死亡フラグ乱立の極悪非道な国王になりました!

さつき

文字の大きさ
上 下
78 / 84

ナイト

しおりを挟む
 広間には、黒髪に黒曜石のように綺麗な瞳をした青年が立っていた。
 写真で見た少女漫画のヒーローのような爽やかな面影は見られない。全身から殺気がにじみ出ている。ゆっくりと僕達に近づいてくるたびに、指先の震えが大きくなってしまう。

「エンデュミオン・アーレンス。ブロトレイトの白騎士と雑魚一人か」

 大広間にテノールの声が響き渡る。おいっ。今、さりげなく僕を雑魚扱いしたな。まあ、実力を考えればそうだけど。

「何の騒ぎかと思って駈けつけたら、お前か」

 殺意のある目で睨まれる。

「そうだ」

「リュカを殺しにきたのか」

「その通りだ」

 ナイト・ブラックバード。元TKGの黒騎士にして、今では、ルータリアで一番の騎士と言われている男だ。こいつを敵に回すのは、厄介だ。エンデュミオンが勝てる保証はない。何とか説得して穏便に済ませたい。

「ああ、そうだ。いいことを教えてやる。フローレンスを殺したのは、リュカだ」

「はあ?リュカは、そんなことをする奴じゃない」

「そんなことをする奴だったら?」

「それがどうした?そんなことで俺の騎士道が揺らいだら苦労しねぇよ」

 どんなに言葉を積み重ねても、説得できる気がしない。
 ナイトはリュカに利用されているだけと思っていたが、ただの仲良しごっこでは到底手にすることができない強い絆のようなものが二人の間にあるのだろう。

「俺は、リュカの騎士だ。だから、あいつを守る。それだけのことだ」

 そして、キラリと光る剣を構えた。

「邪魔するなら、殺す」

 ナイトの前に、エンデュミオンが立ちふさがった。

「アグレアス様は、邪魔なので離れていてください」

 けっ。どうせ俺は、邪魔者ですよーだ。

「絶対にお前を行かせない」

「だったら、力づくで通らせてもらう」

 どっちが勝つかなんて僕にはわからない。

 二人とも剣を構えたまま相手から目線を離さない。
 嵐前の静けさのように辺りは、シーンとしている。
 さあ、どう動くか。

 先に動いたのは、エンデュミオンだった。

 早いっ。
 あっという間合いを詰めて、喉元に剣を突きつけようとする。
 けれども、その剣を華麗に流され、次にナイトが打ち込む。それを今度は、エンデュミオンがよける。その後、火 花が散るように激しい打ち合いがされた。

 まるであらかじめ打ち合わせでもしていたかのように、無駄のない綺麗な動きだ。ダンスでも踊っているかのように、次々と剣技が繰り出される。張り詰めた空気の中、戦い続けるこの二人から目が離せない。

 実力は、互角か。それとも、まだどちらかが本気を出していないだけか。まだ、どちらも集中力を切らしていない。もしかすると、これは体力と集中力の勝負になるか。

 ビッと音がしたかと思うと、エンデュミオンの腕から血が流れていた。次の瞬間には、ナイトの腰からも血が流れている。激しい打ち合いの末、よけきれなくなってきたか。いや、それとも多少自分を犠牲にしてでも勝とうとしているのかもしれない。辺りには、真っ赤な血が飛び散る。それでも、お互いに致命傷を与えられないまま傷だらけになりながら、勝負が進んでいく。



 どれほど時間が経過しただろうか。

「はあ、はあ……」

 ナイトの荒い息遣いが聞こえてきた。

「はあ、はあ、はあ……」

 涼しい顔をしていたエンデュミオンの額にも汗が浮かんでいる。

 全然、頑張っていない僕の手のひらも緊張による汗でびっしょり濡れていた。

 ふと、カアンと鈍い音が響いた。

 次の瞬間、エンデュミオンが猛スピードで後ろに下がった。
 何が起こった?怪我でもしたのか。

 ポロッ。

 エンデュミオンの剣の刃先が床に零れ落ちた。
 ヤバいっ。
 背中から冷や汗がつたう。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

まるで生まれる前から決まっていたかのように【本編完結・12/21番外完結】

有泉
BL
【特殊能力・変身・人外・忠犬的苦労性攻 × 振り回し系我儘王子受】【溺愛・無自覚一目惚れ】 架空のファンタジー世界を舞台にした、わりとゆっくり関係が深まっていくタイプのラブストーリーです。そういうのがお好きな方に。ハッピーエンド&ラブH確約。 「きみよ奇跡の意味を知れ」(本編完結) https://www.alphapolis.co.jp/novel/887890860/321426272 と同世界観ですが、これ単体でも読めます。 ☆ ☆ ☆  成望国が有する異形「騏驥」は、人であり馬でありそして兵器である。  そんな騏驥に乗ることを許されているのは、素質を持った選ばれし騎士だけだ。  ある日、護衛をまいて街歩きを楽しんでいた王子・シィンは、一人の騏驥と出会う。  彼の名はダンジァ。  身分を隠して彼に話しかけたシィンだったが、ダンジァの聡明さに興味を持つ。  親しくなる二人。  何事にも「一番」にこだわり、それゆえ「一番の騏驥」に乗りたいと望むシィンは、ダンジァに問う。 「お前たち騏驥の間で『一番』は誰だ?」  しかしその問いにダンジァは言葉を濁す。  それまでとは違う様子に、シィンはますます彼が気になり……。  ☆直接的な行為及びそれなりの意図を持った性的シーンについては、タイトル横に*印がついています☆ 【「ムーンライトノベルズ」にも同作を投稿しています】

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について

はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

【完結】嘘はBLの始まり

紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。 突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった! 衝撃のBLドラマと現実が同時進行! 俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡ ※番外編を追加しました!(1/3)  4話追加しますのでよろしくお願いします。

処理中です...