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蜘蛛の糸
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夕飯の時刻になり、ハーデスの迎えに連れて行かれたのは、無駄に広い食事場であった。用意されている椅子は二つだけなのに、机は十人前の料理が軽くのりそうなくらいある。
ハーデス側が側で待機させている護衛は一人だけだったので、同じようにエンデュミオンだけ部屋の中にいれて、他の護衛は部屋の外に待機させた。
高級そうな食材で作られた前菜が持って来られた後には、更に高級そうなメインデッシュが運ばれてきた。ちなみに、強烈な飯テロを受けても、エンデュミオンはピクリとも顔を変化させない。そういうところは、心から尊敬する。
「これは、牛ヒレ肉のステーキと、伊勢海老のウニクリームソースがけだ。次には、キャビアが使われた料理が来る」
「お前の国は、今年は不作だったんじゃないのか」
「ああ、だから他国から食べ物を買ったんだ」
「そのお金は、どこから出ている?」
「税金をあげたに決まっているだろう」
ただでさえ多かった税金を更に上げたのか。確実に飢え死にしている人間がいるだろう。
ダメだ……。
今すぐぶちぎれて、お説教をしたい。国民が汗水たらして手に入れたお金を何だと思っている?今すぐ、この豚に、ビンタを食らわしたい。これは、お釈迦様だって、助走つけて飛び蹴りを食らわすレベルだろう。
キレちゃダメだ、キレちゃだめだ……。耐えろ、自分……。
「家畜から搾り取った金で食う飯は、上手いな。ぐへへへへへへ」
気持ち悪い声で笑いだした。
もう、こいつは終わっているな。
ギルの知りたいであるなら、やり直すチャンスを当てられるかもしれないと思ったが、こいつを殺してこの国に革命を起こさせた方がいいだろう。
普段、どこにいるのか把握して、災害を起こしやすくしておこう。被害は、最小限にできるようにしておこう。
「どうした?美味しくないのか。口にあわなければ、全部、作り直そうか」
冗談じゃねぇ。もう一回作りなおせば、いくらかかると思っている?
「いや、うまいよ」
今まで食べたものの中で一番、おいしい。
けれども、これが国民を苦しめて手にしたものかと思うと心の底から憂鬱になった。
「そういえば、最近、エンデュミオンとどうだ?今夜、お前らのベッドが壊れないか心配だな」
「うぐっ……」
衝撃のあまり鼻からスパゲッティを出した。
「ゴホッ。うっ……。ゴホ、ゴホっ……苦しい」
「ギル様、はしたないです」
おい、お前、『大丈夫ですか』とか他に言うことがあるだろうが。
涙目になりながら、水を飲んだ。
食事が終わり、ひと段落すると、ハーデスによる高級グッツの自慢タイムに入った。
金ぴかの時計、新しい家、超高級な香水、庭、別荘、自家用ジェット、超高級な馬車……。一つ一つの自慢を聞くたびに、国民の悲鳴が聞こえてくるようで、胸が痛くてたまらなくなった。
もう、やめて。僕のライフは、ゼロだ。
それが終わると「そうだ。ギルは、もうすぐ誕生日だっただろう」と言われた。
「あ、ああ」
僕の誕生日って一体いつだ?
「とっておきの誕生日プレゼントを用意したんだ」
そして、豪華にラッピングされたプレゼントを渡された。恐る恐る開けてみると、ピカピカに光り輝く金のおれしゃな箱のようなものが入っていた。
こんなものを作るために一体いくら費やしたのだろうかと想像しただけで悲しい気持ちになった。
「これは……」
「ギルのために特別に作らせた純金のオルゴールだ。ここには、ギルが好きだと言っていた音楽が入っている。お前に喜んでほしくて作ったんだ」
「ありがとう」
クズだと決めつけた人間にも、こんな優しい気持ちがまだあったのか。
その時、頭によぎったのは芥川 龍之介の蜘蛛の糸だった。悪人が一匹の蜘蛛を助けたことにより、たった一つの希望が与えられる。そんな話だった。
その話と同じように、こいつにも一度くらい変わるためのチャンスを与えたい。
こいつを悪だと決めつけて処罰することは間違っているのではないだろうか。
ハーデスは、まだ19歳だ。何が正しいかわからないままに、間違った方向に進み続けてしまったかわいそうな奴だ。彼が殺した人間、苦しめた人間も大勢いる。だけど、彼を正しい道に導かせることはできる。彼だって、やり直せるのではないだろうか。そのチャンスを僕なら与えられる。
「ギル、深刻そうな顔をしてどうしたんだよ」
「いや、何でもない」
どうやってハーデスにやり直して欲しいと伝えよう。そう考えこんでいると、彼から思いもよらないことを言われた。
「何か悩みがあるなら女を抱くに限るぜ」
「あ、ああ」
「俺なんて最近、モテすぎて困っているんだぜ。町を歩いているだけで、美少女が俺の周りに抱いてって寄ってくるんだ。イケメンすぎて辛いぜ」
……ヒキガエルそっくりの醜男が何を言っているんだ。
きっと、こいつに群がる女は、金か権力目当てだろう。家族を養うために、身体を差し出した人間だったいるに違いない。こんなブサイクに抱かれたなんてかわいそうに。きっと、死ぬほど気持ち悪い思いをしただろう。
何というか少し穏便に説教できないか。
そうだ。ちょっとした薬になるレベルの軽い苦言なら、言っても構わないだろう。
「おい、ギル。どうしたんだよ」
ハーデスは、慰めるように僕の肩に手を置こうとした。
「触るな、巨肉ハムソーセージが!」
あ……。僕、今、ちょっとだけセリフを間違えた。
手を挙げた姿勢でハーデスが固まっている。
「ギ、ギル?」
ええい、こうなったら、もう仕方がない。ぶちぎれてしまえ。
ありのままの姿を見せるのよっって、どっかの雪の女王も言っていたじゃないか!
「お前は、それでいいのか?そのまま薄っぺらいお世辞だけに満足して一生を終えるつもりなのか」
「ギル、いきなりどうしたんだよ」
「別に。ただハーデスだって、本当は、自分が醜いことくらいわかっているんだろう」
「黙れ!」
バアンと机を思いきり叩かれた。
「黙らない。言ってやるよ。あんたは、豚のように太っていて、ゴブリンみたいにキモい男だ。金と権力目当てでみんながあんたをちやほやしているけれど、あんたを好きな奴なんて誰もいない。本当は、誰からも愛されていないかわいそうな奴だ!」
閉じ込めていた本音を次から次へとぶちまけてしまう。こうなったら、時速千キロメートルで走っているみたいに止まれないぜ。
「やめろっ」
「やめるもんか。あんたは、国民を苦しめて、税金を搾り取って、肥え太っている最低なゴミクズ野郎だ。どうして飢えている民を見殺しにする?いいか、よく聞け。この国にいる奴は、みんなあんたなんて大嫌いなんだよ!こんなクズ、死んでしまえって思っている!」
ポタリ。
ポタリ、ポタリとハーデスの琥珀色の瞳から、大粒の涙が零れ落ちた。
「どうしてそんなひどいことを言うんだよ。お前は、俺を共犯者だって認めてくれていたじゃないか!何でギル一人変わって俺を置いて行こうとするんだよ」
「ハーデス……」
「自分がキモデブなことくらい自分で一番わかっているよ。他の奴らにどういう風に噂をされているかだって耳に入ってくる。だけど、ストレスで過食してしまうから痩せるなんて無理だ。税金だって取り過ぎていることくらいわかっている。使用人に対する扱いもひどいだろう。でも、自分が不幸だから、自分よりも不幸な人を見て安心するんだ。だから……。だから、苦しんでいる国民をもっと見たいと思うんだよ。お前に俺の何がわかるんだ!」
胸が張り裂けそうな声でハーデスがそう打ち明けた。
こいつがこんな気持ちを抱えているなんて知らなかった。何も知らないで一方的に責めたてて、無神経だったかもしれない。だけど、ここで僕は、こいつを甘やかすものか。ここで、忠告しなきゃ、こいつは死ぬまで豚だ。
「黙れ。このままじゃお前は、Xに殺される」
そうだ。僕が、お前を殺す。
「でも……」
自信がなさそうな様子で、ハーデスがうつむいた。
「国民、使用人に優しくして、国を民主主義にしていく。そして、その見た目をどうにかして本当に愛される人になる。たくさんあるけれど、やればきっとできる」
「俺……、そんな奴になれるのかな……」
ここは、心を鬼にして、豚に焼きゴテをするようなつもりで言ってやる。
「このままあっけなく死んでもいいのか、この巨肉ハムソーセージが!」
「っ……。俺は……」
「変わりたきゃ変われ。人生なんて自分で切り開くしかないだろう」
どんな境遇にいても、どんな運命にあっても、それを変えられるのは、自分だけ。
「この誕生日プレゼントは、返すよ。お前が誰かを苦しめて作ったものなんて受け取りたくない」
そう言って、プレゼントを机の上に置いた。
「帰るのか?」
「明日の朝、帰国するよ。朝食は、いらない」
たぶんハーデスは、僕を逆恨みして殺すような奴ではない。叱られた後の小学生のような目をしていた。ちゃんと自分が間違っていることをわかっているだろう。
今なら、きっと正しい道へ歩いて行ける。
……破滅へ向かっていくギル・ノイルラーと違って。
* *
ハーデスの部屋から出ると、ドアの近くで、使用人の女の子に言い寄られているエンデュミオンの姿が飛び込んできた。ちっ、イケメンが。
アタックしている女の子は、胸が大きそうな美少女なのに、エンデュミオンは全く喜ぶそぶりを見せず「すいません、仕事中ですので」とあっさりと断っている。何であんな美少女の誘いを断ってしまうのだろうか。もう、僕の恋人とかいうわけのわからない設定もなくなったのだから、自由に恋愛すればいいのに。
はっ。まさか実は、ロリコンとか、ショタコンとか、熟女趣味とかいう設定があったりするのだろうか。意外とありえるかもしれない。
そういえば、エンデュミオンって、僕以外の女の子の噂とか聞かないな。まさか、こいつ……童貞だということはないだろうか。イケメンのくせに、妙にプライドが高くて、モテモテなのに童貞を捨てられないまま大きくなっていったパターンかもしれない。何か行動がいちいちホモ臭いし、十分ありえる。
二人きりで自室へ戻る途中、さりげなく質問してみることにした。
「実は、お前、童貞だったりしないか」
「17歳の時に捨てましたが」
ブルータス、お前もか!
ハーデス側が側で待機させている護衛は一人だけだったので、同じようにエンデュミオンだけ部屋の中にいれて、他の護衛は部屋の外に待機させた。
高級そうな食材で作られた前菜が持って来られた後には、更に高級そうなメインデッシュが運ばれてきた。ちなみに、強烈な飯テロを受けても、エンデュミオンはピクリとも顔を変化させない。そういうところは、心から尊敬する。
「これは、牛ヒレ肉のステーキと、伊勢海老のウニクリームソースがけだ。次には、キャビアが使われた料理が来る」
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「ああ、だから他国から食べ物を買ったんだ」
「そのお金は、どこから出ている?」
「税金をあげたに決まっているだろう」
ただでさえ多かった税金を更に上げたのか。確実に飢え死にしている人間がいるだろう。
ダメだ……。
今すぐぶちぎれて、お説教をしたい。国民が汗水たらして手に入れたお金を何だと思っている?今すぐ、この豚に、ビンタを食らわしたい。これは、お釈迦様だって、助走つけて飛び蹴りを食らわすレベルだろう。
キレちゃダメだ、キレちゃだめだ……。耐えろ、自分……。
「家畜から搾り取った金で食う飯は、上手いな。ぐへへへへへへ」
気持ち悪い声で笑いだした。
もう、こいつは終わっているな。
ギルの知りたいであるなら、やり直すチャンスを当てられるかもしれないと思ったが、こいつを殺してこの国に革命を起こさせた方がいいだろう。
普段、どこにいるのか把握して、災害を起こしやすくしておこう。被害は、最小限にできるようにしておこう。
「どうした?美味しくないのか。口にあわなければ、全部、作り直そうか」
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「いや、うまいよ」
今まで食べたものの中で一番、おいしい。
けれども、これが国民を苦しめて手にしたものかと思うと心の底から憂鬱になった。
「そういえば、最近、エンデュミオンとどうだ?今夜、お前らのベッドが壊れないか心配だな」
「うぐっ……」
衝撃のあまり鼻からスパゲッティを出した。
「ゴホッ。うっ……。ゴホ、ゴホっ……苦しい」
「ギル様、はしたないです」
おい、お前、『大丈夫ですか』とか他に言うことがあるだろうが。
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もう、やめて。僕のライフは、ゼロだ。
それが終わると「そうだ。ギルは、もうすぐ誕生日だっただろう」と言われた。
「あ、ああ」
僕の誕生日って一体いつだ?
「とっておきの誕生日プレゼントを用意したんだ」
そして、豪華にラッピングされたプレゼントを渡された。恐る恐る開けてみると、ピカピカに光り輝く金のおれしゃな箱のようなものが入っていた。
こんなものを作るために一体いくら費やしたのだろうかと想像しただけで悲しい気持ちになった。
「これは……」
「ギルのために特別に作らせた純金のオルゴールだ。ここには、ギルが好きだと言っていた音楽が入っている。お前に喜んでほしくて作ったんだ」
「ありがとう」
クズだと決めつけた人間にも、こんな優しい気持ちがまだあったのか。
その時、頭によぎったのは芥川 龍之介の蜘蛛の糸だった。悪人が一匹の蜘蛛を助けたことにより、たった一つの希望が与えられる。そんな話だった。
その話と同じように、こいつにも一度くらい変わるためのチャンスを与えたい。
こいつを悪だと決めつけて処罰することは間違っているのではないだろうか。
ハーデスは、まだ19歳だ。何が正しいかわからないままに、間違った方向に進み続けてしまったかわいそうな奴だ。彼が殺した人間、苦しめた人間も大勢いる。だけど、彼を正しい道に導かせることはできる。彼だって、やり直せるのではないだろうか。そのチャンスを僕なら与えられる。
「ギル、深刻そうな顔をしてどうしたんだよ」
「いや、何でもない」
どうやってハーデスにやり直して欲しいと伝えよう。そう考えこんでいると、彼から思いもよらないことを言われた。
「何か悩みがあるなら女を抱くに限るぜ」
「あ、ああ」
「俺なんて最近、モテすぎて困っているんだぜ。町を歩いているだけで、美少女が俺の周りに抱いてって寄ってくるんだ。イケメンすぎて辛いぜ」
……ヒキガエルそっくりの醜男が何を言っているんだ。
きっと、こいつに群がる女は、金か権力目当てだろう。家族を養うために、身体を差し出した人間だったいるに違いない。こんなブサイクに抱かれたなんてかわいそうに。きっと、死ぬほど気持ち悪い思いをしただろう。
何というか少し穏便に説教できないか。
そうだ。ちょっとした薬になるレベルの軽い苦言なら、言っても構わないだろう。
「おい、ギル。どうしたんだよ」
ハーデスは、慰めるように僕の肩に手を置こうとした。
「触るな、巨肉ハムソーセージが!」
あ……。僕、今、ちょっとだけセリフを間違えた。
手を挙げた姿勢でハーデスが固まっている。
「ギ、ギル?」
ええい、こうなったら、もう仕方がない。ぶちぎれてしまえ。
ありのままの姿を見せるのよっって、どっかの雪の女王も言っていたじゃないか!
「お前は、それでいいのか?そのまま薄っぺらいお世辞だけに満足して一生を終えるつもりなのか」
「ギル、いきなりどうしたんだよ」
「別に。ただハーデスだって、本当は、自分が醜いことくらいわかっているんだろう」
「黙れ!」
バアンと机を思いきり叩かれた。
「黙らない。言ってやるよ。あんたは、豚のように太っていて、ゴブリンみたいにキモい男だ。金と権力目当てでみんながあんたをちやほやしているけれど、あんたを好きな奴なんて誰もいない。本当は、誰からも愛されていないかわいそうな奴だ!」
閉じ込めていた本音を次から次へとぶちまけてしまう。こうなったら、時速千キロメートルで走っているみたいに止まれないぜ。
「やめろっ」
「やめるもんか。あんたは、国民を苦しめて、税金を搾り取って、肥え太っている最低なゴミクズ野郎だ。どうして飢えている民を見殺しにする?いいか、よく聞け。この国にいる奴は、みんなあんたなんて大嫌いなんだよ!こんなクズ、死んでしまえって思っている!」
ポタリ。
ポタリ、ポタリとハーデスの琥珀色の瞳から、大粒の涙が零れ落ちた。
「どうしてそんなひどいことを言うんだよ。お前は、俺を共犯者だって認めてくれていたじゃないか!何でギル一人変わって俺を置いて行こうとするんだよ」
「ハーデス……」
「自分がキモデブなことくらい自分で一番わかっているよ。他の奴らにどういう風に噂をされているかだって耳に入ってくる。だけど、ストレスで過食してしまうから痩せるなんて無理だ。税金だって取り過ぎていることくらいわかっている。使用人に対する扱いもひどいだろう。でも、自分が不幸だから、自分よりも不幸な人を見て安心するんだ。だから……。だから、苦しんでいる国民をもっと見たいと思うんだよ。お前に俺の何がわかるんだ!」
胸が張り裂けそうな声でハーデスがそう打ち明けた。
こいつがこんな気持ちを抱えているなんて知らなかった。何も知らないで一方的に責めたてて、無神経だったかもしれない。だけど、ここで僕は、こいつを甘やかすものか。ここで、忠告しなきゃ、こいつは死ぬまで豚だ。
「黙れ。このままじゃお前は、Xに殺される」
そうだ。僕が、お前を殺す。
「でも……」
自信がなさそうな様子で、ハーデスがうつむいた。
「国民、使用人に優しくして、国を民主主義にしていく。そして、その見た目をどうにかして本当に愛される人になる。たくさんあるけれど、やればきっとできる」
「俺……、そんな奴になれるのかな……」
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「っ……。俺は……」
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「この誕生日プレゼントは、返すよ。お前が誰かを苦しめて作ったものなんて受け取りたくない」
そう言って、プレゼントを机の上に置いた。
「帰るのか?」
「明日の朝、帰国するよ。朝食は、いらない」
たぶんハーデスは、僕を逆恨みして殺すような奴ではない。叱られた後の小学生のような目をしていた。ちゃんと自分が間違っていることをわかっているだろう。
今なら、きっと正しい道へ歩いて行ける。
……破滅へ向かっていくギル・ノイルラーと違って。
* *
ハーデスの部屋から出ると、ドアの近くで、使用人の女の子に言い寄られているエンデュミオンの姿が飛び込んできた。ちっ、イケメンが。
アタックしている女の子は、胸が大きそうな美少女なのに、エンデュミオンは全く喜ぶそぶりを見せず「すいません、仕事中ですので」とあっさりと断っている。何であんな美少女の誘いを断ってしまうのだろうか。もう、僕の恋人とかいうわけのわからない設定もなくなったのだから、自由に恋愛すればいいのに。
はっ。まさか実は、ロリコンとか、ショタコンとか、熟女趣味とかいう設定があったりするのだろうか。意外とありえるかもしれない。
そういえば、エンデュミオンって、僕以外の女の子の噂とか聞かないな。まさか、こいつ……童貞だということはないだろうか。イケメンのくせに、妙にプライドが高くて、モテモテなのに童貞を捨てられないまま大きくなっていったパターンかもしれない。何か行動がいちいちホモ臭いし、十分ありえる。
二人きりで自室へ戻る途中、さりげなく質問してみることにした。
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