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愛人の裏切り!?

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 国に帰った後は、ヒュラスに褒美を与え、次の作戦について考えた後、休憩をしていた。

 あー。ゴミを片付けた後は気分がいいな。

 自室で、一人で歌いながらラジオ体操をしている時のことだった。 

 眼鏡をして三つ編みをしたべッティーナがやってきた。

「ギ、ギ、ギ、ギル様、アティス様から手紙です」

 アティスから手紙とか嫌な予感しかしないんだが。
 渡された手紙をビリビリと破って、中身を取り出す。

「拝啓   ギル・ノイルラー

国中を包み込んでいた雪は溶けて、小鳥はさえずりだす季節になった。ゆっくりと春が近づいているのを日に日に感じている。

 先日捕まえたエンデュミオンが、真犯人はギル・ノイルラーだと教えてくれた。よって、貴様に戦争を申し込む。逃げたら、国際的に指名手配をして殺すので覚悟しておけ。

戦争は、3月25日の午前0時から開始にしよう。貴様と殺し合えることを楽しみにしている。

                            ルータリア国皇帝  アティス・シュタインベルト」
  

 アティス・シュタインベルト。
 やはり、あいつは僕の想像の斜め上をいく男である。

 ポトリ。

 衝撃のあまり僕は、手紙を床に落とした。

 手紙は、偶然、風に吹かれて窓の外へと飛んでいった。
 
「ギ、ギ、ギ、ギル様――――――!」

 慌てふためくべッティーナの魂の悲鳴が城中に響き渡った。    

 なんじゃこりゃ――! 

 この優雅すぎる挨拶から始まったとんでもない内容は何なんだよ。正真正銘、戦争の申し込みじゃねぇかよ!

エンデュミオンが僕を裏切ったのか!いや、違う。おそらくこれは、アティスがついた嘘だ。ニュクスが死んだタイミングで宣戦布告されるから、そうとしか考えられない。

 世界一の大国と、ブロトレイトが戦ったところで、勝ち目はないだろう。しかも、あっちは核兵器を持っている。2、3発ぶち込まれたこっちはすぐに負ける。 

 指輪の力を使って、アティスの核兵器を爆発させるか。いや、それだとあまりにも多くの人間が死ぬ。

 じゃあ、逃げるか。

 けれども、国際的に指名手配されてしまうと容易に逃げられない。どこかに隠れて住んでも、この顔を見られたらすぐにアウトだ。

 しかも、極悪非道な独裁国家のトップなんて誰も匿いたがらないだろう。楽しい鬼ごっこが始まったと喜んでいるアティスの顔が容易に浮かぶ。

 金と引き換えに他国に亡命しようにも、アティスなら僕を匿った他国ごと滅ぼしかねない。

 一つだけ、匿ってもらえそうな場所を思いつく。他の方法がダメだというなら、それに賭けるしかない。

 アティスも僕が逃げることを考慮に入れているだろう。だったら、早めに逃げないといけない。そのためには、必要最小限のものを持って使用人にまぎれて裏口から脱走するしかない。跡をつけられる可能性があるから、どこかでまかなければいけない。

 シオンとレイヴンは、一か月ほど前から別の地方に移動させてある。

(仮)愛人という立場のヒュラスは、捕まるとかわいそうだから、今のうちにここから追い出しておくか。

 そう思って、すぐにヒュラスの元を訪れた。

「ああ、ギルか」

 ヒュラスは、ドアを開けて入ってきた僕を出迎えもせず、ソファーに寝そべりながら本を読んでいた。ダークブロンドの髪がほんのり濡れていて、ほっそりとした白い 足がバスローブから見えている。

 ガキのくせにこいつから滲み出るオーラに勝てる気がしない。少しもかっこつけていないくせに、夜空で輝く一番星のような輝きがにじみ出ている。美少年愛好家がここにいたら、きっとひゃっほーと雄叫びをあげながらヒュラスの写真を激写しまくっていただろう。

「ジ、ジロジロ見てんじゃねぇよ」
「誰がお前なんか見るか。それよりも大事な話がある」
「はあ?何だよ」 

「ヒュラス、お前に命令する。今すぐここから出て行け」 

「どうして?」
「お前の他に新しい美少年を囲うことにした。だから、お前は邪魔になった」

 そう告げても、こいつは大して傷ついた顔も見せずにすぐに動きだした。

「ふーん。じゃあ、荷物をまとめるから、ちょっと待ってくれ」

 そう言うと、いつかこんな日が来るのを予期していたように、パサリとバスローブを脱いで着替えた後、手早く荷物をまとめ始めた。

 驚いたことに10分もしないうちに、ヒュラスは荷物をまとめ終わった。初めて会った頃と同じ着古したコートを羽織って、リュックを背負っているだけだった。裏口を出て馬小屋へ行き、一番上質な馬にヒュラスを乗せることにした。

「よし、この馬がいいだろう」
「ああ、それにしろ」

 栗毛の馬を小屋から出した後のことだった。
 頭上でカチャリと不吉な音がした。 

 首を動かしで背後を見ると、銃口を僕の頭に突きつけながらヒュラスが冷たく笑っていた。
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