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ナイト
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広間には、黒髪に黒曜石のように綺麗な瞳をした青年が立っていた。
写真で見た少女漫画のヒーローのような爽やかな面影は見られない。全身から殺気がにじみ出ている。ゆっくりと僕達に近づいてくるたびに、指先の震えが大きくなってしまう。
「エンデュミオン・アーレンス。ブロトレイトの白騎士と雑魚一人か」
大広間にテノールの声が響き渡る。おいっ。今、さりげなく僕を雑魚扱いしたな。まあ、実力を考えればそうだけど。
「何の騒ぎかと思って駈けつけたら、お前か」
殺意のある目で睨まれる。
「そうだ」
「リュカを殺しにきたのか」
「その通りだ」
ナイト・ブラックバード。元TKGの黒騎士にして、今では、ルータリアで一番の騎士と言われている男だ。こいつを敵に回すのは、厄介だ。エンデュミオンが勝てる保証はない。何とか説得して穏便に済ませたい。
「ああ、そうだ。いいことを教えてやる。フローレンスを殺したのは、リュカだ」
「はあ?リュカは、そんなことをする奴じゃない」
「そんなことをする奴だったら?」
「それがどうした?そんなことで俺の騎士道が揺らいだら苦労しねぇよ」
どんなに言葉を積み重ねても、説得できる気がしない。
ナイトはリュカに利用されているだけと思っていたが、ただの仲良しごっこでは到底手にすることができない強い絆のようなものが二人の間にあるのだろう。
「俺は、リュカの騎士だ。だから、あいつを守る。それだけのことだ」
そして、キラリと光る剣を構えた。
「邪魔するなら、殺す」
ナイトの前に、エンデュミオンが立ちふさがった。
「アグレアス様は、邪魔なので離れていてください」
けっ。どうせ俺は、邪魔者ですよーだ。
「絶対にお前を行かせない」
「だったら、力づくで通らせてもらう」
どっちが勝つかなんて僕にはわからない。
二人とも剣を構えたまま相手から目線を離さない。
嵐前の静けさのように辺りは、シーンとしている。
さあ、どう動くか。
先に動いたのは、エンデュミオンだった。
早いっ。
あっという間合いを詰めて、喉元に剣を突きつけようとする。
けれども、その剣を華麗に流され、次にナイトが打ち込む。それを今度は、エンデュミオンがよける。その後、火 花が散るように激しい打ち合いがされた。
まるであらかじめ打ち合わせでもしていたかのように、無駄のない綺麗な動きだ。ダンスでも踊っているかのように、次々と剣技が繰り出される。張り詰めた空気の中、戦い続けるこの二人から目が離せない。
実力は、互角か。それとも、まだどちらかが本気を出していないだけか。まだ、どちらも集中力を切らしていない。もしかすると、これは体力と集中力の勝負になるか。
ビッと音がしたかと思うと、エンデュミオンの腕から血が流れていた。次の瞬間には、ナイトの腰からも血が流れている。激しい打ち合いの末、よけきれなくなってきたか。いや、それとも多少自分を犠牲にしてでも勝とうとしているのかもしれない。辺りには、真っ赤な血が飛び散る。それでも、お互いに致命傷を与えられないまま傷だらけになりながら、勝負が進んでいく。
どれほど時間が経過しただろうか。
「はあ、はあ……」
ナイトの荒い息遣いが聞こえてきた。
「はあ、はあ、はあ……」
涼しい顔をしていたエンデュミオンの額にも汗が浮かんでいる。
全然、頑張っていない僕の手のひらも緊張による汗でびっしょり濡れていた。
ふと、カアンと鈍い音が響いた。
次の瞬間、エンデュミオンが猛スピードで後ろに下がった。
何が起こった?怪我でもしたのか。
ポロッ。
エンデュミオンの剣の刃先が床に零れ落ちた。
ヤバいっ。
背中から冷や汗がつたう。
写真で見た少女漫画のヒーローのような爽やかな面影は見られない。全身から殺気がにじみ出ている。ゆっくりと僕達に近づいてくるたびに、指先の震えが大きくなってしまう。
「エンデュミオン・アーレンス。ブロトレイトの白騎士と雑魚一人か」
大広間にテノールの声が響き渡る。おいっ。今、さりげなく僕を雑魚扱いしたな。まあ、実力を考えればそうだけど。
「何の騒ぎかと思って駈けつけたら、お前か」
殺意のある目で睨まれる。
「そうだ」
「リュカを殺しにきたのか」
「その通りだ」
ナイト・ブラックバード。元TKGの黒騎士にして、今では、ルータリアで一番の騎士と言われている男だ。こいつを敵に回すのは、厄介だ。エンデュミオンが勝てる保証はない。何とか説得して穏便に済ませたい。
「ああ、そうだ。いいことを教えてやる。フローレンスを殺したのは、リュカだ」
「はあ?リュカは、そんなことをする奴じゃない」
「そんなことをする奴だったら?」
「それがどうした?そんなことで俺の騎士道が揺らいだら苦労しねぇよ」
どんなに言葉を積み重ねても、説得できる気がしない。
ナイトはリュカに利用されているだけと思っていたが、ただの仲良しごっこでは到底手にすることができない強い絆のようなものが二人の間にあるのだろう。
「俺は、リュカの騎士だ。だから、あいつを守る。それだけのことだ」
そして、キラリと光る剣を構えた。
「邪魔するなら、殺す」
ナイトの前に、エンデュミオンが立ちふさがった。
「アグレアス様は、邪魔なので離れていてください」
けっ。どうせ俺は、邪魔者ですよーだ。
「絶対にお前を行かせない」
「だったら、力づくで通らせてもらう」
どっちが勝つかなんて僕にはわからない。
二人とも剣を構えたまま相手から目線を離さない。
嵐前の静けさのように辺りは、シーンとしている。
さあ、どう動くか。
先に動いたのは、エンデュミオンだった。
早いっ。
あっという間合いを詰めて、喉元に剣を突きつけようとする。
けれども、その剣を華麗に流され、次にナイトが打ち込む。それを今度は、エンデュミオンがよける。その後、火 花が散るように激しい打ち合いがされた。
まるであらかじめ打ち合わせでもしていたかのように、無駄のない綺麗な動きだ。ダンスでも踊っているかのように、次々と剣技が繰り出される。張り詰めた空気の中、戦い続けるこの二人から目が離せない。
実力は、互角か。それとも、まだどちらかが本気を出していないだけか。まだ、どちらも集中力を切らしていない。もしかすると、これは体力と集中力の勝負になるか。
ビッと音がしたかと思うと、エンデュミオンの腕から血が流れていた。次の瞬間には、ナイトの腰からも血が流れている。激しい打ち合いの末、よけきれなくなってきたか。いや、それとも多少自分を犠牲にしてでも勝とうとしているのかもしれない。辺りには、真っ赤な血が飛び散る。それでも、お互いに致命傷を与えられないまま傷だらけになりながら、勝負が進んでいく。
どれほど時間が経過しただろうか。
「はあ、はあ……」
ナイトの荒い息遣いが聞こえてきた。
「はあ、はあ、はあ……」
涼しい顔をしていたエンデュミオンの額にも汗が浮かんでいる。
全然、頑張っていない僕の手のひらも緊張による汗でびっしょり濡れていた。
ふと、カアンと鈍い音が響いた。
次の瞬間、エンデュミオンが猛スピードで後ろに下がった。
何が起こった?怪我でもしたのか。
ポロッ。
エンデュミオンの剣の刃先が床に零れ落ちた。
ヤバいっ。
背中から冷や汗がつたう。
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