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寝室のドアから姿を見せた。
「魔帝様、簡単なものですが食事ができました」
声をかけられた魔帝はゼオに顔をむけた。
「そっちに行けると思うのか。こっちへ持ってこい」
「はい。ご用意いたします」
そう言ってゼオはキッチンに戻っていった。
「……はぁ。物語のように孤児だったゼオを家に住まわせることができたら、今とは違った人生だっただろうな」
ゼオを連れて帰ったら、家の中で最初に会ったメイドから嫌な顔をされた。
そんなことを気にもとめず母親に紹介し、孤児で孤児院に入れてもらえないゼオを自分の部下にすると話した。
すると母親の顔色が変わったが、子供だった魔帝はその変化に気が付かなかった。
「マティ。そろそろピアノの先生が来るわ。お部屋で先生がくるのを待っていなさい。ゼオ君、だったわね。あなたはここで私とお話をしましょうね」
母親がそう言うとゼオの表情が一瞬強張ったが、すぐに頷いた。
「ゼオの歓迎会の準備をするからピアノの授業はお休」
「ゼオ。もうすぐピアノの発表会があります。お祖父様達も楽しみにしているのですから、練習は頑張りましょうね」
「ですが」
「オレはだいじょうぶだ。リーダーがサボるなんてダメだ」
「う……。わかった。また後で会おうぞ!お母様、失礼します」
魔帝は母親に挨拶をして自分の部屋へ戻った。
ピアノの稽古の後、ゼオは母親といなくなっていた。帰ってきたのは母親一人だった。
「お母様、ゼオを知りませんか」
「彼は新しい家族のところへ行きましたよ」
「新しい家族?」
「ええ。いろんなことを沢山教えてくれる、ここよりもずっと良いところです。お友だちもたくさんいるから淋しくないですよ」
「それは良かった。家族がいればゼオのケガも病気も手当てをしてもらえますね。ゼオが友だちを連れて来たら友だちもマティ軍団に入れてやろうと想います」
ホッとした魔帝。ゼオに家族が出来たら全て安心だ。子供だったからそう思っていた。そして自分の家の場所は教えたから、明日も普通に会えると思っていた。しかし、翌日も次の日もゼオが来るのを待っていたが来る事はなかった。
「……様…ま…さま?魔帝様」
「ぬなっ!?急に話しかけるな」
また子供の頃のことを思い出していた魔帝は食事を持ってきたゼオに向かって怒った。
「私が食事を用意し持ってくると知っておられるので、急ではないはずですが」
「もう良い。飯を食うぞ」
魔帝はゼオが持ってきたお膳を膝の上に置いて食事を始めた。ゼオはリビングから椅子を運び、食事を食べる様子を見つめる。
「……じっと見られていては落ち着かん。お前も食べていいんだぞ」
「いえ、私は後でいただきます」
使用人でもないし、今は対等なのにゼオはいつも魔帝を優先する。
「……ゼオ、聞きたいことがある」
魔帝はスプーンを置き、真剣な眼差しでゼオを見つめた。ゼオもそれに応えるように姿勢を正す。
「なんでしょうか」
「お前は今、幸せか?」
「生きてきた中で一番幸せです」
うっとりとした眼差しを受けて、魔帝はブルリと体を震わせた。なんとか軌道修正を狙う。
「昔のことを思い出していた。孤児だったお前を拾っておきながら、囲い込むという意味を分かっていなかった」
あの日、母親がゼオのことを孤児院へ保護させたことは、あの日から数カ月後、町中でゼオと会った時に知った。
「あの時はお互いに子供でした。私を孤児院に預けた魔帝様のお母様の判断は正しいものでした。おかげで私は飢えることもなくなり、洗礼を受けることができました。それに魔法の才能を見出されて学校に通うこともできました」
「母様が立派なだけで、私は無知で愚かだった。それは破滅した今も変わらない。ギルドでも影で言われている。私はお前の足を引っ張っていると」
「そんなことはありません!魔帝様は私が尊敬する人です。貴方がいなければ今の私はありません。あの時が私の分岐点でした。それに今は、子供の頃の約束通り魔帝様と一緒におやつが食べれています」
「ゼオ……お前もあの約束を忘れていなかったか」
「もちろんです。今までは剣となり盾となって貴方をお守りしてきましたが、これからは貴方の妻としても全力で奉仕していきます」
「男のお前に妻の役割は求めていないのだが」
「では、夫ですか。魔帝様が嫌でなければ貴方様には危険がない専業主婦になっていただきたいです」
魔帝は無の表情で天井を見上げた。
お互いを縛り付けず、ちょうど良い距離をとろうとしているのに、ゼオががっしりとしがみ付いて離してくれない。
「私達は男だぞ」
「知っております。……はっ、私としたことが配慮が足りませんでした」
魔帝の恋愛対象は女の子。そうやっとゼオが気づいてくれたと安堵のため息をついた。
「男ならばペニスでの快感も欲しくなりますよね。私は淫魔の術を受けていないので洗浄は必要ですが、お望みがあればすぐ洗って用意します。夜の営みに遠慮はいりません。夫婦関係は円満なのが一番です」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
伝わっていなかった。むしろ悪化していることに魔帝は頭を抱えた。
その後、魔帝がハーレムに女の子を入れたいと言おうものなら、ゼオの重すぎる愛を伝えられるため魔帝も諦めた。
時には喧嘩をしながら、二人は死ぬまで一緒に暮らした。
「魔帝様、簡単なものですが食事ができました」
声をかけられた魔帝はゼオに顔をむけた。
「そっちに行けると思うのか。こっちへ持ってこい」
「はい。ご用意いたします」
そう言ってゼオはキッチンに戻っていった。
「……はぁ。物語のように孤児だったゼオを家に住まわせることができたら、今とは違った人生だっただろうな」
ゼオを連れて帰ったら、家の中で最初に会ったメイドから嫌な顔をされた。
そんなことを気にもとめず母親に紹介し、孤児で孤児院に入れてもらえないゼオを自分の部下にすると話した。
すると母親の顔色が変わったが、子供だった魔帝はその変化に気が付かなかった。
「マティ。そろそろピアノの先生が来るわ。お部屋で先生がくるのを待っていなさい。ゼオ君、だったわね。あなたはここで私とお話をしましょうね」
母親がそう言うとゼオの表情が一瞬強張ったが、すぐに頷いた。
「ゼオの歓迎会の準備をするからピアノの授業はお休」
「ゼオ。もうすぐピアノの発表会があります。お祖父様達も楽しみにしているのですから、練習は頑張りましょうね」
「ですが」
「オレはだいじょうぶだ。リーダーがサボるなんてダメだ」
「う……。わかった。また後で会おうぞ!お母様、失礼します」
魔帝は母親に挨拶をして自分の部屋へ戻った。
ピアノの稽古の後、ゼオは母親といなくなっていた。帰ってきたのは母親一人だった。
「お母様、ゼオを知りませんか」
「彼は新しい家族のところへ行きましたよ」
「新しい家族?」
「ええ。いろんなことを沢山教えてくれる、ここよりもずっと良いところです。お友だちもたくさんいるから淋しくないですよ」
「それは良かった。家族がいればゼオのケガも病気も手当てをしてもらえますね。ゼオが友だちを連れて来たら友だちもマティ軍団に入れてやろうと想います」
ホッとした魔帝。ゼオに家族が出来たら全て安心だ。子供だったからそう思っていた。そして自分の家の場所は教えたから、明日も普通に会えると思っていた。しかし、翌日も次の日もゼオが来るのを待っていたが来る事はなかった。
「……様…ま…さま?魔帝様」
「ぬなっ!?急に話しかけるな」
また子供の頃のことを思い出していた魔帝は食事を持ってきたゼオに向かって怒った。
「私が食事を用意し持ってくると知っておられるので、急ではないはずですが」
「もう良い。飯を食うぞ」
魔帝はゼオが持ってきたお膳を膝の上に置いて食事を始めた。ゼオはリビングから椅子を運び、食事を食べる様子を見つめる。
「……じっと見られていては落ち着かん。お前も食べていいんだぞ」
「いえ、私は後でいただきます」
使用人でもないし、今は対等なのにゼオはいつも魔帝を優先する。
「……ゼオ、聞きたいことがある」
魔帝はスプーンを置き、真剣な眼差しでゼオを見つめた。ゼオもそれに応えるように姿勢を正す。
「なんでしょうか」
「お前は今、幸せか?」
「生きてきた中で一番幸せです」
うっとりとした眼差しを受けて、魔帝はブルリと体を震わせた。なんとか軌道修正を狙う。
「昔のことを思い出していた。孤児だったお前を拾っておきながら、囲い込むという意味を分かっていなかった」
あの日、母親がゼオのことを孤児院へ保護させたことは、あの日から数カ月後、町中でゼオと会った時に知った。
「あの時はお互いに子供でした。私を孤児院に預けた魔帝様のお母様の判断は正しいものでした。おかげで私は飢えることもなくなり、洗礼を受けることができました。それに魔法の才能を見出されて学校に通うこともできました」
「母様が立派なだけで、私は無知で愚かだった。それは破滅した今も変わらない。ギルドでも影で言われている。私はお前の足を引っ張っていると」
「そんなことはありません!魔帝様は私が尊敬する人です。貴方がいなければ今の私はありません。あの時が私の分岐点でした。それに今は、子供の頃の約束通り魔帝様と一緒におやつが食べれています」
「ゼオ……お前もあの約束を忘れていなかったか」
「もちろんです。今までは剣となり盾となって貴方をお守りしてきましたが、これからは貴方の妻としても全力で奉仕していきます」
「男のお前に妻の役割は求めていないのだが」
「では、夫ですか。魔帝様が嫌でなければ貴方様には危険がない専業主婦になっていただきたいです」
魔帝は無の表情で天井を見上げた。
お互いを縛り付けず、ちょうど良い距離をとろうとしているのに、ゼオががっしりとしがみ付いて離してくれない。
「私達は男だぞ」
「知っております。……はっ、私としたことが配慮が足りませんでした」
魔帝の恋愛対象は女の子。そうやっとゼオが気づいてくれたと安堵のため息をついた。
「男ならばペニスでの快感も欲しくなりますよね。私は淫魔の術を受けていないので洗浄は必要ですが、お望みがあればすぐ洗って用意します。夜の営みに遠慮はいりません。夫婦関係は円満なのが一番です」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
伝わっていなかった。むしろ悪化していることに魔帝は頭を抱えた。
その後、魔帝がハーレムに女の子を入れたいと言おうものなら、ゼオの重すぎる愛を伝えられるため魔帝も諦めた。
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