校の制服は丈の短い半ズボンだ。ズボンの内側の裾からボクのサキッポが「こんにちは」していた。
「うわわっ!」
なぜかオッキしてないのに大きくなってるの忘れてた!
「なんのアピールやねん。おもしろすぎるわ。ぢゅふわーっ!あかんっ、笑いが抑えきれへん!」
「ちょ、ちょっと!アモン笑いすぎだよ!!」
「ごめん、ごめん。いや、でもそれは無理やって。心配してきた友達に横ちん見せるってブヒャア!我慢できひんて」
なぜか笑いのツボに入って大ウケしてるアモン。僕は恥ずかしくて泣きそうになりながら横からこんにちは状態のボクをなんとかパンツに入れようと格闘する。
そんな時に保健室のドアがまた開いた。
「おい。アレックス大丈夫か?」
「連絡が来たけどアレックス君大丈夫?」
「魔法をかけられたって、アレックスさん大丈夫ですの?」
「怪我はない?アレックス君大丈夫?」
「アレックスさん大丈夫?お迎えに来たよ」
「アレックス、大丈夫か?今日はパパと帰ろうな」
「アレックス君大丈夫?お父さんの方がいいよね?」
あっちゃ~、お母様より先にお父様達がきちゃった。僕の七人のお父様達は全員同じ家系。本家が三人兄弟、分家Aが二人兄弟と残りの分家Bと分家Cはそれぞれ一人っ子。七人ともお母様が大好きで、同じ時期にお母様と愛し合ったから僕のお父様は七人のうちの誰か。本当ならお父様は誰か調べるべきなんだろうけど淫魔は産んだ親が誰かこそが一番重要だ。それに、どのお父様も僕のことを息子だと想っているから問題なし!とお父様が決めたので僕も誰がお父様かは調べていない。
「あ、お父様達」
「あああ~、ほんとにぽっちゃりなアレックス君になってる!ますますママそっくりになったね!」
うん、ママは熟女系淫魔だからぽっちゃりワガママダイナマイトボディだ。
「可愛いよ。アレックス、すごくかわいいよ。本当に小悪魔だね!」
お父様達はアモンや先生のことなんてすっかり意識になくて、僕をワッショイワッショイと持ち上げてしまった。
「ひいいひっひっひ!胴上げされとる!横ちんしたまま胴上げ!」
アモンの笑い声ととうとう笑いのツボに入ったのか呼吸困難気味の先生を残して僕はお父様達の車に乗って帰宅した。
☆☆☆☆☆
「あ~、疲れた」
お父様達が僕を独占して一緒にいたいからって喧嘩が始まったからこっそり帰ってきた。
淫魔は基本的に結婚しないし、淫魔の子は基本的に産んだ親の家で育てる。お母様は種違いの子をたくさん産んでいるけど皆平等に育ててくれる。妻子がいるお父様もいるけど心の特別は『僕のお母様」だから、最愛の人との子供であるだろう僕と一緒にいる時間を作りたくて兄弟喧嘩になるんだ。
「うーん、悪いことしちゃったかな。でもお父様達の家にちゃんとお泊りに行っているし、子供は僕の他にそれぞれの奥さんの間にもいるんだからいいよね」
お母様は体型が変わった僕を見ても、先に保険の先生から連絡してもらったこともあってか驚きもせずいつも通りに迎えてくれた。
お風呂場で裸になり鏡に映る自分の姿をまじまじと見る。ぷよぷよのお腹にぷにっと突き出た胸。二の腕も足も丸々している。そして股間だけなぜか縦も太さも立派に成長してる。
……オークみたいな体型と言われたらそうかもしれない。
股間のサイズはオークの股間を見たことがないから分からないけども。
「はぁ……」
思わずため息が出る。だって僕は男の娘から脱出したいのにぽっちゃり男の娘になっちゃったよ。女の子みたいな格好も女の子みたいにおしゃれするのも好きだけどやっぱりお父様みたいな悪魔貴族になるのが憧れなんだよね。
「……あー、そういえば魔王様ってぽっちゃりが好きじゃなかったはず。たしかスレンダーな美人が好きだって」
この前は抱きしめたら折れそうなマミー族の美人を愛人にしたって噂になっていた。僕達、愛人候補もスレンダーな方が有利だって言われている。だから今のうちからスポーツをしたり、細くなるため運動をしている候補者が多い。
だけど僕は魔王様のために綺麗になろうって思えなかった。欲望むき出しの厳しい淫魔社会を背負うお母様の背中やお姉様たちの戦いを見て育ってきたから王家の愛人グループがどんなところか想像がついてしまう。
「もしかしてこのままの体型を維持していたら成人になった時に魔王様の愛人にならなくて済むってことでいいよね?」
僕はやっぱり運がいいみたいだ。
☆★数年後★☆
僕を含めて魔王様の愛人候補者達が成人を迎えた。そして今日は愛人になるかが決定する日だ。12歳で太った姿にかわり、魔法を解除する方法がないまま今日になった。
直接、体型を理由だとは言われなかったけども愛人候補から落選できた。
だけどナゼかその日のうちに一人だけ別室に呼び出された。そして目の前の魔王様の部下の人から難しい言葉で愛人候補になれなかったから今までにかかった教育費を返してねって言われた。
「……あのー、教育費を返すようにってどういうことでしょうか」
今までそんな話をされたことない。てっきり魔王様が命令しただけで教育のお金は自分達の親が払っているのだとおもっていた。
「おや、説明した通りですよ。もっと分かりやすく説明しますと今までにかかったあなた達の教育費は魔王様のご負担でした。愛人教育を受け、愛人になった者は魔王様に骨の髄まで捧げて尽くすことで支払いを免除されます。しかしソレ以外の方は魔王様からの奨学金ということで働いて返済を行わなければなりません。あなたの場合は母君の紹介で娼館で働くのが良いのではないですか?」
「えっとですね、僕、魔王様の愛人候補として育てられたから淫魔としてのアレコレをなんにも知らないんですけど……」
お母様は高級娼館のオーナーであり、自らもお店に出て魔界の政治家や別の魔界から来る高貴な方々のお相手をしている。
家族にとっては優しく懐の広いお母様も娼館オーナーの時は実力主義者だ。いくら血の繋がりがあっても能力がない子は絶対に働かせては貰えない。
僕が今から性技を勉強しても娼館のお姉様達に追いつけないだろうし、後から後から淫魔の英才教育を受けた子がいっぱいくるんだ。勝ち目はないし、都落ちどころか最下層に落とされるのが目に見えている。
だったら学んできたことを生かしてどこかの貴族様の従者になったほうがいい。
「そうですか。では借金奴隷として働いていただきましょうか。大丈夫です。すでに体を壊しても問題ない仕事を用意しております」
この悪魔、笑顔でさらっと言ってるけどこれってものすごく怖いことだよね? だって働いている先で死んでもオッケーって言ってるようなものでしょ?
しかもすでに用意されてるって……働く先があると返事をしていても借金奴隷だから強制的に連行されてしまうってことじゃないか。逃げ道なしだしここで断れば借金を返す意思なしで僕どころか家族皆の首が物理的に飛んでしまう。
「……わかりました。それでお願いします」
こうして僕は借金奴隷となり働くことになったんだけど、まさかあんなことになるなんてこの時は思いもしなかった。
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2020年1月30日(木)完結しました。
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