ダークサイド

タカヤス

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ダークサイド 第17話 「帝都攻略戦 前編」

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かつて、帝都と皇帝を死守したとされる7人の英雄が居た。
彼らはその功績から皇帝より、7本ある『聖剣』を下賜された。
その7人の英雄たちは『七聖剣将』と呼ばれ、有事の際には真っ先に皇帝を守る盾となる。

その名残が、帝都を取り囲むように設置された7つの砦である。
『七聖剣将』の名を受け継ぐ将たちは、各人がある程度の兵力を有しており、皇帝の敵を排除する。
また有事でなくとも、彼らは多大な権利を有しており、帝国の重大項目については彼らの協議により決定される。
二つ名と共に帝都において最も有名な固有名詞となっている7人。

筆頭、『紫炎騎士』ベルン。
二の将、『金色貴族』ランドルフ
三の将、『不可侵の紺壁』ガーランド。
四の将、『白銀騎士』ザッシュ。
五の将、『無色の交渉人』ケルナー。
六の将、『緑刃の両剣』ギィ。
七の将、『白色淑女』セラ。

『彼らが守る帝都を攻略する事は不可能』
帝国の住人たちは、皆そう考えていた。
一つの砦が、他の一領土ほどに匹敵する兵力を持つのである。
いかに南方のほとんどを統一したと言えども、帝都から離れればその保有兵力数は極端に制限される。
そのため、現在のロゼッタ軍の総数よりも、帝都の残存兵力の方が上回っている状態だ。
更にそれぞれの砦には、帝国において最強と謳われる『七聖剣将』が立ちはだかる。

だが、帝国の国民たちが『考えていた』事は、今や過去のものとなっている。
今、民衆の間で囁かれている言葉は、
『常人には七聖剣将が守る帝都を攻略する事は不可能。だが、ロゼッタ軍ジュダはそれを可能にする』
という事だ。
大陸南方の統一は前人未踏の事であり、連戦連勝の戦況はジュダを神格化さえさせていたからだ。
『今度もきっとジュダ様は、大勝利するに違いない』
そんな甘い考えが浸透し、誰もがそれを疑わない状況にあった。

その予想の半分は的中し、半分は外れる結果となる。





「全ての砦を同時に攻撃する」
ジュダの言葉に居並ぶ将たちは最初、言葉の意味を掴めずに沈黙し、次いで困惑のどよめきを起こす。
皆、どこの砦から攻めるのかを考えており、同時に全てを攻めるなどとは考えていなかったからだ。
「よろしいでしょうか?」
将たちのどよめきの中、細く白い手が上がる。
ジュダほどに天才的ではないが、将として卓越した指揮能力を認められているオルティアが発言を求める。
騎士団長としては若く美麗な男は首肯し、発言を許す。
「現在の我が軍と帝都の兵力差を考慮するに、全ての拠点を同時に侵攻するよりも、各個撃破していく方が効率が良いのではないかと思います」
兵力数においては、敵が多いのである。
その全てを一度に相手するよりも、散らばっている敵を各個撃破するのは常套手段だ。
将のうち半数ほどがオルティアの言葉に頷く。
「敵もそのように考えているだろう。だからこそ、その間隙を突くのだ」
彼女の言葉に答える男の声は、透き通るような静かなもの。
ジュダの真意を理解していた者はほとんどいなかっただろうが、それに逆らう者はさらに少なかった。
この男に従っていれば、ロゼッタ軍は勝利へと導かれるのだから。
「しかし、いかに我が軍の士気が上がっていようとも、帝都の『七聖剣将』の砦を攻めるとなると被害は甚大では?」
将たちが根拠のない納得の表情を浮かべる中、老将アムンゼルも異議を唱える。
老将の言葉を吟味し、苦渋を含む表情を装いながらジュダは答える。
「…実はもう一つ理由がある。帝都は一刻も早く制圧する必要があるのだ。追いつめられた奸臣らは、最悪の場合帝都の住民たちを人質に取る可能性もある」
「!?」
美麗過ぎる男の、憂いを含む呟きが一つ。
場はそれだけで、卑劣な帝国軍に対する憤りで満たされる。
攻略に時間をかけ過ぎていては、帝都の罪のない住民たちにまで被害が及ぶのだ。
短時間でかつ有効なダメージを与えるには、砦の全てを同時攻撃する必要がある。
男の言葉は正しい事のようにしか聞こえない。
被害は深刻なものになるという事実を巧妙に隠し、耳に甘い正義感を前面に押し出す。

「そうだ、どんな被害が出ようとも、我々は帝国を救わなければならないのだ!」
「しかしあの『七聖剣将』を相手に……勝てるのでしょうか?」
「勝てるのか? ではない! 勝つしかないんだ!!」

見せかけの正義感、甘美な義務感に酔った将たちは勝手に盛り上がる。
たった一人の男の思惑通りに。
その場に『帝都侵攻』の言葉が浸透した完全なタイミングで、ジュダは立ち上がる。
「今回が最後の戦いだ。……今までにない苦しい戦いになるかもしれない」
場は静まりかえる。
その沈黙が不安を呼び起こすよりも前に、美しい男の声が響く。
「それでも腐敗した帝国を救う為にはこれしかないのだ。…皆の力、私に貸して貰いたい」
非の打ち所のない演説に、将たちの多くは沸き上がる。
(最後の仕上げだ。お前達には死んで貰う。開かれる扉へ続く、紅い絨毯として…な)
男の端正な口の端が吊り上がった。



― ◇ ― ◇ ― ◇ ―



二の将、『金色貴族』ランドルフは有力貴族の当主である。
先祖代々から帝国貴族であり、その特権は今もなお継続している。
それら特権と財産については、
帝国の財産と権力の4分の1を手に入れている、
手に入らないものは皇帝の血筋だけだ、などと豪語しているという噂もあるほどである。
その当主であるランドルフは、肥え太った、それでもある程度は鍛えられている腕を叩き付ける。
「一体何をしているというのだ! 高い金を払って訓練させてきたのは、こういう時に役立つ為ではなかったのか! 無能どもが!!」
彼の砦の、専用の個室。
個室とは言っても、その大きさは個人としてはかなり大きく、その内装費用と金品は一般の人々の想像を遙かに越える。
戦争中だというのに、金と権力とで集めた女達をはべらせながら喚く様は、ある種別世界と言えよう。
「申し訳ございません。何しろ相手は戦争慣れしているロゼッタ軍でして……ひっ!」
報告に来た兵士長は、ランドルフに手近な物を投げつけられ、報告を中断させられた。
「ジュダという男が化け物だと言う話は聞いている。だが小癪にも、この砦を攻めているのは、ダークエルフの女だろうが!
 兵力にしてもこちらが多いというのに、なんたる失態だ!!」
「………」
長年、主君に付き従っている執事は、愚かな兵士長とは異なり、近場の女に目配せする。
「ランドルフ様、注がせて頂きます」
見目麗しい女が、男の容器に飲み物を注ぐ。
「ふん!」
自尊心の塊と言った様子のランドルフは、それを一気に飲み干す。
多少、気分が和らいだと判断した所で、執事は切り出す。
「戦況は7対3ほどでこちらが有利でございます。帝国の砦の中でも最高の防御を誇る我が砦に対して、ロゼッタ軍はかつてない程の被害を受けております」
執事は多少の誇大と世辞とを混ぜながら発言するが、あながち間違った分析ではない。
このままの状況で推移すれば、ナーディアが率いるロゼッタ軍を撃退する事が可能だ。
「そうか。最初からそう報告すれば良いものを」
ランドルフは尊大に頷く。
傲慢としか思えない口振りだが、この場で彼に逆らえる者は居ない。
「申し訳ございません」
執事は即座に、かつ丁寧に謝罪する。
この主君への接し方は、もう慣れているからだ。
「ふん、ならば良い。口直しだ。女たちを呼べ」
太った身体を揺らしながら、ランドルフは好色の笑みを浮かべた。



「…帝国七聖剣将、ランドルフで間違いないか?」
夜の室内に、ハスキーな女性の声が響く。
月明かりを背景に背負う影絵は、華奢な女性の身体。
温度と言ったようなものを感じさせない冷たい声は、彼女の纏う精霊に酷似している。
「よくここまで来られたものだ。…護衛の兵士たちには、きつく言っておかなければなるまい」
対して答えるのは、低い男の声。
声に震えは無い。
まるで侵入者があるのを予想していたかのように。
「兵士だけに責任を転嫁するのは愚将のする事だ。特に権限が強まれば、それは尚更」
「では、貴殿は愚将というわけだな。ロゼッタ軍『氷弓』ナーディア将軍」
「否定はしない。将軍とは名ばかりだ。我はロゼッタにせよ、帝国にせよ、人間たちの命に興味など無いのだから」
彼女の腕が、音もなく上がる。
いつの間に構えたというのか、その腕には彼女の得物である弓矢がある。
この至近距離では外す方が難しい。
否、彼女はどんな距離であっても目標を外す事は無い。
だが命を握られている絶体絶命の状況であっても、男に動じた様子は無い。
「最初の質問に答えよう、ナーディア将軍。残念だが、私はランドルフ様では無い」
「!?」
男の声を合図に、暗かった部屋に明かりが灯る。
周囲を弓矢、ボウガン、槍、剣などの武器たちが囲む。
「ふん、ロゼッタ軍ジュダの単独での夜襲は予想済みなのだよ。浅はかだったな、女!」
兵士達が一番密集している、一番安全な所から肥えた男の大声が聞こえる。
執事の考えを、ランドルフはまるで自分が考えたかのように言っているが、執事はそれを口外する事は無い。
「外れる事の無い弓の使い手。『氷』の精霊使い、ダークエルフ、ナーディア。
 だが目標が見えなければ、外れない矢も当たる事が無い。
 武器をお捨てなさい。逃げる事も諦めた方が良い」
執事は代わりに、相手の戦意を削ぐ言葉を投げつける。
「……………」
「おい、思ったよりも上玉だ。殺さずに捕らえろ。私自らが存分に可愛がって…いや、処罰してくれよう」
姿を隠しながら騒ぎ散らしているのが、ランドルフであろう。
罠にはめられたのは、彼女の方らしい。
「………が」
ナーディアはわずかに呟く。
「んん? 聞こえんな、命乞いか? 必死に命乞いすれば、可愛がってやるぞ?」
勝手な妄想に浸るランドルフの声がする。
「……抵抗は無駄だ。弓矢は距離を取って扱うもの。
最初の3本は躱せないとしても、近距離での戦闘になれば槍や剣の物量には敵わない」
主君とは異なり、彼女の呟きを諦めとは見ない執事は、さらに追い打ちをかける。
だが、それに答えたのは温度を感じさせないほどに響く冷たい声。

「下衆が、と言ったのだ俗物」

「なっ……!?」
「…殺せ」
彼女の氷の言葉が紡がれ、執事が彼女を殺すように命じたのは瞬時の事だった。
あらん限りの剣、槍が中心のダークエルフの少女へと向かう。
小柄な彼女を多くの兵士達が囲み、武器を突き立てる。
「ちっ、馬鹿な女だ………んん?」
ランドルフの舌打ちと言葉は中断させられた。
彼女に槍を突き立てたはずの兵士の一人が、ぐらりと倒れる。
「……!?」
彼を皮切りに、周囲を囲っていたはずの兵士たちが次々と崩れ落ちる。
「精霊使いを甘く見ない事だ。矢に付与するだけが『氷』の使い方ではない」
彼女を取り囲むように氷柱が突き立っている。
美しい氷の柱は兵士たちの攻撃を弾いただけでは飽きたらず、その鎧をも貫いていた。
無骨な兵士たちを貫く死の刃は、血に染められた紅い氷の花弁。
「なっ…ばっ、馬鹿な……そんな……」
「帝国七聖剣将、『金色貴族』ランドルフ。その命、頂戴する」
ナーディアは冷たく宣言する。
冷たく撃ち出される矢は、弧を描き、直進し、蹂躙する。
怒鳴り声とわめき声は、苦痛と恐怖に歪む声へと変換される。

暗い氷の殺戮が始まった。





砦の屋上。
夜風に靡(たなび)く、帝国の旗が燃える。
暗い闇に立ち上る炎が、ナーディアの顔をも照らす。
「……………」

我は復讐の為に生きている。
復讐とは、すなわち殺すこと。
仲間を殺したエルフとそれに味方した帝国兵たち。
しかし、それは果たされる事のない思いでは無いだろうか?
全ての帝国兵を殺す事など、出来ようはずがない。
憎悪の黒い炎は、更なる復讐の炎を生み出すだけ…
仮に全てに復讐を遂げたとして、行き着く先は完全なる破壊。
復讐の炎は、我を含め全てを焼き尽くすだけ…
しかし、それでも……

「我にはそれしか…残っていないのだから……」
ナーディアの呟きは風に流れる。
炎に照らされる復讐者の顔は、その名にそぐわない少女の顔。
彼女は、涙を流さずに泣いているようだった。



― ◇ ― ◇ ― ◇ ―



五の将、『無色の交渉人』ケルナーは自分の目と耳を疑った。
彼の砦に攻め込もうと押し寄せていたロゼッタ兵の姿が、一夜にして消えたからだ。
何かの策略だろうか?
ロゼッタ軍の騎士団長ジュダは、計算高い男だという噂だ。
兵士の姿を消し、油断した所を一気に攻め込むつもりだろうか?

ケルナーは武人では無い。
他の七聖剣将のように自ら戦う力を持っているわけではない。
またランドルフのように、その権力で砦に多くの兵士を配置しているわけでもない。
彼が『七聖剣将』に名を連ねている理由は、彼の二つ名が示す通り『交渉』によってだ。
商業都市バーザルの豪商であった彼は、その金品と交渉術により、今の地位を築いた。
客観的に物事を分析し、相手の性格を分析し、状況に合った言葉を投げかける。
常に最小の労力での最大効率を意識しつつ、帝国の経済戦争を乗り切ってきた男。
彼に戦術的知識や経験はほとんど無かったが、生き残る術は身に付けていた。

独自のルートで情報を収集した彼は、砦を攻めているのがロゼッタのオルビスという将だと理解していた。
相手は、『連戦連勝のジュダ』でなければ、『老将アムンゼル』でも『殺戮人形オルティア』でも無い。
オルビスという男は、将としてそれほど有能では無いらしい。
純粋な兵力数で上回るケルナーは、総力戦となったとしても負ける事はなかっただろう。
しかし、彼の今回の狙いは長期戦にある。
恐らくは帝国側が有利に展開するであろうが、そうなった時にロゼッタ軍に対して降伏を迫れば良い。
逆に帝国側が不利に展開したとすれば、砦と兵力をロゼッタに差し出し、帝都を陥落させ自分の立場を保守する。
どちらになったとしても、兵力を温存しておく事は最重要だ。
この戦争の後にも、権力者として生き残る為には。

武人で無いが故に、ケルナーは被害の少ない『籠城』を採るに至ったのだ。
砦の門を固く閉ざし、長期戦を狙う。
固く閉じた貝のような砦を攻めるのは、容易ではない。
状況はケルナーの予想通りに進んでいた。
……はずだったのに。

「ロゼッタ軍兵士たちの姿が消えただと…?」
そして更なる部下の報告は、彼の思考をますます混乱させる。

ロゼッタ軍は、正体不明の一団により壊滅的な打撃を受けた、と。



その正体不明の一団を指揮しているのは、一人の女。
ジュダ配下の闇の娘、『空の女王』ヘルデ。
整った顔立ちは、黙っていればどこかの令嬢と言えるほどに美しい。
ややつり目がちの瞳は『荒々しい』印象を与えるが、それも魅力と言えるかもしれない。
そんな顔立ちや女らしい身体以上に見る者の視線を集めるのが、背中から生える透明の羽と蜂の尾。
それらは彼女が人間でない事を如実に表している。
もっともそれについては、一刺しで自由を奪われたオルビスたちロゼッタ兵が一番よく理解した事だろうが。
「さぁて、とりあえずの兵力は確保……したかねぇ」
かつてロゼッタ軍が戦略拠点としていた古びた砦の中、ヘルデの声だけが響く。
いや、声にならない呻き声を入れれば彼女の声だけでは無い。
ロゼッタ兵士たちの、声にならない低いうめき声は延々と響いている。
「きさま……いったい…何者………ぐっ」
かろうじて言葉になった声を発したのは、ロゼッタの将オルビスだった。
身体の自由を奪われ脂汗を流す彼の顔を、女は踏みつける。
「敗者は黙ってなよ。それに、もうじき最高の解放感ってやつを味あわせてやるからさ」
蠱惑的な笑みと声。
ヘルデのそれを合図にしたかのように、オルビスを始め兵士たちの苦しみが増す。
「うっ…うがああああああっ!!」「ぐ…ぐはっ……」
悲鳴と苦痛をごちゃ混ぜにしたヘルデの『兵力の確保』が始まった。

動けないはずの兵士たちの身体がびくびくと痙攣したかと思うと、その腹から細い腕が突き出る。
「ぎっ、ぎあああああああっ!!」
腹を内側から突き破られた事を認識し、兵士から断末魔の絶叫が上がる。
肉の中から血を纏い、『生まれた』のは女。
外界の空気に触れ、身体を震わせながらも、彼女らは生まれていく。
一見すれば人間の女性。
しかし、彼女らの背中から生える羽とその蜂の尾は、『母親』であるヘルデと同様。

餌を麻痺させ、その体内に卵を産み付ける。
その卵は幼虫へと成長し、餌を食い成体へと至る。
その餌は人間たち。
ヘルデにとってロゼッタも帝国も関係無く、ただ良質の餌であれば良い。
ロゼッタ兵士たちの命を喰らい、ヘルデに忠実な『空の軍隊』が生まれる。

「ジュ、ジュダ様が…きっと……おまえらを………ぐっ…がはっ!」
大量の血を吐きながらも、オルビスは自らの腹を抑える。
内部を食い破ろうとする何者かを、封じ込めるように。
「あはははははっ! ジュダぁ? 奴がそんな事考えるわけないだろう? あれは魔王なんだからさぁ!」
「うっ…ぐあああああああっ!!」
オルビスが言葉の意味を理解したのが先か、それとも絶命したのが先か。
「あははははははははっ!!」
女の高笑いと、兵士たちの断末魔の絶叫と、肉が破れる音とが重なり響く。
「さぁて、奴の有利に進むのは気にくわないけど、あたしを封印した帝国の人間たちにも挨拶しとこうかねぇ」
血塗られた阿鼻叫喚の中、ヘルデは笑っていた。



オルビス率いるロゼッタ軍は壊滅した。
だが、それはケルナーにとってより悪い方向へと進んでいた。
「そんな……」
彼の口から、絶望を認めた言葉が漏れる。
本来、地に足をつける兵士たちの侵攻を食い止める砦。
一体誰が空からの侵攻を予想出来ただろう?
低い羽音を掻き鳴らしながら、『空の女王』ヘルデ率いる『空戦士団』が飛ぶ。
空は覆い尽くされる。
ケルナーたちに死をもたらす、死神の群れによって。
「使えそうな餌は連れて来るんだよ。後は皆殺しだ! あははははっ!」

帝都、七聖剣将ケルナーの砦は食い尽くされた。



― ◇ ― ◇ ― ◇ ―



帝国七聖剣将、三の将、『不可侵の紺壁』ガーランド。
彼がその二つ名で呼ばれる理由を説明するのに、一番手っ取り早いのは、彼の姿を見せる事だろう。
元から恵まれた2mに迫ろうかという長身に、筋肉隆々の鍛え上げられた肉体。
人間が筋肉を付けられる限界を追求したら、きっと彼に近い形となるだろう。
そしてその筋肉をフルに活かした紺色の鎧。
未開拓地域の一部だけで採石されるレアメタルにより作られたこの世に二つとない、重鎧。
それはその重量に見合う以上の防御力を誇る。
「がははははははっ!」
戦場だというのに、ガーランドは笑い声を上げ、ハルバードを振るう。
ハルバードは、槍の先に斧の刃を取り付けたような形状のものだが、彼が扱うそれは通常のサイズでは無い。
並の兵士であれば持ち上げるのがやっとと言った、特注のハルバードを片手で振るう。
「ぐっ!? ……ああああっ!?」
それが風を切って振るわれる度に、紙のようにロゼッタ軍兵士たちが千切れる。
防ごうとした盾と一緒に腕が吹き飛ぶ。
斬りかかった剣ごと砕かれ、地に伏す。
運良く鎧へと到達した剣は逆に刃こぼれを起こし、その持ち主は運悪く首と胴を切り離される。
「どうした? 我が輩の武具は未だ満足しておらぬぞ! 武のロゼッタはこの程度か!?」
大地をも震わせるような大声、それだけでも他者を圧倒する。
ジュダを『華麗な剣技』とすれば、ガーランドは『豪快な力業』。
桁外れの重量による重い一撃を防げる者は、一般ロゼッタ兵には存在しない。
血と肉を飛び散らせるミンチメーカーと化したガーランドは、ロゼッタ軍に多大な影響を与えている。
「がはははははっ! 次だ、次っ!」
「くそっ、調子に乗りやがって! 今だ、魔法隊!!」
ロゼッタの将の命令により、『不可侵の紺壁』へと魔法が集中する。
一般的に物理防御力に優れる対象に対して、魔法による攻撃は有効である。
魔法は肉体よりも相手の精神に影響するところが多い為、ガーランドにも効くと思われたのだ。
集団で詠唱され、集中した魔法の爆風が巨漢の周囲を包む。
それらは初歩的な魔法に過ぎないが、火力を集中させれば純粋に攻撃力は増す。
もはや重戦士の原型すら残さずに……
「がはははははっ!!」「…ひぐっ!!」「!?」
不吉な笑い声が響き、手近に居た魔法士の首が飛ぶ。
「くっ! 下がれ!」
将に命令されるまでもなく、ロゼッタ軍は散り散りに逃げ出す。
土煙が晴れると、何事もなかったかのようなガーランドの姿が現れる。

魔法が効かなかった理由は、彼の身に付けている重鎧。
正確にはその鎧の材質である、レアメタルにある。
それ自体が魔力を帯びている金属で造られた鎧は、『紺壁』をより強固なものへとしている。

「どうした? 逃げるだけであるか!? 我が輩の相手を努められる者はおらぬかっ!?」
最早、『不可侵の紺色』は人間ではなく化け物とさえ言われている。
だが、その化け物を相手にしていながらも、ロゼッタ軍は善戦していると言って良い状況であった。
「無理はせず、引く時は引くのだ。皆が皆、『七聖剣将』のように戦えるわけでは無い」
ロゼッタ軍を指揮するのは、老将アムンゼル。
目立った奇抜な行動は無いが、老練の用兵は兵士たちに安心感を与え、水準以上の力を発揮させる。
兵力数とガーランド個人の戦闘能力に対し、兵士の訓練度とアムンゼルの指揮能力とにより、帝国とロゼッタ軍は一進一退の戦いを繰り広げている。
「しかし………」
アムンゼルは思考の最初だけを口に出し、後の言葉を飲み込む。
一人のカリスマ的存在は兵士の士気に大きく影響する。
『不可侵の紺壁』は、その二つ名を十二分に発揮し、ロゼッタ軍に深刻な被害を与えている。
砦攻略において最重要かつ不可欠にして、最大の難問。
彼を倒せば勝利出来る。
だが、彼を倒す事が一番困難なのである。
(厄介な事だ)
老将は人知れず、『愚痴』を『溜め息』に変換して吐き出した。



恐らくは薬物投与さえ行っているであろう、ガーランドと彼直属の屈強の男たちの前に立ったのは小さな影だった。
様々な装飾の着いた豪華なドレスを身に纏うのは、戦場とは場違いな少女。
「ん? なんだ? ガキはこんな所うろついてねえで、とっとと帰りな!」
嘲笑と哄笑とが上がる中、それを意に介さないように少女は歩く。
「なっ!? クレア様!?」
ロゼッタの将軍から動揺の声が漏れる。
咄嗟の判断で、彼の台詞の後半部分は口内で掻き消された。
もし、彼女の素性が知られれば人質に取られる可能性が高いからだ。
何とかして、彼女の安全を確保しなければならない……
だが、少女、ロゼッタ領主クレア・ロゼッタはまるで思慮ない様子で、悠然と歩む。
「……………」
年相応の可愛らしさと、戦場を優雅とさえ言える様子で歩く姿は、奇妙な光景であった。
おとぎ話の妖精が血生臭い戦場へと舞い降りた、そんな言葉が合致するだろうか。
だが、その異様な光景はガーランド側にも彼女の正体を気付かせるに至った。
「おい、あれは……」
「ああ、ロゼッタの総大将……」
ざわつく周囲に、クレアは口の端を吊り上げる。
「わらわの兵士たちを随分と傷付けてくれたわね。三下が」
ソプラノの少女の声は聞き心地よいものだが、その内容は毒の刃を含む。
「がはははははっ! 世間知らずもいいところだ。ロゼッタ軍総大将クレア・ロゼッタに違いないか? 大人しく降伏せよ!」
野太く、声量の大きいガーランドの声が響く。
声だけで吹き飛ばされそうな少女は、しかし悠然とそこに立っている。
「わらわが何故、雑魚どもの言う事を聞かなければならない?」
不敵に笑う様は可憐であるが、それゆえに異常を感じさせる微笑。
「がはははははははっ! 言うことを聞かないのならば、教育が必要である……なっ!!」
クレアから見ればその巨体は、紺色の壁にしか見えないだろう。
その壁は、その重量からは想像できない速度で拳を振るう。
相手が少女と言うのもあり、それは手加減された一撃であったろうが、本当に手加減になっているかは疑問だ。
だが、その疑問の解答は得られなかった。
「むっ!?」
ガーランドの拳は、空を切るに留まる。
数瞬前までそこに居た少女の姿は掻き消えている。
「…随分と侮ってくれたものね。ま、この身長差じゃ、仕方無いかしらね」
いつの間に移動したというのか、クレアはガーランドの背後で呟く。
油断していた巨漢の背後を取ったというのに、少女は攻撃に移らない。
「……これは失礼致した」
ガーランドは表情を戦士の顔に戻し少女を、否、好敵手を見据える。

レベルの低い者であれば、手加減してやった、何かの間違いだ、などと言い訳する所だ。
だが、一瞬の動きからただの少女でない事を理解した男は、愛用のハルバードを構える。
この戦闘において、初めてガーランドから笑みが消えた。
「我が輩ともあろうものが、上っ面に油断するとは……まだまだ修行が足りぬ」
「ふぅん、『雑魚』は訂正してあげるわ。伊達に『七聖剣将』では無いようね」
異様な光景は尚も続く。
かたや重厚な紺色の鎧に身を包んだ重戦士。
『七聖剣将』ガーランドは油断なく、一般成人男性ほどの長さのハルバードを構える。
それに対するのはドレスの少女。
『ロゼッタ領主』クレアは、自然体と言った様子で不敵に佇む。
「……久々だ。これを両手で扱うなど……」
巨漢の姿をしてなお大きめに映るハルバードを両手に構え、ガーランドは先ほどとは微妙に異なる笑みを漏らす。

彼に相対する少女、いや、少女の姿をしたモノは恐るべき速度を持つ。
そして攻撃の手札を、未だ晒していない。
恐らくは魔法の類であろうと推測されるが、生半可な魔法ではこの鎧を突破することは出来ない。
それでも、臆することなく自分を見上げる少女がどんな攻撃を仕掛けて来るのか?
興味にも似た感覚を感じながら、生粋の戦士であるガーランドは沸き上がる高揚感を感じる。

「残念ね。もう少し、ううん、かなり容姿が端麗だったら部下にしてもあげたけど」
クレアの無邪気な言葉の毒に、巨漢は律儀にも応える。
「宮廷のダンスをするわけではなかろう。今は戦場である」
軽口の応酬は、継続する事はなかった。

ごうっ

空気自体が振動するかのような音と共に、巨漢が間合いを詰める。
「ぬうううううううん!!!」
空間をも断絶するかのような一撃。
この地球上で、その一撃を受けられる者など存在しないかと思わせるような斬撃。

「しっ!!」
対するクレアの腕から、足元から、全身から雷光が吹き荒れる。
轟音と雷光とが爆発する。
双方の闘いの過程を全て把握した者は皆無だっただろう。
それほどまでの速さ。
フィルムのコマを飛ばしたかのようなデタラメな光景。
「……」
巨漢の振り下ろしたハルバードは地面を砕いている。
そのハルバードの柄部分に、ふわりとクレアが舞い降りる。
「六発……であるか?」
ガーランドが尋ねる。
「惜しいわね。足元からの一つを合わせて、合計七発よ」
透き通るような天使のソプラノ。
「……」
その声が届いたのか、体中のあちこちから、ぶすぶすと煙を吐きながら巨漢が地面へと倒れる。

特注の紺鎧は、あらゆる魔法に対する耐性となる。
実際、クレアの雷撃さえも数回程度であれば無力化できていた。
2回弾くのであれば3回。
3回弾くのであれば4回。
ダメージを与えるまで、手数を増やした。
言葉にすればそれだけのことだが、ハルバードの一撃を回避しつつの一瞬の間に7撃。
クレアの外見は可憐な少女であるが、その体は魔族。
「……『雷神公女』…か」
崩れるはずのなかった紺壁の瓦解は、すなわち帝国軍の崩壊。
ロゼッタ軍からは、感嘆と歓声が。
帝国軍からは、どよめきと狼狽が沸き起こる。
「ふぁああ……後は任せるわ。問題無いでしょう?」
天使の容姿を持つ小悪魔は、あくびを一つして部隊へと戻った。



― ◇ ― ◇ ― ◇ ―



魔術加工された、エメラルド色に輝く剣。
その刀身は片手でも扱える様に細く、かつ短いものだから、小剣と言った方が良いのかもしれない。
薄緑の残滓が舞う度に、それとは似つかぬ悲鳴と血飛沫とが上がる。
「命が惜しいのならば、退く事をお勧めしますよ?」
淀みのない水面を思わせる、落ち着いた男性の声が響く。

『七聖剣将』六の将、『緑刃の両剣』ギィ。
30代の中頃である彼だが、細身で無駄の無い身体や長く艶やかな髪は、彼を実年齢よりも若く見せているかもしれない。
しかし一方で、年齢以上に落ち着いた雰囲気は彼を実年齢よりも高く見せる場合もある。
戦場に出るにしては軽装である為、『将軍』というよりは『静かな剣豪』と言った方が合うかもしれない。
彼を理知的に見せる要因のもう一つは、細い目にあるだろうか。
蛇足ではあるが、『七聖剣将』筆頭ベルンから、
「お主の目は細くて、起きてるのか寝ておるのか判別しづらいわい」
などと言われる事もある。
その切れ長の細い目は、今、ロゼッタ軍兵士の恐怖の対象となっている。

戦況はややロゼッタ軍有利、と言った所だった。
ジュダのような派手さは無いものの、磨き上げられた秀逸なる指揮と評されるオルティアの率いる軍は砦内部へと侵入していた。
だが、7カ所の内で最短に陥落するとさえ思われた砦は、最後の最後で凶悪な番人の登場となった。
広間の中央に立つギィが、その両手の小剣を振るう度に、ロゼッタ軍兵士たちの首が飛ぶ。
『緑刃の両剣』が突き出され、薙がれ、振り下ろされる度に、死人が増える。
『不可侵の紺壁』ほどに膂力は無いが、鎧の隙間に差し込むような剣技は達人の域に達している。
「無益な殺生は好む所ではありません。退くならば追い討ちはしませんから」
小剣を一振りし血糊を落とす様は、穏やかな口調と相まって恐怖を引き立てる。
何十人ものロゼッタ兵を斬り殺しておきながら、その穏やかな微笑は変わらない。
「おや?」
だが、その冷静沈着な糸のように細い目が僅かに驚きを表現した。
その極めて希な事例を引き起こしたのは、一人の少女だった。

「こんな場に現れるのが普通の女性とは思えません。間違っているとは思えませんが一応確認しておきましょうか……ロゼッタ軍オルティア将軍で間違いありませんか?」
ギィの糸のように細い目が、現れた少女へと注視される。
「はい、その通りです。『七聖剣将 緑刃の両剣』ギィ殿」
答えた声は透き通るような、あるいは無機質と言える女性の声。
人間の声であるはずなのに、人間ではない印象を与える口調。
「驚きましたね。指揮能力に富む将が前線に出るなど……」
「状況によりけりです。古来より将が前線で戦う事は、士気の高揚に繋がります。ジュダ様や一部の七聖剣将、それに貴方のように」
無機的な美しい声が広間に響く。
それに答える男の声は、わずかながら喜びを含む。
「それを成すには前提条件があります…」
「一番危険な前線にありながら、生き残るという事でしょうか?」
ギィの言葉を付け足すように、オルティアが言う。
男の口の端が、歓喜に吊り上がる。
七聖剣将としてではなく、一人の剣豪として。
「そこまで理解しているならば、言葉は不要。お相手願えますか?」
持ち主の精神の高揚と同調したかのように、エメラルドの小剣が鈍く光る。
「はい、そのつもりで来ましたから」
オルティアの手が閃くと、ギィを模したように双剣が現れる。
白く淡い光を纏う剣は、やはり魔術加工された小剣。
「武器は似たようなもの。勝敗を決するのは互いの技量でしょうか?」
「…93%までを解放」
穏やかな闘争心と無機質な闘争心とがぶつかり合い、緊張の度合いを増していく。
「行きますよ」
「はい、ご随意に」
帝国兵とロゼッタ兵とが見守る中、一騎打ちが始まった。

小剣を逆手に持ち、薄い緑の閃光が走る。
一閃、二閃、三閃……
それを鏡に写したかのように、逆手に持たれた白い閃光が迎撃する。
四閃、五閃、六閃……
身体に触れれば、そのまま必殺の一撃となるような斬撃の応酬。
剣術の見本とも言えるほどの型通りの撃ち合い。
「っ!!」
「…!!」
兵士たちの中には、基本を軽視する者も居るが、それは誤りであろう。
基本とはいわば人間の骨格となる部分であり、その頑強さと完成度とが無ければ応用という肉付けも貧相なものとなる。
両者の剣が甲高い金属音で鳴き、距離が開く。
「お見事な腕前。…剣術指南役としては申し分無いでしょう」
間合いを取りつつ、ギィは息を整える。
「貴方こそ。私の記憶においてここまで洗練された技量の持ち主は希少です」
整った表情を変化させず、オルティアが応える。
「貴女には、誰も敵わなかったでしょう……百年前であれば」
「!?」
男は声と共に間合いを詰める。
エメラルドの双剣が先程までと同様に振るわれる。
しかしそれにより導かれる結果は同じでは無かった。
少女は男の斬撃を、捌ききれない。
鮮血が飛び散る。
「………」
地を滑り後退したオルティアに、勢いを止めぬままにギィが躍りかかる。
少女の剣は男には届かない。
しかし、男の剣は着実に少女に傷を増やす。
「………」
オルティアの表情に変化は見られないが、戦況は一転している。
いつしか少女は防戦一方であり、その服はあちこちを切り裂かれている。
かろうじて距離を取った少女は、息を整える。
「………」
「分かりませんか? 貴女は基本に忠実過ぎるのです。それも大分昔の基本剣術。
 人間の営みは僅かずつでも剣術を洗練されたものにしているのです」
長い年月は技術を研磨させ、向上させている。
個人の技量ではなく、年月により洗練された歴史の差が、今の二人に現れている。
「降伏しますか? 貴女ほどの技量の主であれば、数年修行すれば私を超えるでしょう」
「………」
オルティアに言葉は無い。
完全に整った表情は変化しない。
すっ、と双剣を構える。
「私の主は……ジュダ様ただお一人。それ以外の方に従うつもりはありません」
鋼の意志からの言葉は、曲げる事は出来ない。
そう感じさせるほどに一途な少女の言葉に、ギィは一つ溜め息をつく。
「生きていてこその忠義だと思うのですが……それに、個人的にあなたの数年後が見てみたかった。『剣聖』の名さえ得られたでしょうに」
目の前の少女を過去形で語りながら、ゆっくりとギィは歩みを進める。
「ですが、それもまた忠義ですか。…残念ですが」
双剣が閃いた。


その場の誰もが『七聖剣将』ギィの勝利を疑わない状況だった。
しかしオルティアはそれを覆し始めた。
「…!?」
最初に気が付いたのは撃ち合っているギィだったろう。
少女の動きが、この短時間において急速に成長している事に。
洗練された現代剣術の見本とも言えるべきギィの動きに着実に付いてきているのだ。
「…貴女は恐ろしい人だ」
ギィの身体に傷は無い。
対するオルティアには、致命傷は無いものの、多数の傷がある。
だが、少女はこの戦闘において着実に技量を上げている。
「大変、参考になります。時代の流れは、技術を洗練させるのですね」
瞬時の踏み込みからの白い斬撃。
一度見ただけでそれを覚えたとでも言うように、ギィへと刃が迫る。
「数百年分をこの一戦闘で……凡才のこの身を嘆きますね」
すでにオルティアとギィは互角だった。
基本を極めた者同士の、極めて近い実力での戦闘。
互いに弾かれ、絡み合う白と緑。
撃ち合いが途切れ、どちらともなく距離が開く。
もう何度目になるか分からない対峙。
「はぁ…ぁ……そろそろ決着を付けましょうか」
「…っ…ふうっ…そうですね」
静かなる剣豪は、おそらく生涯最大の一撃の為に構える。
恐怖、焦り、高揚、死、痛み、様々な感情を越えた所でギィは笑っていた。
「技術は同等。しかしそこに至るまでに貴女は傷を負っている。果たしてどのように乗り切るつもりですか?」
如何に致命傷で無いとはいえ、傷はオルティアの体力を削っている。
このまま同程度に傷付け合えば、先に倒れるのは彼女の方だ。
「方法はお教え出来ませんが、乗り切って見せましょう」
オルティアは微笑する。
感情を奪われた、造られた笑顔ではない、自然の笑み。
「……いい表情ですね」
「ありがとうございます」
二人の呼吸が一致する。
この場に居るのは二人だけだとでも言うように、周囲から音は無い。
「行きますか」
「はい」
弾かれたように二つの影は接近し、衝突する。


仕掛けたのはオルティア。
鋭い右の一閃。
だが、
(自棄になりましたか?)
ギィの脳内には言語にならない疑問が浮かび、それが前述の言語となる前にそれを右手で弾く。
方向性を失った少女の右腕は、戻すには伸びすぎている。
(その隙は致命的ですよ)
男の左腕が振るわれる。
オルティアはそれを受けられない。
弾かれた剣を戻すには足りない。
「!?」
(そうですか、腕を捨てに来ましたか)
少女の右手に剣は無い。
弾かれるに任せ小剣を捨て、右腕だけを身体の前に戻す。
ギィの斬撃をその細い腕で防ぐつもりらしい。
(ですが、無駄です。普通の小剣の普通の一撃なら止まりもしたでしょうが…
 その腕を切り落とし、胸へと到達する致命傷になります)
薄緑の刃がオルティアの腕へと到達し……

ぎぃいいいいいいん

激しい金属音が響き渡る。
「っ!?」
刃は止まった。
彼女の『鋼』の腕によって。
実際には一瞬の光景。
しかし、ギィの目にはゆっくりとスローモーションのように映る。
(そうですか、『鋼』の精霊)
オルティアの左手の白刃が煌めく。
男が驚愕に動きを止めたのは一瞬。
だが、その一瞬は勝敗を決する一瞬だった。

ざんっ

少女の一撃は、致命傷となりギィの身体を吹き飛ばす。
地を滑り、次いで男の服がぱっくりと裂ける。
「お見事……です」
身体から血を噴き上げ、ギィが倒れる。

オルティアとギィ個人の、否、この砦の勝敗は決した。



「まいり……ましたね………」
悔しさも怒りも恨みも無く、剣豪は倒れる。
後悔や死への恐怖が無いと言えば嘘になるが、今心を満たしているものは満足感であろうか。
「…………」
オルティアはギィを見下ろす。
かけるべき言葉が見つからないのか、言葉は無い。
「そんな顔を…しないで下さい……貴女は私に勝った……それだけです」
「………貴方とは、出来れば味方として会いたかった」
彼女にしては珍しく逡巡した後の言葉。
果たしてそれは男に届いていただろうか。
一騎打ちを終えた二人を守る為に、あるいは殺す為に、兵士たちが入り乱れる。
怒声と歓声と剣戟と悲鳴。
戦争を奏でる騒音は、オルティアの耳に遠く響いていた。



― ◇ ― ◇ ― ◇ ―



七聖剣将、筆頭、紫炎騎士ベルン。
『紫炎騎士』という名称は、彼の持つ剣が紫色の光を纏う事からという説と、若き日の彼と戦った相手が「紫の炎を見た」と言い残す事からという説とに別れている。
そんな彼の武勇伝は数多い。
例えば、帝都の武術大会優勝者が、酒場で浮かれて限度を超えて暴れていた時、彼を一太刀で気絶させた事。
一対一では敵う者が居なかった為に、剣術訓練の相手を若い頃のギィとガーランドの両名にやらせた事。
実は彼こそが、時代においてただ一人名乗る事を許される『剣聖』の名を持っている等。
中には信憑性を疑う内容のものもあるが、帝国において最強の騎士は誰か、と問われれば10人中9人はベルンの名を挙げる。
では、彼は個人の剣技だけで将軍となったのかと言えば、そうでは無い。
政(まつりごと)においても彼は『七聖剣将』の筆頭であった。
今までの『年功序列と血筋による制度』に『実力のある者はその家柄を問わない』制度を取り入れたのは彼であるし、その他様々な業務に精力的に活動していた。
彼の受け持つ区域は治安が良く、人口が多い。
全ての者に不満無く、とまでは行かないまでも公明正大である事は有名で、特に裁判と税制度について腐心する様は多くの民衆に慕われている。
最近では「後は若いもんに任せるわい」だとか言いつつ、あちこちを気ままに旅しているらしいが。

ベルンは戦術においても非凡であったが、彼はロゼッタ軍の用兵に奇妙な点を見つけていた。
「ふむん……平地戦、攻城戦どちらにしても妙じゃのう」
独白するような、穏やかな口調で彼は呟く。
「…時間をかけての攻略か……いや、本気で戦っていない…しかし、それでは……」
老将は呟きを繰り返す。
ロゼッタ軍は七聖剣将の全ての砦に同時侵攻している。
明らかに短期決戦を狙っているはずであるのに、この砦を囲んでいる敵兵に関しては、それが感じられない。
攻めては来るが、深くまで侵攻はしない。
こちらから攻めれば、占領ポイントに執着せずに撤退する。
帝国兵をおびき出す策略かもしれないが、それに乗る必要は無く、ベルンは城へと籠もる。
敵の目的がはっきりしないのだ。
長期戦となった場合、ベルンに有利にはなっても、ロゼッタに有利にはならない。
何が目的であるのか?
(儂の分析違いかもしれぬし……アニエス嬢ちゃんなら、どう分析するかの?)
思い付いた詮無い事を、首を振って追い払う。
アニエスという高名な軍師は、今やこの世には存在しないのだから。
いや、彼女だけではない。
『南方総司令』となった若者や、『アニエスの後輩軍師』など、有能であった者たちは多く存在していた。
本来であれば彼らに全てを任せて、年寄りは隠居していればよいはずなのに。
『現役で働けるうちは、バリバリ働いて貰いますからね、ベルンお爺ちゃん』
冗談めかして言う、アニエスの笑い声を思い出す。
それは暖かい記憶であるが、同時に苦いものも含む。
今は思い出に逃げ込んでいる時ではないのだから………。

「ふむぅ……分からぬのぉ」
穏やかな口調で、『帝国最強の騎士』と呼ばれた将軍は椅子に寄りかかる。
将軍と同じ時を過ごしてきた古い椅子は、ぎしぎしと音を立てて応える。
その気になれば、例えば七聖剣将ランドルフのような豪華な個室で高価な椅子に座る事も可能なベルンである。
だが、彼の生活やその他は、一言で表せば質素であった。
妻以上につき合いの長い、古い椅子を指先で叩きながら、老将は再び口を開く。
「分からぬ事だらけじゃ……差し当たっては、お主が何者なのか教えて貰いたいもんじゃが?」
ベルンは椅子に座ったまま、閉じられたままの入口の扉に向かって声を投げかける。
「そうですね……今は『闇の娘 黒霧』と呼ばれております、ベルン将軍」
影が沸き上がると、それは黒いローブを纏った女性となった。


― ◇ ― ◇ ― ◇ ―


「そうか……そういう事か」
ベルンは穏やかに、柔和な笑みを浮かべながら頷く。
「……分かった、出来るだけ貴女の言うようにしよう」
「ありがとうございます」
黒霧は、再びローブを被る。
晒していた素顔と艶やかな長い金髪が隠れる。
「ご面倒をかけますね」
穏やかな女性の声に、ベルンはいたずらな笑顔を返す。
「いや、何。儂の苦労など大した事ではありませんぞ。待ち人が来るとよいですな」
老将の言葉に、ローブの女性は微笑で応えた。
幾万の言葉を費やすよりも重いその微笑は、ベルンの脳裏に最後まで残った。


七聖剣将ベルンの命令は、ほとんどの者がその意図を理解出来なかった。
それは戦っているロゼッタ軍にしても、帝国軍にしても。
「本日未明をもって、我が砦およびそれに属する兵士の任を解く。
可及的速やかに北方の森を通過し、生き延びよ。それが七聖剣将ベルン、最後の命令じゃ」
聞き返そうとする、あるいは呆然とする将たちにベルンはいたずらっぽい笑顔を向ける。
「…安心せい、儂はおかしくなったわけではない。いずれ分かるわい」
それだけを告げると、ベルンは自室に籠もった。

その日の夜、絶え間なく続いていたロゼッタ軍の攻撃はぴたりと止んだ。
帝国軍に逃げる時間を与えたかのように。
半数はベルンの言葉通りに逃げたが、ベルンの身を案じた者と突飛な命令に従えない者等は砦に残っていた。
しかし、夜半にはその姿も消えた。
兵士たちが言うには、
「足下から湧き上がった影が彼らを包み、気付いた時には違う場所に居た」
とのことであった。
人が居なくなったのを確認したかのように、砦からは火の手が上がる。
炎は全てを焼き尽くす。

「礼を言いますぞ。残ってしまった半数を移動させてくれたんじゃろ?」
ベルンは自室で酒を飲んでいる。
死ぬ前には、これを飲んで死のう、と決めていた結婚記念日と同じ日に造られた酒を。
火の勢いは次第に増してきている。
「ええ、大切な人手ですからね。……貴方を含めて」
黒霧の足下から、その名の通りの黒い霧が意志を持ち、ベルンへと向かう。

きぃん!

だが、澄んだ音を立てて、黒霧の放った霧は霧散する。
「っ!?」
ベルンは腰から抜いた剣を振るっていた。
何気ない一撃だが、それは明確な拒絶を意味している。
「儂はもう充分に生き長らえた。これからの若者たちは、年寄りが居てはやりにくかろう」
老将は、柔らかな笑みを女性に向ける。
「我が儘を言われては困ります。私の言う通りにして頂けると…」
「はて? 儂は出来るだけ、と言うたんじゃがのぉ」
炎は炎を呼び、その勢いは増すばかり。
ベルンは柔らかな笑みをいたずらな笑みに変え、最後に穏やかな笑みを作る。
「儂は帝国七聖剣将じゃよ。今更他の生き方が出来るほどに若くは無い。
 それにの…生涯武人として一生を終われるんじゃ。邪魔はせんでくれ」
穏やかに。
帝国最強と呼ばれた『紫炎騎士』はゆっくりと炎に包まれていく。
「後を頼みましたぞ……『失われた聖女』様」
「………はい」


砦は焼失した。
七聖剣将ベルンと共に。
そして、そこに存在していた帝国兵とロゼッタ兵も消えていた。

戦場とは遙か遠い地で生き残った兵士たちが、ベルンの言葉の意味を理解するのは、今より先の話になる。



― ◇ ― ◇ ― ◇ ―



「わたし…特別な力があるんだって…」
ぽつりと呟かれる女の子の声。
『鍵の聖女』となったからには、その力は万民の為に使われなくてはならない。
普通に遊んだり、普通に暮らしたりはもう出来ないのだ。
「お父さんもお母さんも、名誉だって喜んでるの……」
何も出来ない。
男の子は、力を持っていないから。
連れ去られていく彼女を守る事は出来ない。
「だから…もう、遊べないの……ザッシュちゃん………うっ」
ずっと前から一緒だった。
意地悪して泣かせてしまった事はあったけど、こんなに悲しい顔は初めて見た。
「…うっ…ええっ………ええっ……」
耐えきれなくなったのか、彼女から嗚咽が漏れる。
この世界を守る大切な『鍵の聖女』に選ばれた女の子が泣いている。
幼なじみの、大好きな女の子が泣いている。
「……うっ……ぐすっ…」
涙を止めてあげたかった。
ただそれだけ。
難しい事は分からなかった。
「泣くなよ。俺が守ってやるから」
「…ぐすっ…っ……うっ…守る?」
曇天から差し込む一条の光を探すように、女の子は顔を上げる。
涙で濡れた悲しそうな顔。
そんな顔をさせたくなかった。
「ああ…守ってやる。俺がずっと、ずうっと!」
「ぐすっ………ほんと……ひっく……に?」
見上げる女の子。
見上げられた男の子は精一杯、力強く頷く。
「約束だ、指切りしよう。シスリアは俺が絶対に護る!」
「…うっ……うん……」
小さな小指と小指。
ほんの少しだけど、女の子は笑ってくれた。
女の子の輝くような笑顔を、少年は忘れない。
そして、誓いにも似たその『約束』を、少年はずっと忘れなかった。


『鍵の聖女』
それは代々受け継がれる崇高な使命。
それは一人の聖女が役目を終え、次へと繋げる名誉。
それは連鎖する『生け贄』。
帝都にあると言われる『異界への門』を閉じる『鍵』。
聖女に選ばれた者は、幽閉され一生を過ごす。

その彼女を護る為に、少年は必死に努力した。
なにせ、ある意味で皇帝よりも重要な役割を持つ人物だ。
それを護衛するには、能力的にも人格的にも求められるものは高い。
それらに応えられなければ、近づく事が出来ず、護る事も出来ない。
少年は必死に努力した。
諦めようと思った事は何度もあった。
だが、その度に約束を思い出す。
輝くような笑顔。
泣き笑いのような濡れる瞳。
少年が青年へと成長し、それを経て成人の年齢に至った時、彼は『七聖剣将』となっていた。


「ミュース、サフランはそれぞれ両翼より展開。派手に攻撃して相手の動揺を誘え。
 その後は状況に応じて行動せよ。但し、深追いは禁物だ」
「了解」「承知」
『七聖剣将 四の将 白銀騎士』の命令により、軍団はロゼッタ軍への包囲網を完成する。
やや白い肌は、初の大規模戦闘によりやや紅潮している。
「退路は残してやれ。追いつめすぎると思わぬ反撃を喰らう事になる」
帝国は長い間平和であった為、戦争の経験者は希だ。
だが、有事に備えて厳しく訓練を積み重ねてきたザッシュを含む『四の軍団』は戦況を有利に進めている。
遅まきながらロゼッタ軍は帝国軍の包囲から逃れようとゆるやかな後退を見せる。
「ミレル、アルガス、俺に付いて来い。中央突破の後、敵を攪乱させる」
「分かりました」「腕が鳴りやすぜ!」
V字型に誘い込んでの包囲戦から一転して、矢尻のように鋭く敵陣に突入する。
まだ少年っぽさを残している外見からは想像出来ないような、緻密さと剛胆さの用兵。
ザッシュへの褒め言葉として、最も適切であるのは『良将』であろうか。
彼個人の武は、『猛将』と称されるガーランドやギィと比肩する程であり、その戦術は『知将』とされるアニエスやロイドと並ぶ。
更には内政にしても、ベルン直伝と呼ばれるほどに民衆の満足度は高い。
部下たちにも絶大な信頼と人気を得ている彼は、
『皇帝が世襲制でなければ、最も適任な人物』
とまで噂されるほどである。
『努力を惜しまない天才しかも美形、けれど女に興味が無い』とは多くの娘たちの嫉妬を含む評価だ。
もっとも本人にとってみれば、一人の女性の為にやっている事です、と苦笑いを浮かべる事であろうが。

その知勇兼備の『白銀騎士ザッシュ』に指揮される軍隊は幸運だったが、それと戦う事になったロゼッタ軍将兵たちは不運であった。
刻一刻と変化する戦況に合わせて陣形を変形させ、ロゼッタ軍を翻弄する。
変幻自在の精練された動きにロゼッタ軍の被害は甚大だった。


― ◇ ― ◇ ― ◇ ―


「ロゼッタ軍の被害は甚大、それに対して我が軍はその一割程度。楽勝ですね」
ザッシュの副官、ミレルは柔和な笑みを浮かべる。
「?……ああ、だが油断は出来ないな」
彼女の言動にひっかかるものを感じ、しかしそれを表に出さないようにザッシュは答える。

夜の闇は、両軍に束の間の休息を与える。
それぞれ夜襲の可能性を考慮し警戒は怠っていないが、それでも昼間よりは格段に静かといえる。
ベルンから教えられたわけでは無いが、それを真似るような質素な個室には一組の男女が居る。
『白銀騎士』ザッシュとその副官ミレル。
戦況や様々な報告をするために、部屋を訪れた彼女はひとしきりの報告の後、慢心とも取れる発言をした。
ザッシュの知るミレルは、大言壮語であったり、誇大な戦果を語ったりはしないのだが。
「ありがとう……戦況は分かった」
ザッシュは窓の外を静かに眺める。
見張りの篝火に照らされた砦の内部が、ひっそりと佇む。
「ロゼッタ軍は、なぜ乱を起こすのだろう? 皇帝にでもなりたいのだろうか?」
窓の外に身体を向けながら、しかし背後への警戒も怠らず、白銀騎士は呟く。
「ありがとう、ミレル。明日もまた戦いが続く。早めに休んでくれ」
「……………」
的確に返ってくるはずの返答は無い。
「ミレル?」
「………将軍」
背後で、濡れた声と衣擦れの音が響く。
着ていた上着やスカートが床へと落ち、女性の裸体が現れる。
まばゆいばかりの肌に、ほんのりと上気した表情は男という種に分類される者であれば、大抵は劣情を催すものだ。
「ミレル……どうしたんだ?」
ザッシュはやや戸惑うような表情を浮かべながら、ミレルを振り返る。
彼女の左手が男の頬に触れる。
同時に右手はザッシュの腹に触れ、ゆるゆると下へと滑り落ちて行く。
「不安なんです。いくら勝っているとは言っても、明日には死んでしまうかもしれないでしょう?」
経験豊富な娼婦を思わせるその手の動きは、充分過ぎる程に男を悦ばせる。
「………いつもしている結婚の指輪はしていないのか?」
その左手を包み込むように触れながら、ザッシュが尋ねる。
「今夜、一夜限りですから……そういったものは無粋でしょう?」
甘く囁くような女の吐息を避けるように、男は重ねて問う。
「そういう役割ならば君の夫、ガルシアにすれば良い。わざわざ俺に…」
女の指が、ザッシュの言葉を止める。
股間部分では艶めかしく腕を動かしながら、ミレルの声は甘く響く。
「言わないで下さい。副官として私がしてあげたいと思ってるし、したいと思っての事ですから」
上司を気遣っている、という気持ちと彼女自身の情欲である、という説明は彼女の虜になった男であれば信じるに値する言葉である。
ザッシュは目を閉じ、静かに答える。
「そうか……分かったよ」
「ありが……っ!?」
次の瞬間、穏やかな言葉とは裏腹に恐ろしく早い動作で、男の左手は小剣を一閃していた。
女の髪の数本が宙を舞う。
「なっ!?」
「お前がミレルで無い事がな! 何者だ?」
ザッシュは小回りの利く小剣から、油断なく腰の剣へと持ち替える。
魔力を帯びた白銀の剣がミレルに、彼女の姿をしている者に、向けられる。
「いったい、なにを……」
「ミレルの夫はガルシアではない。それに去年、亡くなっている」
「………へえ」
女の驚きと怯えの表情は、罠を見破られた相手に対する賞賛の笑みへと変わる。
「加えて本物のミレルならば、指輪を外す事は絶対に無い。
自分を守ってくれているから、と誇らしげに付けていたからだ」
ザッシュの言葉に、ミレルの姿をした女はくつくつと笑う。
「まぁ、勘の鋭い……今後の参考にさせて頂きます。ですが、まだ確信出来ていなかったのか、手加減なさったのね?」
彼女の白い胸元からは、薄い朱線が引かれているのみ。
『白銀騎士』が本気であれば、さきほどの斬撃で首を飛ばしている事も可能だったはずだ。
「……………」
本人が操られている可能性も考慮しての事であったが、それをわざわざ口外する事もなく、ザッシュは正体不明の相手を見据える。
「ふふっ、噂通りお優しい方なのね」
「そうでもない……大切なものを守る為なら、いくらでも非情になれる。
確かロゼッタ軍には夢を操る魔物が居ると聞いている。それがお前か?」
鋭い詰問にも、からかうような女の口調は変化しない。
「ふふっ、これは夢ではないけれどね……むしろ、ここからが夢よ。あたしも少し手の内を見せてあげる」
女は手の平を顔の前にかざし、ミレルの顔を隠す。
「さっきあたしに触ったでしょ? 探らせて貰ったわ、貴方の記憶」
その手が髪を掻き上げるような動作を終えると、そこには別の顔が現れる。
「!?」
艶やかな黄金色の長い髪。
幼さの残る愛らしい顔。
一生幽閉される事を選ばされた、最高の名誉にして、最大の奉仕者。
連れ去られた幼なじみの女の子。
彼の記憶と寸分も違わぬ唇が言葉を紡いだ。
「ザッシュちゃん」
男は内心から湧き上がる激しい怒りと、理性では御しえない親愛の情とを押さえ込みながら言葉を吐き出す。
「…お前は偽物だ。目の前で変身した所を見ている。……意味は無い」
「あはっ、そう思う? なら、あたしを殺せばいいわ」
目の前の女は丸腰だ。
更には隙だらけの様子でザッシュへと近寄って来る。
その記憶の中と同じ表情で。
「…………くっ」
女はザッシュの間合いに入っている。
彼女は侵入して来た敵だ。
斬らなければならない。
理屈では答えは出ている。
しかし、彼の感情はそれを阻む。
ザッシュの、男の最も大切なものの姿をした彼女を斬る事が出来ない。
「あははっ、ほぉら、やっぱり。偽物だって分かっていても、愛する人は斬れないものよね? ザッシュちゃん、あたしよ。シスリアよ?」
偽りの笑顔を向ける女は腕を振るう。
持っていた剣が叩き落とされ、鋭い鈎爪はザッシュの身体を容赦なく斬りつける。
「ぐっ……!」
いつしかザッシュは、ベッドへ組み敷かれる形となっていた。
「あははっ、ザッシュちゃん……私がしてあげるね?」
あどけなく、しかし淫靡に少女が笑う。













「よせっ………」
ザッシュの口からは拒絶の声が漏れるが、覆い被さるような女の動きは止まらない。
「あははっ、ザッシュちゃん、怖がってるの? 大丈夫だよ」
幼い頃の記憶の笑顔を残したまま成長した彼女の姿が、男の眼前にある。
記憶と違わぬソプラノの声がザッシュの耳をくすぐる。
「くっ…」
呻くザッシュの胸板をちろちろと舌が滑る。
行われている行為は卑猥であるが、その様はキャンディーを舐める童女のような仕草である。
興味津々と言った様子の少女の姿が、過去の記憶と重なる。
(違う! こいつはシスリアじゃない! 違うんだ!)
理性と感情とが激しく対立する中、シスリアの姿をした者はザッシュへの責めを継続する。
「ごめんなさい、ザッシュちゃん……少し傷付けちゃった」
困ったような顔をしながら、男の傷をちろちろと舌が舐める。
「っ……」
傷口に走る痛みと、じわりと広がる熱とが身体を支配する。
痛みさえも快楽へと結びつくかのような熱は、この女の魔力かもしれない。
「くっ…」
夢にまで見た想い人の柔肌。
それを味わいたい男の欲求が首をもたげる。
気合いを込め、流されそうになる欲望に抗いながら、女を引き剥がそうとする。
だがその迷いのある動きは、細い腕にいとも容易く阻まれる。
「だーめ。ザッシュちゃんは抵抗しちゃ駄目なのよ」
仰向けの男の身体に、先端だけを擦りつけるように女が蠢く。
いつの間にか彼女は全裸であり、白い肌が嫌でも目に入る。
「うっ……くっ……」
ザッシュは呻く事しか出来ない。
柔らかな白い肌が男の身体を擦り上げる。
「うふふっ……キスしよ?」
頬を朱に染めながら、シスリア(の姿をした女)は瞳を閉じる。
「…………っ」
やや膨らんだ女らしい唇に、吸い付きたい衝動を抑える。
ザッシュの喉が生唾を何とか飲み下すが、それが精一杯で彼女をはね除けるまでにはいかない。
焦れたように少女の唇が、男の唇を奪う。
「んっ…ちゅ………んっ……ぁんっ……」
少し離れては再び近づく唇。
そこから漏れる吐息は、水音を含みザッシュの耳を打つ。
「ずっとこうしたかったんだよ……ザッシュちゃん……んっ…ぁ…」
時に男の唇を強く吸い、時にわななかせるように舌を差し入れて来る。
彼女が本性を出せばもっと巧みな行為も可能だったろう。
しかし、ザッシュの記憶のシスリアに合わせるように、たどたどしく口を合わせる。
「んっ…ぷあっ……ぅんっ……」
くぐもるような女の声とぴちゃぴちゃと湿る水音。
目の前にいる少女はシスリアではないが、現実のシスリア以上にシスリアである。
それはザッシュの思考を読みとった姿であり、彼の願望。
自分の望む状況を、最も望ましい形で再現する甘美な誘惑。
「ザッシュちゃん……私たち、もう子供じゃないんだよ?」
潤んだ愛らしい瞳と、聞き覚えのある心地よい声。
少女の最後の布が取り払われた時、男の精神の壁もまた取り払われた。



「あっ…はっ…んっ……ぁ……ぅん……あっ……」
途切れ途切れの少女の喘ぎ声が響く。
ザッシュが腰を突き上げる度に、少女の喘ぎ声が途切れ、跳ね上がる。
「ひぅ……んっ…んっ……あぁ…あ……あぁんっ……」
シスリアの膣内は最初、男を拒むようにきつかった。
そして、今は男のモノをきついくらいに締め上げ、擦り上げる。
「あっ………ああっ……ん…あ……あぁ……あんっ……」
ベッドで激しく腰を上下している事。
欲望に駆られて、興奮が最大限に達している事。
それらを考慮しても、人の体内はこれほどまでに温かいものなのか、と感じさせるほどの高温がザッシュを包み込む。
「っく……ぁ……うっ……」
「んっ…んんんっ……っぷ……ああっ……ぅ…いいよぉ…ザッシュちゃあん!」
頬を紅く染めながら、恥じらいながらも喜ぶ表情。
それが好きな女、自分の生涯と同義とも言える大切な少女であれば、興奮しないはずがない。
『七聖剣将』という立場上、異性からの誘惑は数知れずあったが、ここまでにザッシュを追い込む事はなかった。
「あん、あっ、……ああっ…また、ぅあん…また、きちゃうよぉお…ああっ……」
「うっ…くっ……俺も……またっ……っ!!」
既に何度果てたのか覚えていない。
男の腰が震える度に、白濁の液体を女へと流し込む。
思考の全てがシャットダウンするかのような悦楽。
肉体と精神とが界離するかのような極上の脱力感。
「はぁはぁはぁはぁ……はぁ…っく……」
「ぁ…はぁ…んっ…はあはぁ……」
互いの呼吸音が響く。
当初あった崇拝すべき偶像への抵抗は消え失せ、激しく思い出の少女を愛したい衝動へと代わっている。
射精の後の罪悪感、倦怠感は微塵も感じられない。
「はぁ…はぁ……んっ……もっと……欲しいな……ザッシュちゃんの命」
小首を傾げるような、童女のような仕草。
場違いだと言うのに、否、場違いだからこそ、それはザッシュを再び勃たせる。
終わりの無い『悪夢』。
それは通常の営みに似て非なる、命を吸い取られる感覚。
再び固さを取り戻した男根をくわえ込みながら、シスリアが喘ぐ。
「ぅ…んっ……あああっ…いいよっ…いいっ……ザッシュちゃん!……ああ」
何度目か分からない『死の営み』が再開された。










「うっふふ……楽しかったわ、ザッシュちゃん」
ばさり、とコウモリの翼が広がる。
そのシルエットは女らしい起伏あるもの。
ベッドの上で羞恥に頬を赤らめていた少女の面影は無く、そこには耽美な笑みを浮かべる女が居る。
『闇の娘 悪夢 イリーシャ』
瑞々しい生気に身を震わせながら、女体が伸びをする。
「んん~、さってと、砦の一般兵士たちにはゆっくりと悪夢を見て貰うとして……えっ?」
楽しげなイリーシャの声が、違和感により疑問符を含む。
彼女の視線がゆっくりと下へと降りていき、自らの豊満な胸で止まる。
突き出た銀色の刃。
「ぐっ…ごほっ……まっ………」
喉の奥から勝手に流れる血がイリーシャの言葉を濁らせる。
「……悪いな……女を…しかも背後から、だなんて」
遠のく意識を必死に繋ぎ合わせながら、ザッシュは呟く。
弱々しい声とは逆に、その手に加減は無い。
確実に殺す為に、ぎりり、と手が捻られる。
「………………」
悲鳴らしい悲鳴すら上げられずに、女の身体が力を失う。
立つことさえ出来なくなったのか、ザッシュの身体は倒れ込む。
「く…はぁ…はぁはぁ………」
主の代わりに砕け散った魔法水晶が視界に入る。

(ザッシュ君は大事な所で、間が抜けてるというか優しいからね)

丸眼鏡の柔らかな微笑。
死ぬ前まで、そして死してからもザッシュの事を心配してくれた女性軍師の顔を思い出しながら、男はひとまず瞳を閉じる。
体力を回復させて、『約束』を果たさなければならないからだ。
(それにしても……せめてベッドで……)
ザッシュはどうでもいい思考すら途中のまま、意識を手放していった。



― ◇ ― ◇ ― ◇ ―



その砦には、最初から僅かの兵しか存在しなかったらしい。
それは『七聖剣将 七の将』のもう一つの役割を考えれば、答えの出る行動だった。

『七聖剣将』において、その数字は僅かではあるが意味を持つ。
暗黙の了解ながら、それは権力の大きさを意味している。
数字が上位である者の方がより多くの決定権があるのである。
例えば、二の将『金色貴族』ランドルフと四の将『白銀騎士』ザッシュとで意見の対立があったとすれば、多くの場合ランドルフの意見が採られる。
年齢や帝国への貢献率により数字が決められ、上位番号が欠ければ、下が繰り上がっていくのが通例だ。
しかし例外があり、『七』だけは固定される場合が多い。

『七聖剣将 七の将』は、前述の例にならえば一番権力が小さいわけだが、名誉という点においてはこれに該当しない。
すなわち『七聖剣将 七の将』は同時に『インペリアルガード』を兼任するのだ。
それは皇帝の直属の護衛としての役割を持つ。
皇帝の存在する居城に最も近い場所に位置する砦で、皇帝の身を真っ先に守る。
『白色淑女』セラはすでに帝都の中心部、居城まで戻っている。
砦の防御よりも、皇帝の身を守る事を優先した結果だ。
『七聖剣将』が不在の砦。
いわば空振りに終わったわけだが、それは悲観したものではない。
早く制圧出来た分、帝都へ一番早く辿り着く事が出来るからだ。
「砦の制圧、完了致しました」
部下の声に、男は頷く。
男とは思えないほどに整った中性的な美貌。
女さえも羨むような、長い艶やかな髪。
神の依怙贔屓(えこひいき)により作られたかのような美麗の男。
「分かった。それでは帝都へと進むとしようか……全軍、進撃開始!」
透き通るような声に、兵士たちが呼応の声を上げる。

七つの砦の内で最も早く陥落した砦から、男が侵攻する。
永久不可侵であるとさえ思われていた帝都は、初めて外敵の侵入を許した。
ロゼッタ軍騎士団長ジュダ。
だがその名は、『初めて帝都へ侵攻した男』という程度では終わらない。
ジュダの名は誰しもが想像しえなかった事柄を持って、人々の記憶と歴史へと刻み込まれる事になる。




To Be Continude・・・・


































あとがき

帝都の「七聖剣将」というわけですから、7人居るわけですね(当たり前)
んで、ジュダ プラス 闇の娘6人。

ぴきーん!

7対7のバトルが展開できるじゃないか!
と、地図をアップした時(いつ頃だったかな)思い付きました。
帝都を見てみると、小さな変なのが7つ見えると思いますが、あれは砦だったんですよ。
・・・ちなみにこの時点では、文章量も約7倍になるというのは失念してましたがね(笑)


二の将、『金色貴族』ランドルフ (VSナーディア)
俺は前世で、貴族階級の人々に虐げられたんでしょうか?(笑)
俺が貴族を描くと、こんな俗物になります(笑)
(いや、悪役にし易い設定なんですよ、貴族って。勿論、良い人たちだって一杯いますよ・・・多分)
執事さんが密かなお気に入りです。
名前出んかったけど(笑)
没にした文章では、ナーディアが氷の柱を展開した後、即座に落ちた槍を拾って攻勢に転じて彼女の太股を掠る、とかいう有能っぷりを発揮していたんですが・・・
誰も名無し執事の活躍なんて見たくねーだろう、というセルフツッコミで没。
ナーディアの殺戮モードによって消えました。
ご愁傷様です、執事さん(笑)


五の将、『無色の交渉人』ケルナー。 (VSヘルデ)
男の腹を食い破って出てくるヘルデの部下(若い蜂女)たち。
ちょっとグロいかなぁ・・・?
ジュダみたいに、「ヘルデが男たちとエロしたら、部下になる」の方がダークサイドっぽかったか・・・
「けど、もうエロネタ無いので、じゃあグロで」という流れです(笑)←おい
虫(自然)の世界は結構グロいなぁ(変なまとめ)


三の将、『不可侵の紺壁』ガーランド。 (VSクレア)
「我が輩」とか言う筋肉キャラ大好き(笑)
当初の下書きには、こいつらの戦いは「金属鎧に雷属性攻撃で勝つ」の一文だけ(笑)
特注ハルバードだとか、レアメタルだとかは後付設定。
まぁ、こんなもんだろう。
エロも無いし(おい)
クレアは雷を蜘蛛の巣状にして、『雷陣』とかいう必殺技とか考えてたけど、使わなかった(笑)
なぜだろうか?
格好いいのになぁ。(セルフツッコミ)



六の将、『緑刃の両剣』ギィ。 (VSオルティア)
ある意味、妄想爆発。
エロ妄想ではなくて、純粋な少年バトル妄想。
ノリとしては、「月刊マガジ○」ちっく(なんだそれ)
もっと細かく言うと、「修○の門」とか「鉄拳チ○ミ」系統のバトル。
達人同士の戦い。
一瞬の攻防。
かっこええ!
再現は難しいですけどね・・・。

オルティアさんは人造人間で、骨格が鋼&『鋼』の精霊使用で、鉄壁の右腕防御。
今気が付きましたが、そうすると彼女、体重はすんごく重い・・・(笑)
ビジュアル的には「ゼノサーガ エピソード1」のコスモスですかね。



筆頭、ベルン。 (VS黒霧(セフィ○ア))
訳分かんねぇ! そんな声が聞こえてきそうです(おいおい)
ベルンじいさんと黒霧さんとの間で、どんな会話がされたのか?
ん~、黒霧さんの正体が分かる人なら、予想出来るかなぁと。
もうちょっと後で明らかになるんですけど…

ベルンさんの設定は、いつもよりながーくなりましたねぇ。
ちなみにシナリオメモでは、
「ハーメルンのバイオリ○弾き、のサイザーに滅ぼされた国の王様みたいに」
の一文だけ(笑)
膨らんだもんだ(我ながらちょっと関心)
やはり作者に愛があると、説明の文章とか長くなりますね。



四の将、『白銀騎士』ザッシュ。(VSイリーシャ)
長え…
これだけで一話くらいの分量になってしまった。
最初の予定ではエロ無しで、夢魔に騙されて殺されるザッシュ君だったんですが…
彼、生き残りましたね。唯一、『闇の娘』に勝った。
キャラクターの一人歩きって凄いなぁ。



あとがきも次回へ続く






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