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番外編
狂人者たちの楽園1
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真紅の血が床にぽたぽたと流れていく。
血の海に浮かんだリュカは、この世界の奇跡のようにかわいらしかった。
「俺は、あなたを殺そうとした人をみんな殺しました」
静けさの漂う広間に、エンデュミオンの甘く滑らかな美声が響き渡った。
「ああ、そうだな」
「褒めてください」
……この状況でよくそんな発言ができるな。感心するぜ。
「うん、よくやった」
コツリ、コツリと靴の音をさせながら、近づいてくる彼のことを怖いと思った。
とりあえず、エンデュミオンにした約束のことはあとだ。
まず、あの指輪をこの先、誰の目にも触れることないようにしたいので、火山灰に生き埋めくらいの死に方がいいかもしれない。
リュカから指輪を取ろうと近づくと、エンデュミオンに制止された。
「アグレアス様、俺がやります。あなたの手が汚れてしまいますから」
「いや、いいよ」
「いいから、黙ってみてください」
リュカから指輪を抜き取ったエンデュミオンは、手が汚れるのも気にせず自分の剣だこのできている細い指につけた。金色の指輪は、高貴な雰囲気が漂うエンデュミオンによく似合っていた。
「それで、この後はどうするつもりですか」
「指輪を処分して、ひっそりと平和に暮らしていくよ」
「革命派に反発をしていた元貴族達があなたを王にしようとしていたことを知っているはずです。あなたは、陰謀に巻き込まれないように死ぬつもりだったのではないでしょうか」
「そんなわけないじゃないか。僕は、命の価値がわかっている人間だからね。そうだ。自殺なんて馬鹿げたことを企むはずがない」
疑われるなんて心外だ。そんな僕を見て呆れたようにエンデュミオンがため息をついた。
「わかりました」
「わかってくれたのか」
「はい。俺は、あなたを失うことのないように、永遠に足枷をつけておかなければいけませんね」
生気のないヤバい目をしながら、恐ろしいことを言われる。
「と、とりあえずいったん、冷静になれよ」
「俺は、いつでも冷静沈着なクールビューティーですよ」
静けさの漂う広間に、甘く滑らかな美声が響き渡った。
「自分で言うなよ」
コツリ、コツリと靴の音をさせながら、近づいてくる彼のことを怖いと思った。
「えっと、その指輪を僕にくれ」
「それは、嫌です。俺は、あなたに死んで欲しくないんです。だから、アグレアス様を脅してこの世界に縛り付けることにしました」
耳元に唇を近づけて、愛の言葉を紡ぐように恐ろしい言葉が紡がれる。
「もしも、あなたが自殺したら世界中の人間を殺します。俺に抵抗したり、逆らったり、殺そうとするたびに、国を一つずつ滅ぼしていきましょう」
彼は、微笑んでいるが目が笑っていない。何かに支配されたようなほの暗い瞳をしている。
世界を人質にするとか狂っている。サイコパスかよ。
価値観がおかしい。同じ人間とは、思えない。
アティスと同じような……いや、それ以上の、狂気を感じる。
「安心してください。ギル様が俺に逆らわない限り、誰も殺しませんから」
エンデュミオン・アーレンスは、悪魔のようにゾッとするような笑みを浮かべた。
獲物を捕らえる狼のような瞳をしている彼のことが恐ろしくなる。無意識に後ろへ下がりかけたが、逃がさないというようにガッシリと肩を掴まれた。
「な……。何、バカなことを言っているんだ。お前、もっと正義感がある奴だっただろう」
「あなたが俺を狂わせたのです」
「いや、お前が勝手に狂ったんだろう」
「そうかもしれません。だけど、これで、あなたの全ては俺のものです。安心してください。あなたが俺に絶対服従している限り誰も殺したりはしません」
くそっ、やられた。
これじゃあ、ろくな手を打てない。
不意に、ギュッと抱き絞められた。抱きしめる力は、どんどん強くなってきて息をするのが苦しいくらいだ。だけど、世界を人質に取られているから怖くて抵抗することなんてできない。
ふいに、唇が落とされた。
「ひィ」
すぐに彼の顔は離れていったが、生々しい感触が唇に残っている。
いや、今のはなかったことにしよう。とりあえず記憶を消去したい。
そんな僕の心情を気にせず、彼は、頬を赤く染めながら微笑んだ。
「絶対に逃がしません」
いやああああああああああああああああああああああああああああ!
これは、やばい。
逃げられない。美しい悪魔に捉えられた。
こっそり指輪を彼の手から奪うか。いや、無理だろう。もし隙を見て奪うことができたとしても、すぐに力づくで奪い返される。しかも、失敗したら見せしめに国を一つ滅ぼされてしまうだろう。明日になれば、指輪をどこかに隠されてしまうかもしれない。
最後は、僕が死んで、この物語が数々の名作のように美しく終わるはずがどうしてこうなった!?くそったれ。僕は、みんなを感動させる伝説の主人公として終えるはずだったのに。
ああ、ちくしょう。飼い犬に手を噛まれるとは、まさにこのことか。
何なんだ、このヤンホモ大勝利エンドは……。
ふざけるなあああああああああ。リセットボタン、プリーズ!!こんな終わりあってたまるか。
涙目で睨みつける僕を、エンデュミオンはうっとりとして幸せそうな目で見つめていた。それを見て、僕はこいつから指輪を奪うことは諦めた。
「わかった。最後に一つお願いがある」
血の海に浮かんだリュカは、この世界の奇跡のようにかわいらしかった。
「俺は、あなたを殺そうとした人をみんな殺しました」
静けさの漂う広間に、エンデュミオンの甘く滑らかな美声が響き渡った。
「ああ、そうだな」
「褒めてください」
……この状況でよくそんな発言ができるな。感心するぜ。
「うん、よくやった」
コツリ、コツリと靴の音をさせながら、近づいてくる彼のことを怖いと思った。
とりあえず、エンデュミオンにした約束のことはあとだ。
まず、あの指輪をこの先、誰の目にも触れることないようにしたいので、火山灰に生き埋めくらいの死に方がいいかもしれない。
リュカから指輪を取ろうと近づくと、エンデュミオンに制止された。
「アグレアス様、俺がやります。あなたの手が汚れてしまいますから」
「いや、いいよ」
「いいから、黙ってみてください」
リュカから指輪を抜き取ったエンデュミオンは、手が汚れるのも気にせず自分の剣だこのできている細い指につけた。金色の指輪は、高貴な雰囲気が漂うエンデュミオンによく似合っていた。
「それで、この後はどうするつもりですか」
「指輪を処分して、ひっそりと平和に暮らしていくよ」
「革命派に反発をしていた元貴族達があなたを王にしようとしていたことを知っているはずです。あなたは、陰謀に巻き込まれないように死ぬつもりだったのではないでしょうか」
「そんなわけないじゃないか。僕は、命の価値がわかっている人間だからね。そうだ。自殺なんて馬鹿げたことを企むはずがない」
疑われるなんて心外だ。そんな僕を見て呆れたようにエンデュミオンがため息をついた。
「わかりました」
「わかってくれたのか」
「はい。俺は、あなたを失うことのないように、永遠に足枷をつけておかなければいけませんね」
生気のないヤバい目をしながら、恐ろしいことを言われる。
「と、とりあえずいったん、冷静になれよ」
「俺は、いつでも冷静沈着なクールビューティーですよ」
静けさの漂う広間に、甘く滑らかな美声が響き渡った。
「自分で言うなよ」
コツリ、コツリと靴の音をさせながら、近づいてくる彼のことを怖いと思った。
「えっと、その指輪を僕にくれ」
「それは、嫌です。俺は、あなたに死んで欲しくないんです。だから、アグレアス様を脅してこの世界に縛り付けることにしました」
耳元に唇を近づけて、愛の言葉を紡ぐように恐ろしい言葉が紡がれる。
「もしも、あなたが自殺したら世界中の人間を殺します。俺に抵抗したり、逆らったり、殺そうとするたびに、国を一つずつ滅ぼしていきましょう」
彼は、微笑んでいるが目が笑っていない。何かに支配されたようなほの暗い瞳をしている。
世界を人質にするとか狂っている。サイコパスかよ。
価値観がおかしい。同じ人間とは、思えない。
アティスと同じような……いや、それ以上の、狂気を感じる。
「安心してください。ギル様が俺に逆らわない限り、誰も殺しませんから」
エンデュミオン・アーレンスは、悪魔のようにゾッとするような笑みを浮かべた。
獲物を捕らえる狼のような瞳をしている彼のことが恐ろしくなる。無意識に後ろへ下がりかけたが、逃がさないというようにガッシリと肩を掴まれた。
「な……。何、バカなことを言っているんだ。お前、もっと正義感がある奴だっただろう」
「あなたが俺を狂わせたのです」
「いや、お前が勝手に狂ったんだろう」
「そうかもしれません。だけど、これで、あなたの全ては俺のものです。安心してください。あなたが俺に絶対服従している限り誰も殺したりはしません」
くそっ、やられた。
これじゃあ、ろくな手を打てない。
不意に、ギュッと抱き絞められた。抱きしめる力は、どんどん強くなってきて息をするのが苦しいくらいだ。だけど、世界を人質に取られているから怖くて抵抗することなんてできない。
ふいに、唇が落とされた。
「ひィ」
すぐに彼の顔は離れていったが、生々しい感触が唇に残っている。
いや、今のはなかったことにしよう。とりあえず記憶を消去したい。
そんな僕の心情を気にせず、彼は、頬を赤く染めながら微笑んだ。
「絶対に逃がしません」
いやああああああああああああああああああああああああああああ!
これは、やばい。
逃げられない。美しい悪魔に捉えられた。
こっそり指輪を彼の手から奪うか。いや、無理だろう。もし隙を見て奪うことができたとしても、すぐに力づくで奪い返される。しかも、失敗したら見せしめに国を一つ滅ぼされてしまうだろう。明日になれば、指輪をどこかに隠されてしまうかもしれない。
最後は、僕が死んで、この物語が数々の名作のように美しく終わるはずがどうしてこうなった!?くそったれ。僕は、みんなを感動させる伝説の主人公として終えるはずだったのに。
ああ、ちくしょう。飼い犬に手を噛まれるとは、まさにこのことか。
何なんだ、このヤンホモ大勝利エンドは……。
ふざけるなあああああああああ。リセットボタン、プリーズ!!こんな終わりあってたまるか。
涙目で睨みつける僕を、エンデュミオンはうっとりとして幸せそうな目で見つめていた。それを見て、僕はこいつから指輪を奪うことは諦めた。
「わかった。最後に一つお願いがある」
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