ライトサイド

タカヤス

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ライトサイド 第7話 「怪盗シルフィード 後編」

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「ん……」
まず目に写ったのは古い建物の天井と、かたわらの少女。
(あれ………誰だっけ?)
リュークスは目を凝らしてみる。
セミロングの髪を後ろでまとめ、その顔には少しそばかすが残っている少女。
「あ、目が覚めた? 良かった!」
「あぁ…ええ、はい……」
彼女は少年に気が付いたのか、手にしていた本をぱたんと閉じる。
「意識は? 記憶はしっかりしてる?」
一気に目の前の少女がまくし立てる。
「ええっと…………」
リュークスは、ぼんやりする頭で状況を整理する。

新たな精霊の情報収集の為に、帝都へとやって来た。
けれど帝都は今、自由に行き来出来る状態ではない。
『怪盗シルフィード』という女怪盗が、大活躍しているからだ。
彼女がただの泥棒であったなら、彼女が捕まればそれで解決だ。
だが彼女は、町外れで広がる疫病への対策施設や孤児院など恵まれない所に金品をばらまいている。
そんな中、彼女が良く出没するらしい下町の孤児院で話を聞こうと移動した。
そう、そこまではしっかりと覚えている。
その後、僕は扉を開こうとして……
んん?
その後どうなったんだっけ?
ズキズキと頭が痛いんだけど………


「もしもーし? 自分の世界に閉じこもり?」
「うわっ!」
少女の声で我に返ったリュークスは、声を上げてしまう。
目の前に女の子の顔がどアップだったからだ。
若い男女には、適正な距離というものがある。
加えて彼女は身を乗り出し、少年を見上げるような姿勢だったから、ゆったりとした服装の胸の谷間が見える。
胸に付けている下着らしき、薄い緑色についつい眼が行きそうになる。
「あれ? えっと、ここは?」
狼狽とやましい心を見透かされないように、リュークスは目を逸らしながら聞いてみる。
「教会兼、孤児院だけど………ひょっとして記憶喪失? そんなに打ち所が悪かった?」
目の前の少女はほんの少し、形の良い眉をひそめる。
「あ、いや、記憶はしっかりしてる………と思う。一部曖昧だけど」
まだ痛む頭に手を当てて、改めて少女に目を向ける。
年齢はリュークスと同年代だろうか。
近くの椅子に腰掛けていたのだから、少年の看病をしていたのだろう。
「フィー姉ちゃん、そいつ起きたのか!?」
「姉ちゃん、この人が勇者なの?」
「ほんとに!? この頼りなさそうなのが?」
突然少女の後ろから、三重奏で聞こえてくる声。
元気の良い子供たちの声に、孤児院も兼ねているという彼女の言葉を思い出した。
「静かにしなさい。病気で寝てる他の子も居るんだから」
フィーと呼ばれた少女は、お姉さんっぽく子供たちを叱る。
それでも、がきんちょ共が収まる様子は無い。
(むぅう…ここは一つ、ガツーン、と凄い所を見せなければ!)
よせばよいのに、何か違うスイッチの入ってしまったリュークスは、一芸を披露しようとする。
「…………」
心の中で、『水』の精霊をイメージする。
そしてそれが動く様子を内心で察知し、今度はそれを体外に放出するイメージへと変換。
「うおっ!」「すげっ!」「きもっ!?」
リュークスの両手から湧き出る水は、小型の噴水となり、周囲にきらきらと光を散りばめる。
水の精霊にも慣れてきて、なんとなく出来るかもしれない、と即興でやったにしては上出来だ。
(ふふふふ、どうだ、がきんちょ共! この素晴らしい水芸は!(←水芸かよ 水姫、心のツッコミ))
子供Aの尊敬の眼差し。
子供Bのやや尊敬の眼差し。
子供Cの冷めた眼差し。
(うむぅ、子供によって反応も様々だなぁ)
そしてフィーと呼ばれた少女の……
「それで…辺りにばらまいた水は、ちゃあんと処理出来るんでしょうねえ??」
今までは優しげだった彼女の顔は一瞬にして、鬼(オーガ)に…いえ、そのちょこっと迫力のあるお顔におなりあそばしました。



町外れに宿を取る事で落ち着いた。
フィリスたちは疫病の人たちの世話も出来るし、怪盗の情報も得やすいからだ。
リュークスも残ろうとしたのだが、
「おそらく怪盗シルフィードは、風の精霊を持っています。
それを譲渡して貰うのも、試練の一つかもしれません。
リュークスさんは、まず彼女を捕まえる事に専念して下さい」
と言われれば、そうせざるを得ない。
捕まえて、その後どうなるのか。
はっきりとした答えは、まだ出ていないが……。
ちなみにベルクとアニーは、「やることがある」と顔を出したり出さなかったり、という状況である。
実質、街の警備兵たちと一緒に、リュークスは今夜も怪盗を追う。

怪盗シルフィードは、自分だけが空を飛べると油断している。
今日はそこをついてやろうと、少年は必死に考えた作戦を使う。
「うおおおっ! さっせるかああああ!!」
気合いと共に水の精霊を噴き上げさせる。
階段状を維持させつつ、それを駆け上り、空中を跳躍する怪盗に突進する。
「っ!?」
急速に接近する少年に、さすがに驚いた表情の彼女。
「今日こそ捕まえたぞ! 怪盗シルフィ……って、あれ?」

ふにっ。

リュークスの両手に伝わる、柔らかいこの感触は……
「きっ……きゃああああああああああ!!」
どでかい悲鳴と、頬にぶち当たる容赦ない平手。
「ぶっ、ふごべえええf@vgあpsふじこ!!」
彼女の悲鳴に負けず劣らずの轟音を撒き散らしながら、リュークスは吹き飛ばされた。
地面にめり込む彼を、周囲の兵士たちは憐れみの目で見ている。
「だ、大丈夫ですか?」
という困惑半分、笑いを堪えるの半分といった気遣いが逆に痛い。
……ちくしょう。



「難航しているようですね」
フィリスの心配半分、安堵半分の声がする。
怪盗を捕まえなければ、帝都を移動出来ないし、精霊も手に入らない。
とはいえ、怪盗が捕まれば、病気で苦しむ人は間違いなく増える。
そんな微妙なバランスが成り立っているのだ。
「ええ…このまま怪盗は捕まらないで、病気が自然に治ればいいんですけどね」
「そんなわけにもいかないのよ」
リュークスの言葉に反論したのは、ニアだった。
むむむ、と難しく考えるような顔をしている。
「何でだよ? 疫病なんだろ? ずっと流行しっぱなしってわけでも…」
少年の鼻先に、ぴっと指先を立て、ニアが言う。
「いい? 病状の発症を抑える薬は比較的安いからいいんだけど、発症してしまった時の治療には高~い薬が必要なの」
この疫病対策として効率的なのは、予防薬を飲み続ける事。
とにかく発症しないように気をつける事が一番らしい。
発症しなければ良いが、一度発症すると治療が難しい、そんな病気との事だ。
「治療薬の原料となる『水晶花』という花を手に入れるのが大変なのよ」
溜め息と共に、リュークスたちの会話に入って来たのは、フィーだった。
子供達の看病が一段落付いたのだろう。
「お疲れさまです、フィーさん」
フィリスがいつの間に用意したのか、紅茶を勧める。
「あんがと……ん、美味しい。新しい茶葉?」
「ええ、街で美味しそうな茶葉が売ってましたから」
にっこりと微笑みながら、他の人にもお茶を振る舞う。
(うんうん、フィリスさんはいいお嫁さんになるよ)
幸せな気分で紅茶を啜るリュークスの気分に水を差すのは、やはり妖精の少女だ。
「…あんたはいいわね。幸せがそんな簡単に手に入るほど単純で」
黙れ、この虫娘!(言葉に出来ない内心の猛り)

「病気の治療薬も、美味しいお茶も、幸せさえも……お金が必要か」
ぽつりとフィーが呟く。
「フィーさん…お金があればある程度の事は出来るでしょうけれど、それが全てでは無いと思います」
ちょっと困ったような顔をしながらも、女性神官は静かに答える。
「お金は全てじゃ無いけど、お金があるから出来る事だってある。ううん、出来る事の方が多いわ。この近辺じゃ安価な予防薬さえ手に入らないんだもの」
フィーの言葉には、どこか悲痛なものが混じる。
矛盾したこの世界の、どうしようもない矛盾に苦しむ少女。
両親という保護の無い彼女たちは、厳しい生活を強いられている。
それの改善には金が必要で、言葉でどうにかなる事では無いのだ。
「フィーさん、私は…」

だが、そんなシリアスな状況を一変させたのは、子供達だった。
「…せーのっ!」
「き……きゃあああああああああ!!」
無邪気な(?)子供の不意打ちに、フィーは悲鳴を上げる。
背後から忍び寄った二人は、スカートめくり一人とおっぱいタッチ一人。
見事なコンビネーションでのセクハラは、男にとっての目の保養に…
「あんたは見るな!」
「ぶふぉ!」
ニアの右ストレート。
しかもリュークスの頬を、フィリスがつねっている。
「あ…あの、フィリスさん……?」
「何ですか? リュークスさん?」
いつもと変わらぬ笑顔に、軽く渦巻く殺気。
(こ、怖い。ダークフィリスさんだ……ぶるぶる)
「こらぁ! ティムにクレイ! あなたたち!!」
「よし、逃げろぉ!」
夜だというのに、騒ぎは続いた。



その時は気付づかなかった。
いや、気付かない振りをしていた。
彼女の悲鳴は、どこかで聞いたことのあるものだったと。
そして状況から考えて、一番確率の高い、嫌な予想が成り立った事を。

気付かない振りをしていた。
そして心のどこかで、このまま事態が進展しない事を望んでいた。

だけど……
恐れていた日は、やって来た。



― ◇ ― ◇ ― ◇ ―



外を取り囲むのは、大勢の兵士たち。
秩序を守ると言われる正規の帝国兵。
「えへへ…ちょっと……ドジっちゃった」
血の気の失せた彼女の顔に、汗が流れる。
「大丈夫です……治癒出来る範囲です」
フィーの腕から流れる血が、その服を染めるのが痛々しい。
どんな状況で彼女が傷付いたのか分からないが、その血の跡は転々と続いている。
外から入口、そしてこの部屋まで…
「出てこい!! ここに逃げ込んだのは分かっている!!」
がなり立てる声に、子供達は一様に不安の表情を見せる。
「だいじょぶ……あなたたちは何も心配はいらないから」
フィーは子供たちに笑顔を向ける。
頬から顎へと汗が伝う。
彼女が無理をしているのは、一目瞭然だ。
「いい加減に出て来ないか? コソ泥がっ!!」
「駄目です! 動かないで、フィーさん!!」
横柄な声が響く中、フィーはよろよろと動きだそうとする。
「…………」
リュークスは立ち上がる。

行ってどうにかなるのか?
答えはまだ出ていないのに?
だいたい僕に何か出来るのか?
次々と沸き起こるネガティブな思考は、リュークスを閉じこめようとする。
『秩序を守る勇者』という名が、重い足枷となる。
僕は…
「リュークス…あたしも行く」
ニアが真っ直ぐな瞳でリュークスを見つめる。
疑いの無いその瞳は、ほんの少し彼の足取りを軽くしてくれる。
「ニア……気合い入れてくれないか?」
妖精の娘は最初意味が分からず、次いでその意味を理解し、ちょっと笑った。
「分かった。………行くわよ。歯ぁ、食いしばれぇ!!」
助走と共に、リュークスに溢れるほどの気合いが入った。





「ですから、泥棒がいけない事だというのは分かっています。
けど、あの人が居なくなると悲しむ子供たちが一杯いるんです!!」
リュークスたちは精一杯に声を張り上げる。
だが、その声は届かない。
区長であり、七聖剣将である中年の男、ケルナーは濁った目で言葉を返す。
「困りますなぁ、勇者殿。窃盗はれっきとした犯罪行為ですよ。
 その犯罪を手助けするような事をされては、いかに勇者殿と言えどもただでは済みませんぞ?」
ことさらに『勇者殿』を繰り返すこの男の言葉は、リュークスたちの心を逆なでする。
「大体、疫病対策は区長の役目なんでしょ!? それが充分じゃないのが悪いんじゃないさ!!」
ニアが怒りながら、区長へと噛みつく。
応じる男の表情は涼しげなものだ。
「疫病対策が充分かそうでないかは、私が決める事だ。あなたたちが関与する事ではない。
 それにですなぁ…」
ケルナーは途中から、口調を変える。
本人は猫なで声のつもりだろうが、ねちねちした嫌みにしか聞こえない。
「勇者殿にしても、怪盗シルフィードが捕まった方が良いではないですか。
 犯人が捕まれば、あなたたちは冒険を続けられる。そうでしょう?
大体、そんな貧しいガキ共を庇った所で何のメリットがあるのです?」
「……………」
ケルナーは尚も続ける。
「賢くおなりなさい。客観的に見てもあなた方が庇っている女は悪だ。
それに私は『七聖剣将』の一人。私に従っていれば、多大な援助が貰えます。
ですが、逆らえばどういう事になるかは、簡単に想像出来るでしょう?」
「……………」
リュークスは無言だが、その拳は怒りに耐えるように強く握られている。
感情を排して冷静に考えれば、怪盗シルフィード、つまりは孤児院の少女フィーを彼らに突き出す。
そして、その報償として『風の精霊』と通行許可と金品を区長ケルナーから貰う。
法にのっとる、一番無駄が少なく、一番効率的な解決方法。
「…………っ」
「お分かり頂けたようですな。よし、このボロ小屋の全員を捕らえろ! 抵抗するなら多少痛めつけても構わん!」
ケルナーの命令で、兵士達は一斉に教会へと向かう。
「ちょ、待ちなさいよ!!」
ニアの声が響く。
だが、その声は届かない。
兵士たちはずかずかと、教会へと向かう。
鎧の擦れ合うガシャガシャという無機質な音。
冷たい鉄の音は、まるで彼らの内情をも示しているかのように響く。
「やめなさいっ! あんたたちほんとに……えっ!?」
騒音の中、フェアリーの声は驚きに中断させられる。
「なっ!?」「っ!」「これは…」
ニアの声をきっかけに、驚きの声が兵士たちへと伝播する。
教会へと向かう兵士達を遮るように、水の壁が立ち昇ったからだ。
「…どういう事ですかな? 勇者殿」
「……………」
リュークスが召喚した、水の精霊。
それはきらきらと月光を反射し、荘厳な壁となり教会を守る。
「私の話はご理解頂けませんでしたか?
 あなたは『勇者』なのですよ、正しい判断で人々を救う、伝説のゆう…」
「…黙れ」
短く、それだけ答える。
拳を強く握る。
「正しい判断をするのが『勇者』で、この教会の子供達を捕まえる事が正しい事だとしたら、 僕は……僕は『勇者』でなくたっていい!!」
「なっ…!?」
ケルナーは絶句する。
孤児院の子供たちを庇った所で、リュークスに利益があるわけではない。
ましてやフィーは窃盗の犯人だ。
少年が捕まえる事はあっても、それを庇うなどとは、予想していなかったに違いない。
「『勇者』殿、あなたは…」
「黙れって言った! 『勇者』だから!? ふざけるな!!
 僕は『勇者』である前に、人間だ! リュークスって名前の人間だ!」
抑えていた感情が溢れ出す。
腹が立った。
横暴な権力者の言い分に。
自分の無力さに。
目の前の子供たちすら助けられないような、ちっぽけな自分の存在に。
「リュークス……」
だがケルナーは、ふん、と鼻を鳴らすと吐き捨てる。
「そうか、やはりイリーシャの言っていた通りだ。
よく聞け! この男達は『勇者』などでは無い! 勇者の名を語る偽物だ!!
 正当な手続きを踏んだ我々の邪魔をするなど、真の勇者のすることではない!!
 邪魔をするというのなら構わん。殺してしまえ!!」
区長ケルナーの指示に、兵士達は武器を構え、少年たちに向かう。
リュークスの武器は小さくて脆いショートソード。
いや、かりに強力な武器があったところで、彼に戦う力などない。
リュークスはまだ、水の精霊を使えるだけのただの少年なのだから。
「くっ………」
悔しい。
ただひたすらに悔しい。
魔物に殺されるんじゃない、同じ人間に殺されるのだ。
僕に向かって振り下ろされる、何本もの刃。
「逃げて! リュークス!!」
ニアの声が遠く聞こえる。
だけど………
「うぎゃああ!」「ぐわっ」「げふっ!!」
だけど、そのどれもがリュークスに到達する事は無かった。
威力の抑えられた魔法の爆発が、兵士たちを次々と吹き飛ばす。

「良くやったわね、リュークス君。まだまだ詰めは甘いけど、惚れちゃいそうよ」
ローブ姿の若い女性、アニーが柔らかな笑みを浮かべていた。



「殺してしまえ、とは……権限持つ者として軽々しく言って良い事ではないのでは?
 それに流行の病に対する充分な助成金は出ているはずですぞ?」
ローブを目深に被る、この声はベルクだ。
「何だ、爺い……口を慎め! 私は七聖剣将ケルナーだぞ!!」
「口を慎むのは、あなたの方ではないですか? ケルナー殿。
まして同じ『七聖剣将』相手には、相応の話し方があるでしょう?」
アニーの凛とした声が響く。
冷たさを含む、突き刺すような口調。
「むっ…まさかっ………貴様、いや、貴方様は……ベルン殿!?」
口に詰めものをされたかのような歯切れの悪さで、ケルナーは呻く。
ベルク、いや、ベルンと呼ばれた老人は素顔を晒す。
白い髭に、こちらも白く染まっている涼しげなヘアースタイル。
どこの村にも居そうな穏やかなお爺さん、と言った感じだろうか。
「いささか、申請されているよりも税率が高いのではないですかな? それに疫病対策も客観的に見て、充分とは言い難い」
ベルンは髭をしごきながら、ケルナーに話しかける。
言われたケルナーは顔中に脂汗を浮かべながらも、弁明する。
「ぐっ、ぐむむむむ………区長は私だ! 私には権限が…」
「税率を上げる場合には、正式な手順を踏まなくてはなりません。
私が調べたところ、まだ届け出はされていないようですが。
帝国区税法第46条をご存じありませんか?」
言い逃れようとするケルナーに鋭く言い放ったのは、アニーだ。
こちらもローブを外し、素顔を晒している。
「あ、蒼の軍師アニエス……まで………」
アニー、否、アニエスはやや癖のある長い髪を後ろでまとめ、丸い眼鏡を指で押し上げる。
「ぐっ、その件は部下が勝手にやった事。いや、それよりも今は賊の問題だ!」
窮地に追い込まれながらも、切り札とも言うべき一言を言い放つ。
疫病対策への問題点は指摘されたが、だからと言って怪盗の窃盗が許されるわけでは無い。
「そうじゃな」
だが、ベルンの口調は軽いものだった。
「そうですね。では、そちらを解決するとしましょうか」
アニエスの方も、軽い口調で続ける。
「怪盗シルフィードの件ですが、彼女の身柄は勇者殿に預ける事とします。
事情を聞き、あなたの判断においてしかるべき処置をお願いします。
それから、この孤児院については『勇者の助けになる精霊力』があるとの報告があったので、帝国で接収する事とします」
アニエスはこっそりと、リュークスに微笑みかけた。

フィーをどうするかは、リュークスが決めて良いということ。
そして孤児院が帝国の管理下に置かれるということは、帝国から適正な補助金が出るという事。

「…あ……ありがとうございます」
リュークスの言葉が詰まる。
嬉し泣きしそうなところを、必死に抑えているのだ。
「さて、ケルナー殿、色々聞きたい事がある。それら全てに解答して貰いますぞ?」
ベルンは穏やかに、だが逃げる事を許さない口調で言った。



― ◇ ― ◇ ― ◇ ―



病院のベッドは清潔な白と穏やかな水色とで包まれている。
さっきまで心配そうに集まっていた子供たちも、
「フィーお姉ちゃんが元気になるには、ちゃんと寝かせてあげる事が大事ですからね」
というフィリスの言葉で孤児院へと戻っていった。

「……やっぱり、どう考えてもこれが一番……よね」
「う、うん…他に考えつかないし……」

リュークスとフィーは、何度目か分からない沈黙を迎える。
少年には精霊の力が必要。
そして彼女は『風の精霊』を持っていて、それを譲ってくれる事を快諾してくれた。
彼女から『風の精霊』の力を譲り受ければ、怪盗の再発も無いわけだから、誰もが喜ぶ方法と言えるだろう。
ここまでは何の問題も無い。

「そ、それじゃあ……覚悟決めたから」
「う、うん……」

問題は『精霊』の受け渡し。
肉体的接触から精神をリンクさせて、精霊力を受け渡す。
今までの例からも分かるように、性交を行うわけだ。
念のために言っておけば、リュークスにとって嫌な行為では無い。
健康過ぎる(?)男子リュークスにとって、フィーのような魅力ある女性との行為が嫌であるはずがない。
(と言うか、ちょっと顔を赤らめながら、上目遣いでこちらを見るのは反則の凶悪な攻撃だよ、うわはははい! ←?)
嬉しさと興奮と気恥ずかしさと罪悪感とが混ざり合い、思考さえもおかしくなっているようだ。
「そ、それじゃあ……始めるね」
フィーは顔を真っ赤にしながら、服を脱ぎ始めた。










ゆったりとしたパジャマの前をゆっくりとはだける。
非常にゆっくりとした動作は、扇情的と言える。
だがそれは意図しての事ではない。
「……っ」
フィーが痛みに、顔をしかめる。
「!?」
そこに至って、リュークスは初めて思い出した。
彼女が怪我をしていた事に。
(どうして怪我の事を気付かなかったんだろう)
近づいてよく観察してみれば、うっすらと汗をかいているのが分かる。
「っ!? リュ、リュークスさん?」
そう思ったと同時に、少年の迷いや気恥ずかしさだとかが吹き飛んでいた。
一瞬にして彼のスイッチが入った、とでも表現しようか。
四苦八苦しながら服を脱ごうとしているフィーの手に、そっと手を添える。
「僕が…するから、フィーさんはあんまり動かないで」
上着をゆっくりと脱がせる。
彼女の白い、艶めかしいほどの柔らかな肌が現れる。
普段から鍛えているからなのか、無駄の無い均整の取れた上半身が露わになった。
「あ…ごつごつしてるでしょう? あんまり柔らかくないから、嫌だなぁ」
彼女は、ぽつりと呟くように溜め息を漏らす。
どうやら本心から嫌がっているようだが、そんなに恥ずかしがるようなものでも無い。
フィーの身体は充分、女性的で柔らかい曲線を描いている。
「そんなこと無いよ……綺麗だ」
「うそ、だって……ひゃん!?」
なおも何かを言い連ねようとする彼女の首筋に、奇襲の口づけをする。
ちょっと舐めたくらいだったが、充分過ぎるほどにびくりと反応するのが面白い。
「嘘なんかつかないよ。フィーさんは綺麗だ」
相手がこっち以上に緊張しているからなのか、リュークスの口からは彼でないかのような言葉が出てくる。
負担を減らすように、ゆっくりと彼女をベッドへと横たえる。
「えっ、あ、その…意外………リュークスさん…なんだか慣れてる?」
「そ、そんな事無いと思うけど……いや、慣れてるって言った方いいのかな」
呟くようなフィーの言葉に、動揺しつつもあたふたと答える。
(自分でやりたいと思ったわけじゃないけど、回数はそこそこに多いからなぁ……)
何が可笑しいのか、彼女はくすりと笑う。
「そんなに気を遣わないで。大丈夫だから」
フィーも落ち着きを取り戻したのだろう。
そんな余裕のある台詞だ。
薄い緑色の下着に心臓がばくばくと高鳴る。
だが、腹に巻かれた包帯が少し痛々しい。
出来るだけ彼女に負担をかけさせないように、行為を続ける。
「あ……」
フィーから戸惑うような、甘い声が漏れる。
下着越しの、さらさらとした感触の胸を包むように触れる。
柔らかく、けど弾力のあるそれを痛くないようにゆっくりと揉む。
「ん……ぁ…………」
病院は個室とは言え、声が漏れるとまずい。
やや押さえ気味の、囁くような喘ぎ声が聞こえる。
「…ふっ…く…ん………ふぁ……あ……」
必死に声を上げまいと我慢する仕草は、通常よりも淫靡さが感じられる。
服の下で硬度を増している彼の息子(?)の心の声に従い、脱がせる行為を続ける。
結局全部の服を脱がす事が出来ず、半裸と言った状況になった。
(うわぁぁあああ、逆に色っぽい)
精霊の受け渡しの作業だ、と繰り返しても、やはり女性の身体に興奮してしまう。
ショーツの上から、一番敏感であろう部分に触れる。
さらさらとした感触の奥の、柔らかい感触にリュークスの鼓動は高まる。
「あっ……あ………んん…」
フィーの口から自然と甘い声が漏れる。
男は手を、下着の中へと潜り込ませる。
「いやっ…そ、そこは………あぁ……あっ」
水に濡れる卑猥な音が響き、少女は恥ずかしさから顔を横に向ける。
(女の人は、感じてるのが恥ずかしいのかな? 僕は感じてくれて嬉しいのに)
そうは思ったものの、楽しむための行為で無い事を思い出し、リュークスは無言で続ける。
「はぁぁぁ……うんんっ……はぁ、はぁ…はぁ………」
湿る愛液を伸ばすように、ゆっくりと焦らすように上下させる。
粘液が上部の突起に触れる。
「はぁ! ん…あん……あああっ……ぅ…」
女性の一番敏感な部分に触れ、フィーの身体がぴくりと反応する。
「あっ…ああっ……そこ………あっ…ち、ちがっ………んん……違ってないけど…んっ」
思わず上がってしまった声を打ち消すように、彼女が呟く。
下着から手を引き抜く。
抜いたリュークスの手には、ねっとりとした彼女の液体が付いている。
「……っ…………」
感じているのを知られるのが恥ずかしいらしく、フィーが顔を逸らす。
恥ずかしそうなその顔に愛しいものを感じ、今度はリュークス自らの腰を押しつける。
「ああっ!!」
柔らかい布の感触。
下着同士の触れあいがもどかしく、逆に欲情を煽る。
「なっ…なにこれ……こんなの……そっ…そこは…はぁ……あん……ああっ…」
上から押しつける少年の腰を迎えるように、彼女の腰が突き上げられる。
「ふぁ……あっ…あ、あっ…ああっ……あん…あぁん」
すりすりという布が擦れる音と、フィーの喘ぎ声とリュークスの荒い息が響く。
「…フィーさん。そろそろ………その……」
「……………」
無言でこくりと頷く彼女。

ぬるりと湿る感触の後に、滑り収まる感覚。
「あっ……ああっ……あああっ………」
程良く温かいその中は、きゅうきゅうと締め付けて来る。
「…い、いやっ…はっ…ん……お…おかしくなっちゃう……」
あまり大きな声を出せず、抑え気味の声がまた、双方の欲情を煽る。
「だっ、駄目……だめ…いっ……あん……はっ…うん……ああっ……」
精霊の受け渡しだとか、必要な行為だとか、そういった余計な考えが薄れる。
ただひたすらに、柔らかい膣内の感触を味わいたい。
「はっ…ああん…あっ………ああっ…んっ………」
温かくぬめり包み込まれる。
何も考えずに、身体が求める欲求のままに腰を前後させる。
「あっ……そんな……そんなにされたら……私………いっ……いやっ…」
リュークスの背中に手が回される。
「あんっ…あっ…はっ……んんんっ……ああっ…」
ぎゅっと締め付けられる。
柔らかい彼女の身体を全身で感じながら、股間に熱が集まる。
「フィーさん……んくっ!」
「あっ……つっ……んんっ…あっ……リュ、リュークスさっ……んっ!」
腰からせり上がる快楽の波。
何度経験しようと、飽きる事のない悦楽。
「んっーーーーー!!」
思考も視界も全てが白く染まるような、心地よい脱力感。

放出したはずなのに、それはリュークスの身体へと流れ込んで来た。
彼は『水』に続き『風』の精霊を手にした。










力尽きたように、満足するように少年は眠っている。
「……………」
フィーは彼の頬を、軽くつつく。
「……………」
規則正しい寝息を立てるリュークス。
その頬に、彼女は顔を近づけた。
(……あなたの事なんて、全然好みじゃないんだから)



― ◇ ― ◇ ― ◇ ―



リュークスは精霊の力を手に入れ、この区の疫病騒ぎも沈静化するだろう。
全ての人、とは言えないまでも多くの人が幸せになる結果を手にしたのだ。
「まぁ、良かったわよね。一時はどうなるかと思ったけど」
妖精の娘、ニアが羽をぱたぱたさせながら、笑う。
「ええ……良かった。……これで………」
それに答えたところで、フィリスがよろめく。
「!? フィリスさんっ!!」
上気した肌と荒い息づかい。
苦しそうな表情と流れる汗。
「ちょっと、凄い熱! まさか、病が………」
「え? だって予防薬はフィリスさんにも……」
リュークスは、ここにきてようやく思い至る。
きっと彼女は、自分の分の予防薬も誰かに与えてしまったのだと。
そしてそれを迷惑になると、黙っていたのだと。
「と、とにかくベッドに寝かせて!」
ニアの悲痛な叫びが、部屋に響いた。





To Be Continude・・・・


























ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あとがき

書いてる途中で、どっかで見た展開だなぁ、とか思ってましたが………
まんま『水戸○門』ですね(笑)
アニエスさんは、助さん角さん、でしょうかね。
誰が主人公だよ(笑)

今回、自分の力量不足を痛感しました。
うまく、まとまんねえ!!
「読みやすく、簡潔に、エロく」をモチーフに書いてる文章なので(まぁ、エロはおまけだけど)読みにくく、分かりにくい感じになっちゃったかなぁと。


続きっぱなしですね。
フィリスさん、実時間ではかなりの間、病に伏せっていて下さい(笑)
大丈夫、作中では一週間くらいですから(おい)

今回のヒロイン(?)フィーさん。
勝ち気だけど、責任感があって、思いやりもある人。
一人キャッ●アイ(作者の年齢が知れますね)。
「私が盗む方だってのに、(私の心を)盗んじゃって」
みたいな台詞も思いつきましたが、あまりの恥ずかしさにカット(笑)

逆に男が怪盗だと、
「貴方を捕まえるのは、このあたしなんだから!」
とかいう女探偵(あるいは警察)が出てくるのはお約束。

どうでもいい話ついでですが、区長のケルナーさんは、『悪夢』さんに操られていました。
本来の彼は、『無色の交渉人』の異名を持つ、交渉術に長けた人です。
こんなに「うへへへな人」(?)では無くて、本来はもっと紳士なんです。
前回ベルク(本名ベルン)さんも言っていましたが、そんなに悪い人では無いんです。
この話の少し後に、術を解かれて本来の意識を取り戻すんですが…
本文で書くつもりが無いので、とりあえずここで蛇足ながら説明を。(駄目じゃん)

さらなる説明として(おい)『七聖剣将』という人たちは、帝都の7つの砦の長であり、区長を兼ねるのが通例となっています。
また、けっこうな権限を持っているので、幼い皇帝に代わり、重要な政治は彼らの合議により決定されます。
その長がベルンさんです。
そんで、彼らとほぼ同権力を持っているのが、『蒼の軍師』さんですね。
立場上、皇帝の相談役らしいですが…
「子供のお守りなんて、私には合わないわよ」
と、書庫に引きこもりらしいです(笑)


最初は勢いだけで書いてた成人向け文章ですが、その勢い(エロネタ)が無くなってくると、執筆速度は急激に下がります。
なんか、「これは前もやったよなぁ」「似たような事したっけ?」とか以前の文章が蓄積されて重くのしかかって来るんです。
人間の数だけ妄想があって、様々なシチュエーションがあるので、ネタが尽きるというのは無いはずなんですが、それを一人でやろうというのはやはり無理があるわけで、無駄に文章も長くなってしまうし、ネタも尽きてるし、同じ事の繰り返しだし(愚痴愚痴)

そんな愚痴を友人にこぼしたら、
「エロ漫画にしてもそうだけど、似たようなシーンは仕方が無い。
というか、そんなところに拘(こだわ)って貰っても、読み手はいちいち細かく読まねえよ」
という、ありがたいんだか、ありがたくないんだかな返答を貰った。
確かにエロ漫画のエロシーンなんて、どれも同じに見える。
もちろん、どれも違うのだが…。

あと、何千曲も作曲してる人がラジオ番組で言っていたのが、
「意図的に自分の作った曲を忘れるようにしてるんです。そうしないと、前作ったやつと同じになってしまって、作れなくなってしまうんですよ。(略)作った曲の中には、こことそこが似ているというのはよくある事なんです」
なるほど!(☆o☆)クワッ
我が意を得たり!!

以前何を書いたかなんて、すっきり忘れて毎回毎回好き勝手に書いてればいいんだ!
どうせ、読者さんだって覚えちゃいねえ!(そういう結論になるか?)
ましてや俺、プロでもなんでも無いから、オリジナリティー溢れる文章なんて書けやしないんだから(完全な開き直り)

なんか、気が楽になってきた!
さぁ、文章書くぞぉ!!

次回も「ライトサイド」をお楽しみに♪









フィリスさん……すまん。
作中では数週間の予定だし、そうなんだけど…
リアル時間で20年以上経ってる……
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