ハーレムを作ろうとしたら阻まれる

からどり

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魔帝は開けっ放しの寝室のドアから入ってくる料理を作る匂いを嗅ぎながら横になっていた。
 十分ほど前、魔帝が目を覚ますとゼオが胸の突起を舐め回していたが、彼が目覚めたと分かるとにっこり笑って口を離した。

「起きたのですね。魔帝様。これからお食事を用意しますのでもうしばらくお休みください」

ゼオは寝室のドアを開けっ放しにして部屋を出て言った。
 今、ゼオは隣の部屋にある小さなキッチンで料理を作っている。時々、ドアから魔帝の様子を覗いてくる。

「なんだか、良い匂いがしてるな」

魔帝が言うとゼオは嬉しそうに微笑んだ。

「はい。貴方様に喜んで欲しくて料理を作らせて頂きました」

「そうか……」

魔帝は気まずさを感じて、寝返りをうってゼオから顔を背けた。
しかし、そんな魔帝に構わずにゼオは料理の続きをするためにキッチンへ向かった。

「昔からあいつは……」

魔帝は途中で言葉を飲み込んだ。

 魔帝とゼオの出会いは十歳に満たない頃まで遡っていく。
 当時の魔帝は伯爵の三男だった。兄が二人。後継ぎとスペア。三男の魔帝は兄達と比べると優遇差を感じながらも生活の不自由はなく育てられた。でも子供心に自分だけの特別が欲しくて、冒険小説のように平民の友達を求めて町をうろうろしていた。

「てめえ!かえしやがれ!」
「ふざけんな!これはオレのだ!」

同年代っぽい声が聞こえ、魔帝は急いで声のする方へ向かった。

「これはケンカを仲裁して仲間になるあれだ!」

路地裏で身なりのあまり良くない子供達が喧嘩をしている。一人は薄汚れた服に日焼けした肌の男の子で、彼を殴っているのはボロボロの布を着ている男の子だった。どちらも魔帝と同じぐらいの年齢に見える。
ボロボロの服の子の後ろに二人、似たような汚れた服を着た男の子がいた。

「ええい!やめい!ケンカなどしてもフモウだ!仲よくしろ!」

魔帝は王道展開を思い浮かべて、喧嘩の仲裁をしようと二人の間に割って入った。

「なんだてめえ?」

日焼けをしている薄汚れた服の子が魔帝を睨みつけた。

「ケンカをやめろと言っている」

魔帝がそう言うと日焼けをしている男の子がボロボロ服の男の子の襟を掴んでいる手が緩み、その一瞬にボロボロ服の子が相手を突き飛ばした。

「くっそ……」

殴られていた男の子は後ずさりながら三人に向かって手をかざした。

「お前、マホウが使えるのかあっ!?」

魔法がつかえるのかという魔帝が言い終わる前に、日焼けした男の子がボロボロの服の男の子に飛びついて殴った。

「マホウなんて使えないくせに!」

「つかえる!」

「わあああ!やめろ!けいら隊だ!けいら隊が来るぞ!」

家で喧嘩をするといつも「警邏隊が来ますよ!」と怒られていた魔帝は、大人の口真似をして、子供達を脅した。

「くそっ!おぼえてろ!」

「ばーか!」

「よわ虫!」


警邏隊を怖がり、口々に悪口をいいながら三人の男の子が逃げた。残ったのは魔帝と殴られた男の子。

「だいじょうぶか?」

「みたらわかるだろ」

「ぐぬ、だいじょうぶではないな。えーっとバンソウコウでは足りぬぞ。ぐぬぬ」

魔帝はせめて汚れを拭いてやろうとポケットからハンカチを出し、彼の顔を拭こうとした。

「やめろ!」

突然、強い拒絶をされ魔帝はビクッと体を震わせる。

「あ、いや……もうケガはだいじょうぶだ」

そう言って彼は警戒しながら後退り、そしてそのまま走り去ってしまった。
残された魔帝はその後ろ姿をぼんやりと眺めていたが、やがて彼の態度を思い出し怒りがふつふつと湧き上がってくる。

「あいつはなんなんだ!せっかく助けてやったのに礼を言わなかったぞ!せっかく友だちになってやろうと思ったのに!」

魔帝は怒りの勢いのまま、その場を走り去った。

「また探し出してやる。マホウが使えるならメイヨあるわがマティ軍の配下にしてやるんだ」

 魔帝の本名はマティ。東方からの客人が教えてくれた漢字という文字で『魔帝』と当て字をされ、その意味が特別感全開だったのでマティが気に入って名乗るようになるのは半年後のことだった。

それから数日間、魔帝は町中を探し回ったが彼の姿は見つからない。諦めかけたその時だった。彼は最初に会ったときよりもっとボロボロの姿で路地裏で倒れていた。

「だ、だいじょうぶか?」

思わず駆け寄り、助け起こそうとしたが手を払われてしまった。

「よるな……さわるな」

警戒心むき出しで唸る彼を見て、魔帝は首をひねった。

「ケガをしたのになぜ手当てを受けないのだ?」

「だれが、オレを、たすけるんだよ」

「むっ、このマティ様が助けようとしたではないか。イヤだと言ったのはそっちだぞ」

「たすけろって、いってない」

「言ってないが、助けようとしただろ。今、私はお前を助けようとしている。助けようとしている人がいるのだから手当てを受けれるぞ」

「うるさい……ほうっとけよ……」

魔帝は彼がなぜこんな所にいるのか不思議に思った。彼の両親はどうしているのだろう?と。
 魔帝にとって両親がいるのは普通だ。三男の魔帝は唯一、母に育てられ上の兄達もそうだと思っていた。
実の所、兄二人は跡取り教育のため自立を促し、教育を受けるため乳母に育てられていた。魔帝が物心がつくころに兄二人は学校に進学していたので彼は知らなかった。

 孤児は孤児院に保護されているという先入観もあり、町中に孤児がいると思っていなかった。

「お前、親は手当てをしてくれないのか?」

そう聞くと彼はビクッとして目を泳がせる。そして小さな声で呟いた。

「……しんだ」

「っ、こ、こじ院が助けてくれるんじゃ」

「あそこに入れるのは一部だ。オレみたいなガキは入れない」

魔帝には分からなかった。両親がいないのに孤児院に入れないことが。

「洗礼も受けれない。だから、オレはじごくいきなんだよ」

そう言って彼は泣き始めた。その涙があまりにも悲痛で魔帝もつられて泣きそうになったが堪えた。そして彼の腕を引っ張る。

「じごくじゃない!わがマティ軍団に入れてやる!わがお母様にたのんで洗礼も受けさせてもらう!」

魔帝は堂々と言い放った。そんな魔帝を見て彼は泣くのをやめてポカーンと口を開ける。

「ま、マティぐんだんって……」

「まだできたばかりで団員はいないが、お前をメイヨある二番目のメンバーにしてやる!お前はマホウが使えるからサブリーダーにしてやろう」

彼は目をぱちくりとさせ魔帝が差し出す手を見つめた。そして今度は不安そうな顔で聞く。

「ほんとうにオレなんかを入れてくれるのか?」

「ゆいしょ正しいドーアー家生まれ、マティ軍のリーダーであるわれは、部下にウソはつかないぞ」

「……」

男の子は差し伸べられた手にそっと自分の手を乗せた。握りしめてくる手は温かく柔らかかった。

 二人は手を繋いで魔帝の家に向かった。

「お前の名前はなんというのだ?」

「ゼオ。あんたはマティさま?」

「その通りだ。わが軍はおやつの時間を大事にするぞ。おかしは好きか?」

「おかし?」

「クッキーやケーキやアメだ」

「しってるけど、たべたことがない」

「なんだと!?食べたことがない!?ならばおやつの時間に食べさせてやる!」


 お菓子の味を思い出した魔帝のお腹がぐるぐると鳴る。
横になっていた魔帝は、まだ疲れの取れない体を起こした。

「魔帝様、簡単なものですが食事ができました」

寝室の外から自分を呼ぶ声に顔を向けた。
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