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28 サクの特訓

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 カーラ達が、ワースティアの街へ行ってしまった。

「坊主! 俺様達も行くぜ」
「どうして私もなんですか~。一応、私もワースティアの街へ行ってくださいと、ギルドから言われているのです。」

 ヴェルジュは聖職者ギルドから、頭を下げられた。
 聖職者ギルドは、多くの者が、貴族や、お金持ちの者が多く、復興支援などには行きたがらない。
 これが、神王国と他国との戦いで、遠征だとすると、比較的に安全な後方の部隊に入って同行する事はある。
 そこで名を上げる事もあるからだ。
 治癒師や薬師だとて、お金にならない仕事や、今、抱えている患者を優先する。
 支援部隊に手を挙げるのは、見習いや、見習いから上がった駆け出しの者達ばかりだった。
 プラトーの街からS級冒険者が行くと知り、聖職者ギルドでは、メンツを守るため、上級者を一人でも出せとの司教からの指示だったのだ。

「そんなものより、坊主が怪我をしたら、誰が治すんだ?」
「あなたが、怪我をしないように注意したらよいではないですか~」
「そんな面倒なことなんかできねーよ」

 我が道論のシグルーンだった。

「あの・・俺は大丈夫だから。カーラ達の方へ行ってください」
「馬鹿か? こいつがいるから、思いっきり鍛えてやれるんだ。それに移動もな」

 もう一度言おう。
 我が道論のシグルーンだった。

「わかりました。あなたは、一度言ったら聞きません。ですが途中で抜けますよ。一応顔は出しておかないと、後々厄介ごとはさけたいので」

 そこで三人は、人目のない森を目指した。

「よいですか~サク。今から私達の重大な秘密をあなたに話ます。」
「・・・はい」
「これはカーラとロイ爺さんとリズしか知りません。決して知られてはいけないのです」
「・・・はい」

 サクは緊張した。
 いつになく、ヴェルジュの綺麗な瞳が、怖くなったのだ。

「まぁ、他に話しても良いが、そうしたら俺達はこの世界でお前たちと敵対関係だけってことだ。カーラはどちらを選ぶかはわからないが、この世界で生きるなら敵対だろうよ。」
「それくらい重い真実です。ですが、サクはこの先、カーラと共にいるのならいずれ私達の事を知るでしょう。早いか遅いかですかね~」

 重い話なのだが、何処かふわふわ~とヴェルジュは話す。

「俺様はフェンリル。こいつは竜だ。」
「カーラは人の子ですからね」

 そう言うとヴェルジュはアルビノの竜に、シグルーンは真っ白なフェンリルに姿となった。
 シグルーンはすぐに人型に戻る。
 サクは声が出ない。
 青ざめた顔には恐怖が見える。
 ヴェルジュは少し寂しく思う。

「私達を怖がらないのはカーラだけですね。でもサクの反応が本来のなのです」

 シグルーンは動けずにいるサクを抱えて、ヴェルジュに飛び乗った。
 アルビノの竜は羽ばたく。
 光は、彼の真っ白な鱗をキラキラと輝かせていた。




 サクは切り立った山頂にいた。
 気絶していたのだろう、ここまでの記憶がない。

「坊主」
「・・はい」
「強くなりたいのなら、泣き言を言うんじゃないぞ」
「・・はい」
「よし! 俺様がカーラを鍛えたからな。任せろ! この世界の方が人には優しいから、カーラまではいかないかもしれないが、教えてやるぜ」

 ごくりとサクの喉がなる。
 ヴェルジュは美しい人の姿になり、優雅にお茶と、菓子を食べている。
 まだ、ヴェルジュが、美しく大きな竜だとは・・・。
 サクは目の前のシグルーンを見る。
 フェンリルなんて伝説の魔獣なのだ。

「なんだ? やる前から怖いのか」

 カッカっかーと笑う筋肉美女。

 この人達は人ではない。
 だけど、カーラは、親のように慕い愛している。
 俺を救ってくれたカーラ。
 それだけなのに、とても大事な事を、俺なんかに暴露し、なおも俺を強くしてくれる。
 それは、この人達にとって、何も得することじゃないのに。

「ど、どうして? 」
「はぁ?」
「どうして、俺に正体をばらしたのですか?」

 シグルーンは頭をポリポリとかいた。

「初めにヴェルジュが言っただろう。早いか遅いかだ。俺様達も、いつまでカーラの傍にいてやれるかわからない。あいつは強いぜ~! カーラに足らないのは経験だ。やればやるだけ変った魔力の使い方で、自分の力を解放する。ついて行ってやれ。人間で誰か一人でもあいつの気持ちを知っている者が、いてもいいだろう。」

 その顔は何処か寂しく、そして誇らしげにシグルーンはサクを見つめた。

 誰か一人でも・・。
 それはノアでもなく俺でいいのだろうか?
 竜とフェンリルに育てられたカーラ。
 本来倒す魔獣だ。
 ヴェルジュとシグルーンが敵対するとは考えたくはない。
 だが、正体がばれたら、彼らはカーラの元を去る。
 その時の彼女の気持ちを、わかってやってくれと言っているのか?

「うん! 俺・・カーラが好きだよ。だから強くなる」
「あぁ。雄は強く雌を守る。いくぞ!」
「はい!」

 シグルーンの特訓が始まる。
 それはめちゃくちゃな特訓だった。
 いきなり、サクは崖から落とされる。

「這い上がれ! 」
「その前にサクが潰れてしまうでしょうが!?」

 ヴェルジュは防護の魔法をサクに施す。
 カーラにもよくやったものだと、懐かしそうにサクを見た。

「息が・・苦しい」
「そりゃそうだ。ここは空気が薄いからな」

 こんなものニヴルヘイムに比べたら、天と地ほど楽々だと言う。
 ニヴルヘイムってのは死者の国ヘルヘイムと並ぶ人が生きられない世界。
 そんな所でカーラは育った。
 
「自身の魔力を高めろよ! 死ぬぞ」

 やはりめちゃくちゃだとヴェルジュはため息をはいた。
 それは三日間続く。
 
「サクを回復して行きます。ちょっとあちらに顔を出したら、すぐに戻るので、今日は体術とかにしてくれますか?」
「ちっ! 俺様の予定ではぴょんぴょんと、こんな崖くらい登れるようになってからだったんだぜ」
「カーラでも十二年かかったのですよ! まったく」

 サクは、本気で無理ですからと言いたかった。
 三日間で、これほど過酷な特訓は無理だからと、何度も、何度も、心で叫ぶ。
 ヴェルジュの施してくれた防護の魔法がなければ、もう何十回も死者の国に、行ってしまったかわからない。

「わかったよ。 お前は黒ヒョウの獣人だ。その身体能力は高い。俺様に傷をつけてみろ。だったらウールヴへジンとしてメンバー登録してやるぜ。そこから実戦でやろうや」
「ほんとうにめちゃくちゃなかたですね~。では行きます。サクは、ちゃんと食事をするのですよ」

 ヴェルジュはロイ印の巾着袋をサクに手渡す。
 その中には食料や、調理道具や、寝袋などが、入っている。

「行ってらっしゃい」
「はい。行ってきます」

 そう言ってヴェルジュはアルビノの竜になり、大空を飛んで行った。

「始めるぞ!」
「はい! お願いします。」

 サクは、二本のロイ印の解体ナイフを構えた。
 どこまで自分にできるだろう・・。
 竜とフェンリル。
 瞬殺されていてもおかしくない。
 姿を見たときは恐怖しかなく、声もでなかった。
 でも・・・。
 ヴェルジュとシグルーンなのだ。
 カーラが愛する家族が、俺を強く、彼女の傍にいてやってくれと言った。
 腹に力を入れる。
 シグルーンの払いだけで、ぶっ飛ばされた。
 大丈夫!
 くるっと受け身をとり、ナイフを構えた。

「坊主! 身体強化だ! お前の俊敏な動きを最大に活かせ」
「はい! 」

 俺は黒ヒョウの獣人だ。
 気配を消し、柔軟で俊敏。
 それに暗くても見える。
 さらわれ、奴隷として人族にいたぶられ蔑まれたけど・・。
 誇り高い豹族。

 顎をぐいっと引き、サクは、シグルーンに挑んだ。





 
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