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もう会うことは無いと思っていたのは俺だけで、ユズルは次の日から毎日俺の部屋に来た。
決まって夜の9時を過ぎてから、10分くらい居る。
週末は昼間から入り浸り、昼飯は手作り弁当を広げていた。
「弁当か。自分で作ったのか?」
俺の昼飯は買い置きのカップ麺だ。
「母さんが作ってくれたんだ。図書館に行くって言ったから」
「へえ、優しいお母さんだな」
図書館に行く息子へ弁当を持たすのは普通なのか、俺は知らない。なので無難な返事をした。
「ユウヘイは料理しないのか」
「しないな。カップ麺に湯を入れるくらいだ」
そんな会話をしたり、ユズルは持って来た携帯ゲームをしたりして遊んで帰った。
そのゲームが面白そうだから、後日、俺もゲーム機とソフトを買った。
******
今日もユズルは夜の9時に来て、ペットボトルの茶を飲んでいた。
「なあ、平日に毎日来て大丈夫なのか。お前の家、実家だったよな」
「塾の帰りだし、10分くらい遅い程度なら、先生に質問してたって言えば疑われない」
「塾?お前、浪人生か?」
ん?浪人生なら予備校か?俺は自分の偏差値に合わせて大学に行ったので、塾や予備校の世話にならず、その辺の事情に詳しくない。
ユズルは答えなかった。俺もそれ以上聞かなかった。浪人生で、学歴コンプを刺激したら面倒だからな。
「遅いから気をつけて帰れよ」
「うん」
ユズルは1回だけ頷き、帰っていった。
毎日、茶を飲んで、一緒にゲームをしながら喋って、帰る。たまにあいつからも差し入れしてくれるようになった。それはどこのコンビニで買える菓子だが、一緒に食べる。そんな関係に慣れた頃、俺はユズルが前よりも可愛い奴だと思った。
「なあ、なんかお前可愛くなってね?」
初めて会った時は物の聞き方を知らない奴だったが、一緒に過ごしていたら良い所も見えてくる。
「……目は大丈夫か」
「俺の眼の前には身長170越えの逞しい男がいる」
「その男をかわいいというのは、かなりおかしいのは分かるか」
「いや、分かってる。だけど可愛いんだもん」
俺はわざとぶりっ子みたいに言った。
「……」
ユズルは無言で俺を見る。目は半開きで、明らかに疑っている。
「年下だからってからかうな」
もっと怒るかと思ったら、並程度の怒り方だった。そんなことよりユズルは同じ年頃の俺が年上に見えるのか?失恋したせいで老けちまったか?いや、そんなことない、はず。
「……そういやユズルって年いくつ?」
「14だ」
「おいおい、冗談言うなよ」
俺がそう言うと、唇の先を尖らせ不満な顔をするユズル。
「……マジ?」
「冗談を言ってどうする」
「まさかの14歳。思春期真っ盛りかよ」
そりゃ、体臭に敏感になるし、体臭対策グッズを買ったら、小遣いがすぐなくなっちまう。酒は当然飲めない。タンクトップの白色は校則。塾に行くし、魔法の勉強もする。
14歳と分かったら、伏線みたいに会ったときからのことが繋がる。でも、こんな小さい情報から14歳を導き出せるなら、親はクイズ王になれてる。
手を出さなくて良かったと心から思うと同時に、毎日、夜に俺の家にいていいのかと心配になる。
「どうした?」
「いや、なんでもない。そろそろ時間になるぞ。ゲームを止めて帰れよ」
「ああ」
ユズルが帰ってから俺は改めて考えてみた。
13歳差の恋愛……は、どう考えても駄目だ。ショタだ。年下すぎる。
そりゃ、なんかしてやりたいって思っちまうほど頼りなく見えてしまう。
ユズルからすれば帰りにちょっと立ち寄る、安全な場所のつもりだろうが、近づくとほんのり匂う香りに俺は興奮してんだぞ。
今まで好みの体臭だって言ったのは冗談じゃない。男でも危機感持て。二度と来るな。そう言って遠ざければ楽なんだろうな。
だけど、ユズルは不器用で、感情表現が苦手だ。ここで息抜きできなくなると、あいつの休む場所がなくなって潰れそうだ。
高校生になれば行動範囲が広がって、友だちだってできて、俺のことも忘れるだろ。そのまえに高校受験で忙しくなるか?あと一年か二年くらい我慢を……
あー、でもその間、俺も恋人作れないよなあ。ユズルが来るから帰ってくれなんて、恋人に言ったらどっちが大事だとブチ切れされる。
でも、ユズルを遠ざけるのも嫌だ。アイツ、毎日同じ時間に来るし、雄っパブ行くなら早く行って早く帰らないと……。
「あー! もう!」
俺は頭を掻きむしった。あの時も、あの時も後先考えずに行動しちまった。
俺好みの匂いをさせる素直で可愛い14歳。そいつが部屋にいて、手を出しそうな自分を抑えるのは相当難しいぞ。
「うわー、紳士として駄目なやつ」
14歳のユズルに欲情していると自覚した俺の喉からうめき声が出た。
ユズルを甘やかして俺を好きにさせるのは、多分、簡単だ。
今以上に俺のところで好きなだけゲームとか、好きなことさせてさ。
俺が初めてされたときみたいに、男同士の嫌悪感を誤魔化す言葉を言って、気持ちよくさせれば性欲の十代はコロッと落ちちまう。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
だけどユズルには、俺とは違う全うな人生を送ってもらいたい。
14歳だぞ。
これから女の子と手を繋いだとか、キスしたとか、キラキラ青春真っ盛りじゃねーか。恋人ができなくたって友だちと好きな子のこと話したり、買い食いしたり、旅行にいったりさ。
俺が男に手を出された年齢の時、エロに夢中で、そういうの、出来なかったから……。
そんな健全な青春をユズルにさせてやるために、俺が出来ることはなんだ?
「あーあ」
俺はテーブルに突っ伏した。
結局、優しく見守って、あいつが離れていくのを待つしかないという答えしか浮かばず、涙が出た。
俺にも悩みを相談できる人が欲しいぜ。
決まって夜の9時を過ぎてから、10分くらい居る。
週末は昼間から入り浸り、昼飯は手作り弁当を広げていた。
「弁当か。自分で作ったのか?」
俺の昼飯は買い置きのカップ麺だ。
「母さんが作ってくれたんだ。図書館に行くって言ったから」
「へえ、優しいお母さんだな」
図書館に行く息子へ弁当を持たすのは普通なのか、俺は知らない。なので無難な返事をした。
「ユウヘイは料理しないのか」
「しないな。カップ麺に湯を入れるくらいだ」
そんな会話をしたり、ユズルは持って来た携帯ゲームをしたりして遊んで帰った。
そのゲームが面白そうだから、後日、俺もゲーム機とソフトを買った。
******
今日もユズルは夜の9時に来て、ペットボトルの茶を飲んでいた。
「なあ、平日に毎日来て大丈夫なのか。お前の家、実家だったよな」
「塾の帰りだし、10分くらい遅い程度なら、先生に質問してたって言えば疑われない」
「塾?お前、浪人生か?」
ん?浪人生なら予備校か?俺は自分の偏差値に合わせて大学に行ったので、塾や予備校の世話にならず、その辺の事情に詳しくない。
ユズルは答えなかった。俺もそれ以上聞かなかった。浪人生で、学歴コンプを刺激したら面倒だからな。
「遅いから気をつけて帰れよ」
「うん」
ユズルは1回だけ頷き、帰っていった。
毎日、茶を飲んで、一緒にゲームをしながら喋って、帰る。たまにあいつからも差し入れしてくれるようになった。それはどこのコンビニで買える菓子だが、一緒に食べる。そんな関係に慣れた頃、俺はユズルが前よりも可愛い奴だと思った。
「なあ、なんかお前可愛くなってね?」
初めて会った時は物の聞き方を知らない奴だったが、一緒に過ごしていたら良い所も見えてくる。
「……目は大丈夫か」
「俺の眼の前には身長170越えの逞しい男がいる」
「その男をかわいいというのは、かなりおかしいのは分かるか」
「いや、分かってる。だけど可愛いんだもん」
俺はわざとぶりっ子みたいに言った。
「……」
ユズルは無言で俺を見る。目は半開きで、明らかに疑っている。
「年下だからってからかうな」
もっと怒るかと思ったら、並程度の怒り方だった。そんなことよりユズルは同じ年頃の俺が年上に見えるのか?失恋したせいで老けちまったか?いや、そんなことない、はず。
「……そういやユズルって年いくつ?」
「14だ」
「おいおい、冗談言うなよ」
俺がそう言うと、唇の先を尖らせ不満な顔をするユズル。
「……マジ?」
「冗談を言ってどうする」
「まさかの14歳。思春期真っ盛りかよ」
そりゃ、体臭に敏感になるし、体臭対策グッズを買ったら、小遣いがすぐなくなっちまう。酒は当然飲めない。タンクトップの白色は校則。塾に行くし、魔法の勉強もする。
14歳と分かったら、伏線みたいに会ったときからのことが繋がる。でも、こんな小さい情報から14歳を導き出せるなら、親はクイズ王になれてる。
手を出さなくて良かったと心から思うと同時に、毎日、夜に俺の家にいていいのかと心配になる。
「どうした?」
「いや、なんでもない。そろそろ時間になるぞ。ゲームを止めて帰れよ」
「ああ」
ユズルが帰ってから俺は改めて考えてみた。
13歳差の恋愛……は、どう考えても駄目だ。ショタだ。年下すぎる。
そりゃ、なんかしてやりたいって思っちまうほど頼りなく見えてしまう。
ユズルからすれば帰りにちょっと立ち寄る、安全な場所のつもりだろうが、近づくとほんのり匂う香りに俺は興奮してんだぞ。
今まで好みの体臭だって言ったのは冗談じゃない。男でも危機感持て。二度と来るな。そう言って遠ざければ楽なんだろうな。
だけど、ユズルは不器用で、感情表現が苦手だ。ここで息抜きできなくなると、あいつの休む場所がなくなって潰れそうだ。
高校生になれば行動範囲が広がって、友だちだってできて、俺のことも忘れるだろ。そのまえに高校受験で忙しくなるか?あと一年か二年くらい我慢を……
あー、でもその間、俺も恋人作れないよなあ。ユズルが来るから帰ってくれなんて、恋人に言ったらどっちが大事だとブチ切れされる。
でも、ユズルを遠ざけるのも嫌だ。アイツ、毎日同じ時間に来るし、雄っパブ行くなら早く行って早く帰らないと……。
「あー! もう!」
俺は頭を掻きむしった。あの時も、あの時も後先考えずに行動しちまった。
俺好みの匂いをさせる素直で可愛い14歳。そいつが部屋にいて、手を出しそうな自分を抑えるのは相当難しいぞ。
「うわー、紳士として駄目なやつ」
14歳のユズルに欲情していると自覚した俺の喉からうめき声が出た。
ユズルを甘やかして俺を好きにさせるのは、多分、簡単だ。
今以上に俺のところで好きなだけゲームとか、好きなことさせてさ。
俺が初めてされたときみたいに、男同士の嫌悪感を誤魔化す言葉を言って、気持ちよくさせれば性欲の十代はコロッと落ちちまう。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
だけどユズルには、俺とは違う全うな人生を送ってもらいたい。
14歳だぞ。
これから女の子と手を繋いだとか、キスしたとか、キラキラ青春真っ盛りじゃねーか。恋人ができなくたって友だちと好きな子のこと話したり、買い食いしたり、旅行にいったりさ。
俺が男に手を出された年齢の時、エロに夢中で、そういうの、出来なかったから……。
そんな健全な青春をユズルにさせてやるために、俺が出来ることはなんだ?
「あーあ」
俺はテーブルに突っ伏した。
結局、優しく見守って、あいつが離れていくのを待つしかないという答えしか浮かばず、涙が出た。
俺にも悩みを相談できる人が欲しいぜ。
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