ダーク・ライトサイド

タカヤス

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ダークサイド 第8話

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「ベルザインの人たちは、もう少し物分かりが良いと思っていました!」
クインヒア領女将軍リーゼは、憤慨を隠せない様子で言う。
「そう言わないで。確かにウェンディー殿のおっしゃられる事も正しいよ」
そんな彼女の言葉に答えたのは、まだ若い男、南方総司令ロイドだった。



南方総司令ロイド・ヴァン・クインヒアは、ヘルゼン帝国の大貴族クインヒア家の者である。
同家は『帝国三大貴族』と呼ばれているほどであり、ロイドの現在の地位も貴族ゆえのもの、だと言うのが一般的な評価だった。
収まりの悪いふんわりとした金髪。
今年26歳になる線の細い青年を、初見で軍人だと思う人は少ないだろう。
微笑を絶やさない彼は、良く言えば『気さくな人』であり、悪く言えば『頼りなさそうな人』。

そんなロイドが帝都を騒がせたのは、恋人との婚約発表だ。
人々を驚かせた大きな理由は、その女性の名前である。

リーゼ・フォン・クレインベルグ。

先に述べた『帝国三大貴族』のうちの一つが、クレインベルグ家である。
かつて魔王を封印した勇者一行の『蒼の魔術師』、その末裔だ。
権力に限った話をすれば、帝国最大のカップルという事になり、三大貴族の残された一つとしては危機感を抱く状況である。
残された貴族からの妨害は容易に想像できる。
事情を知る人々は、
「かわいそうだが、あの坊ちゃんじゃあ、結婚できまい」
「大貴族であるがゆえの悩みか。偉い人も大変だねぇ」
「他の人にしとけばいいのに」
など、大多数が二人は結ばれまいと予想していた。

しかし、この頼りなさそうな青年ロイドは、人々の予想を超える。
反対貴族を説き伏せ、また時には威圧さえ行って周囲に婚約を認めさせたのだ。
勿論、ロイド一人の力ではなくリーゼの協力もあっただろう。
だがそれを考慮してなお、ずば抜けた行動力と用意周到さは、周囲の人々の彼に対する評価を変えた。
すなわち、伊達に三大貴族では無い、と。

そんな頼りなさそうに見える大物ロイドは、ロゼッタの独立とバーザルへの侵攻を聞くや、早急に対策会議を開いた。
帝国に反旗を翻したロゼッタについての会議は、実際二人の人物を中心として進んだ。
片方はもちろん会議開催を計画した南方総司令ロイド。
そしてもう一人は、ベルザイン領主にして聖斧戦士の血を引く女領主ウェンディー・ベルザイン。

バーザルの北に位置するベルザイン領は、かつて魔王を封印した勇者一行、その『聖斧戦士ベルザイン』の子孫が治める領土である。

『帝国の敵は即刻討つべし』

彼女たちの、その単純過ぎる回答はロイドの予想通りであった。
占領されたばかりのバーザル領は、軍備も整っておらず、攻める絶好の好機だと主張していた。
(気持ちは分かるし、一理ある。けど、物事はそこまで単純じゃない……)
ロイドは、今回のロゼッタの動きの巧妙さに舌を巻いていた。
バーザルは未だ帝国領である、という宣言がある為、安易にベルザイン領の軍隊が動けば敵に大義名分を与えてしまう。
ましてジュダの行った新領主を擁する経済政策は、成功を収めている。
進軍したベルザイン軍がロゼッタ軍のように迎え入れられるとは予想出来ない。
(一般の人にもよく分かるような、大義名分が欲しい)
ロイドが単純に攻め込めない理由が、ここにある。
人々の感情は、時に大きな影響を与えるのだ。

結局、帝都へ状況を報告し、最高の大義名分である『皇帝の勅命』を貰うまで戦闘行為の自重を願う、という形となった。
その決定、というよりもロイドの意見を全く無視する様子のベルザイン兵士たちの態度に憤慨したのが、冒頭のリーゼの台詞である。




「ねえ、ロイ。ベルザイン軍はきちんと待機してくれるかしら?」
長い蜂蜜色の毛先をいじりながら、リーゼが問いかける。
髪をいじるのは彼女のイライラしている時の癖だと知っているロイドは、優しく微笑みながら答える。
「おそらく待機はしないだろうね。ウェンディー殿は聖斧戦士の血を引く勇猛な方だから」
周囲に人が居ない事をさりげなく確認して、リーゼの髪に触れる。
「『南方総司令』ロイド様の命令なのに?」
髪に触れられ苛(いら)つきも多少は収まったのか、目を細めながら冗談気味にリーゼが言う。
「『総司令』は名誉職というか、僕の実質的な権限は領主レベルだからね。
同じ領主であるウェンディー殿に命令は出来ない。
『お願い』という形が精一杯だよ」
「お願いじゃあ、実質的効果は無いと同じね」
不満そうな彼女を和ませるように、ロイドは答える。
「けど、ベルザイン軍が侵攻する事でのメリットもあるんだ」

バーザルにベルザイン軍が駐留すれば、それだけでロゼッタに威圧感を与えられる。
またバーザルからロゼッタに流れる金を止める事が出来る。
もしもウェンディーたちがバーザル領民に反抗されたら、それを理由にクインヒア軍が動く事が出来る。

「南方住民の帝国へのイメージが若干悪くなるかもしれないけれど、少なくとも今回の反乱騒ぎは収まる」
「ロイって……何も考えてなさそうだけど、すごく考えてるのよね」
いたずらな笑顔でリーゼが笑う。
気丈な彼女は他人が居る前では、こんな表情はしない。
「さらりと酷い事言ったか? リーゼ」
小さな、けれどこれ以上ない特権に満足しながら、ロイドも笑う。
「ねえ、ロイ……」
ひとしきり笑い終えた後、リーゼがぽつりと呟く。
「ん?」
「あなたのその考えを、他の将軍や兵士にもあなたの言葉で伝えて欲しいの……
現場の人たちは、司令の明確な指針がないとやっぱり不安だから」
遠慮がちに言う彼女の言葉に、ロイドは自らの不甲斐無さを痛感する。

反乱軍を討つべし、という意見はベルザインに限った事では無かったのだ。
クインヒア軍にも戦うべきだと主張する者はいる。
今回のロイドの待機命令を、腰抜けなどと陰口を叩く者も少なくは無い。
それは直接ロイドの耳には入ってこないから、黙殺して構わないと判断していた。
しかし、副官であるリーゼの口からそれが出る程だ。
ロイドを認めていない部下たちは、正直なところ半数近くにのぼる。
不満が広がり、良い事など何一つ無い。
(こんなんじゃあ、司令どころか軍師……いや、将軍として失格だ)
「……多少、プランを変更しよう。ずっと城で『勅命』を待つよりも、クインヒアの南端へ移動しておいて、すぐに戦闘に入れる準備をしていた方がいい。
それを全軍に伝える。そうすれば多少は不満も減るだろうから」
「うん」
自分の差し出がましいような提案が受け入れられ、リーゼは安堵の息を漏らす。
「リーゼ、僕一人じゃあやっぱり抜けがある。
言いにくい事もあるかもしれないけど、出来るだけ意見を出して貰えると助かるよ」
「うん……でも、実はこの意見は姉さんのなんだ。偉そうに言ってごめんなさい」
あぁ、とロイドは納得する。

リーゼの姉、アニエス・フォン・クレインベルグ。
現クレインベルグ家の当主である彼女は、『蒼の軍師』と呼ばれている。
今は帝都に居るはずだが、離れていても現状を把握したり的確な助言をしたりと、格の違いを思い知らされる。

「リーゼ……すまない。
本当は僕が一人で解決しなくちゃいけない問題なのに、君の姉さんまで引っ張り出してしまって……」
暗い表情のロイドに、リーゼは首を左右に振る。
「姉さんは、帝国最高の『蒼の軍師』だもの。かつてない帝国の危機に対処して貰うのは当然の事よ。
それに、頼られて悪く思う人じゃないし、私だって鼻が高いわ」
リーゼはその言葉通りに、ロイドの行動を嬉しく思っていた。
彼は他の貴族同様、体面や名誉に驕り高ぶり、自分だけで行動する事も出来たのだ。
だがそうせず、危機的状況を冷静に分析して首都にいる軍師に助けを求めたのは、婚約者である事を差し引いても、好感が持てるのだ。
「バーザルを2,3日で陥落させた手腕……恐らく僕じゃあ敵わない。きっと多くの……」
リーゼは、呟くロイドの口に指を当て、その続きを遮った。
「あなたは凄い人なんだから、もう少し自信を持って。
姉さんが来る前に乱は終わるわよ。大丈夫、私の目に狂いは無いわ」
元気づけるように言うリーゼに、ロイドは励まされる。
ロイドと二人きりの時、リーゼは将軍ではなく、一人の女性となり彼を助けてくれるのだ。
「そう……だね。大切なのはこれからだ。
戦う前から弱音を吐いてちゃあ、勝てるものも勝てないね」
「そうよ。兵士にだって影響が出るんだから。将軍は辛くても顔に出しちゃ駄目」
彼女の笑顔はロイドの心労を軽くしてくれる。
「……リーゼ」
「なぁに?」
「僕たち………この戦が終わったら、結婚しような」
「……うん」
恥ずかしそうに言うロイドに、やはり恥ずかしそうにリーゼが答えた。





「なるほど。ご苦労だった」
ロゼッタ領の城内。
領主クレアの横で、騎士団長ジュダは伝令の兵士を下がらせた。
一言で言うと戦況はロゼッタに不利だった。
南方を統括する、という役割からクインヒアの兵力はかなり大きい。
その規模は、ロゼッタのほぼ2倍。
またクインヒアの西方にある領土ベルザインが、バーザルに対して宣戦布告を行った。
南下して来るのは時間の問題である。
こちらはロゼッタとほぼ同兵力であるが、それを率いるのは『聖斧戦士』の生まれ変わりとさえ言われている女戦士ウェンディー。
「どうするのです? 我々の兵力では二領土も相手には出来ませんが?」
領主クレアが尋ねる。
「くくくっ……バーザルの方は既に手は打ってある。時間は充分に稼げる。
当面の問題はクインヒアの方だが。どう思う? オルティア?」
ジュダに問われ、若い女性オルティアは冷静沈着を体現したように答えた。
「情報によりますと、クインヒア軍の四割はまっすぐに南方へ移動しているようです。
『勅命』を待ってから、そのまま正面から攻めて来るのでしょう。
背後をつかれる心配が無い為、一割程度を首都の防衛に充てているようです」
「それでは残りの五割はどこへ行ったというの?」
クレアが疑問を投げかける。
「おそらくは、側面から攻めてくるのだと推測します」
「側面?」
「ミリヨヒだ。南方総司令は三方向から我々を包囲するつもりらしいな」
クレアの疑問に答えるのは、ジュダだ。
危機的状況になりつつあるというのに、その涼しげな表情に変化は見られない。
ミリヨヒを経由するのには、包囲する以外にも、協力を強制する目的もある。
大兵力で包囲し攻撃するのは、基本中の基本だ。
面白味の無い戦略だが、それゆえに付け入る隙も少ない。
「……………」
オルティアは、冷静に状況を把握し、対処を練る。
西のバーザルから来るであろうベルザイン軍についてはジュダに何か策があるようなので、とりあえず除外しておく。
問題は北から来るだろう本隊と、ミリヨヒ経由で東から来るであろう分隊だ。
地の利を活かしてロゼッタに籠城する……。
これは愚策だ。
時間を稼いだところで、不利になる事はあっても有利になる事は無い。
それならば、包囲しようと兵力分散した相手を各個撃破する。
本隊はクインヒアの四割、分隊は五割。
ロゼッタ全軍で北上し、正面の四割を撃破、そののちにロゼッタに戻り迎撃……。
「南方総司令ロイドだったか? その男はそれを予想しているようだぞ?」
オルティアの言葉に、余裕の笑みさえ浮かべジュダが言う。
「クインヒア本隊はクルニクス平原に陣取るようだ。
 周囲の山や林ではなく、敢えて平原を選んだのだからな」
陣地を敷く場所は、山などの高所や身を隠せる林の方が有利だ。
それを敢えて平原にしたのは、ロゼッタの奇襲を警戒しての事だろう。
何よりロゼッタと正面のクインヒアとでは、勝利条件が異なる。
クインヒア本隊は、勝たなくても良いのだ。
時間をかければかけるほどに包囲網は完成し、ロゼッタはじり貧となる。
速攻で本隊を叩きたいロゼッタとしては、守りに重点を置いた嫌な布陣と言える。
「……申し訳ありません、ジュダ様。私では高い確率で敗北します」
ジュダは低く笑う。
この状況では、虚勢と見る者も居るかもしれない。
だが、彼の部下である少女たちには分かる。
この笑みは純粋な笑みであり、この男はこの厳しい状況を覆すだろう事が。
「くくっ……南方総司令ロイドという男は、計算高い男だ。……計算高い分だけ読みやすい。
帝国の人間たちにロゼッタの力を見せてやるとするか」
(ロゼッタの……いや、この私の力をな)
ジュダはマントを翻し、将軍たちの居る部屋へと向かう。

後に『クルニクル平原の戦い』と言われる戦いが、始まる。




ロイドの指示により、クインヒア軍が動いた。
彼の立てた作戦、それはロゼッタへ二方向から同時に進軍するというものだった。
本隊はロゼッタ領土ぎりぎりの『クルニクス平原』に布陣し、『勅命』を待つ。
分隊は東方から迂回し、ミリヨヒ領主へ進軍する。
そして『勅命』を受け、完全な大義名分が立ったところで、正面から囮としてロイド率いる軍が攻める。
囮と言っても、その兵力はロゼッタの全軍と同等である。
隙があればロイドの軍がロゼッタを制圧する。
リーゼが率いるもう一つの軍は、ミリヨヒからロゼッタを攻める。
これは自ら動こうとしないミリヨヒ領主を説得する役割も担っており、こちらもロゼッタ全軍と同等の兵力である。
仮に協力を断ったとしても、クインヒアへ攻め込まないように中立を保させるだけでも良い。
何しろミリヨヒ軍を使わずとも、圧倒的有利な兵力差があるからだ。

兵力はロゼッタ軍を100として、中立のミリヨヒ軍はおよそ50。
それに対してベルザイン軍は約150。クインヒア軍は200ちょっとと言ったところだ。
今のところ中立としている日和見主義のミリヨヒをロゼッタ軍に加えたとしても、純粋な兵力差において二倍近くはある。
この時点でクインヒア軍の勝利を疑う者は、ほとんど居なかった。



― ◇ ― ◇ ― ◇ ―



「一安心……と言った所かしら」
ミリヨヒ城の士官用の部屋を借り、リーゼは一息ついた。
彼女らが到着したのは夜だったが、温厚な領主はリーゼたちを迎え入れた。
またロゼッタ討伐の軍を出す事も約束し、疲労の多い兵士たちへ豪華な食事さえ与えた。
『兵は神速を尊ぶ』
そんな言葉が合うかのような強行軍でミリヨヒに着いたからか、途中でロゼッタ軍に出くわすこともなかった。
「不気味なほどに沈黙しているロゼッタ軍が気になるけれど……
 ロイの過大評価だったのかしら?」
今回、ミリヨヒの領土と兵力は無視できないものである。
クインヒア領においては側面攻撃の要であるし、ロゼッタ領においてもミリヨヒを得ればクインヒア本城を直接攻撃出来る。(もちろん、それを警戒しての分隊だが)
「それともロゼッタ領土を守る事に固執しているのかしら……」
リーゼは軽く頭を振る。
ここ何日か不眠不休に近い形で行軍して来た為、兵たちの疲労も彼女の疲労もピークに達していた。
(とにかく今日くらい休ませて貰っても、罰は当たらないわよね?)
必要な指示を他の将たちに与え終えると、彼女は部屋の浴室へと向かう。
ここ何日か風呂に入れなかった為、体臭が気になっていたのだ。
「……ロイ………私、頑張るから」
浴室でリーゼは呟いた。



「………ん……」
「お目覚めかな? 女将軍殿」
夜中、人の気配に目を覚ましたリーゼの目に写ったのは、一人の男だった。
男であるのに、その容姿は恐ろしいほどに美麗である。
美麗であるはずなのに、その美は悪魔を連想させた。
「………ミリヨヒの将軍? いえ………ロゼッタか」
「くくくっ……察しが良いな。そして無闇に大声を上げ、寿命を縮める愚は犯さないようだ。
もっとも声を上げた所で、誰も来られないのだがな」
目の前の男を睨み付けながら、リーゼは状況を確認する。
「大声を上げれば衛兵が来るでしょう? それにクインヒアの大軍が……」
「今晩の料理は旨かったろう? ぐっすりと眠る事が出来る隠し味付きだ」
目の前の男は、くつくつと喉の奥で笑う。
(睡眠薬……くっ、ミリヨヒは中立なんかじゃなく、ロゼッタの属領だったって事)
「……一体どうやって忍び込んだというの?」
リーゼはただ、奥歯をかみ締める。
「くくっ……ミリヨヒ領主殿は寛大な人物だからな」
「ふざけないで。卿は中立であろうとしていた方。なぜ、状況が不利なロゼッタの味方を」
彼女の声に、ジュダは楽しそうに笑った。
「はははっ……。手品は種が分かると興醒めするぞ?
 だが特別に教えてやろうか。領主殿のご子息は今、ロゼッタ領で保護している」
「っ!?………この卑怯者!」
ジュダはロゼッタ領主の子供を人質に取っていた。
バーザルに攻め入ると同時に、ミリヨヒにも見えざる魔手は伸びていたのだ。
「さて、状況をある程度理解して貰った所で、自己紹介といこうか。私はジュダ。
分かっているとは思うが、ロゼッタ領騎士団長だ」
「……騎士団長自らお越しとは………ロゼッタはよほど人材が少ないと見える」
リーゼの憎まれ口にも、ジュダは動じた様子は無い。
「ははははっ……さすがはクインヒアの将軍だ。
絶体絶命の状況だと言うのに、よくそこまで軽口が叩けるものだ」
「絶体絶命? それはあなたの方でしょう? 戦争は個人が戦うのでは無い。
純粋な兵力が結果を決めるの。
いかに非人道的な小手先の戦術で相手を翻弄しようと、戦略の段階であなたは負けてるのよ!」
「ご高説、痛み入る。だが、私が聞きたいのはそんなことでは無いのだ」
「……私を人質にするつもり?」
ジュダは軽く髪をかきあげ、肯定して軽く頷く。
「はっ、足手まといになるくらいなら、私は……」
リーゼの口調に割り込むように、ジュダが言った。
「お前一人の問題ならばいいがな。強行軍でやってきて、疲弊している軍隊。それも深夜。
今襲われたら、一たまりもないだろうな」
「!?」
ジュダの言葉はリーゼに衝撃を与えた。
ロイドから預かった大切な軍隊を無駄に消費させるわけにはいかない。
「……何が目的なの?」
「くくっ、理解が早くて助かる。目的は一つだけだ」
ジュダは笑った。
獲物を捕らえた肉食獣のように。





















ジュダは無造作に、女のバスローブをはだける。
よほど屈辱的なのか、リーゼは目を背けている。
羞恥からか、彼女の顔は朱に染まっている。
「くくくっ……女将軍殿はこういった事は初めてか?」
「黙れ! お前には関係無い!」
「関係無い事はあるまい? これから肌を重ねるのだから」
「くっ………」
リーゼの目には悔しさが溢れている。
まるで視線で相手を焼き殺そうとするかのように、男を睨む。
「くくっ……いい目だ。
己の無力さと浅はかさを棚上げし、相手を憎むことで自己の正当化を図る卑怯者の目だ」
「なっ!?…………ふんっ……」
リーゼは目を背ける。
彼女にはロイドから預かった大切な兵の命がかかっているのだ。
この程度で、彼女を征服したと思いたいのならば思わせておけばよい。
例え肉体が汚されても、心までは汚されまい。
彼女はそう心に決め、目を閉じる。
「……(これはなかなか骨が折れそうだ。くくっ……いい贄になる)」
ジュダは、冷たい笑みを浮かべながら、女を陵辱する。

バスローブを剥がされ、露わになった双丘を手と口とで刺激する。
「……………」
びくり、と一瞬反応した彼女だが、目を背け沈黙を保つ。
「ふふっ……気持ちよければ声を上げてもいいのだぞ?」
ジュダの舌と手は女の胸を優しく愛撫する。
執拗に丹念にじっくりと。
「くっ…ふざけるな!」
やや小振りな彼女の胸は、それでも形の良いものであり、男に心地よい弾力を返す。
男の手の平に収まるくらいの膨らみを、じっくりと味わう。
「あまり大きくは無いのだな?」
「っ!! うるさいっ!!………ふんっ!」
ジュダの言う事に反応しないように決めていた彼女であったが、それが破られ、また顔を背けた。
男は彼女の胸をまさぐり続ける。
「………くっ…………」
リーゼは顔を背け、口を結び、頑なに反応を拒む。
心は不快でしかないのに、体が快楽に反応し始めている事に彼女は耐える。
甘美なジュダの責めに、リーゼは度々体を反応させる。
「……くっ………っ……っ…………んっ……」
そこで、唐突にジュダの手が止まった。
「くくっ……良いことを思いついた」
ジュダの端正な口がつり上がる。
「……はぁ………はぁ………」
一息つき、呼吸を整えるリーゼに、ジュダは休む暇を与えなかった。
「反応が無いのでは面白くない。お前が私を満足させろ。
……そうだな。時間内に満足させられたら、それで自由にしてやるぞ」
そう言うと、ジュダは手を止め、ベッドへと横になる。
同時に豪華な砂時計を手近に置いた。
砂時計がさらさらと、時を流す。
「そ、そんな! 満足って……一体………どうやって……」
リーゼに焦りの色が浮かぶ。
ただ耐えていれば良かったのが、今度は相手を満足させなければならないのだ。
「分からないわけでもあるまい? それとも一晩中私に慰めて貰いたいのか?」
「くっ……約束は守って貰いますから」
リーゼは血の気の失せた唇を強く結んだ。


「んっ………むくっ……んんっ…」
薄暗がりの中、リーゼがジュダの一物を口に含んでいる。
だが彼女にその経験は無く、その動作はぎこちないものとなる。
「それでは満足にはほど遠いな。男を興奮させるコツを教えてやろう。
男に自分の体を擦りつけるようにしてやるのだ。子供では無いのだ、どこをというのは分かるだろう?」
「………むんっ……………くっ……」
彼女は目に涙を浮かべながら、ゆっくりとジュダの顔に自分の下半身を向ける。
出来るだけ男の顔や体を視界に入れないように、堅く目を閉じている。
「んっ…………むぐっ……ひぁ!!」
突然、リーゼの体がぴくりと反応した。
今まで他の男に触られた事の無い場所に触れられたからだ。
彼女の体は自然とジュダから逃れようとするが、僅かながらそこは湿っていた。
「くくくっ……いいぞ。正直な反応は男を喜ばせる。体は不快ではあるまい?」
悔しい気持ちの全てを、一時の行為に込めるように、一心不乱に彼女は顔を上下させる。
「くっ……んっ!?………こほっ、こほっ!」
何の前触れも無く、喉の奥に男根を突き入れられ、リーゼは咳き込む。
「くははっ……いいぞ。だいぶ良くなってきた」
「うっ……いちいち………喋らないで!……うあっ!」
リーゼの秘所に痺れるような、甘い感覚が広がる。
男の指と舌とが、交互に、そして同時に彼女を責め立てたからだ。
ぴちゃぴちゃという、卑猥な音が響く。
「はははっ……嫌がっているわりには、体は反応しているのだな?」
「ち、違う!……はっ……んくっ………」
男に慣れていない、その初々しい体は、ジュダの動きにいちいち反応してしまう。
女の腰がその手から逃れようと持ち上がるが、それも一瞬で、すぐにまた下がる。
無意識に上下させられる光景を楽しむように、ジュダは舌を刺し入れる。
「くっ……んぁ………ああっ…………」
ジュダが舌を離すと、リーゼとの間に唾液以外の液体が糸を引いた。
濡れそぼったその場所を、今度は指で弄ぶ。
「んっ……だ、駄目………っ……はぁ……ああっ………」
「くくくっ……自分ばかり感じていては、私は満足させられないぞ?」
ジュダの手と舌の愛撫は止まらず、リーゼを襲う。
それでも、ジュダの言葉はリーゼを我に返らせた。
「はぁ、はぁ……んっ…ぷっ……むっ……ぐむっ……」
男の竿を手で握り、大部分を口に含む。
彼女なりにジュダの感じるポイントを探ろうと必死であったのだ。
「むっ……んんっ……はっ……駄目! そ、そんなところ!!」
リーゼが悲鳴にも似た声を上げた。
ジュダの指が、彼女の後ろの穴を押し広げたからだ。
「ははははっ! 気を取られていていいのか? 時間は少ないぞ?」
「ああっ!………やめろっ! そんなところ見るな!」
リーゼは耐えきれずに腰を逃がす。
それでも砂時計の時間が少ない事に気が付いたのか、ジュダへの愛撫は止める事は出来ない。
リーゼは少し強いくらいに、男の象徴を擦り上げる。
少しでも早く精神的苦痛から逃れたい一心で。
「駄目だ。ただ擦ればいいというわけではない。
お前の最愛の人物でも思い浮かべてやったらどうだ?」
「だっ……黙りなさい!」
砂時計は無情にも時を刻む。
残り時間はあとわずかだった。
「最後の手段が残っているのではないか? 説明して欲しいならばするが」
「くっ……黙っていろ!」
リーゼは体勢を変え、せめてもの抵抗として、ジュダの顔を見ないように背中向けでまたがる。
屈辱的にも彼女の身体は、男を迎え入れる準備が出来ていた。
それを意識の外に追いやって、彼女は男の誇張したモノを掴む。
そして固定させたまま、自らの腰を降ろした。
「ぐっ……ああっ………い、痛っ……くっ………」
ぶちぶちという、膜を突き破る音が聞こえてきそうだった。
純血であった赤い証が、彼女とジュダの体液に混ざる。
「くくっ………そのままでは満足は出来ないな。上下左右に動いて貰わんと」
「うぐっ……あっ……あああっ………」
ジュダの追い打ちを黙らせるように、彼女は激しく腰を動かす。
精神的苦痛と肉体的苦痛とで、リーゼの頬に涙が流れた。
「くくっ……」
男はその涙を指ですくうと、今度は胸へと回した。
両手の指と手の平とで、繊細に揉みしだく。
「うっ…あっ……ああっ……くっ…触らないで!!」
「そうか? ここはこんなに喜んでいるというのにっ!!」
言葉の最後で、ジュダは一際激しく腰を突き入れた。
「っ!!………くはっ……ぐっ……あぐっ……」
一瞬息が詰まるような感覚に、女の苦痛の声が上がる。
それでも彼女のその結合部からは、とろとろと蜜が溢れる。
「い…いやっ………いや…………いやぁあ!!」
体をよじって逃げようとする彼女の体を、ジュダは逃がさない。
「ひぐっ……あっ………もう……んんっ…嫌!……ロイ、ロイ!!」
「ははははっ! 助けに来られるはずのない男の名を呼んだ所で意味は無い」
逃げようとする腰の動きが、皮肉にもジュダに刺激を与える。
そしてその刺激はリーゼにも与えられる。
「ロイ……あっ…うっ……ああっ………んくっ……だめっ…」
拒む彼女に、快楽の波が襲ってくる。
それを受け入れたい気持ちと、受け入れたくない気持ちとがせめぎ合う。
「だっ…だめ……だめぇ……あっ……ああうっ……」
最初は苦痛の声しか上げていなかった彼女の声に、甘いものが混じり始める。
例えるならば、それは麻薬。
禁断であるが故に甘い誘惑であり、それが彼女を狂わせる。
「あっ……はっ…うんっ………ああっ………ロイ! ロイぃいい!!」
いつしか突き上げられる男の動きに合わせ、彼女の腰も同調する。
より深く、より快楽を得る為に、互いが密着する。
「あうっ……くっ……はぁ……はっ……ああん…はぁん……」
腰が上下する度、くちゅくちゅという濡れた音が響く。
「くくっ、いいぞ。膣(なか)は狭くて温かい」
「ひあっ……あふっ…あんっ!……ロイも、ロイもいいっ!」
彼女の精神は、他の男に抱かれる事に耐えきれず男の姿を変換していた。
人間の一種の防衛本能と言って良い。
濁った光を失ったその目には、ジュダの姿はロイドの姿にしか写らない。
「くくくっ……壊れたか? それならそれでいい」
突き上げられる度に、リーゼから甘い喘ぎ声が漏れる。
まだ男に慣れていない体は、男根を柔らかい肉のひだで包み込む。
ずちゅずちゅという音に、喘ぎ声が重なる。
「ああっ……むくっ…んんっ………はっ………あっ、あっ……ああっ!」
少しでも多く男と繋がりたくて、彼女は顔を後ろに向ける。
そしてどちらからともなく、互いの口が近づく。
「んんんっ………むっ…んぅ……ぷはっ……あっ…あっ……あああん!」
互いの舌が絡み合い、互いの味を確認する。
さらに小振りの膨らみを揉まれ、同時に彼女の一番弱い部分を突き上げられる。
「ああっ…お、お腹の中が……あっ、熱い……熱いよぉ、ロイっ……」
「お前には役に立って貰う。使い捨ての駒だがな」
ジュダは腰を出し入れする。
「あっ……あっ………んんっ…………ああっ……だ、駄目! 私……駄目っ!」
「受け取れ。我が僕(しもべ)となる為に!」
彼女の細い腰に、手を添え、一気に突き入れる。
「んんっ……あっ…………んんんんんんっ!!」
リーゼの体が仰け反り、絶頂を示すと、ぐったりとベッドへと倒れ込んだ。

砂時計は砂と彼女の理性を全て流し尽くしていた。




















「ウ、ウェンディー様! 大変です! バーザル領に大量の魔獣が!」
部下の報告に、ベルザイン領主ウェンディーの形の良い眉が動いた。
「魔獣……どこから?」
「はっ、『魔王の遺跡』から現れた模様です。無差別に村や街を襲っています!」
ウェンディーは顎に手を当て、考える。
いかに敵国とはいえ、同じ人間が魔物に襲われている以上、優先的に助けなければならない。
彼女は透き通るような声で命令を下した。
「全軍に命令して。魔獣を優先的に排除。バーザル奪回はその後で」
「はっ! 了解しました!」
(ま、いいわ。余計に時間はかかるけど、格好の獲物だし。腕が鳴るわ)
何しろ平和続きの帝国での久々の戦争だ。
楽しみはじっくりと味わっても、すぐには無くならないだろう。
ウェンディーはそう考え、自慢の戦斧を握る。

だが、彼女は気が付いていなかった。
それすらもジュダの時間稼ぎであった事に。



同時刻。
ロゼッタ領北方、クインヒア軍。
「ロイド様。全軍の配置整いました」
「分かった。ありがとう」
部下の報告に、ロイドは頷いた。
目の前には、広大な『クルニクス平原』が広がっている。
そしてその地平線の彼方には、ロゼッタ軍が展開している。
(この兵力数……ロゼッタのほとんど全軍。囮にかかってくれた…のかな)
風が草原を渡り、ロイドの収まりの悪い金髪を揺らす。
「それにしても、この兵力数は意外でしたな」
将軍の一人から声が上がった。
「そうだね。けど、僕たちはこの戦いで勝たなくても良い。負けさえしなければいいんだ」
答えたロイドの言葉に、重臣たちに疑問の表情が浮かぶ。
「側面からの別働隊がロゼッタの本拠地を突いてくれれば、彼らは前後から挟撃される事になるからね。さらにはベルザイン軍も駆けつけてくれるだろう。
勿論、今のままの同兵力でも勝つつもりだけど」
「ははははっ、当然ですよ。我々が田舎兵士に負けるわけはありませんぞ」
高らかに笑う重臣たちに愛想笑いを浮かべながらも、ロイドは考える。
(やはり各個撃破を狙ってきたのか? それともまだ別に策があるのか?)
想定内の事態であるにも関わらず、ロイドに釈然としない嫌な予感がする。
(こちらに多く兵力が割かれれば割かれるほどリーゼが安全になるんだ……
考えすぎだ。予感だなんて、なんの根拠も無い)
ロイドは頭を軽く振り、不吉な考えを振り払う。
「敵軍、動き始めました!」
部下の報告に、クインヒア軍に緊張が走る。
「よし、僕たちも行く。進軍!」
(リーゼ………無事で)

こうしてロゼッタ軍とクインヒア軍とが、クルニクス平原で戦闘を開始した。
帝国軍の歴史的な敗北は、まだ始まったばかりだった。




To Be Continued・・・






























あとがき

分かりやすい死亡フラグ(笑) この言葉を考えた人は、頭良いな。

お久しぶりです。
毎回、期待してくれている常連さんたち。
書き込みはしてないけれど、そこそこ楽しみにしてくれてる名も知らない方たち(多分一人くらいはいるかと)8話終わりました。

最近仕事が忙しいせいか、久しぶりのような気がします。
勝手気ままに書いている、このエロ小説 男性向け小説も第8話。
早いもんですねぇ・・・(しみじみ)
ホームページも一周年で、俺自身も誕生日を迎えました。
まだ続いているのは、書き込んで下さる皆さんのおかげです。
ありがとうございます。(ぺこり)

昔は誕生日も嬉しかったんですが・・・(遠い目)
(ジュダ「また一歩、着実におやじへの道を進んでいるな。
外見は社会的地位のある成人男性に見えるのに、中身だけは成長が停滞しているようだ。」)

・・・黙れ、(俺脳内)ジュダ。


09と10の話はだいたい出来てるので、後は時間が取れるかどうかの問題です。
・・・あんまし書く時間無いんですよ。最近。
(ゲームの時間を削れとか言われると死にます、俺)

さぁ、大陸南方の山場が終わったら、次はどうしようかなぁ・・・
仕事の合間に妄想してますので、お楽しみに。
ではでは。









20年前は、ホームページに掲示板にカウンターという状況でした。











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