死亡フラグ乱立の極悪非道な国王になりました!

さつき

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騎士の休日

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 久しぶりに休みを言い渡された金曜日、エンデュミオンは、待ち焦がれていたメシア教の集会を訪れた。

 まるで、生まれて初めてコミックマーケットを訪れたオタクのように様々なものを買いあさり、自分と似たような思想を聞き、多くの仲間を見つけ浮かれていた。

 ついさっき人を殺してきましたとでもいうような冷たい顔をしているエンデュミオンの脳内は、お花畑のように喜びに満ち溢れていた。

 信仰、経典、ランランラン!

 俺は、人生17年間で初めてお金を使う楽しみを知った。

 ああ、麗しのメシア様!

 あなたのことをもっと知りたいですぅ!



 ……彼の脳内は、今にも壊れかけていた。



 帰りに、久しぶりに行きつけの酒屋を訪れた。奥でおじさん達が、どんちゃん騒ぎをしているせいで、いつもよりもにぎやかだ。

 あのうざったい生き物は、今のところ来ていない。安心して一人席でハイボールを飲んでいると、会いたくなかった人間がやってきた。

「よっ、エンデュミオン。元気してたか」

 ボディタッチをしようとしてきた男を反射的に躱した。けれども、男は諦めずにグイグイと近づき肩を組んできた。

「馴れ馴れしく俺に触るな」

 腕を強引に離し睨みつけるが、金髪の男は何事もなかったようにドサリとエンデュミオンの隣に座った。

 彼は、自称俺の親友で、カイザー・ハウエルという。自称親友であって、俺の親友では断じてない。ボサボサした金髪に、緑の目をしたアホオーラ全開のチャラ男である。酒と女が大好きでしょっちゅうもめごとを起こしている。

「久しぶりだな。一緒に飲もうぜ」

「断る」

「いいから、いいから。まあ、一杯だけ」

 エンデュミオンは、今でも覚えている。一杯だけと誘われて、三十杯飲まされたことを。

「嫌だ」

 退散しようとした手をグッと掴まれる。

「まあ、そう言わず。おばさん、ビール一杯!」

「はいよー」

 おばさんは、カイザーの顔を見ただけで察していたのか、すぐに用意していたビールをカイザーに手渡した。

「あー。仕事終わりのビールは、最高だわ」

「お前のせいでハイボールがまずくなった」

「そんな連れないことを言うなよ。そういえば、お前、最近、顔を見せなかったけれど何をしていたんだ?」

 他に言い訳も思いつかないし、正直に答えることにしよう。

「宗教に入った」

「ブフォ」

 それを聞いたカイザーは、ビールを吹き出した。

「おい汚いぞ」

 ジロリと睨み付けてきたエンデュミオンを無視して、目を点にしながら、問いかける。

「はあ?お前が宗教?マジで?」

 コクりと頷くと、「ぶわははははははははは」と目に涙を浮かべながら、爆笑された。

「何がおかしい?」

「いや、だって、あの花園の貴公子が宗教とかwww。ほら、お前って趣味が筋トレ以外になくて、友達も全然いなくて、表情筋が死んでいるかわいそうな奴じゃん。人間らしい心がないくそつまらない男だと思っていたが、そんな男が突然、宗教に入ったなんて超ウケる。これは話を掘り下げないといけない」

「バカにするな」

「まあ、そう言わず。今、どういう気持ちなんだ?」

「メシア教徒になることにより、今だかつてない幸せな気持ちが芽生えている」

 いつものような仏頂面でエンデュミオンが打ち明けたため幸せな気持ちは伝わってこなかったが、カイザーはエンデュミオンに趣味ができたことに胸が熱くなるほど感動していた。

「お前には、趣味ができてよかったな。俺、お前がこのまま仕事に人生を捧げて、ただの社畜として死んでしまうんじゃないかと心配していたんだ」

「それは、どうも」  

「メシアが誕生してよかったな」

 バンッとジョッキを机の上に打ち付ける音が店中に響き渡った。あまりの迫力に店中の客が青ざめ会話を辞める。

 シーンと静まり返る中、カイザーにぶちぎれたエンデュミオンが怒涛の如くしゃべりだした。

「バカ野郎!あのお方を軽々しく呼び捨てにするな。身の程を知れ、このクズが。メシア様は、この世界に彗星の如く現れた神様だ。この腐った世界を変えようとしてくださっているんだぞ。お前みたいな酒を飲むことしかできないゴミと格が違うんだ!」

「お前、酔っているのか……」

 きょとんとした目で見つめられた。

 こいつのこんな顔初めて見た気がする。 

「酔ってねーよ。いいか。メシア様は、独裁国家を滅ぼすだけではない。神制、奴隷制、植民地制度まで変えようとしているんだ!それをお前という奴は、軽々しく呼び捨てにするなんて……。舌を噛み切って死ね!」

「わ、悪かった」

「分かればいい。これから、メシア様がどれほど素晴らしい存在なのかお前に聞かせてやる」

「え……。何、そのつまらなさそうな話」

 カイザーのヘラヘラしていた顔が珍しく固まる。

「俺がお前のつまらなすぎる恋バナに何回付き合ってきたと思っている。今夜は、お前を離さないから」

「お、おう」

 引き気味でカイザーが何とか返事をした。

「まずは、メシア様の誕生について語りたい。メシア様の誕生は、1538年11月23日だ。その日、600年に渡り独裁政治をしてきたドバール国が崩壊した……」



 メシア様が殺した人間、殺しの地獄、思想、優しい心……まるで、しゃべるのを辞めたら死ぬ病気にでもなったかのようにペラペラとエンデュミオンは語り続けた。

「……つまりメシア様は、この世界で最も偉大な人間であり、独裁者を消していく優しさに溢れた心をしているのあり……。って、おい話を聞いているのか。

「はあ、お前、そんなにそいつのことが好きなのかよ」

「ああ、もちろんだ。はっ。これって、もしかして恋なのか」

 衝撃のあまりがカイザーの目ン玉が飛び出そうになっている。

「いやいやちょっと待った。そんなの俺の知っている恋愛となんか違うから」

「いや、もしかしてじゃない。これは、恋だ!そうか、これが恋だったのか」

「落ち着け、エンデュミオン。冷静になるんだ」

「メシア様は、俺に人を好きになることを教えてくれたのか」

 恍惚としながら天井を見上げる。見慣れている天井が、天国のように輝いて見える。

「お前が勝手にメシア様を好きになっただけだろう」

「違う。これは、運命だ。メシア様、乾杯っ」



 エンデュミオンは、カイザーからお酒を奪ってゴクゴクと飲み干した。

「お前、俺の酒」

「うるさい。今まで、何度、お前の頼みを聞いてきたと思っている?」

「はあ……。まさかエンデュミオンにこんな一面があったとは。でも、お前もいつか愛しのメシア様に出会えるといいな」

 ふざけてそう言ってみたら、顔をボッと赤くされた。

「な、な、何を言っている。メシア様に出会うだなんて」

 会いたいけれど、こんな俺が認知されたらと思うと恥ずかしくてたまらない。そうだ。俺は、極悪非道な国王の護衛をやっている卑しい人間だ。そんな俺がメシア様に存在を知られる前にどこかに消えてしまいたい。

「でも、もしかしたらどっかでメシア様に会っているとかあるかもしれないぜ」

「メシア様に認知されるとか考えると、何だか死にたくなってきた」

「落ち着け。お前がメシア様と出会う可能性なんて、どうせ1%もないだろう。だって、世界には何人の人間がいると思っているんだ?60億人だぜ」

 ハウザーは、ドヤ顔とそう言った。

「そうだな。俺が認知されるとかありえない」



 こうしてエンデュミオンは、夜遅くまで酒を飲み続けた。



 エンデュミオンは、知らなかった。自分が敬愛してやまないメシア様がギル・ノイルラーであることを……。

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