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朝のニュースで「帰宅途中の男子中学生、切りつけられる」というデカイテロップが流れた。
内容は塾帰りの男子中学生が、帰宅途中に何者かに金を要求され、拒否するとナイフのようなもので切りつけられ、全治一週間の怪我をした。というものだった。
「なっ、まさかユズルか?!」
男子中学生。塾の帰宅途中。夜の道。
怖い想像が先走り、俺はユズルに電話をかけた。だけど電話にアイツはでなかった。
不安な気持ちで仕事に出る。ユズルから電話がかかってきたのは昼休みだった。
『もしもし。ユズルだが』
「もしもし、俺だ。ユウヘイだ。ユズル?朝から電話してごめんな。今、学校だよな。電話、大丈夫か」
『大丈夫。でも電話なんて珍しい』
「お前、昨日の帰りは大丈夫だったか?カツアゲされてないか?」
『俺はなんともないし、カツアゲもされてない。どうしたんだ?』
「そっか。なら良いんだ。朝のニュースで塾帰りの男の子が襲われたってニュースでしてたんだ。だから心配で、気になったんだ」
『そうか。ありがとう。心配かけたな。ごめん。すぐに電話しなくて』
「いいんだ。無事ならそれで。今日も学校だろ。頑張れよ。塾の帰りは危ないから俺に連絡しろよ。帰りは付き添ってやるから」
次の休み、車を買いに行こう。そしたら塾から俺の家だって、アイツの家までだって夜の道を安全に送ってやれる。
『それが……親父が迎えにきてくれるようになった』
「おやじ?親父。ああ、そっか。そうだよな。両親もあのニュースを見たら心配するよな」
『……』
「塾の帰りにお前が家に寄ってくれて、一緒に茶を飲むの楽しかったけどな。まあ、基本、俺は暇だしさ。会えないわけじゃないし、いつでも連絡して来いよ」
『うん』
「用事はそれだけなんだ。何もなくて良かった。電話しておきながらあれだが、学校に電話見つからないようにしろよ。校則で没収されるんだろ?」
『う゛ん』
「あー、泣くなよ?今度、また飯おごってやるから、な?」
『う゛ん』
「じゃあ、学校頑張れよ。切るぞ」
『う゛ん』
ユズルが無事だったことに安心して、俺は電話を切った。
なんだよ。あの反応。まるで遠距離恋愛の恋人と電話した時みたいだろ。
俺だってお前が来なくなると淋しいぞ。
それっきりユズルは俺の家に来なくなった。俺からもあいつに連絡はしなかった。
毎日のように増えるお茶のペットボトル。それを見る度に、俺はユズルの親が迎えにきてくれたことに安心し、そしてあいつが俺を必要としなくなったとを悟った。
週末。仕事は休みで、することもないからパチンコ屋に来た。
「はー」
ため息しかでない。
「どうした?」
俺のため息を聞いて、パチンコで隣の席に座ったおっさんが声をかけてきた。
俺とおっさんはパチ台の趣味がよく似ているので隣同士になることが多い。
だから『タバコ吸っていいか』と聞かれるので『どうぞ』と応える程度の顔見知りだ。
「いやね、ちょっと失恋したもので」
「……そうか。若いから次があるさ」
おっさんはそれ以上なにも言わずパチンコ台で玉を打ち始めた。
ユズルとの縁が切れるのは辛いけど、いずれ離していくつもりだったからこれで良いんだ。
寂しいけれど、これで良かったんだ。
そう自分に言い聞かせた。
それから2ヶ月ほどたった頃、平日の昼間に、中学校の体育着姿のユズルが立っていた。
「……ユズル?どうした。昼間に来て。俺は定休日だけど、お前、学校は?」
学校から走ってきたんだろう。汗を吸った白い体育着が透けて肌が見える。
そして俺を魅了する体臭。
「昼休み、だから。あのっ」
嘘ついてるのは丸わかりだ。
今何時だと思ってるんだ。ほら、学校に帰れ。電話で話せるだろ。
中学生に、そう言うのが大人だ。
ユズルは真っ直ぐ俺を見つめた。
「一緒にいたい」
そりゃ、俺も授業をサボったりしたことあったさ。
俺はじっと顔を赤くしたユズルを見る。
よく見れば、目が潤んでる。手も震えてる。
恋情というよりも怯え。なにかに怖がっているように見えた。
「お茶、用意するから入れよ」
好きな奴が不安なら、放っておける奴はいない。
俺はユズルを部屋に入れた。
いつも通りペットボトルのお茶を飲み、お菓子を一緒に食べた。
「どうしたんだ?学校で何かあったのか」
「……授業で魔法を使った」
「お、おう」
魔法から臭いがする、らしいというのは前に聞いた。学校の授業で魔法を使い、あの甘い臭いを出してしまったんだろう。
嫌がられたってことは、体育の授業の後に臭い対策できないまま授業に出ちまったか。
それで、ここに来るくらい追い詰められたんだろうなと察した。
「大体分かったが、ユズルから聞かせてもらっていいか」
「……」
ユズルはぷいと顔を背けた。
「言いたくないならいい。でも、俺はユズルの味方だ。だから、落ち着くまでここにいろよ」
待つ時間にしては短かったが、話そうと決断するまで長い時間だったと思う。
「……魔法の授業で、魅了の魔法を学んだんだ」
「魅力って、使っていいのか?そういう魔法って」
テレビ番組で、傾国の美女特集とかやっていて、魅了魔法は禁止されている国があるとかなんとか……。
「無意識で使うほうが危険だし、座学から魅了魔法の危険性とか何度も学んでから使った。どうすると魅了魔法になるか、魅了魔法を使う感覚を覚えて、無意識にそれが出そうになったら、抑える練習もした」
「あー、なるほど。そうか」
魔法を無意識で発動させる事故もニュースでたまにある。大体、火事とか爆発とかデカイ事故が多い。
魔法を使えるって大変だなあと他人事だった。でもユズルにとっては、次は我が身なのか。
「魅了の魔法を学んで、どうなったんだ」
ユズルが手の甲で目元を拭った。
「魔法が発動しなかったのか?」
魔法を使うとあの臭いが出るなら、魅了魔法と相殺されて効果がないだろうなと思う。
「今までで一番臭くなった……」
「おう、おー……」
ユズルは体育座りをした膝の間に頭をうずめた。
内容は塾帰りの男子中学生が、帰宅途中に何者かに金を要求され、拒否するとナイフのようなもので切りつけられ、全治一週間の怪我をした。というものだった。
「なっ、まさかユズルか?!」
男子中学生。塾の帰宅途中。夜の道。
怖い想像が先走り、俺はユズルに電話をかけた。だけど電話にアイツはでなかった。
不安な気持ちで仕事に出る。ユズルから電話がかかってきたのは昼休みだった。
『もしもし。ユズルだが』
「もしもし、俺だ。ユウヘイだ。ユズル?朝から電話してごめんな。今、学校だよな。電話、大丈夫か」
『大丈夫。でも電話なんて珍しい』
「お前、昨日の帰りは大丈夫だったか?カツアゲされてないか?」
『俺はなんともないし、カツアゲもされてない。どうしたんだ?』
「そっか。なら良いんだ。朝のニュースで塾帰りの男の子が襲われたってニュースでしてたんだ。だから心配で、気になったんだ」
『そうか。ありがとう。心配かけたな。ごめん。すぐに電話しなくて』
「いいんだ。無事ならそれで。今日も学校だろ。頑張れよ。塾の帰りは危ないから俺に連絡しろよ。帰りは付き添ってやるから」
次の休み、車を買いに行こう。そしたら塾から俺の家だって、アイツの家までだって夜の道を安全に送ってやれる。
『それが……親父が迎えにきてくれるようになった』
「おやじ?親父。ああ、そっか。そうだよな。両親もあのニュースを見たら心配するよな」
『……』
「塾の帰りにお前が家に寄ってくれて、一緒に茶を飲むの楽しかったけどな。まあ、基本、俺は暇だしさ。会えないわけじゃないし、いつでも連絡して来いよ」
『うん』
「用事はそれだけなんだ。何もなくて良かった。電話しておきながらあれだが、学校に電話見つからないようにしろよ。校則で没収されるんだろ?」
『う゛ん』
「あー、泣くなよ?今度、また飯おごってやるから、な?」
『う゛ん』
「じゃあ、学校頑張れよ。切るぞ」
『う゛ん』
ユズルが無事だったことに安心して、俺は電話を切った。
なんだよ。あの反応。まるで遠距離恋愛の恋人と電話した時みたいだろ。
俺だってお前が来なくなると淋しいぞ。
それっきりユズルは俺の家に来なくなった。俺からもあいつに連絡はしなかった。
毎日のように増えるお茶のペットボトル。それを見る度に、俺はユズルの親が迎えにきてくれたことに安心し、そしてあいつが俺を必要としなくなったとを悟った。
週末。仕事は休みで、することもないからパチンコ屋に来た。
「はー」
ため息しかでない。
「どうした?」
俺のため息を聞いて、パチンコで隣の席に座ったおっさんが声をかけてきた。
俺とおっさんはパチ台の趣味がよく似ているので隣同士になることが多い。
だから『タバコ吸っていいか』と聞かれるので『どうぞ』と応える程度の顔見知りだ。
「いやね、ちょっと失恋したもので」
「……そうか。若いから次があるさ」
おっさんはそれ以上なにも言わずパチンコ台で玉を打ち始めた。
ユズルとの縁が切れるのは辛いけど、いずれ離していくつもりだったからこれで良いんだ。
寂しいけれど、これで良かったんだ。
そう自分に言い聞かせた。
それから2ヶ月ほどたった頃、平日の昼間に、中学校の体育着姿のユズルが立っていた。
「……ユズル?どうした。昼間に来て。俺は定休日だけど、お前、学校は?」
学校から走ってきたんだろう。汗を吸った白い体育着が透けて肌が見える。
そして俺を魅了する体臭。
「昼休み、だから。あのっ」
嘘ついてるのは丸わかりだ。
今何時だと思ってるんだ。ほら、学校に帰れ。電話で話せるだろ。
中学生に、そう言うのが大人だ。
ユズルは真っ直ぐ俺を見つめた。
「一緒にいたい」
そりゃ、俺も授業をサボったりしたことあったさ。
俺はじっと顔を赤くしたユズルを見る。
よく見れば、目が潤んでる。手も震えてる。
恋情というよりも怯え。なにかに怖がっているように見えた。
「お茶、用意するから入れよ」
好きな奴が不安なら、放っておける奴はいない。
俺はユズルを部屋に入れた。
いつも通りペットボトルのお茶を飲み、お菓子を一緒に食べた。
「どうしたんだ?学校で何かあったのか」
「……授業で魔法を使った」
「お、おう」
魔法から臭いがする、らしいというのは前に聞いた。学校の授業で魔法を使い、あの甘い臭いを出してしまったんだろう。
嫌がられたってことは、体育の授業の後に臭い対策できないまま授業に出ちまったか。
それで、ここに来るくらい追い詰められたんだろうなと察した。
「大体分かったが、ユズルから聞かせてもらっていいか」
「……」
ユズルはぷいと顔を背けた。
「言いたくないならいい。でも、俺はユズルの味方だ。だから、落ち着くまでここにいろよ」
待つ時間にしては短かったが、話そうと決断するまで長い時間だったと思う。
「……魔法の授業で、魅了の魔法を学んだんだ」
「魅力って、使っていいのか?そういう魔法って」
テレビ番組で、傾国の美女特集とかやっていて、魅了魔法は禁止されている国があるとかなんとか……。
「無意識で使うほうが危険だし、座学から魅了魔法の危険性とか何度も学んでから使った。どうすると魅了魔法になるか、魅了魔法を使う感覚を覚えて、無意識にそれが出そうになったら、抑える練習もした」
「あー、なるほど。そうか」
魔法を無意識で発動させる事故もニュースでたまにある。大体、火事とか爆発とかデカイ事故が多い。
魔法を使えるって大変だなあと他人事だった。でもユズルにとっては、次は我が身なのか。
「魅了の魔法を学んで、どうなったんだ」
ユズルが手の甲で目元を拭った。
「魔法が発動しなかったのか?」
魔法を使うとあの臭いが出るなら、魅了魔法と相殺されて効果がないだろうなと思う。
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