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ユズルは顔を上げないまま喋る。
「クラスの男子も先生も女子も、俺に対して凄い拒絶反応が出た。だから……」
また手の甲で目元を拭い、それが一度で終わらない姿を見て胸が痛くなる。
「そうか。そりゃ大変だったな」
背中を擦ってやる。まだ汗の乾いてない体操着がしっとりしてた。いい匂いだ。
こんな時に欲情する自分が嫌いだ。今の俺からユズルを守らないと俺は自分を一生嫌いになれる。
「汗かいてるし、服も濡れてるから、このままじゃ、風邪ひくな。シャワー浴びるか?」
童貞だった頃みたいに言葉につっかえる。
「うん……」
返事はするけど膝の間に頭を突っ込んだまま下を見てた。
ユズルの背中をポンポンと叩いてやった。ユズルが落ち着くまで、しばらくそのままでいた。
「なあ、もう大丈夫だろ?」
「……ああ」
ユズルはゆっくりと顔を上げた。
「シャワー浴びろよ。服、貸してやるし、今着てる服は洗濯してやるから」
「うん」
俺は風呂場までユズルを連れていった。バスタオルとTシャツ、それと安売りしてて買ったが開封してなかったトランクスを渡す。ユズルは服を脱ぎながら小さな声で言う。
「ありがとう」
「気にすんな。今は全然臭わないし、学校もお前を探してるだろうから、落ち着いたら学校に帰ろう。辛かったら、また来いよ」
「うん」
ちょっとだけユズルが笑ってくれた。
ユズルが玄関を出る前に聞いた。
「学校までついて行こうか」
するとアイツは少し下を向いて考えた。それから首を横に振った。
「ここのことがバレたら、もう来れなくなりそうだから」
「どうしようもなくなったら、ちゃんと俺のこと言えよ。今までのお前の悩みとか全部伝えてさ。一緒に解決する方法、相談するから」
「う゛ん」
すぐ泣きそうになるなよ。辛いならずっと居ろよ。泣かれたら、帰したくなくなるだろ。
「がんばる゛がら、最後に抱ぎしめで」
鼻がつまりかけた声で手を広げ、ユズルが俺に頼んできた。
俺はユズルを抱きしめた。ただ黙って強く抱きしめてやった。
汗の臭いはしないし、俺の服を着てるせいか体臭は薄い。でも、ユズルの体温と心臓の音が伝わってくる。
頭の横で動くユズルの鼻が俺の耳に当たったかと思えば、頬に懐かしい感触。
頬にキスされた。
どうすべきか。大人として突き放すか、感情のまま受け入れるか。
「勉強、がんばれよ」
俺はそう呟いた。突き放すのも受け入れるのも、14歳のユズルの人生を狂わせそうで、俺は大人のふりして対応するしかなかった。
「ゔん。今日はありがとう゛」
そして、ゆっくりとユズルは離れた。
玄関で靴を履くアイツの背中を見る。最後って言ったし、一人立ちしようとしてんだな。もうこれで最後なんだなあと思った。
「……送って行こうか」
未練がましく、そんなことを言っていた。
「ううん。近くのコンビニで父さん呼ぶから。ありがと」
ユズルがドアを開ける。その背中を見送る。ドアが閉まる瞬間、俺も言った。
「元気でな。俺はずっと味方だぞ」
ユズルが居なくなった部屋には静寂が残るだけ。
俺はさっきまであいつが座っていた場所に座り込み、泣いた。
俺は泣いたんだ。
翌日、俺は熱を出して仕事を休んだ。元気な奴が病気になるとしんどいと聞くが、本当だった。
体がだるく、冷蔵庫からお茶を出すだけでへばる。
体と頭はもちろん熱くて、キスされた頬が一番熱い。
「ユズル、あいつ……今日は泣いてないでくれよ」
俺はまだ腫れぼったい目を手で押さえた。
今、来られたら風邪を移してしまう。しかも俺の気が弱くなってて、絶対頼りない泣き言を言ってしまいそうだ。
「クラスの男子も先生も女子も、俺に対して凄い拒絶反応が出た。だから……」
また手の甲で目元を拭い、それが一度で終わらない姿を見て胸が痛くなる。
「そうか。そりゃ大変だったな」
背中を擦ってやる。まだ汗の乾いてない体操着がしっとりしてた。いい匂いだ。
こんな時に欲情する自分が嫌いだ。今の俺からユズルを守らないと俺は自分を一生嫌いになれる。
「汗かいてるし、服も濡れてるから、このままじゃ、風邪ひくな。シャワー浴びるか?」
童貞だった頃みたいに言葉につっかえる。
「うん……」
返事はするけど膝の間に頭を突っ込んだまま下を見てた。
ユズルの背中をポンポンと叩いてやった。ユズルが落ち着くまで、しばらくそのままでいた。
「なあ、もう大丈夫だろ?」
「……ああ」
ユズルはゆっくりと顔を上げた。
「シャワー浴びろよ。服、貸してやるし、今着てる服は洗濯してやるから」
「うん」
俺は風呂場までユズルを連れていった。バスタオルとTシャツ、それと安売りしてて買ったが開封してなかったトランクスを渡す。ユズルは服を脱ぎながら小さな声で言う。
「ありがとう」
「気にすんな。今は全然臭わないし、学校もお前を探してるだろうから、落ち着いたら学校に帰ろう。辛かったら、また来いよ」
「うん」
ちょっとだけユズルが笑ってくれた。
ユズルが玄関を出る前に聞いた。
「学校までついて行こうか」
するとアイツは少し下を向いて考えた。それから首を横に振った。
「ここのことがバレたら、もう来れなくなりそうだから」
「どうしようもなくなったら、ちゃんと俺のこと言えよ。今までのお前の悩みとか全部伝えてさ。一緒に解決する方法、相談するから」
「う゛ん」
すぐ泣きそうになるなよ。辛いならずっと居ろよ。泣かれたら、帰したくなくなるだろ。
「がんばる゛がら、最後に抱ぎしめで」
鼻がつまりかけた声で手を広げ、ユズルが俺に頼んできた。
俺はユズルを抱きしめた。ただ黙って強く抱きしめてやった。
汗の臭いはしないし、俺の服を着てるせいか体臭は薄い。でも、ユズルの体温と心臓の音が伝わってくる。
頭の横で動くユズルの鼻が俺の耳に当たったかと思えば、頬に懐かしい感触。
頬にキスされた。
どうすべきか。大人として突き放すか、感情のまま受け入れるか。
「勉強、がんばれよ」
俺はそう呟いた。突き放すのも受け入れるのも、14歳のユズルの人生を狂わせそうで、俺は大人のふりして対応するしかなかった。
「ゔん。今日はありがとう゛」
そして、ゆっくりとユズルは離れた。
玄関で靴を履くアイツの背中を見る。最後って言ったし、一人立ちしようとしてんだな。もうこれで最後なんだなあと思った。
「……送って行こうか」
未練がましく、そんなことを言っていた。
「ううん。近くのコンビニで父さん呼ぶから。ありがと」
ユズルがドアを開ける。その背中を見送る。ドアが閉まる瞬間、俺も言った。
「元気でな。俺はずっと味方だぞ」
ユズルが居なくなった部屋には静寂が残るだけ。
俺はさっきまであいつが座っていた場所に座り込み、泣いた。
俺は泣いたんだ。
翌日、俺は熱を出して仕事を休んだ。元気な奴が病気になるとしんどいと聞くが、本当だった。
体がだるく、冷蔵庫からお茶を出すだけでへばる。
体と頭はもちろん熱くて、キスされた頬が一番熱い。
「ユズル、あいつ……今日は泣いてないでくれよ」
俺はまだ腫れぼったい目を手で押さえた。
今、来られたら風邪を移してしまう。しかも俺の気が弱くなってて、絶対頼りない泣き言を言ってしまいそうだ。
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