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9 俺様は狼のように強い戦士

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 カーラが、冒険者ギルドで、登録を終えた。

「よし! 行くぞ」
「どうして私もなのです~」
「仕方がないの。ここで訳の分からない事をしでかされたら、ほけほけ竜も生きにくいだろ」

 シグルーンが、人型を解いて本来の大きな狼の姿になり、暴れたらと、ドワーフのロイ爺は小声で、ヴェルジュに耳打ちする。
 
 カーラがいないことで、シグルーンは、冒険者ギルドの扉を勢い良く開く。
 中にいた強面の連中が勢い良く、いっせいに見てくる。

「ほう~っ。中々面構えがいいじゃねーか」

 挑発するかのように、シグルーンは、人差し指をちょいちょいと動かすのだ。

「やめんか!言わんこっちゃねーな。すまんな兄さん達よ。こいつは世間知らずでな」

 ひょこひょことロイ爺はシグルーンの前に立つ。
 そして、じゃらじゃらと音のする袋を、ギルドの中にある食堂の職員に投げた。
 職員はそれを受け取る。

「まぁ、これから、こいつが世話になる。ワシの護衛だ。ただ証明書がなくて不便でな」
「なんでぇ、奴隷かよ」

 その言葉にシグルーンは飛びかかり、鼻ピアスをしたガタイの大きな冒険者の胸ぐらを掴むと、そのまま片手で持ち上げる。

「誰が奴隷だって!? もう死ぬか? 死者の国ヘルヘイムに送ってやろう。俺様は慈悲深い」

 血が凍りそうなほどの冷血な顔で、シグルーンは笑う。

「おバカさんですか~。その笑みのどこが慈悲深いのです」
「突っ込み所がずれてるぞ。まぁ、こんな奴でな。迷惑をかける。ここにいる者達よ。今夜はワシのおごりで、食べて飲んでくれ。こいつには決しかまわないでやって欲しい。」

 シグルーンはロイ爺に言われて男を床に投げた。

「普通におろしてあげないと~。可哀想に泡を吹いていますよ」
「ちゃんと降ろしたぜ。」

 野次馬達が、ギルド内の食堂に流れると、ロイ爺は受付にいる職員に声をかけた。

「騒がしくしてすまんの。 」
「い・・いえ。ギルド登録ですね」
「あぁ。ちょいとギルマスと話がしたい。」
「それは・・」

 困り顔の職員だ。

「俺様はすぐにゴールドカードが欲しい。早く出せ!」

 威嚇するシグルーンだ。

「こんな奴でな。」

 やれやれと、ロイ爺は職員にブラックカードを見せた。
 それを見た職員は慌てて席を立つ。
 三人は戻って来た職員に、三階にあるギルドマスターの応接室へと、案内された。

 革張りのソファーに座ると、紅茶と焼菓子が出される。
 三人の目の前には熊の獣人ランドグリスと言う屈強なギルドマスターが座る。

「すまんな。アポなしで」
「いや、かまわない。そこの女戦士がギルド登録したいと聞いた。いきなりゴールドカードをと言う事もな」

 馬鹿らしいとランドグリスは呆れ顔だ。

「俺様はすぐにゴールドカードが欲しい。こいつに負けるのは腹立たしいからな」

 優雅に紅茶を飲むヴェルジュをシグルーンは指さす。

「あなたはもしや白の聖女様では?」
「男が聖女って鼻で笑うわ」

 そう言うシグルーンに、いきなり、ギルドマスターは怒りのストレートパンチを繰り出すが、その手はシグルーンに、軽く受け止められる。
 
「離して欲しければゴールドカードを俺様によこせよ」

 邪悪な顔のシグルーンは、ロイ爺に頭を一発、木槌で殴られる。
 自分の渾身の右ストレートパンチを軽々と止められたランドグリスは、離された自分の右手をまじまじと見た。
 ただ受け止められただけなのに、ビリビリと麻痺感がある。

「あららぁ~」

 ちょいちょいとヴェルジュは白く長い人差し指を、ランドグリスの右手に、ちょこんと触れる。
 するとランドグリスの痺れは消えた。

「ああぁ!白の聖女様がぁぁ」

 そう言うと部屋にあるチェストの引き出しから、派手なバンダナを取り出し、その右手に巻く。

「この右手は誰にも触れさせはしない」

 シグルーンは、フンっ鼻を鳴らす。

「実力はわかった。 しかし初めは青銅のカードだ。A級であるゴールドカードを持たねば、受けられないクエストをこなす事を許可してやるが、条件がある」
「条件とは?」

 ロイ爺が聞いた。

「それは白の聖女様と一緒に! でなきゃ、三階にはあがれない。そう言う条件の魔法を施している」
「なるほど」

 ロイ爺が頷くが、ヴェルジュは嫌そうだ。

「俺様一人でも大丈夫だぜ! 明日にはゴールドカードか」
「なんで私が・・。アイスクリームを食べに行きたいのに。」

 パンパンとギルドマスターは手を叩く。
 すると女性職員が来て、また出て行くと、すぐにアイスクリームを三皿持って戻って来た。

「どうぞ! 召し上がってください。ここの食堂にもございますので。是非彼女と一緒に」

 赤く頬を染めてランドグリスはヴェルジュにアイスクリームをすすめるのだ。

「これは旨いぜ!」
「当たり前だ! 濃厚ミルクで作った貴族が口にするやつだ。俺は食べ物にはこだわるんだ」

 シグルーンに対する態度は、ヴェルジュに対する態度とは全く違うランドグリスだった。

「ではワシは先に帰る。お前の仮面も作りたいし、ちょいとやりたいことがあるからな。ギルマスよ、一つ聞くが、冒険者ギルドの新人は皆通いか?」
「いえ、この街で産まれ、家があるものは通いだが、住所録が記入されていないものは、宿か野宿か家畜小屋に寝泊まりする者もいます。他のギルドと違い月給制ではなく、その日暮らしで依頼をこなしたり、獲物を換金しなければお金は得られない。一番簡単に職につけ証明書が作られるが、一番厳しい」

 青銅のカードは他のギルドで言えば見習いだ。
 他のギルドでは見習いでも、給料はでる。
 ギルドの格安な施設もあったりするが、冒険者ギルドは違った。
 どんな者でも入れるかわりに、青銅のカードからブロンズカードになるには一年以内と短く、期限切れになると青銅のカードは消え去る。
 それは身分証明書を無くすと言う事と、二度と冒険者ギルドには登録できない。
 他のギルドへと思うならば、ブロンズカードになってから、サブ職に他のギルド登録し、本職を変える。
 例えば、青銅のカードのクエストで薬草採取がある。
 こなしてゆくと、生産ギルドで、薬師や農業などの仕事を選べば、知識になるのだ。
 雑用だと思う仕事でも、繋がって自分が働く職に繋がる。
 一年間と言う期限は悪用厳禁の為でもあるし、素性がわからないものでも、仕事が出来き、その期間で自分に出来る事や、進みたい道を開いて欲しいからだ。
 それが冒険者ギルド。
 ただ危険度は一番高い。

「ではアイスクリームもいただきましたから私も帰ります。明日もアイスクリームをいただきに来ますね~」
「是非!」

 ランドグリスは満面の笑みをヴェルジュに返す。

「お前は一階の受付で、青銅のカードを作ってもらえ」
「偉そうに!」
「ここは冒険者ギルドだ! 俺がここのギルドマスター。逆らえば冒険者ギルドカードは永遠にやらんわ」

 火花散るランドグリスとシグルーンを残し、ロイ爺とヴェルジュは席を立つ。
 結局シグルーンの登録まで付き合わされる二人だ。

 魔石が施された石版の上に青銅のカードがあり、シグルーンが手をかざす。
 出来上がったカードにはシグルーンと名前が告示されていた。
 カーラが付けた名前に、シグルーンの顔がほころぶ。

「でもこちらで、その名が有名になるとバレバレですよ~。私は、所属するギルドも違いますし、たま~に会うのはあの子もわかっているでしょうが、あなたは同じギルドですから」
「だったら、俺様はウールヴェへジン! 狼のように強い力を持つ戦士ってことだ」
「そのままじゃの」
「そのままですね~」

 そして受付する女性職員に名前の変更と、無茶を言うシグルーンだ。
 もちろんできない。
 証明書でもあるからだ。

「いいか!俺様の本名は呼ぶな。ここで、俺様の名を知るのはお前だけだからな。ウールヴェヘジンと呼べよ。もしも間違って呼んでみろーー」

 威圧的に受付嬢をにらみつけるシグルーンに、ロイ爺の木槌がスコ~ンとヒットした。

「通り名で呼んでくださいでしょう。私も人前ではウールと呼びます」
「はぁ?」

 眉根を寄せてヴェルジュに不快感をあらわにするシグルーンだ。

「じゃワシも人前はウールと。お嬢さん、こいつが無茶苦茶困らせたら、すぐに知らせてくれ。」
「は・・はい。」

 可哀想に受付嬢は、涙を浮かべている。
 彼女にとって今日は厄日だった。

 次の日、一番早くに冒険者ギルドを訪れたシグルーンだ。
 まだ、傍らで眠そうにしているヴェルジュを、軽々と抱きかかえ、三階に上がる。
 そこにはA級クエストとS級クエストの依頼用紙が、貼り付けてあった。
 その中で、魔獣や魔物討伐クエストを、片っ端からとるのだ。

「みんなばらばらの遠いところじゃないですか~。私は昼にはアイスクリームを食べたいですよ~」
「うるさい! これをこなせれば、ゴールドカードだろう。さっさと行くぜ。ほけほけ竜なら回れる」
「ええっ!?」

 ヴェルジュはシグルーンに抱きかかえられ、有無を言うことさえできずに、完全に足に使われる事となった。
 ロイ印の巾着袋も、おもいっきり使われるのだ。



 
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