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出会いからラブラブ編
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それから数日、クレアなんとかが来たら最後の話し合いをするつもりだったのに彼は来なくて、あの吸血鬼みたいな人が来た。ちょうどティオも家にいたからリビングで三人、席についてクレリアム・マーズ・シトランテ・クワイヤーマックスのことを話することになった。
「―――ということでして、私の幼馴染とはいえ、私の婚約者であるギスケに暴力を振るった彼のことを私は許しません。今後、クワイヤーマックスが来た場合、ギスケへの謝罪は受けても今後は何一つ付き合うつもりはありませんよ」
ティオは穏やかな口調だけどはっきりと言い放った。ティオと彼は面識があるけど、俺とは初対面だ。彼はクレアことクレリアムと一年前に結婚していて、なぜかティオをクレリアムの不倫相手だと思って自分たちは別れるから好きにしろという手紙まで送ってきた。
その不名誉な誤解を解くためにティオがさっきまで説明していたのだけど、彼の表情は険しいままだった。
「……本当に何年も会っていないとしても私とクレリアムが貴殿に結婚の報告をした時に再会しているのは確かだ。それから再び関係が始まったのではないかとこちらは疑っている」
ティオは疑われて怒っているし、クレリアムの夫はティオを疑っているし、怖い空気が二人の間に漂う。
「そう疑われてもお二人の結婚の報告は私以外にもおこなわれたのでしょう?私の名を出し、実はその人達の誰かと逢瀬をした可能性もあるのでは?」
「クレリアムの元婚約者は貴殿だけだ。今まで穏やかに二人の関係を築けていたと思っていたのに貴殿と再開したときのクレリアムの目の輝き、なにかあるとしか思えん」
「正式な書類は交わしていませんが、元婚約者という存在が気になるのは分かりますよ。ですが私は村を離れてからはずっと……長いときでは数年、冒険者ギルドで請け負った仕事で数人と旅をしながら暮らしていました。今まで引き受けていた仕事に関してはギルドに依頼達成の書類が残っているでしょうし、当時の仲間達に聞いていただいてもよろしいですよ。私の過去の日記もお見せできますよ。それにギスケと出会ってからはこの家でずっと彼と暮らし、共に生きています。ギスケ以外の他の誰かに愛を捧げるなんて死んでもできません。だから安心して下さい」
安心してくださいって言葉は俺に向けて言ってくれたみたいでティオが俺の手を握ってくれた。そのおかげで少し不安と緊張が解けた。だけど向こうは憎々しげに俺達を睨んでくる。
「……失礼だが、君はこの青年を心から信頼して愛しているのか?貴殿の能力に釣り合う力を持っているように見えぬが」
「ええ、もちろん。私の信頼と愛を捧げている唯一の人です。私にとって一番大切なのはギスケが幸せであることですから能力なんて関係ありません。ギスケそのままで良いんです。たとえ国王でも彼を傷つけるのならばギスケを守るために戦い抜きますよ」
ティオの言葉を聞いて俺は思わず泣きそうになった。だって異世界から来た俺のことそこまで想ってくれてるなんて嬉しいじゃないか。
「……そうか。疑ってすまなかった。結婚後、貴殿が言い寄るようになったというのはクレリアムの嘘だったのだな。まさか事実無根の作り話だったとは。無関係な婚約者殿に暴行した妻に変わって詫びさせて欲しい。謝ってすむことではないが妻がすまなかった。」
クレリアムの夫は俺に向かって頭を下げた。どうやら誤解が解けたようだけどクレリアムって何がしたいんだ?クレリアムはこの人にはティオから言い寄られてるって話していたみたいだけど、結婚して俺をビンタした日までティオに会いにきたことないのに。
「俺はティオが悪くないって誤解が解けたらそれでいい。でも結婚したのにクレリアムは夫以外の他の男性っていうか、ティオに言い寄られているとかティオから指輪をもらったとか、なんで嘘をつくんだ?あんたの気を引こうとしているんじゃないのか?それならちゃんと話し合ったほうが良いと俺は思うんだけど」
「……指輪?」
クレリアムの夫が怪訝そうな顔をした。あれ、指輪のこと知らないのか?彼が贈った指輪をティオからだってあいつは嘘ついたんじゃないのか
「その、俺がクレリアム、さんに会った時、ティオから指輪をもらったって見せつけられたんだ。でもティオは指輪を贈ったことはないし、それどころかまったく会ってないって……俺はティオを信じてるから、じゃあ誰からもらった指輪だろうって考えたら夫からもらった指輪をそう言っているだけなのかと思ったんだけど」
「……本当なのか?」
じっと見つめる暗くて赤い目が潤んでいる。この人、裕福そうだしきっと結婚指輪にも力を入れて贈ったんだろうな。だから俺は自信を持って答えた。
「ああ。左手の薬指にでっかい黄色の宝石がついた指輪をしてて、それを俺に見せてきたんだ。あんたが贈ってあげたものなんだろ?」
なんであんなに高そうなものを夫からもらっておきながらティオに会いにきたんだろう?結婚関係のマンネリ解消とかか?でも結婚初日から仲が悪くなったんだよな?俺には浮気とか不倫って理解できない。
「……」
「ギスケ、本当に黄色の宝石だったんですか?茶色や他の色と見間違えていませんか?」
夫の方は無言で眉間にシワを寄せているし、ティオがすごく不安そうな顔で俺に指輪の色を確認してきた。
「黄色、だった。うん、見間違えじゃないと思うけど。あの時、黄色い大きな宝石だって思ったから」
「…………」
「…………」
沈黙が続く。そしてクレリアムの夫はため息をついて口を開いた。
「私へクレリアムの心が向かっていないことを確信できた。ティオ殿への手紙で別れると書いてはいたが、もしかしたらあの手紙を読んで二人が不倫の罪を悔いて別れ、戻ってきたクレリアムとやり直しができるかもしれないとわずかに期待していた。だがそれは無意味だった」
諦めや悲しみなど色んな感情が籠もって彼の声が震えていた。
「指輪の色一つでそんな大げさな。クレリアムが自分で買ったものかもしれないし」
俺はなにかの間違いだと思った。何がどう間違えたのか分からないけどなんとかしないといけないと思った。
「ギスケは異世界人なので知らないのでしょうが、指輪の宝石の色は種族ごとに結婚相手に贈る色が違い、それぞれ意味があるんです。例えばエルフだと緑や青の宝石になります。緑は自然、安らぎ、青は空や水、清浄です」
「俺の世界にも宝石の意味はあったよ。健康とか幸運とかって」
「それでですね、黄色というのは、その……」
「聖なる光。魔を払うという意味だ。吸血鬼がもっとも嫌うものだ。つまりクワイヤーマックスは私を愛していると言って結婚しておきながら嫌っていたのだ」
血が凍るような声で語るクレリアムの夫。俺は指輪のことを彼に話したのを心の底から後悔した。そんな意味があったって知っていたら彼に言ったりしなかったし、もうちょっと彼に優しく接することができたと思う。
「―――ということでして、私の幼馴染とはいえ、私の婚約者であるギスケに暴力を振るった彼のことを私は許しません。今後、クワイヤーマックスが来た場合、ギスケへの謝罪は受けても今後は何一つ付き合うつもりはありませんよ」
ティオは穏やかな口調だけどはっきりと言い放った。ティオと彼は面識があるけど、俺とは初対面だ。彼はクレアことクレリアムと一年前に結婚していて、なぜかティオをクレリアムの不倫相手だと思って自分たちは別れるから好きにしろという手紙まで送ってきた。
その不名誉な誤解を解くためにティオがさっきまで説明していたのだけど、彼の表情は険しいままだった。
「……本当に何年も会っていないとしても私とクレリアムが貴殿に結婚の報告をした時に再会しているのは確かだ。それから再び関係が始まったのではないかとこちらは疑っている」
ティオは疑われて怒っているし、クレリアムの夫はティオを疑っているし、怖い空気が二人の間に漂う。
「そう疑われてもお二人の結婚の報告は私以外にもおこなわれたのでしょう?私の名を出し、実はその人達の誰かと逢瀬をした可能性もあるのでは?」
「クレリアムの元婚約者は貴殿だけだ。今まで穏やかに二人の関係を築けていたと思っていたのに貴殿と再開したときのクレリアムの目の輝き、なにかあるとしか思えん」
「正式な書類は交わしていませんが、元婚約者という存在が気になるのは分かりますよ。ですが私は村を離れてからはずっと……長いときでは数年、冒険者ギルドで請け負った仕事で数人と旅をしながら暮らしていました。今まで引き受けていた仕事に関してはギルドに依頼達成の書類が残っているでしょうし、当時の仲間達に聞いていただいてもよろしいですよ。私の過去の日記もお見せできますよ。それにギスケと出会ってからはこの家でずっと彼と暮らし、共に生きています。ギスケ以外の他の誰かに愛を捧げるなんて死んでもできません。だから安心して下さい」
安心してくださいって言葉は俺に向けて言ってくれたみたいでティオが俺の手を握ってくれた。そのおかげで少し不安と緊張が解けた。だけど向こうは憎々しげに俺達を睨んでくる。
「……失礼だが、君はこの青年を心から信頼して愛しているのか?貴殿の能力に釣り合う力を持っているように見えぬが」
「ええ、もちろん。私の信頼と愛を捧げている唯一の人です。私にとって一番大切なのはギスケが幸せであることですから能力なんて関係ありません。ギスケそのままで良いんです。たとえ国王でも彼を傷つけるのならばギスケを守るために戦い抜きますよ」
ティオの言葉を聞いて俺は思わず泣きそうになった。だって異世界から来た俺のことそこまで想ってくれてるなんて嬉しいじゃないか。
「……そうか。疑ってすまなかった。結婚後、貴殿が言い寄るようになったというのはクレリアムの嘘だったのだな。まさか事実無根の作り話だったとは。無関係な婚約者殿に暴行した妻に変わって詫びさせて欲しい。謝ってすむことではないが妻がすまなかった。」
クレリアムの夫は俺に向かって頭を下げた。どうやら誤解が解けたようだけどクレリアムって何がしたいんだ?クレリアムはこの人にはティオから言い寄られてるって話していたみたいだけど、結婚して俺をビンタした日までティオに会いにきたことないのに。
「俺はティオが悪くないって誤解が解けたらそれでいい。でも結婚したのにクレリアムは夫以外の他の男性っていうか、ティオに言い寄られているとかティオから指輪をもらったとか、なんで嘘をつくんだ?あんたの気を引こうとしているんじゃないのか?それならちゃんと話し合ったほうが良いと俺は思うんだけど」
「……指輪?」
クレリアムの夫が怪訝そうな顔をした。あれ、指輪のこと知らないのか?彼が贈った指輪をティオからだってあいつは嘘ついたんじゃないのか
「その、俺がクレリアム、さんに会った時、ティオから指輪をもらったって見せつけられたんだ。でもティオは指輪を贈ったことはないし、それどころかまったく会ってないって……俺はティオを信じてるから、じゃあ誰からもらった指輪だろうって考えたら夫からもらった指輪をそう言っているだけなのかと思ったんだけど」
「……本当なのか?」
じっと見つめる暗くて赤い目が潤んでいる。この人、裕福そうだしきっと結婚指輪にも力を入れて贈ったんだろうな。だから俺は自信を持って答えた。
「ああ。左手の薬指にでっかい黄色の宝石がついた指輪をしてて、それを俺に見せてきたんだ。あんたが贈ってあげたものなんだろ?」
なんであんなに高そうなものを夫からもらっておきながらティオに会いにきたんだろう?結婚関係のマンネリ解消とかか?でも結婚初日から仲が悪くなったんだよな?俺には浮気とか不倫って理解できない。
「……」
「ギスケ、本当に黄色の宝石だったんですか?茶色や他の色と見間違えていませんか?」
夫の方は無言で眉間にシワを寄せているし、ティオがすごく不安そうな顔で俺に指輪の色を確認してきた。
「黄色、だった。うん、見間違えじゃないと思うけど。あの時、黄色い大きな宝石だって思ったから」
「…………」
「…………」
沈黙が続く。そしてクレリアムの夫はため息をついて口を開いた。
「私へクレリアムの心が向かっていないことを確信できた。ティオ殿への手紙で別れると書いてはいたが、もしかしたらあの手紙を読んで二人が不倫の罪を悔いて別れ、戻ってきたクレリアムとやり直しができるかもしれないとわずかに期待していた。だがそれは無意味だった」
諦めや悲しみなど色んな感情が籠もって彼の声が震えていた。
「指輪の色一つでそんな大げさな。クレリアムが自分で買ったものかもしれないし」
俺はなにかの間違いだと思った。何がどう間違えたのか分からないけどなんとかしないといけないと思った。
「ギスケは異世界人なので知らないのでしょうが、指輪の宝石の色は種族ごとに結婚相手に贈る色が違い、それぞれ意味があるんです。例えばエルフだと緑や青の宝石になります。緑は自然、安らぎ、青は空や水、清浄です」
「俺の世界にも宝石の意味はあったよ。健康とか幸運とかって」
「それでですね、黄色というのは、その……」
「聖なる光。魔を払うという意味だ。吸血鬼がもっとも嫌うものだ。つまりクワイヤーマックスは私を愛していると言って結婚しておきながら嫌っていたのだ」
血が凍るような声で語るクレリアムの夫。俺は指輪のことを彼に話したのを心の底から後悔した。そんな意味があったって知っていたら彼に言ったりしなかったし、もうちょっと彼に優しく接することができたと思う。
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