ダーク・ライトサイド

タカヤス

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ライトサイド 第3話

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「僕には……よく分かりません」
山を下りる途中、リュークスはそう呟くのが精一杯だった。
「んもうっ! 男らしくないわね! 私たちだって信じられないわよっ!」
何故かぷりぷりと怒っているのは、妖精のニアだ。
背中から生える透明の羽で、パタパタと飛んでいる。
「私たちもはっきりとは分からないのですが、可能性があるというわけで……」
神官のフィリスが、遠慮がちに言う。
純白の神官服に金色の透き通るような髪。
月光を浴びてきらきらと輝く様子は、まるで女神のようだ。
清楚な微笑みは、かつての勇者一行『汚れなき聖女』の再来と言う者も居る。

リュークスは歩きながら、今までの出来事を整理する。

村が突然、魔獣たちに襲われた。
混乱の中、空から襲われリュークスが連れ去られた。
その後、なし崩し的にハーピーと性交。
巣の中で暢気に寝ていたリュークスを、フィリスとニアが救出した。
「無事で良かった……ええと、『勇者』様」
やや緊張を含ませながらフィリスが言ったのだが、
「へ? 勇者? どこに??」
などと言われたリュークスの方は、全く状況が理解出来なかった。
しびれを切らした妖精ニアの言葉(跳び蹴り含む)も、リュークスが勇者かもしれない、というものだったのだが……。

「なに、迷ってるのよ! 勇者よ!? 世界を救う英雄よ!? 名誉な事なのよ!
 とっとと認めて勇者の力を引き出しなさいよ!」
妖精の少女ニアが、不機嫌そうに大声を出す。
「やっぱり、よく分かりません。……それに僕には村での生活がある」
リュークスはその言葉だけを、ようやく吐き出す。
いきなり『勇者』だから世界を救ってくれ、などと言われて「はい」と即答できる者は少ないだろう。
頭に響く声や、不思議な力など、一応の材料はあるのだが、それで『魔王』を倒そうと思い至るのは異常だ。
フィリスは、困ったような、それでも労るような笑顔を浮かべる。
「私たちも無理を言っているようです。
……時間を差し上げます。決まりましたら、正式なお返事を下さいね」
「フィリス!?」
ニアの言葉にフィリスは首を軽く振った。
「…………うん」
リュークスはそれだけ答えると、再び思案する。
彼らが村へと戻った頃には、月は山の影へと隠れていた。



うわさ話。
人間が会話をする限り、それが絶える事は無い。
「魔王が再び復活しつつあるらしい」
真偽のほどは定かでないが、という無責任な前提から、あらゆる情報が流れる。
「魔王と勇者……よりによって、この時代に現れるのか……」
中には事実が人を経由していく途中で、尾ひれ背びれが付いたものがある。
「やはり、この村から生まれるんだろうな、勇者は」
中には全く根拠の無い嘘が希望、憶測を混ぜて流れていくものもある。
「そうそう……この前の魔獣襲撃……勇者を狙ってのものらしいぜ」
意図的に、あるいは意図せずに、噂はその形を変え流れていく。
「この前魔獣に襲われたのは、ほら、昔拾われたあの子……」
信じる人間が多ければ、根拠や本人の意志が無くとも、それは真実へと変化する。
「リュークスが勇者か。いつ旅立つんだろうな」



勇者が生まれた村。
この村は、また現れるであろう勇者を育成する為の村だ。
そして勇者がこの村から輩出される事は、最高の栄誉であり使命である。
勇者は旅に出なければならない。
それがこの村の存在意義であり、国中の人たちの願いだから。
勇者である事は最上の名誉である。
だが、それは名誉という名の鎖で縛り上げた生け贄。
命をかけ魔物と戦うという責務を、たった一人の少年へと押しつける行為。

それが分かっているからこそ、
「リュークス、いつ魔王を倒す旅に出るんだい?」
と尋ねた村人の気持ちが分かるし、だからこそ、
「ふざけるなっ! リュークスは勇者なんかじゃない!」
と、その村人を怒鳴りつけたガッタやマールの気持ちも分かる。

(良い友達を持ったわよね………けど、あたしはルコナーア教のシスター)
教会の一室で、若い尼僧シュティーは、ため息を吐く。
なぜ勇者に選ばれたのが、自分よりも年下のリュークスなのだろう。
なぜ重責を背負わなければならないのが、平凡な少年なのだろう。
なぜ幼い頃から一緒に育った年下の幼なじみの彼に、全てを背負わせるのだろう。
多くの人が望むのは、勇者が旅立つ事。
分かりきった事だ。
だけれど……
「はぁ……理屈じゃないのよねぇ……」
思考の迷路に迷い込んだようだ。
シスターはもう何度目か分からないため息を吐く。

リュークス君が勇者でなければ良かった。
じゃあ誰が勇者だったら良かったの?
いや、そうじゃない。
勇者を生み出す、一人に責任を押しつけるという行為が許せない。
ならばシュティー、なぜ、あなたはルコナーア教のシスターで、この村の教師になったの?
大丈夫、魔王や勇者なんて、おとぎ話に過ぎない。
けど、もしも本当の話で、危険な事だったら……
駄目だ。
やはり、彼を旅立たせるわけにはいかない。
けど、村人たちは納得しないだろう。
じゃあ、旅が出来ない理由があれば良い。
怪我をしたとか、あるいは勇者の力は勘違いだった思わせれば良い。
リュークス君に現れたという『勇者』の力、それが無くなれば。
ただの平凡な村の少年に、旅を強いる必要は無くなる。
そうだ、もしも勇者の力があるのならば、それをあたしが『取り除いて』あげればいいじゃないの。

最初はシュティーの思考だった。
だが、途中からは違う者の思考が混じっている。
(くすっ、くすくすっ………)
彼女の心に、黒い霧が立ち込める。
それは彼女以外から起こされた負の感情。
しかし、それが他者により引き起こされたという事は、まだ誰にも分からなかった。



リュークスはベッドの上で、自らの手を眺める。
なんの変哲も無い、ごく普通の腕だ。
「……………」
人々の希望の光『勇者』。
最近は南方のロゼッタ領が、反乱を起こすなど不穏な動きが出ているらしい。
その反動なのか、人々の期待は大きい。
村人たちは、口々に「いつ旅立つのか」と聞いてくる。
「……………」
リュークスはごろりと横になる。
僕は旅立たないといけないのか、そんな自棄になりそうな気分だった。
友人、ガッタやマールは、
「リュークス、お前は勇者なんかじゃない。だから旅立つ必要なんて無い」
と言ってくれている。
(ガッタ、マール、おまえらと友達で……良かったよ)
胸に熱いものを感じ、リュークスは上半身を起こす。
部屋に居るのが自分だけである事を確認してから、リュークスは声を出す。
「あの~、僕の脳内の青年の人?……………」
しかし、返答は無い。
(魔物と戦っている時くらいしか、喋ってくれないのかな?)
こんこん、とドアをノックする音が聞こえる。
(ぬおっ! 僕の脳内を抜け出して、いつの間にかリアルな身体を手に入れて……なわけないよな)
リュークスはセルフボケ&ツッコミしつつ、ドアを開ける。
「こんばんは、リュークス君」
「……シュティー先生?」
少し年上の彼女は、にっこりと微笑んだ。



「ねぇ、フィリス」
女性神官が一時的に提供して貰っている部屋で、妖精の少女が呟く。
「本当にあの頼りなさそうなのが、勇者なのかなぁ……」
机に腰掛けながら、脚をぶらぶらとさせる。
やんちゃな妹が出来たみたいだ、と思いつつフィリスが答える。
「確信はありませんけど、彼はもう二回も魔物に勝利しています。
 ……それに貴女を使えたのでしょう?」
果物を小さく切って、ニアに差し出す。
「うーん、あたしの記憶も曖昧なんだけど。仮契約…ってのかなぁ。しっくりするのは。
あたしがあたしで居る事が、きちんと成立していない証拠なのよね」
剥いて貰った果物に齧り付きながら、ニアが唸る。
「ニア、せっかく友達になれたんです。勝手に居なくなっては駄目ですよ?」
妖精の少女には、使命がある。
勇者の力となる為の。
その方法、結果はフィリスも知っている。
知っている上での気遣いの言葉だ。
「うん……」
あまり深くその話題には触れずに、ニアは勇者候補の少年へと話を戻す。
「しっかし、魔王っぽいのはもう復活しているみたいだし、早めに旅に出ないといけないのに……あ~時間が勿体ない!
 あのへたれを、こうスパコーンと強制的に動かせればいいのに!」
妖精の少女の毒舌に、女性神官は困ったような笑みを浮かべる。
「ごめんなさい。本人の意志でやらなければならない事だから」
「あぁ、別にフィリスは悪くないんだから、謝らないでよ」
ニアがぱたぱたと手を振る。
「『勇者』であったにせよ、そうでなかったとしても……
 私たちがリュークスさんの平穏な生活を奪う事になってしまうのでしょうね」
フィリスの表情が暗く沈む。
わずかでも『勇者』の資質があれば、その者は旅立たなければならない。
ルコナーア教でそう教えているし、この村はその為に存在していると言って良い。
例え本人が村に留まりたいと言っても、周囲はそれを許してくれないだろう。
「……時間の問題ってわけね」
「そう……ですね」
他人の手助けになりたい、そう思って神官になったというのに。
たった一人の少年さえも救えないなんて……



「リュークス君、今悩んでるでしょ」
突然やって来た若いシスターは、そう切り出した。
「え、えぇ、まぁ……噂が広がってるみたいですね。
勇者として世界を救うとか……僕なんか大した力も無いのに」
強い使命感や圧倒的な力があれば、そんな抽象的な事でも行動理由になるだろう。
だが、ただの村人Aであるリュークスが、そんな壮大な目的を持っているわけではない。
「リュークス君自身は、どう思っているの? あたしはそれを聞きたいの」
ずいっと、シュティーが顔を寄せる。
香水の良い香りが、リュークスの鼻をくすぐる。
(あ、いい匂い。そういやいつからだっけ、シュティー先生が香水付け始めたの)

幼い頃に拾われてきたリュークス。
その時に近所に住んでいたのが、彼女シュティーだ。
リュークスたちよりも、少し年上の彼女の武勇はガッタを叩き伏せるほどで、ガキ大将という言葉が合う。
シュティー姉さん、ガッタ、マール。
リュークスたちは4人でよく遊んでいた。
拾ってくれた両親が、流行の病で亡くなってしまってからは、特にシュティーは面倒を見てくれた。
それから少年たちは成長し、シュティーはいつの間にか帝都の教会へと奉仕活動に出かけた。
そしてしばらく後、帝都からシスターが教師としてやってきた。
それが彼女であった。

「ちょっと話聞いてる? リュークス君」
彼女の口から、やや苛立ちを含む言葉が漏れる。
「あ、はい、すいません。えっと噂に関してでしたっけ?」
「そう! リュークス君はやっぱり村に居たいわよね。居るべきよ!」
「……?」
リュークスの知る彼女は、自分の意見を強く押しつけるタイプでは無い。
帝都での奉仕活動の影響もあるが、人の話を聞いてくれるシスターになったのだから。
「えっと、まぁ、まだはっきりしたわけじゃないですし……」
鼻先が触れ合うほど近く。
子供の頃は感じなかった女性を感じてしまい、顔が火照りそうになる。
(う、まずい)
そんなリュークスを知ってか知らずか、シュティーの熱弁は続く。
「勇者なんて、みんなが全てを押しつけてるだけじゃない! 何だってそんなのになりたがるのよ!」
堰を切ったかのように、言葉が溢れる。
「あ、ええと落ち着いてくださ……」
「名誉だとかそんなの死んじゃったら何にもならないじゃない!」
リュークスに詰め寄り、胸ぐらをぎゅっと掴む。
「シュティー先生、僕は……まだ………」
互いの呼吸が当たるほどの近距離。
案外華奢な身体に、漂う香り。
完全にリュークスの顔は火照っている。

<魔に魅入られた者。誰しもが持つ心の闇を意図的に増大させられている危険な状態…>

その声で初めて気が付いた。
彼女の潤む、その瞳は赤く変色し始めている。
嫌な予感がする。
この声が頭に響いた時の、この声が言う事の確実性、それが嫌な予感に結びつく。
「シュティー先生……まさか魔物に………」
「やっぱり、こうするしか………これはリュークス君の為」
シュティーは突然少年を押し、その結果、二人してベッドへと倒れ込む。
「っ! 先生!」

『命を吸収する呪われた力』

青年の言葉を思い出す。
万が一、契りを結んでしまえば、彼女を殺してしまうのではないか。
リュークスは焦る……が、
「大丈夫よ、リュークス君……」
彼女の瞳は、今や完全な紅へと変わっていた。
(まずい、まずい……この状況は……)
少年の身体は、不可視の魔力により拘束された。
























「リュークス……君」
潤んだ瞳が赤く輝く。
その顔が少年の顔へと近づく。
柔らかな彼女の、唇が唇へと押しつけられる。
「んっ………んむっ…むうっ……」
ひとしきり熱を伝えた後、唇が離れて、今度はリュークスの口の周りを舌が這う。
柔らかく熱いその舌の感触が、男の身体を反応させる。
「だっ、駄目です……先生………僕たちは……」
それでも僕の良心は、彼女を拒む理由を見つけ諦めさせようとする。
「あたしじゃ……嫌?」
何かに支配されているかのような、熱い吐息と共に声が漏れる。
普段の彼女からは想像出来ない、熱に、酒に酔ったかのような言葉を繰り返す。
「い、いや、嫌じゃないですけど……その……」
「リュークス君……そう、これは君の為なんだから……」
しゅるり、と衣擦れの音が聞こえる。
彼女の上着と、次いでスカートがぱさりと落ちる。
「駄目……です…………シュティー先生……」
かろうじて、言葉を紡ぐ。
だけど、『女の身体』が視界に入ると、視線はそこに留まってしまう。
豊満かつバランスの良い胸。
格闘技で鍛えられているためか、しなやかな体つき。
すらりと伸びた細い手足。
ごくり、と自然につばを飲み込んでしまう。
今まで気が付かなかったけれども、彼女も魅力有る『女性』なのだ。
否、気付かないふりをしていただけかもしれない。
下着姿のまま、シュティーはリュークスに覆い被さる。
「駄目なの? ほんとに?」
淫靡に、妖艶にシュティーが小悪魔のように微笑む。
その細い手が、ゆるゆると少年の下半身へと伸びる。
「リュークス君の嘘つき………だって」
吐息が顔にかかるくらいの近距離で、シュティーが囁く。
「ここはこんなに固くなってるじゃないの?」
「くっ……」
布地越しに、彼女の手が僕の股間を撫でる。
背筋にぞわり、という感覚が走る。
「こんなにおっきく……固くなってるわ……今、出してあげる」
「っ……やめて下さ………いっ!?」
リュークスの制止の言葉は意味をなさず、シュティーは手をかける。
少年は動けない身体を動かそうと、必死に藻掻く。
それでも不可視の戒めは外れない。
「うわぁ……子供子供だと思っていたのに……」
下半身に外気を感じる。
そして、シュティーの感嘆とも驚嘆とも取れる声が漏れる。
リュークスのモノは、僕の意志に逆らって硬度を増していた。
ぴん、と立つ陰茎に、彼女はゆっくりと触れる。
まるで壊れ物のガラスを扱うかのように、そっとやさしく包み込む。
強い衝撃が与えられない分、真綿に包まれているようなもどかしい感覚が襲う。
「くうっ………だっ……駄目です」
教師に自由を奪われ、襲われるという背徳感。
そしてそれ以上に、リュークスが女を抱くと、『吸収』してしまう恐怖。
両方から少年は、必死に抵抗しようとする。
だが、シュティーはいたずらな笑みを浮かべる。
「ふふふっ………リュークス君のおちんちん……熱くて、ぴくぴく動いてるよ?」
ただ軽く触れられているだけだというのに、モノは脈打つ度に反応してしまう。
シュティーの赤い潤んだ瞳に。
小悪魔の魔性に。
「んっ……あたしも………」
彼女は下着姿のまま、ゆっくりとリュークスの腰にまたがる。
陰茎を手で固定したまま、自らの腰を押し当てる。
布のさらさらした感触とその奥の柔らかい感触とが、男の興奮を更に引き出す。
「くぅ……っ……駄目………僕の力が発動してしまったら………」
柔らかな白いショーツに、少年のモノを押し当て、彼女は腰を上下左右に動かす。
腰が動く度に強く押し当てられ、また離れ、そしてまた押し当てられる。
シュティーの身体が艶(なま)めかしく、うっすらと汗をかきながら動く。
この体勢は実際の刺激以上に、視覚的な刺激が大きい。
「はぁ…はぁ……んっ………んんっ……んくっ……」
それは本能的な行動だった。
彼女は、ただひたすらに腰に腰を押しつけ、擦りつける。
「んふっ……んんっ………あはっ……」
興奮が彼女にも伝わったかのように、声は濡れた女のそれへと変化する。
その仕草や様子があまりにもいつもの彼女とは違っていて、そのギャップが少年の興奮を引き出す。
(うくっ………駄目だ……このままじゃあ……)
不意に、シュティーは動きを和らげる。
「リュークス君も……感じてるのね? 嬉しいわ」
そう言うと、彼女は今までよりも強く男のそそり立ったモノを握る。
「うあっ!」
口から、思わず声が漏れる。
痛みすらも感じるそれは、だが全てが快感へと通じてしまう。
苦しげに、だけど興奮に震える身体をシュティーが擦る。
「リュークス君、苦しいの? それとも気持ちいいの?」
首を傾げながら、それでも彼女の手の動きは上下に僕を擦る。
「うあっ……くっ………ううっ……」
返事もまともに出来ない。
頭にもやがかかるような、心地よく意識が飛ぶような、止めどない射精感が引き出される。
そんな気持ちを知ってか、知らずか、強いくらいに少年のモノはしごかれる。
「すっごく大きくなってる。はち切れそうよ………きゃ!?」
シュティーが驚きの声を上げた。
擦っていた男性の象徴から、白濁の液体が流れ出したからだ。
「ふふっ……すごい、リュークス君。ぴくぴくしながら、どくどく出して……」
その手と顔を精液まみれにしながらも、彼女はその行為を止めようとはしない。

「綺麗にしてあげるわね」
陶然とした様子で、シュティーはペニスに口づける。
ちろちろとした舌の感触が、一度放出して敏感になった少年を責める。
「……ぐあっ………はっ……くっ………」
全力疾走した後のように、リュークスの心臓は身体を突き破らんばかりに鼓動する。
酸素が足りない。
命が足りない。
陸に打ち上げられた魚みたいに、少年は口をパクパクして、酸素を取り込もうとする。
その口に突然、彼女の秘所が押しつけられる。
布のさらさらとした感触と共に、その内側が湿っているのが分かる。
女性の匂い、というのだろうか。
生暖かい、しっとりとした、生臭い、表現しがたい匂いが漂う。
「んっ……んくっ………リュークス君っ……んっ……あぁ……」
顔に強く秘所を押しつけながら、シュティーが喘ぐ。
同時に少年は刺激され、気が付けば痛いくらいにモノは誇張している。
(駄目だ……僕は先生を……シュティー姉さんを吸収なんて……したくない!)
息を荒げながら、シュティーは再び跨る。
「こうすれば、リュークス君はずっとこの村に……安心して暮らしていけるのよ」
何かに酔っているかのような、女性の声が響く。

どうして……
何かがねじ曲げられている。
黒い霧の向こう側。
「くすくすくす……」
誰かの……女の人の笑い声。
一体……誰…………

リュークスが記憶を混濁させている間にも、シュティーは準備を進めている。
決意したかのように、ショーツをずらす。
「んっ………いくわよ……リュークス君」
そのまま腰を落とす。
ぞわりと、暖かい熱と柔らかい感触が包み込むような、そんな感覚。
「ひあっ!……ああっ…感じ過ぎちゃう……ひっ……ああああっ!」
上気した肌の上、潤んだ瞳に涙が浮かび、それが少年へと落ちる。
<命を無理矢理、彼女の身体には相当に負担がかかっている>
脳内の青年の言葉の全ては分からない。
だが、それでも彼女を苦しめている状況だというのは分かる。
「うぐっ……あああっ…ち、力が流れ込んで……うあああっ…ああっ……」
苦しさも混じるシュティーの喘ぎ声。
それでも彼女は行為を止めようとはしない。
「うあっ…ああっ………たっ……痛い……ううっ……」
それはまるで破瓜の痛みから逃れようとするように、腰を逃がす。
だが、見えない何かに強制されるように、再び腰が降ろされる。
「…かはっ……あああっ……ああ……あ……いあっ……はあっ…」
シュティーの中は狭く、ただ挿入しているだけでも、柔肉が少年を締め上げ、熱を伝える。
「やめる…んだ……シュ……ティー…先生……」
なんとなく分かる。
彼女はこのまま続ければ、力に耐えきれずに死んでしまう。
「うあっ……やだっ………やだよ……リュークス君っ……」
彼女は拳を握り、痛みに耐える。
続ける事が嫌なのか、それとも抵抗できない事が嫌なのか。
だが、その葛藤が皮肉にもリュークスに強い刺激を与えてしまう。
小刻みに上下される膣は男根のほとんど全てを飲み込み、また上がる。
彼女の愛液と血液とが、じゅるじゅると音を立てる。
先端部分だけを強く擦り上げられているような、強い刺激が与えられる。
「くあっ…ううっ………やだっ……あああっ……」
涙で顔をくしゃくしゃにしながらも、シュティーは止めない。
止められない。

大切な幼なじみのお姉さんが泣いている。
泣かせているのは、誰なんだ…?

「くすくすくすっ……」
闇の中で笑う女。
全てが彼女の思い通りに動いている。

ちくしょう!
ちくしょう! ちくしょう!
リュークスの中の何かが爆発した。
身体は捉えられ、自然の摂理に従い白濁の液体を放出しようとしているけれど。
少年の精神は影を捉えている。
黒いローブの、白い肌。
僅かに見えるその口元には、真っ赤なルージュ。
<お前か! シュティー先生を操っているのは!>
ローブの女は、僅かにたじろいだ。
だけど、すぐにまた形の良い唇は微笑を形作る。
くすくすっ……くすくすくすくす………
笑い声が響く。

覚醒する。
リュークスの身体が淡い光に包まれる。
その光はシュティーの身体をも包み込む。
「痛っ……ぐぅ……えっ…あっ……んんんっ……」
彼女の喘ぎから痛みが消える。
「シュティー姉さん……」
戒めを解いた、その腕で優しく彼女を抱き寄せる。
「あっ……リュークス……君? あたし……」
胸に顔が乗せられる。
長い絹のような髪が少年の胸に当たる。
「すいません。もうちょっとだけ、我慢して下さい」
「……うん」
囁くリュークスの言葉に、シュティーは頷いた。
押し倒されている体勢を、少しずつ変えていく。
体重をかけないように注意しながら、少年が上になる。
繋がったままの腰を、ゆっくりと突き入れる。
「ふあっ……くぅんっ………」
痛みが和らいだとはいえ、まだ完全に無くなったわけではないのか僅かに苦痛の声が混じる。
心配そうに覗くリュークスに、シュティーは微笑んだ。
「大丈夫よ……あたしが強いのは知ってるでしょう?……リュークス君」
涙で顔を濡らしながら、それでも彼女は微笑んでくれた。

すいません……シュティー姉さん。
僕に……こんな力が……勇者の資質なんてのがあるから……
だから貴女にまで迷惑をかけた。
貴女を傷つけた。

だからリュークスは、彼女の顔をじっと見られなかった。
俯き、それでも彼女を覆っている闇を払う為に、ゆっくりと腰を突き入れる。
「んっ………ああっ……んあっ……大丈夫だよ……大丈夫………」
くちゅくちゅと音を立てながら、男の腰は次第に強さを増していく。
「あっ……あっ……ああっ………あああっ……」
快楽の土台は出来ていたのか、次第にシュティーの声のトーンが上がっていく。
動きと興奮もそれにつられて上がっていく。
「あっ…あああっ……リュークス君……あたし変っ……変よぉ……あああっ……」
息も絶え絶えに、彼女の身体が弓なりに仰け反る。
「大丈夫……それに身を任せて」
「あっ……うああああああああ………んっ……」
どくどくという射精感。
そして、光が満ち溢れた。























リュークスは旅支度を終えていた。
人の少ない早朝を選んだのは、村をあげての見送りを避ける為だ。
旅立つのは、リュークスと神官フィリスと妖精ニア。
それを見送るのは友人ガッタ、マールと尼僧シュティー。

『勇者の資質』を持っているとしたら、魔物たちは僕の命を狙う。
それは周囲の人……村の人たちにも迷惑が及ぶ事になる。
この前のような事がまた起こらないとも限らない。
そう、僕は世界の人の為とか、そういう大きな目的の為に闘うんじゃない。
僕のかけがえのない、ちっぽけかもしれないけれど大切な居場所を守る為に闘うんだ。
僕は闘わなくちゃいけない。
僕自身の為に。

「行ってきます、シュティー先生、ガッタ、マール」
「気を付けろよな。お前、俺よりも弱いんだから、間違いだったらすぐに戻って来いよ!」
ガッタが豪快に笑った。
「ツッコミ相手が居なくなるな。リュークス、まぁ頑張って」
小声でぼそぼそとマールが言った。
「ん~、生きてれば、また会えるわ……だからバイバイは言わない」
若いシスターシュティーは、いつも通りに見える。
だが、どこかしらに余所余所しい雰囲気が伺える。
操られていたとはいえ、凄い事をしてしまった後ゆえに気まずいのだろう。
少年も気まずい部分はあったが、気の利いた台詞が言えるわけでもない。
「…みんなも元気で」
結局は無難な旅立ちの台詞を述べ、フィリスたちと合流しようと歩き出す。

「リュークス君!」
「はい……わっ!?」
シュティーに抱きかかえられる。
ふわりと香水が漂い、柔らかく暖かく抱きしめられる。
「ぜえったいに生きて返ってくるのよ。場合によっては逃げたって構わないんだから!」
「……はい」
「忘れないでね、あたしたちは家族なんだから、疲れたら帰る場所があるんだって」
「………うん、ありがとう。シュティー姉さん」
血は繋がっていない。
けれど家族以上の家族である彼女に、『勇者』ではなく、彼女の『弟』として答えた。

「本当によろしいんですね?」
神官フィリスが確認する。
「ほーんと。この前までは行きたくないオーラ全開だったのにさ」
ニアも一言を付け加える。
「僕は世界の人の為とかじゃなくて、自分の為に闘います。
僕の力がどこまで通じるか、分からないけれど、元凶である魔王と……闘います」
リュークスは静かに、そう宣言した。
それは『勇者』という重圧に負けそうになる自分に言い聞かせた言葉だったかもしれない。
「力の使い方とか、いまいちよく分からないけど、ほんとに勇者かどうか分からないし、歴代の勇者の中で一番弱いかもしれないけど……それでも、僕はやってみます」
「行きましょう」
フィリスの言葉は少なかった。
だが『全て分かっているつもりです』と、労るように微笑む。
「ふんっ、まぁ、自分の無力さを知るのは、知らないよりはマシよね」
妖精の少女は、相変わらず毒舌だ。
「妖精は気楽でいいよなぁ……ただふらふらと飛んでるだけでいいん……痛っ!」
ニアが少年の指に噛みく。
「何すんだよっ! この虫っ娘!」
「誰よ、その虫っ娘ってのは!」
「まぁまぁ、二人とも……」
リュークスの旅は、今始まった。
魔王と闘う勇者としての、長い長い闘いの旅が……。



闇が漂う。
それは全身を黒でまとめたローブ姿の影。
「くすくすっ……いたずらしてたのがバレちゃった。
けれど、ようやくの旅立ち……ね」
楽しそうに、けれど微少の憐憫を含め、闇が呟く。
「闇に‘魔王’という存在と力があるのならば、光にもまた‘勇者’という存在と力が存在する。
それは方向性の違う同一の力。
魔王が人々の“絶望”を糧にすれば、勇者は人々の“希望”を力とする」
闇は静かに、ゆっくりと呟く。
「学んで頂戴……勇者の力と責任と…………苦しさを……」
影はもう無かった。

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