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翌日は嘘のように熱が引いた。
だけど出勤までに時間が足りない。飯は電車で食べるとして、出勤前に急いでシャワーを浴びて髭をそる。
剃り残しを鏡でチェックする時間もなく、俺は急いで家を出た。
会社。
朝の朝礼後、営業で外回りに行くための準備をしていたら、隣の席の同僚に声をかけられた。
「ユウヘイさんの頬のそれ、タトゥーペイントですか?」
「え?」
聞き慣れない言葉。自分の頬に触れてみたが何もない。
「なにかついてますか?」
「え、自分でつけたんじゃないんですか?」
同僚が驚いた顔をする。
「え?俺、何もつけてませんよ。なんの話ですか?」
「えっ」
同僚はぎょっとした顔で俺の顔をまじまじと見た。
それから同僚は自身の頬をツンと突いた。
「ここ、いたずらで落書きされたみたいですよ?トイレに行って、落とした方がいいですよ」
「いたずらしてくる相手はいないんだが」
熱に浮かれて自分でなにか書いたのか?同僚に言われた通り、トイレに行って鏡で確認する。
ユズルにキスされた頬の部分にピンク色の薔薇模様が浮かんでいた。
「なんだ、これ」
綺麗な薔薇の模様。鏡を見て自分で書こうとしたって俺には絵心がない。
しかも頬だ。化粧もしたことない俺がこんなに綺麗にかけるものか。
洗面所の石鹸で頬を洗ってみるが落ちない。
「なんだ、こりゃ。油性か?」
何度か繰り返し洗ってみたが落ちな
「何してるんだ?ユウヘイ」
洗面台の鏡で自分の顔と格闘していたら、先輩社員に声をかけられた。
「え、ああ……ちょっと顔を洗っていて……」
「顔を洗うのは分かるが、そんなゴシゴシやっていたら肌を傷つけるぞ。シャツもビシャビシャだし」
言われてみると、たしかに肌がヒリヒリする。水が飛んでシャツも濡れた。
「あ……」
「ん?ほっぺのなんだ?」
「あ、これは、昨日、多分、看病に来た知り合いがいたずらしたみたいで」
そんな奴はいないが、一昨日は無かったものだ。昨日、熱を出して寝ている間になにかあったとした思えない。
「ふーん。絆創膏でも貼っとくか?」
先輩が手のひらサイズの缶の箱から絆創膏を出してくれた。
「ありがとうございます」
俺はそれで頬の薔薇模様を隠した。これでなんとか営業に出ることができそうだ。
「おはようございます」
「おはようございます。あれ、ユウヘイさん、それどうしたの?」
「え?ああ……ちょっと怪我をしてしまいまして……」
取引先に心配され、俺は適当に近所の猫に引っかかれたとか言って誤魔化した。
仕事が終わり、会社を出る。今日は定時で帰れた。まだ明るい時間に駅に向かうと、ユズルがいた。
中学生なのに高校生か大学生くらいの女子に囲まれてる。
「ねえ、連絡先教えてよ~」
「今、彼女いるの?」
「今度遊ぼうよ~」
ナンパされてやがる。
ユズルは困った顔をしてて、俺を見つけると女子に手を振って離れた。そして俺の所に駆け寄ってきた。
ふわりと柔軟剤のような匂いがした。
「ユウヘイ!」
「なんだ?モテモテだな」
俺がからかえば、ユズルは顔を赤くした。
「違う!急に話しかけられただけだ……」
「連絡先教えてって言われてただろ。ガールフレンド作ればいいのに、青春しろよ」
「知らない人だし……断ったのにしつこい……」
柔軟剤っぽい臭いは彼女たちの移り香だろうなと思った。
「ところで、頬、どうしたんだ。怪我したのか」
「ああ、これか。ちょっとな」
「俺に言ってくれないのか」
ユズルはムスッとした表情で、じっと俺の顔を見た。
そして俺の頬に指先を当てる。俺はドキリとした。
ユズルも何か驚いている表情をしてる。指は冷たく、整った爪で絆創膏を剥がそうとする。
「どうした。こんなの見てもつまんないぞ」
「こんなのいらない」
たった一言。なのに重い声。ホントにどうした?落書きごときで何を怒ってるんだ?
ユズルは絆創膏を剥がし、薔薇模様を指でなぞる。頬に温かい空気を感じた。
「ユズルの学校でこういういたずらが流行ってないか」
「髪を染めただけで校則違反で怒られるし、いたずらなんてしない」
カマをかけてみたが、ユズルじゃなかったのか。家を知ってるけど合鍵とか渡してないし、寝込んでいる間に入ってきて、いたずらするような奴じゃあないものな。
「消そうと思わなかったのか」
俺の頬を触ったまま、やたら目を輝かせるユズル。まさかこいつのいたずらか?
でも、寝込んでいる時にイタズラする奴じゃないし、そもそも合鍵も渡してないから家に入ることも出来ない。
「消そうと思って何回洗っても落ちなかったんだ。かなり頑固な油性で、消えなくて困ってる」
「困らないで」
ユズルはまた俺の頬を指先でなぞり、そのまま俺の肩に腕をまわしてくる。
「な……」
抱き寄せてきて、頬の薔薇にキスしてきた。
「ユウヘイの頬に描き足した」
俺は顔が熱くなるのを感じたが、ユズルは平然としていた。
「……お前なあ。キスで落ちるわけないだろ」
変な言い方をするなと思いつつ、俺はユズルの肩を押して離れた。
ユズルはキョトンとした顔をしていたが、すぐに笑う。ニヤリとかニチャリか、そういう音が付きそうな顔してた。
「ユウヘイ。日曜日に遊びに行っていいか」
「おう? 日曜か。いいぞ。また飯でも食べに行くか」
「うん」
「どこ行きたいか考えとけよ。じゃあな」
「バイバイ」
俺はユズルと別れ、家に帰った。
風呂に入って、鏡を見た時、薔薇の花が一個増えていた。最初はたしかに一個だけだったのに、ちょっと下側に薔薇の花が増えている。
「???」
どうなってんだ?俺の頬に触った奴は同僚とユズルと俺くらいだぞ。体に触れた奴をいれたら、電車通勤でギュウギュウ詰めだから特定できない。
それとも時間経過とともに増えるのか。
考えみても分からず、とりあえず今日は、風呂から出たら酒を飲んで寝ようと思った。
だけど出勤までに時間が足りない。飯は電車で食べるとして、出勤前に急いでシャワーを浴びて髭をそる。
剃り残しを鏡でチェックする時間もなく、俺は急いで家を出た。
会社。
朝の朝礼後、営業で外回りに行くための準備をしていたら、隣の席の同僚に声をかけられた。
「ユウヘイさんの頬のそれ、タトゥーペイントですか?」
「え?」
聞き慣れない言葉。自分の頬に触れてみたが何もない。
「なにかついてますか?」
「え、自分でつけたんじゃないんですか?」
同僚が驚いた顔をする。
「え?俺、何もつけてませんよ。なんの話ですか?」
「えっ」
同僚はぎょっとした顔で俺の顔をまじまじと見た。
それから同僚は自身の頬をツンと突いた。
「ここ、いたずらで落書きされたみたいですよ?トイレに行って、落とした方がいいですよ」
「いたずらしてくる相手はいないんだが」
熱に浮かれて自分でなにか書いたのか?同僚に言われた通り、トイレに行って鏡で確認する。
ユズルにキスされた頬の部分にピンク色の薔薇模様が浮かんでいた。
「なんだ、これ」
綺麗な薔薇の模様。鏡を見て自分で書こうとしたって俺には絵心がない。
しかも頬だ。化粧もしたことない俺がこんなに綺麗にかけるものか。
洗面所の石鹸で頬を洗ってみるが落ちない。
「なんだ、こりゃ。油性か?」
何度か繰り返し洗ってみたが落ちな
「何してるんだ?ユウヘイ」
洗面台の鏡で自分の顔と格闘していたら、先輩社員に声をかけられた。
「え、ああ……ちょっと顔を洗っていて……」
「顔を洗うのは分かるが、そんなゴシゴシやっていたら肌を傷つけるぞ。シャツもビシャビシャだし」
言われてみると、たしかに肌がヒリヒリする。水が飛んでシャツも濡れた。
「あ……」
「ん?ほっぺのなんだ?」
「あ、これは、昨日、多分、看病に来た知り合いがいたずらしたみたいで」
そんな奴はいないが、一昨日は無かったものだ。昨日、熱を出して寝ている間になにかあったとした思えない。
「ふーん。絆創膏でも貼っとくか?」
先輩が手のひらサイズの缶の箱から絆創膏を出してくれた。
「ありがとうございます」
俺はそれで頬の薔薇模様を隠した。これでなんとか営業に出ることができそうだ。
「おはようございます」
「おはようございます。あれ、ユウヘイさん、それどうしたの?」
「え?ああ……ちょっと怪我をしてしまいまして……」
取引先に心配され、俺は適当に近所の猫に引っかかれたとか言って誤魔化した。
仕事が終わり、会社を出る。今日は定時で帰れた。まだ明るい時間に駅に向かうと、ユズルがいた。
中学生なのに高校生か大学生くらいの女子に囲まれてる。
「ねえ、連絡先教えてよ~」
「今、彼女いるの?」
「今度遊ぼうよ~」
ナンパされてやがる。
ユズルは困った顔をしてて、俺を見つけると女子に手を振って離れた。そして俺の所に駆け寄ってきた。
ふわりと柔軟剤のような匂いがした。
「ユウヘイ!」
「なんだ?モテモテだな」
俺がからかえば、ユズルは顔を赤くした。
「違う!急に話しかけられただけだ……」
「連絡先教えてって言われてただろ。ガールフレンド作ればいいのに、青春しろよ」
「知らない人だし……断ったのにしつこい……」
柔軟剤っぽい臭いは彼女たちの移り香だろうなと思った。
「ところで、頬、どうしたんだ。怪我したのか」
「ああ、これか。ちょっとな」
「俺に言ってくれないのか」
ユズルはムスッとした表情で、じっと俺の顔を見た。
そして俺の頬に指先を当てる。俺はドキリとした。
ユズルも何か驚いている表情をしてる。指は冷たく、整った爪で絆創膏を剥がそうとする。
「どうした。こんなの見てもつまんないぞ」
「こんなのいらない」
たった一言。なのに重い声。ホントにどうした?落書きごときで何を怒ってるんだ?
ユズルは絆創膏を剥がし、薔薇模様を指でなぞる。頬に温かい空気を感じた。
「ユズルの学校でこういういたずらが流行ってないか」
「髪を染めただけで校則違反で怒られるし、いたずらなんてしない」
カマをかけてみたが、ユズルじゃなかったのか。家を知ってるけど合鍵とか渡してないし、寝込んでいる間に入ってきて、いたずらするような奴じゃあないものな。
「消そうと思わなかったのか」
俺の頬を触ったまま、やたら目を輝かせるユズル。まさかこいつのいたずらか?
でも、寝込んでいる時にイタズラする奴じゃないし、そもそも合鍵も渡してないから家に入ることも出来ない。
「消そうと思って何回洗っても落ちなかったんだ。かなり頑固な油性で、消えなくて困ってる」
「困らないで」
ユズルはまた俺の頬を指先でなぞり、そのまま俺の肩に腕をまわしてくる。
「な……」
抱き寄せてきて、頬の薔薇にキスしてきた。
「ユウヘイの頬に描き足した」
俺は顔が熱くなるのを感じたが、ユズルは平然としていた。
「……お前なあ。キスで落ちるわけないだろ」
変な言い方をするなと思いつつ、俺はユズルの肩を押して離れた。
ユズルはキョトンとした顔をしていたが、すぐに笑う。ニヤリとかニチャリか、そういう音が付きそうな顔してた。
「ユウヘイ。日曜日に遊びに行っていいか」
「おう? 日曜か。いいぞ。また飯でも食べに行くか」
「うん」
「どこ行きたいか考えとけよ。じゃあな」
「バイバイ」
俺はユズルと別れ、家に帰った。
風呂に入って、鏡を見た時、薔薇の花が一個増えていた。最初はたしかに一個だけだったのに、ちょっと下側に薔薇の花が増えている。
「???」
どうなってんだ?俺の頬に触った奴は同僚とユズルと俺くらいだぞ。体に触れた奴をいれたら、電車通勤でギュウギュウ詰めだから特定できない。
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